49 / 57
7.夏休み
新たな情報
しおりを挟む
あの後、おやつの時間ということで子供達と一緒におやつを食べた。おやつに出されたのは、色とりどりの金平糖とスイカだった。
グレイがそれをさりげなく毒味した後、殿下達は物珍しそうに色鮮やかなおやつを食べる。
おやつを食べた後、私達は子供に絵本を読み聞かせたり、おままごとに付き合ったりして、時間を過ごした。
そして、午後のチャイムが鳴った頃、私と殿下、フレッドは帰ることになり、子供達とシエルに別れを告げる。
すると、殿下とずっと一緒にいたらしい女の子が彼の腕にすがり付いて、こう言った。
「もう帰っちゃうの?また来てね、絶対だよ!」
…やはり、幼女キラー?
私の疑惑はますます強まった。
子供達が教会の中に戻った後、人目を避けるようにして数台の馬車がこちらに来た。
また、帰りは私の家の馬車も迎えに来たので、それぞれで帰ることになった。馬車は教会の裏口に停められ、私達はひっそりとそれに乗り込む。
ここから自宅が遠いため、殿下とフレッドは既に馬車に乗り込んでいる。
私も彼らと同じように馬車に乗ろうと足を踏み出す。しかし、足元に違和感を感じて、視線を向ける。
まるで、何かに掴まれているような…?
私が足元を凝視すると、次第に黒い靄が現れ始めた。よく見れば、私の足元を掴む指先も見えてくる。
「…いや、いやいやいや、疲れてるのかな。何か指見えた」
妙に生々しい指先の感覚を足に感じるが、幻覚であって欲しい。そういうの、セパルだけで間に合ってるんで!
私が全力でその存在を否定していると、足元からかすれた笑い声が聞こえてきた。笑い声からして複数いるらしい。
駄目だ、これ現実だわ。諦めた私は靄を正面から見据える。
「クキ…クキキキ…この娘、視えてる…。」
「…その手を離しなさい」
「俺らはアンドラス様のしもべ…。人間の言うこと?…聞くわけない…」
悪魔!?こんな所に…?見た感じ、力は弱そうだけど…。
「キキキ…お前こそ誰だ?俺らが視えるなんて…悪魔憑きか?」
自分のことを言い当てられて、心臓が嫌な音を立てる。
セパルやネロンといった悪魔は、力がある分きちんとした姿で現れることができる。それを彼女達が敢えて見えないようにしているだけだ。一方で、本来こうした弱い悪魔は姿を保てず、微弱な存在をはっきり捉えることは逆に難しい。それが認識できるということは、私が異常だからだ。
それは隠しようがないけど、見知らぬ悪魔に余計な情報を与える必要はない。
そう思って私が黙っていると、馬車の陰からグレイがやって来た。私がなかなか馬車に乗り込まないので不審に思ったようだ。彼の登場を合図に、私は足元に渾身の水魔法をぶつけた。
こうでもしないと、悪魔が離れないからだ。彼らにそこまでの恨みはないものの、離してくれない方が悪い。
当然、急に水魔法を至近距離で食らった悪魔達は、驚きわめいた。
それを背に私は馬車に乗る。いきなり水魔法を放ったのでグレイも驚いていたが、適当に言い訳をする。とにかく、今はここから早く立ち去りたかった。
子供達のいる近くに悪魔がいたことは不安だが、魔法をぶつけた時の反応からしても、相当弱い悪魔のようだ。あの程度なら、教会の守りが子供達を守ってくれるだろう。
万が一に備えて、子供達にお守りを肌身離さず持つようにして欲しいとシエルに伝言しておくか…。
水鉄砲で濡れないように、グレイにこっそり預けておいた通信機を受け取り、私はシエルに連絡を取った。通信機が繋がったと同時に、私を乗せた馬車は走り出す。
今回はノイズもなく、彼の声は鮮明に聞こえた。私は手早く必要な事を告げ、通信を終える。
魔法学園に通った成果を確認できた。通信機の性能は問題なさそうだ。それに少しの嬉しさを感じながらも、私は先程の悪魔達のことを思い返す。
彼らは…確か、アンドラスという名を挙げていた。私には全く聞き覚えがない名だ。セパルかネロンは知っているだろうか?
