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1.攻略対象者との初接触
苦手なもの:ダレン
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俺に婚約者が決まったらしい。公爵令嬢のクリスティーヌ・ウォレス。絵姿を見ると可憐な少女であり、花のような少女だと思った。
女の子とまともに話したことなどないから、苦手意識は強いが、この少女とは話してみたいと思ったのだ。
顔合わせの日、ソワソワして落ち着かなかったので剣を振ってみた。そうしていたら、世話役のノースが「な、何やっているのですか殿下!早くお着替えください!」と涙目で訴えてきた。
結果、初めての顔合わせに遅刻した。穴があったら入りたい。けれど、遅刻したにも関わらず、公爵は明るく迎え入れてくれた。それに、何よりクリスティーヌ嬢も優しげに微笑んでくれた。
それから、ノースの説明の間、どうしてもクリスティーヌ嬢から目が離せなかった。俺には弟しかいないため、どうしても女の子は見慣れないのだ。
ノースの説明を全く聞いていなかったが、その後の書類の処理は大人がするということで、子ども二人が庭へと案内された。ふ、二人きりで何を話せばいいんだ!?
正確には遠目にメイドやら護衛がいるのは分かっているが、彼らは見守ることに徹している。何か、話さなければと焦った俺はとにかく口を開いた。
「お前、何か…におうな」
よし、彼女からは良い香りがするのでそれを褒めてみた。女の子と話すなら、まず女の子を褒めろと親友が言っていた。まさか、ここで参考になるとは思っていなかった。
しかし、彼女は扇を口元にかざしながら、申し訳なさそうに答える。
「あの、申し訳ありません。風でよく聞こえませんでしたので、もう一度お伺いしても宜しいでしょうか?」
俺が一生懸命考え抜いたというのに、聞こえていないとは、何ということだ。元々女の子を褒めることなど慣れていない俺は余計に焦った。
「は!?だ、だから、お前何か臭いって言ってるんだよ…!」
「殿下、失礼ながら申し上げますが、これは香水の香りでごさいます。最近流行しているブランドのもので、私が身につけているものは、その中でも優しい香りです。」
褒めたら、案の定食いついてきた。話が繋がった!香水のブランドについて深くは知らないが、香水をつけていることくらいは分かる。
「それくらい、俺も知っている!だから…その良い匂いだと言ったのだ!」
思わず照れて途中が小声になってしまった。女の子を褒めることは何て難しいんだ!親友は通常運転でこの大業をこなしているのか、尊敬に値する。今度その秘訣を聞いておこう。
「香水のことも知っておられるとは博識でございますね。ただ、先程のお言葉は、女性に対しての発言としては不適当かと思われます。女性は繊細なのですから、言葉一つでも容易く傷付いてしまうものです」
彼女は笑顔のまま、言い切る。え、不適当とは…。俺の褒め方がまずかったのか?彼女は笑顔から一転、悲しげに目を伏せる。
「…!?そ、それは悪かった…?」
反射的に謝罪する。彼女に悲しい顔をさせようとしたわけではないのだ。しかし、俺の謝罪に彼女は軽く眉根を寄せ、反論してきた。
「謝ることは、言葉を口にすれば良いのではありません。そこに理解と誠意が見られないのであれば、無意味でございます」
「なっ…。こちらが謝ったのに何だその言い様は」
なぜ、俺がこれ程責められなければならないんだ!本当に悪かったと思って謝ったのに。精一杯絞り出した褒め言葉を不適当だと言われ、怒りが湧いて来る。
「殿下、確かにあなたはこの国で尊い御方です。しかし、尊い御方でも間違うこともあるでしょう。そうした時に必要なのは、周りの意見を聞くことです。失礼を承知で申し上げるのなら、あなたはそれを聞き、理解すべきです」
「っ…。お前は俺の家庭教師のつもりか?もういい、下がれ。今日の顔合わせは終わりだ」
まるで、俺が聞き分けのない子どもだと言われているようで恥ずかしかった。これ以上聞いていたら、余計に至らないところを見せてしまう。早くこの場から立ち去ろう。
「…大変な無礼を申し上げました。失礼致します」
優雅にドレスをつまみ、彼女は退出の挨拶をする。その一挙一動は美しく、先程の態度からも気高い様が感じられた。
今の俺は、彼女に相応しいと言えるだろうか…。
振り返って彼女の後ろ姿を見る。彼女の横に立つ男の姿を想像してーーーそれが自分ではないかもしれないことに、胸が苦しくなった。
女の子とまともに話したことなどないから、苦手意識は強いが、この少女とは話してみたいと思ったのだ。
顔合わせの日、ソワソワして落ち着かなかったので剣を振ってみた。そうしていたら、世話役のノースが「な、何やっているのですか殿下!早くお着替えください!」と涙目で訴えてきた。
結果、初めての顔合わせに遅刻した。穴があったら入りたい。けれど、遅刻したにも関わらず、公爵は明るく迎え入れてくれた。それに、何よりクリスティーヌ嬢も優しげに微笑んでくれた。
それから、ノースの説明の間、どうしてもクリスティーヌ嬢から目が離せなかった。俺には弟しかいないため、どうしても女の子は見慣れないのだ。
ノースの説明を全く聞いていなかったが、その後の書類の処理は大人がするということで、子ども二人が庭へと案内された。ふ、二人きりで何を話せばいいんだ!?
