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王子は直視不可につき
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馬車から降りた私が目にしたものは、圧倒的な大きさの門だった。4つの門の上にはそれぞれ女神像が設置されている。勝利、富、長寿、良縁を表す女神像が指し示す先には念願の王宮が待っている。
門番から簡単な持ち物検査を受け、門の内側へと歩き出す。門をくぐれば、開けた場所に出る。両脇の花園には季節の花が咲き誇り、白いタイルが敷き詰められた道を進めば、奥には噴水が見えた。歩き続けること数分、円形の建物の中へと導かれた。
中に入れば、大きめの丸テーブルに椅子といったシンプルな家具のみが置かれていた。丸テーブルの上にはアフターヌーンティーの準備が整っており、スコーンやケーキ、シュークリームが品良く飾り付けられている。
「では、こちらに座ってお待ち下さい。じきに王子もいらっしゃいますので」
使者はそう言ってその場を去っていった。ここに来て一人ぼっちか。目の前にこんなに上等なエサぶら下げられた状態で!
エルドが望むようなふくよかな女性になるつもりはないが、甘いものはあの時以来、無理して我慢しないようにしている。というか、エルドは私のこと散々に言ってくれたが、私だって出るところは出ているんだけど!まるで骨のようだとかまな板とか(言ってない)、本当に失礼な。
そう考えると、むくむくと怨念が滲み出てくる。常に持ち歩いている日記帳をそっと取り出して、ルーチェはそこに付け加えた。
【エルド・ドルマンは、まな板女よりも逞しい胸筋を持つ筋肉質の男に好意を寄せられる 】
これでどうだ、あんたの望み通り包み込んでくれるでしょうよ。ただ、むさ苦しいだけで。
地を這うような笑い声を上げる令嬢に、周辺にいた小鳥達が驚き、飛び立っていく。その羽音に紛れ、何者かが室内へ入ってきた。
「やぁ、こんにちは。この姿では初めましてだね。勇敢なお嬢さん」
怨念にまみれたルーチェの目には眩し過ぎる聖人オーラを放つ青年が、そう言って優しげに微笑んだ。
「…ぐっ、眩しい…!その光を何とかして下さいませ…さもないと、死霊の群れを背負ってもらうことになりますわ」
目元に手をあてながら、苦しげに言うルーチェを見て、青年は慌てて謝る。
仕方が無いので、青年の背中には死霊のロイを憑かせる。精気に満ちた男性に、死霊という暗い存在を合わせることで、プラスマイナスゼロにする作戦である。ロイはロジーの死後の恋人だ。とても誠実な男性だとロジーがいつも褒めている。
「はぁ。わたくしと話す時は死霊のロイと共にいて下さいませ。でないと、わたくしの目が使い物にならなくなりそうですので」
「…?それが君のためになるならそうしよう」
「…動揺して流してしまいましたけれど、貴方もしかしなくとも王子殿下ですの?」
「あぁ、名乗るのが遅れたね。僕はヴィンセント。君をここへ招いたのもこの僕だよ」
そう言ってまた、爽やかに笑いかけてくるので必死に目元を手で覆う。王子がこんなに危険人物だったとは。早くもここへ来たことを後悔し始めたルーチェだった。
門番から簡単な持ち物検査を受け、門の内側へと歩き出す。門をくぐれば、開けた場所に出る。両脇の花園には季節の花が咲き誇り、白いタイルが敷き詰められた道を進めば、奥には噴水が見えた。歩き続けること数分、円形の建物の中へと導かれた。
中に入れば、大きめの丸テーブルに椅子といったシンプルな家具のみが置かれていた。丸テーブルの上にはアフターヌーンティーの準備が整っており、スコーンやケーキ、シュークリームが品良く飾り付けられている。
「では、こちらに座ってお待ち下さい。じきに王子もいらっしゃいますので」
使者はそう言ってその場を去っていった。ここに来て一人ぼっちか。目の前にこんなに上等なエサぶら下げられた状態で!
エルドが望むようなふくよかな女性になるつもりはないが、甘いものはあの時以来、無理して我慢しないようにしている。というか、エルドは私のこと散々に言ってくれたが、私だって出るところは出ているんだけど!まるで骨のようだとかまな板とか(言ってない)、本当に失礼な。
そう考えると、むくむくと怨念が滲み出てくる。常に持ち歩いている日記帳をそっと取り出して、ルーチェはそこに付け加えた。
【エルド・ドルマンは、まな板女よりも逞しい胸筋を持つ筋肉質の男に好意を寄せられる 】
これでどうだ、あんたの望み通り包み込んでくれるでしょうよ。ただ、むさ苦しいだけで。
地を這うような笑い声を上げる令嬢に、周辺にいた小鳥達が驚き、飛び立っていく。その羽音に紛れ、何者かが室内へ入ってきた。
「やぁ、こんにちは。この姿では初めましてだね。勇敢なお嬢さん」
怨念にまみれたルーチェの目には眩し過ぎる聖人オーラを放つ青年が、そう言って優しげに微笑んだ。
「…ぐっ、眩しい…!その光を何とかして下さいませ…さもないと、死霊の群れを背負ってもらうことになりますわ」
目元に手をあてながら、苦しげに言うルーチェを見て、青年は慌てて謝る。
仕方が無いので、青年の背中には死霊のロイを憑かせる。精気に満ちた男性に、死霊という暗い存在を合わせることで、プラスマイナスゼロにする作戦である。ロイはロジーの死後の恋人だ。とても誠実な男性だとロジーがいつも褒めている。
「はぁ。わたくしと話す時は死霊のロイと共にいて下さいませ。でないと、わたくしの目が使い物にならなくなりそうですので」
「…?それが君のためになるならそうしよう」
「…動揺して流してしまいましたけれど、貴方もしかしなくとも王子殿下ですの?」
「あぁ、名乗るのが遅れたね。僕はヴィンセント。君をここへ招いたのもこの僕だよ」
そう言ってまた、爽やかに笑いかけてくるので必死に目元を手で覆う。王子がこんなに危険人物だったとは。早くもここへ来たことを後悔し始めたルーチェだった。
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