絶対零度の悪役令嬢

コトイアオイ

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1.攻略対象者との初接触

これがフラグ?

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 今日も美味しい夕食だ!毎日やることをこなした後の夕食ほど美味しいものはない。達成感と共に、味を噛み締める。


 今日は、家族揃っての夕食だ。私の父はいつも仕事の影響で、なかなか同じ時間に食べることが出来ないため、久しぶりの家族全員でのご飯はとても貴重だった。


正面に座る父がそういえば、と軽く口を開く。


「クリス、お前第一王子をどう思う?」


ゴフッ。スープを吹き出しそうになり慌てる。


「…見目麗しく、正直な御方だと伺っておりますわ」


少女漫画の王子なのだから、イケメンなのは当然。しかし、それ以上に何も思いつかない。この答えで大丈夫か?と父の顔を見上げる。


父は私の答えに、そうかそうかと頷き笑っている。よしOK出た!全く、心臓に悪い…。一体何だというのだ。


不満な気持ちを隠し、小首を傾げ、父に話の真意を話すように促す。


「あぁ、ダレン殿下とクリスの婚約が今日決まってな。」


…こんやく?驚きで固まる私を見て、父は呑気に「嬉しくて固まってるのか!」と豪快に笑う。んなわけあるか。


…そうか、ヒロインの邪魔者なんだから、婚約者として立ちはだかるわけか。そんなつもりないので、ヒロインに全力で譲りたい。


耳の奥に、「3日後に顔合わせがある…気楽に…」と父の声が聞こえてくる。それをどこか他人事のように聞きながら、今後どうすべきか私は頭を抱えた。


…王子に嫌われることしかない。



上手いこと嫌われたい。そして、あわよくば婚約解消へ!しかし、どうしたものか…。


…ん?待てよ、王子は同い年だけど、実際は私の方が数ヶ月の差でお姉さんになる。そして、王子は正直もとい、素直、いや、馬鹿正直らしい。つまり、少し子どもっぽいのだろう。子どっぽいことを指摘、ほのめかされたら嫌に思うんじゃない?丁度背伸びしたい年頃だろうし。


これでいこう。やってみないとこには始まらないし。


 その日以降、急に決まったおめでたい予定に、侍女達は歓喜し、張り切った。顔合わせまでの3日間、私は着せ替え人形と化したわけだ。


ーーー


 たった数日で、バタバタと着るドレスを揃えたり、詳細な調整を行っていたら、すぐに顔合わせの時がやって来た。


 今日は大人っぽさをイメージして、青系のドレスを着ている。髪をまとめた白い繊細なリボンは少女らしさと清廉さを醸し出す。


 王宮に招かれた私は、父と共に王宮の一室で王子の訪れを待っていた。暫く待っていると、ようやく扉の開く音と共に、男性が顔を覗かせた。


「失礼致します。遅れて申し訳ありません。第一王子殿下と、世話役のノースでございます」


 「…待たせたな」


扉から見えたのは真っ赤な髪の毛の男の子。流石の王子クオリティ、将来有望なイケメン。


「いえ、こちらが早かっただけです。初めましてでしょう、こちらが娘のクリスティーヌでございます、殿下」



「お初にお目にかかります。クリスティーヌ・ウォレスと申します。どうぞ宜しくお願い致しますわ」


 授業で習った通りに、綺麗なお辞儀を心がける。ようやく主役が登場し、皆が席に着く。


世話役のノースが、今後の流れを簡単に説明していく。今日の顔合わせから二ヶ月後に、婚約パーティを催すらしい。その後は適宜パーティがあれば、パートナーとして出席することくらい。


 話を聞いている中、王子がチラチラ私の方を気にしているのが分かる。いや、気になるのは分かるけども、そんなに頻繁に見られると困る。


 一通り説明が終わると、父とノースは書類の確認をするからといって、私と王子を庭へ行かせた。後は若いお二人で~ということか。


広い庭に、会ったばかりの人と二人で置き去り。罰ゲームか、これは。王子は相変わらずこちらを凝視しつつも、ようやく口を開いた。



「お前、何か…におうな」
  


……はぁ?



今何て言ったよこの王子。私の耳がおかしいのよね、きっとそうだよね。女の子に向かって、そんな失礼なことを、しかも王子が言うわけないわよね!


困惑と苛立ちに引きつった口元を、持っていた扇で上品に隠す。そうだ、もう一回聞こう。


「あの、申し訳ありません。風でよく聞こえませんでしたので、もう一度お伺いしても?」


「は!?だ、だから、お前何か臭いって言ってるんだよ…!」



…この王子、殴りたい。私の耳は正常だった。有り得ない。これが本当に王子?デリカシーの欠片もない!そもそも、私の付けている香水のことを言いたいのだろうけど、これは強い香りじゃないし!むしろ、他の女の子達より薄めの優しい香りだ。


「殿下、失礼ながら申し上げますが、これは香水の香りでごさいます。最近流行しているブランドのもので、私が身につけているものは、その中でも優しい香りです。」



一息で話すと、王子が驚く。なぜ、あなたの方が驚いているのよ。こちらの顔よそれは。


「それくらい、俺も知っている!だから…その………と言ったのだ!」



何?一部が聞こえない。だけど、話の流れからして、さっきの発言に繋がるのだろう。何にしても、失礼だということは変わらない。ここは注意しておかなければ。決して、個人的に怒っているわけじゃない。決して。


「香水のことも知っておられるとは博識でございますね。ただ、先程のお言葉は、女性に対しての発言としては不適当かと。女性は繊細ですから、言葉一つでも容易く傷付いてしまうものです」


傷付くというより、イラついたのだが、そこは敢えて言わない。如何にも、私もそういった女性の一人なのです…というように目を伏せる。



「…!?そ、それは悪かった…?」



分かってない。何で語尾が上がっているのよ王子。すぐ謝るのは確かに素直だ。でも、分かってないのに謝られても誠意は伝わらない。


「謝ることは、言葉を口にすれば良いのではありません。そこに理解と誠意が見られなければ無意味です」


「なっ…。こちらが謝ったのに何だその言い様は」


「殿下、あなたはこの国で尊い御方。しかし、あなたも間違うことはあるでしょう。そうした時に必要なのは、周りの意見を聞くことです。失礼を承知で申し上げるのなら、あなたはそれを聞き、理解すべきです」



「っ…。お前は俺の家庭教師か?もういい、下がれ。今日の顔合わせは終わりだ」


「…大変な無礼を申し上げました。失礼致します」


優雅にドレスをつまみ、退出の挨拶をする。最後に見た王子の顔は、怒りと悔しさが滲んでいた。…やり過ぎただろうか。


しかし、これで好かれることはないはず。父には申し訳ないけど、私の今後がかかっている。情け容赦はしていられないのだ!
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