絶対零度の悪役令嬢

コトイアオイ

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7.夏休み

水遊び

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 一日教師として、シエルに連れられたのは下町の小さな教会だった。ここは教会だが、孤児院としても使われているらしい。


 私達が教会のドアを開けると、子供達がどっと飛び出してきた。


「よォ、お前ら。今日は遊び相手が沢山いるぞ!」


子供達に取り囲まれたシエルが楽しそうにそう言う。どうやら、教師というか子供達の遊び相手をさせるつもりのようだ。それならそうと、勿体ぶらずに教えてくれればいいのに。殿下達もだけど、男子はサプライズが好きなの?


 そんな殿下とフレッドも、シエルと同じように子供に囲まれている。


…ただ、1つ言っていい?
 

何で私の周りは誰も寄り付かないんだろう…。私、何もしてない。怖い顔もしていないはずなのに…。

私の周りだけ寂しげなことに、フレッドが気づいたのか、子供達に直接問いかけた。


「お前ら、何であのお姉さんのとこに行かないんだ?せっかくの美人じゃん」


フレッドの周りには意外なことに男の子が多い。フレッドの悪ガキ気質を嗅ぎ分けたのだろうか?

その分、女の子達はシエルと殿下に群がっている。うん、それは何となく分かる。


 やがて、フレッドの問いに、リーダーっぽい男の子がもじもじしながら答える。


「いや、だって、お姉さん綺麗だけど…何話せばいいか分からねぇし…俺達がするような遊び…やってくれる…?」


か、可愛い…。良かった、私の顔が怖いわけじゃなかった!


「心配しないで!これでも私、水遊びも木登りも好きよ」


喜びの余り、少し食い気味に答えてしまった。実際にそれらをやったのは前世のことだが、この際それは大した問題じゃない。好きという気持ちが大切なのだ。


私の勢いと話した内容に殿下とフレッドは驚き、シエルはというと、面白そうに吹き出していた。


そんな失礼な同級生とは逆に、男の子達は盛り上がった。人形遊びしかしていなさそうな私が、自分達と同じような遊びに興味があると知り、一気に親近感を覚えたようだ。


リーダー君、改め、トムと言うらしい。

そのトムが私の腕を引っ張る。


「じゃあ、そこの川で一緒に遊ぼうぜ!」

「僕も行く!」

「えー、じゃあ私も行くー!」

トムの言葉を皮切りに、私を遠巻きに見ていた子供達が一斉に手を上げる。


 そうして、着いたばかりだったが、私は川へ行くことになった。シエル達は教会の中で遊ぶようだ。


私はトムや数人の子供達にグイグイ引っ張られて、川へ向かった。私達の後ろからはグレイがこっそりついてきているみたいだ。


歩いて2、3分くらいで辿り着いた川は、水の量も少なめで穏やかな川だった。子供達が立っても膝ぐらいまでが浸かるかというくらいだ。これなら安全だろうし、遊ぶにはもってこいだろう。


 そこで、トムは待ってましたとばかりに、手作りの水鉄砲を取り出した。今までそんなもの持っていなかったはず…と思っていたら、教会の中にいた子が素早く持ち出してきていたらしい。仕事が早い子達だ。


「よーし、お姉さんは俺のチームな!」


トムの声に、子供達を含めた水鉄砲合戦が幕を開けた。


ーーー



「お姉さん、凄いね!リック達がシュンサツされちゃった!」



子供達に混ざって水鉄砲で遊ぶこと、しばらく。何回目かの戦いを経て、女の子がはしゃぎながら私のことを褒める。


リックという子は、トムのライバルで水鉄砲が得意らしいが、私が開始早々、水鉄砲をぶっかけてしまったのだ。それはある意味事故だったのだが、瞬殺されたリックは余計に燃え上がった。それからは、加減をしようとしたら怒られたので全力で遊びに徹したわけである。


子供相手にむきになるなんて、不本意だったけれど、彼らは私が全力を出したことを大変喜んでいた。これはこれで、良かったのだろうか…。


 遊び疲れた私達は、川辺りに座り込んで休憩を挟む。もうそろそろ、一旦教会に戻った方がいいかもしれない。私がそう思って顔を上げると、丁度教会の方から誰かがやって来るのが見えた。


「おーい、おやつの時間だから戻れってよ」



 姿を見せたのはシエルだった。もうじきおやつの時間ということで、教会でお菓子を用意していたみたいだ。シエルの口からおやつという可愛い響きを聞くとは思わず、こっそり笑ってしまう。


それを見たシエルが少しむっとしたが、彼はこちらを見て固まった。かと思えば、こちらに走ってきて、いきなり自分の着ていたシャツを脱ぎ始めた。


は?何してるの、シエル!?


仮にも乙女の前で簡単に服を脱がないで!何、川に飛び込むの?残念だけど、この川飛び込むには浅いわよ!頭打つだけだから止めなさい!


色々と慌てて突っ込むも、シエルが脱いだシャツを頭から被せられて私は口を閉じた。


反論しようとするとシエルから睨まれたので、大人しく彼の行動を見守る。


…腑に落ちない。何で私が悪いことをしたみたいなの?


 周りの子供達もシエルの行動に驚いている。


「シエルー、何そんなに慌ててるのー?」


子供は勇者だ。怖い顔をしたシエルにも怯まず、質問をぶつけている。私は心の中で拍手した。


「あァ…驚かせちまってわりぃな。お前らは先戻ってろ。あそこのお兄さんが送ってくれっから」


あそこのお兄さん…。振り返ると、そこにはナイフを手にしたグレイがいた。恐らく、シエルの勢いに、何事かと飛び出したのだろう。急に注目されたグレイは、ナイフを慌てて懐にしまって、外していたマスクを再び装着した。


子供達は、そのグレイの怪しい挙動に興味が移ったようで、グレイに群がり始める。自分の足や腰元にくっ付いてくる子供達にギクシャクしながら、彼は教会へ戻ろうとする。ちらりと私達を気にしてはいたが、シエルが大丈夫だと返すと渋々歩き出した。


それを見送っていると、シエルが溜息をつく。彼を見上げると、少しだけ顔が赤い気がした。走ってきたから息があがっているのか?


「全く…お前、ほんとに令嬢かよ。羞恥心は母親の腹の中か?」


「失礼ね、母親の栄養も羞恥心も全部持って生まれているわ。物を無駄にしないのが私のモットーよ」


「さっきの自分の格好見てから言え、バカ」


自分の格好…?普通に地味なワンピースだったはずだが。令嬢が裸足で水遊びしてたのがまずかったのだろうか。


私がシエルの言葉に考え込んでいると、彼は仕方なく説明してくれた。


「…俺に言わせるなよなァ…。だから、その、水で透けてたんだよ。これだけ言えばもういいだろ?」


彼の言葉の意味に、今度は私が顔を赤くする。
遊びに夢中で全然気づかなかった…!


顔を両手で覆った私にシエルは手を差し出す。


「ほら、さっさと帰るぞ。皆が心配するだろ」


その手を取ったが、しばらくシエルの顔は見れなかった。

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