正確には遠目にメイドやら護衛がいるのは分かっているが、彼らは見守ることに徹している。何か、話さなければと焦った俺はとにかく口を開いた。
「お前、何か…におうな」
よし、彼女からは良い香りがするのでそれを褒めてみた。女の子と話すなら、まず女の子を褒めろと親友が言っていた。まさか、ここで参考になるとは思っていなかった。
しかし、彼女は扇を口元にかざしながら、申し訳なさそうに答える。
「あの、申し訳ありません。風でよく聞こえませんでしたので、もう一度お伺いしても宜しいでしょうか?」
俺が一生懸命考え抜いたというのに、聞こえていないとは、何ということだ。元々女の子を褒めることなど慣れていない俺は余計に焦った。
「は!?だ、だから、お前何か臭いって言ってるんだよ…!」
「殿下、失礼ながら申し上げますが、これは香水の香りでごさいます。最近流行しているブランドのもので、私が身につけているものは、その中でも優しい香りです。」
褒めたら、案の定食いついてきた。話が繋がった!香水のブランドについて深くは知らないが、香水をつけていることくらいは分かる。
「それくらい、俺も知っている!だから…その良い匂いだと言ったのだ!」
思わず照れて途中が小声になってしまった。女の子を褒めることは何て難しいんだ!親友は通常運転でこの大業をこなしているのか、尊敬に値する。今度その秘訣を聞いておこう。
「香水のことも知っておられるとは博識でございますね。ただ、先程のお言葉は、女性に対しての発言としては不適当かと思われます。女性は繊細なのですから、言葉一つでも容易く傷付いてしまうものです」
彼女は笑顔のまま、言い切る。え、不適当とは…。俺の褒め方がまずかったのか?彼女は笑顔から一転、悲しげに目を伏せる。
「…!?そ、それは悪かった…?」
反射的に謝罪する。彼女に悲しい顔をさせようとしたわけではないのだ。しかし、俺の謝罪に彼女は軽く眉根を寄せ、反論してきた。
「謝ることは、言葉を口にすれば良いのではありません。そこに理解と誠意が見られないのであれば、無意味でございます」
「なっ…。こちらが謝ったのに何だその言い様は」
なぜ、俺がこれ程責められなければならないんだ!本当に悪かったと思って謝ったのに。精一杯絞り出した褒め言葉を不適当だと言われ、怒りが湧いて来る。
「殿下、確かにあなたはこの国で尊い御方です。しかし、尊い御方でも間違うこともあるでしょう。そうした時に必要なのは、周りの意見を聞くことです。失礼を承知で申し上げるのなら、あなたはそれを聞き、理解すべきです」
「っ…。お前は俺の家庭教師のつもりか?もういい、下がれ。今日の顔合わせは終わりだ」
まるで、俺が聞き分けのない子どもだと言われているようで恥ずかしかった。これ以上聞いていたら、余計に至らないところを見せてしまう。早くこの場から立ち去ろう。
「…大変な無礼を申し上げました。失礼致します」
優雅にドレスをつまみ、彼女は退出の挨拶をする。その一挙一動は美しく、先程の態度からも気高い様が感じられた。
今の俺は、彼女に相応しいと言えるだろうか…。
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