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4.魔法学園入学
静かな予兆
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結局、私は抗えなかった。だからこそ、この地にこうして立っているのだ…。
一年の三クラスのうち、主に上流貴族以外の学生が、このウォークラリーに参加していた。その中で、私が参加していると異色に思えるかもしれないが、そこはそれほど問題にはならなかった。
私が食堂でシエルを庇ったこともだが、私と同じ様に名門伯爵家のジャックが参加しているからだ。さらに言うなら、何と王子であるダレンも参加している所が大きい。攻略対象者の中ではシエルのみ不参加と言ったところだろう。ダレンとフレッドはひたすら歩くという行為に興味を示したようだった。まぁ、身分高い人は基本歩き続けることなんてしないもんな…。
転移魔法により、王都近くまで移動してきた私達は、現在五、六人くらいのグループにそれぞれ分かれて王都を散策中だ。グループは、適当に割り振られ、身分もごちゃごちゃになっている。
また、転移魔法とは資格を持った上級魔術師とあらかじめ設定された扉があれば、一度に何人でも移動できる便利な魔法である。それも、悪魔にかかれば魔力を多少消費するだけらしいが。
もちろん、セパルも同行している。それはもう、嬉嬉として付いてきた。しかし、その一方で時折何かに迷っているように唸っていた。何だろう、甘い物を我慢しているのか?最近太ったと彼女はよく口にしていた。しかし、私には違いが分からず、嫌味かと思ったことは記憶に新しい。
しかし、そんなセパルも王都の教会にだけは立ち入ろうとしなかった。セパルは一旦離れるようだから、私は見えないその姿を見送り、教会へと足を踏み入れた。
その教会の奥には、美しく光るステンドグラスの装飾画があった。それを見て、隣の女の子が思わずといった感じで話しかけてきた。彼女はカリーナという名前で、一応同じクラスかつ同じグループなのだが、今まで私に話しかけては来なかった。下手に喋って私の機嫌を損ねたくなかったのだろう。
「凄く綺麗ですね…!私、あんなに綺麗なもの初めて…あっ、す、すみません!」
クリスティーヌ様だとは思わなくて…と慌てて謝るカリーナに優しく微笑む。妹がいたらこんな感じなんだろうなと思うと、暖かい気持ちになる。
「気にしないで。それに、クリスで構いませんわ」
カリーナが萎縮しないよう、優しい声音を心がける。私の反応を見て、咎められないことに安堵したのか、カリーナはほっとした顔を浮かべている。身分でここまで怖がられるのは、少し寂しい。
「あ、ありがとうございます…!あの…クリスティー…クリス様はこちらの教会に来たことがあるんですか?」
「いえ、私もここは初めてですわ。だから、ワクワクしているの。あなたと一緒よ」
私が心からの笑顔を見せると、カリーナは歓喜の声を上げ、女神様…!と言う。残念ながら、女神というよりは悪役な設定なんだけどね…。
「わ…私、クリス様と一緒に見れて良かったです!」
少し打ち解けた私達は、教会やその横に建つ博物館を一緒に見て回った。カリーナは年の割に子どもっぽいところがあって、友人というよりは、やはり妹のようだった。
こうして、教会とその周辺をあらかた探索し終えたところに、ふわりとセパルが合流してきた。戻ってきたセパルは、覚悟を決めたような顔で話があると切り出す。真剣な顔をしたセパルの迫力にゴクリと息を呑む。どうしたんだろう、様子が変だとは思っていたけど…。
幸い、このあとは王都の店巡りとなっている。なので、店を見て回る振りをしてから一時離脱を図る。カリーナに少し用事があると言い残して、私はそっと集団を抜け出した。
店の並ぶ通りから、少し外れた道へ移動した途端、頭の中でセパルが話し始める。
『クリスティーヌ、これから話すことはまだ不確かなことじゃが、そなたにも関係するやもしれぬ…心して聞くのじゃ』
「一体どうしたのですか?」
『…あの学園、何かおかしい』
学園が…おかしい?私にはセパルの言う意味が分からない。本気で分からないという私の表情を見て、セパルは言い方を変えた。
『本来あの学園には魔物に対する結界が張ってあるはずじゃが…今はそれをあまり感じぬ』
妾が過しやすいなど、普通はありえぬ…とセパルは呟く。そして、教会ほどではないが、ああいった場所は対魔の対策をしているはずだとセパルは説明する。
『妾はそなたに付いていくとは言ったが、学園で全ての時を過ごすつもりは無かった。魔力の消費を考え、そなたの居らぬ時は魔界へ帰るつもりだったのじゃ』
「え、そうだったんですか?でも、セパルが魔力を使わずに済むということは…」
…結界の力は確実に弱まっていると言えるだろう。
『結界がいつから弱まっているのかは分からぬが、これが悪魔の仕業なら…そなたも危険じゃ』
…悪魔に襲われるという意味なら、全生徒に言えることでは?
