絶対零度の悪役令嬢

コトイアオイ

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5.ヒロイン登場!

クリスティーヌの魔法適性

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 体育祭の実行委員が各クラスから2名ずつ選出された。1組はフレッドと貴族の女の子、2組は私ともう一人の男子生徒、そして3組もマリンと男子生徒というように男女ペアが選ばれた。

一つ断っておくと、ダレンは人望もあるのだが、王子にそんなことさせるなんて!という声があり、却下されていた。フレッドはいいのか、1組よ。


 しかし、フレッドが委員の仕事をするだろうか?


私の危惧は見事に当たり、1組の仕事を2組、3組のメンバーがカバーする事態になっている。とはいっても、マリンは除外だ。ぶっちゃけ、マリンはいない方が助かる。

つまり、実質働いているのは2組の2名、3組の男子1名の3人。結局半分の人数だ。フレッドは恐らくどこかで昼寝か、遊んでいる。それを追いかけていった女の子…使えない奴ばっかだ。

何故、このメンツでいけると思った?教師どもよ…。

先生にも直談判しに行ったのだが、「クリスティーヌさんがいれば大丈夫!」と簡単に言われた。先生、便利屋じゃないのよ私は。


そして、保育園の先生でもない…。



 体育館倉庫前で、使用する機材の取り出しや個数の確認をしていたら、例の疫病神がやって来た。彼女は謎の被り物を被っていたが、声からしてマリンに違いない。


「クリス様ぁー!この被り物、応援の時にどうでしょう?ほら、クリス様もっ!」


マリンがいきなり、被り物を取ったかと思うと、それを私の頭に被せてきた。


…怒っていいかな…。


3組の女子の苦労がひしひしと伝わる。うん、分かる。マリン含めて教室締め出したくもなるわ。


私が被り物を被ったまま沈黙を保っていると、マリンはまた勢いよく話し始めた。


「あっ、そーだ!先生に呼ばれてたから行ってきます!クリス様それ預かってて下さーい」


…はぁ?自分で持っていきなさいよ!そう言おうとするが、肝心の被り物がすぐに取れない。髪留めに引っかかったのか、なかなか取れないのだ。


私が被り物を外そうと苦労していると、突然肩を強く押され、倉庫に突き飛ばされた。不意のことに上手く受け身を取れず、変に足を捻って尻餅をついてしまう。


い、痛っ…!またマリンか、マリンなのか?仏の顔も三度まで…私も切れるぞ!


しかし、聞こえてきた声はマリンではなく、別の女の子達のものだった。何だ違う子かと思ったが、そんな気楽に構えていられるのはその時までだった。


バタン、ガチャガチャガチャン!!



扉を閉め、鍵をかけた音が響く。彼女達は走り去る前に大声で捨て台詞を口にした。



「この泥棒猫!あんたなんか、薄暗いそこがお似合いよ!!」



私、何も泥棒してませんが。



あ、待てよ…今の私はマリンの被り物をしているわけで、顔が見えない。そして、その被り物をさっきまで被っていたのはマリン…。



…マリンと間違えて閉じ込められてしまったようだ。


…マリンあいつ…ほんっと疫病神。



 取り敢えず、この忌々しい被り物を脱ぎ去ろう。被っていると普通に暑いし。


被り物を外そうと手を無言で動かす。そして、ようやく取れたと思ったら、周りは薄暗い闇である。セパルはお昼寝タイムだし、自分でどうにかするしかない。


 まずは、この倉庫の中で他の入口を探す。恐らく、換気などのために窓があるはず。上を見上げるが、暗くてよく分からない。

そこで、光魔法を使うことにした。光魔法の適性はあまりないので掌サイズの明かりしか出せなかったが、今はこれだけでも助かる。


ぽうっと倉庫内が淡く光る。だが、窓を見つけようとした私の前に飛び込んできたのは、惰眠を貪るフレッドだった。


無性にイラついたので、彼の足を踵で踏みつけた。どうせ寝てるから分からないはず。そもそも、倉庫の備品確認は1組の仕事だった。彼らが仕事をしていれば、こんなことにはならなかったはずだ。


思ったより痛かったのか、フレッドが短く呻いて目を覚ました。そして、ぼんやりした顔で私にこう言った。


「お?クリス…ティーヌ…?お前もさぼり仲間か~…って痛っ、いてててて!」


彼の足を、怪我していない方の足で踏みつけた。顔を平手打ちしなかっただけ有難く思え。


「単刀直入に言いますわ、私達ここに閉じ込められています」


「えっ、お前何したんだよ?」


私は何もしてない。純然たる被害者だ。事の次第をフレッドに話すと、彼は苦笑いした。


「うわ~お疲れ。あ、俺の仕事もサンキュ~。今度何かケーキやるよ」


それはいいから、脱出方法を考えないと。そう訴えるも、「ダレンが俺の居場所知ってるし、もうちょい待てば出れんだろ~」と真面目に取り合ってくれない。


…私の怒りのボルテージはマックスに達した。


「ふ、ふふ、ふふふふふ…。良くってよ、なら、そこで奥歯をガタガタ震わせて黙って見ていなさいな…」


 私が得意なのは物作りだが、適性は水魔法にある。さらに、授業では基礎しか習っていないが、私は家庭教師に学んできた経験がある。


深く息を吸いながら、倉庫の外の水という水をかき集める。学園内の噴水、近くの川、そして大気中の水蒸気を集め、一つの形に練り上げていく。ここからでは見えないが、私の頭の中では既にその大量の水は巨大な槍へと構成されている。それと同時に私と、(一応)フレッドの周りにも水の膜でできた結界を張り巡らせる。

 

「…はあぁぁぁぁっ…!」


ーーそして、人には到底振るえない水の槍を、この倉庫の入口に振り下ろした。


その水の槍は轟音と共に、一点突破で倉庫の扉を壊した。役目を果たした水は形を失って倉庫内に押し寄せる。


「え。何っつ~力技…」


フレッドが目を剥き、その威力に驚く。見たか、私の溜まりに溜まったストレス兼怒りの力を。


「あるべき所へ戻りなさい」


水を、集める前の場所へ戻し、私はようやく力を抜いた。


「出れる…けど、備品濡れちまったな~」


「…使えないなら…私のポケットマネーで全て新しいものを揃えますわ…」


息も切れ切れにフレッドの心配事を片付ける。全て終わったかのように思えたが、今になって足を怪我していたことを思い出し、ジクジクと痛みを感じる。


いつまでも立ち上がろうとしない私を見て、フレッドが駆け寄って来た。


「怪我してるのか?」


痛みに震える私を見て、フレッドは急に私の身体を抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこというやつである。


「きゃああっ!?な、何しますの!」


あっ、訓練の成果…可愛く叫べましたー。以前、シエルに驚かされた時の反省が今活かされている。…動揺のあまり、変に冷静に関係ない事を考えてしまった。


ーーその後、物凄い音に驚いた皆が、分厚い入口が木端微塵に砕け散っているのに驚き、お姫様抱っこで出てきた私達を見てさらに驚きの声を上げていたーー。
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