『もし悪魔であれば、必ず人間を依代にするはずじゃ。その方が楽じゃからの。そなたは妾を喚んだ影響で、悪魔に憑かれた人間を見分けることができる。じゃが、それは向こうも同じ』
つまり、もし悪魔なら、その正体を知ることができる人間として、私は危ないということか。
『うむ。そなたに対して、日頃から良くない感情を持つ者には特に注意せよ』
「分かりました。ご忠告感謝します」
以前、セパルは気軽に道を作ると言っていたが、あれは冗談半分だったようだ。仮にも、魔法学園、外部からの侵入に対して対策を練っている。だが、それが今弱まっている…?
一体、何が起こっているんだろう?自分の知らないうちに、良くないことが進んでいることに底知れぬ不気味さを覚える。
グループに合流した後でも、喉元に何か引っかかったような感じがして、気が晴れなかった。
ーーーーーー
一方、王都を見下ろす丘の上で、その様子を窺う者がいた。
「あはっ…見ぃつけた…!楽しみだね、アンディーちゃん!」
「……小生の名はそのようなふざけた名ではない」
その声の主は、魔法学園の制服を着た一人の後ろ姿を、見えなくなるまで目で追っていた。
一年の三クラスのうち、主に上流貴族以外の学生が、このウォークラリーに参加していた。その中で、私が参加していると異色に思えるかもしれないが、そこはそれほど問題にはならなかった。
私が食堂でシエルを庇ったこともだが、私と同じ様に名門伯爵家のジャックが参加しているからだ。さらに言うなら、何と王子であるダレンも参加している所が大きい。攻略対象者の中ではシエルのみ不参加と言ったところだろう。ダレンとフレッドはひたすら歩くという行為に興味を示したようだった。まぁ、身分高い人は基本歩き続けることなんてしないもんな…。
転移魔法により、王都近くまで移動してきた私達は、現在五、六人くらいのグループにそれぞれ分かれて王都を散策中だ。グループは、適当に割り振られ、身分もごちゃごちゃになっている。
また、転移魔法とは資格を持った上級魔術師とあらかじめ設定された扉があれば、一度に何人でも移動できる便利な魔法である。それも、悪魔にかかれば魔力を多少消費するだけらしいが。
もちろん、セパルも同行している。それはもう、嬉嬉として付いてきた。しかし、その一方で時折何かに迷っているように唸っていた。何だろう、甘い物を我慢しているのか?最近太ったと彼女はよく口にしていた。しかし、私には違いが分からず、嫌味かと思ったことは記憶に新しい。
しかし、そんなセパルも王都の教会にだけは立ち入ろうとしなかった。セパルは一旦離れるようだから、私は見えないその姿を見送り、教会へと足を踏み入れた。
その教会の奥には、美しく光るステンドグラスの装飾画があった。それを見て、隣の女の子が思わずといった感じで話しかけてきた。彼女はカリーナという名前で、一応同じクラスかつ同じグループなのだが、今まで私に話しかけては来なかった。下手に喋って私の機嫌を損ねたくなかったのだろう。
「凄く綺麗ですね…!私、あんなに綺麗なもの初めて…あっ、す、すみません!」
クリスティーヌ様だとは思わなくて…と慌てて謝るカリーナに優しく微笑む。妹がいたらこんな感じなんだろうなと思うと、暖かい気持ちになる。
「気にしないで。それに、クリスで構いませんわ」
カリーナが萎縮しないよう、優しい声音を心がける。私の反応を見て、咎められないことに安堵したのか、カリーナはほっとした顔を浮かべている。身分でここまで怖がられるのは、少し寂しい。
「あ、ありがとうございます…!あの…クリスティー…クリス様はこちらの教会に来たことがあるんですか?」
「いえ、私もここは初めてですわ。だから、ワクワクしているの。あなたと一緒よ」
私が心からの笑顔を見せると、カリーナは歓喜の声を上げ、女神様…!と言う。残念ながら、女神というよりは悪役な設定なんだけどね…。
「わ…私、クリス様と一緒に見れて良かったです!」
少し打ち解けた私達は、教会やその横に建つ博物館を一緒に見て回った。カリーナは年の割に子どもっぽいところがあって、友人というよりは、やはり妹のようだった。
こうして、教会とその周辺をあらかた探索し終えたところに、ふわりとセパルが合流してきた。戻ってきたセパルは、覚悟を決めたような顔で話があると切り出す。真剣な顔をしたセパルの迫力にゴクリと息を呑む。どうしたんだろう、様子が変だとは思っていたけど…。
幸い、このあとは王都の店巡りとなっている。なので、店を見て回る振りをしてから一時離脱を図る。カリーナに少し用事があると言い残して、私はそっと集団を抜け出した。
店の並ぶ通りから、少し外れた道へ移動した途端、頭の中でセパルが話し始める。
『クリスティーヌ、これから話すことはまだ不確かなことじゃが、そなたにも関係するやもしれぬ…心して聞くのじゃ』
「一体どうしたのですか?」
『…あの学園、何かおかしい』
学園が…おかしい?私にはセパルの言う意味が分からない。本気で分からないという私の表情を見て、セパルは言い方を変えた。
『本来あの学園には魔物に対する結界が張ってあるはずじゃが…今はそれをあまり感じぬ』
妾が過しやすいなど、普通はありえぬ…とセパルは呟く。そして、教会ほどではないが、ああいった場所は対魔の対策をしているはずだとセパルは説明する。
『妾はそなたに付いていくとは言ったが、学園で全ての時を過ごすつもりは無かった。魔力の消費を考え、そなたの居らぬ時は魔界へ帰るつもりだったのじゃ』
「え、そうだったんですか?でも、セパルが魔力を使わずに済むということは…」
…結界の力は確実に弱まっていると言えるだろう。
『結界がいつから弱まっているのかは分からぬが、これが悪魔の仕業なら…そなたも危険じゃ』
…悪魔に襲われるという意味なら、全生徒に言えることでは?
『もし悪魔であれば、必ず人間を依代にするはずじゃ。その方が楽じゃからの。そなたは妾を喚んだ影響で、悪魔に憑かれた人間を見分けることができる。じゃが、それは向こうも同じ』
つまり、もし悪魔なら、その正体を知ることができる人間として、私は危ないということか。
『うむ。そなたに対して、日頃から良くない感情を持つ者には特に注意せよ』
「分かりました。ご忠告感謝します」
以前、セパルは気軽に道を作ると言っていたが、あれは冗談半分だったようだ。仮にも、魔法学園、外部からの侵入に対して対策を練っている。だが、それが今弱まっている…?
一体、何が起こっているんだろう?自分の知らないうちに、良くないことが進んでいることに底知れぬ不気味さを覚える。
グループに合流した後でも、喉元に何か引っかかったような感じがして、気が晴れなかった。
ーーーーーー
一方、王都を見下ろす丘の上で、その様子を窺う者がいた。
「あはっ…見ぃつけた…!楽しみだね、アンディーちゃん!」
「……小生の名はそのようなふざけた名ではない」
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