帰ったら、セパルに聞こう。
そう決めて、私は馬車の中で今後のことを考え続けた。
ーーー
私を乗せた馬車が、公爵邸に着いたのは夜だった。予想以上に遅かったことに、家族は心配しながら迎えてくれた。
それから、夕食やお風呂を済ませて、ようやく自室へ戻った。私のベッドには、既にセパルが座っている。
「遅かったのう。全く…小娘が夜遊びかえ?けしからぬぞ」
父親のようなことをセパルが呟く。しかし、それどころではない私は、気になっていたことをセパルに尋ねた。
「セパル、少し聞きたいのだけど。アンドラスという名に覚えは?」
「人の話を聞かぬか…。…アンドラス?何故そなたがその名を知っておる?」
どうやら知っているようだ。これならネロンに聞く手間が省ける。
「今日遭遇した悪魔が口にしていたんです」
「…アンドラスは古き同胞じゃ。妾よりも前から存在する悪魔でな。ただ、奴は長い眠りについていたはずじゃが。まさか、目覚めたというのか…?」
アンドラスとはセパルやネロンより古くから存在する悪魔であり、人間の魂を無差別に喰らい続ける様から「暴食」と呼ばれているらしい。
「もし、学園に潜む悪魔が奴ならば納得がいく。学園なら沢山の人間が集まるしのう。それも力の強い者共じゃからな」
「でも、ネロンの話からすると、暴食目的ではないみたいですよね…」
既にセパルが違和感を感じているというのに、生徒達に何かしらの被害があったとは全く聞いていない。
思わぬ所で学園内の悪魔かもしれない情報が入った。暴食とは違う感じが気になるから、まだアンドラスが学園内の悪魔とは断定できない。しかし、今までよりは具体的な情報だ。
…夏休みは私に不穏な予兆を告げていた。
グレイがそれをさりげなく毒味した後、殿下達は物珍しそうに色鮮やかなおやつを食べる。
おやつを食べた後、私達は子供に絵本を読み聞かせたり、おままごとに付き合ったりして、時間を過ごした。
そして、午後のチャイムが鳴った頃、私と殿下、フレッドは帰ることになり、子供達とシエルに別れを告げる。
すると、殿下とずっと一緒にいたらしい女の子が彼の腕にすがり付いて、こう言った。
「もう帰っちゃうの?また来てね、絶対だよ!」
…やはり、幼女キラー?
私の疑惑はますます強まった。
子供達が教会の中に戻った後、人目を避けるようにして数台の馬車がこちらに来た。
また、帰りは私の家の馬車も迎えに来たので、それぞれで帰ることになった。馬車は教会の裏口に停められ、私達はひっそりとそれに乗り込む。
ここから自宅が遠いため、殿下とフレッドは既に馬車に乗り込んでいる。
私も彼らと同じように馬車に乗ろうと足を踏み出す。しかし、足元に違和感を感じて、視線を向ける。
まるで、何かに掴まれているような…?
私が足元を凝視すると、次第に黒い靄が現れ始めた。よく見れば、私の足元を掴む指先も見えてくる。
「…いや、いやいやいや、疲れてるのかな。何か指見えた」
妙に生々しい指先の感覚を足に感じるが、幻覚であって欲しい。そういうの、セパルだけで間に合ってるんで!
私が全力でその存在を否定していると、足元からかすれた笑い声が聞こえてきた。笑い声からして複数いるらしい。
駄目だ、これ現実だわ。諦めた私は靄を正面から見据える。
「クキ…クキキキ…この娘、視えてる…。」
「…その手を離しなさい」
「俺らはアンドラス様のしもべ…。人間の言うこと?…聞くわけない…」
悪魔!?こんな所に…?見た感じ、力は弱そうだけど…。
「キキキ…お前こそ誰だ?俺らが視えるなんて…悪魔憑きか?」
自分のことを言い当てられて、心臓が嫌な音を立てる。
セパルやネロンといった悪魔は、力がある分きちんとした姿で現れることができる。それを彼女達が敢えて見えないようにしているだけだ。一方で、本来こうした弱い悪魔は姿を保てず、微弱な存在をはっきり捉えることは逆に難しい。それが認識できるということは、私が異常だからだ。
それは隠しようがないけど、見知らぬ悪魔に余計な情報を与える必要はない。
そう思って私が黙っていると、馬車の陰からグレイがやって来た。私がなかなか馬車に乗り込まないので不審に思ったようだ。彼の登場を合図に、私は足元に渾身の水魔法をぶつけた。
こうでもしないと、悪魔が離れないからだ。彼らにそこまでの恨みはないものの、離してくれない方が悪い。
当然、急に水魔法を至近距離で食らった悪魔達は、驚きわめいた。
それを背に私は馬車に乗る。いきなり水魔法を放ったのでグレイも驚いていたが、適当に言い訳をする。とにかく、今はここから早く立ち去りたかった。
子供達のいる近くに悪魔がいたことは不安だが、魔法をぶつけた時の反応からしても、相当弱い悪魔のようだ。あの程度なら、教会の守りが子供達を守ってくれるだろう。
万が一に備えて、子供達にお守りを肌身離さず持つようにして欲しいとシエルに伝言しておくか…。
水鉄砲で濡れないように、グレイにこっそり預けておいた通信機を受け取り、私はシエルに連絡を取った。通信機が繋がったと同時に、私を乗せた馬車は走り出す。
今回はノイズもなく、彼の声は鮮明に聞こえた。私は手早く必要な事を告げ、通信を終える。
魔法学園に通った成果を確認できた。通信機の性能は問題なさそうだ。それに少しの嬉しさを感じながらも、私は先程の悪魔達のことを思い返す。
彼らは…確か、アンドラスという名を挙げていた。私には全く聞き覚えがない名だ。セパルかネロンは知っているだろうか?
帰ったら、セパルに聞こう。
そう決めて、私は馬車の中で今後のことを考え続けた。
ーーー
私を乗せた馬車が、公爵邸に着いたのは夜だった。予想以上に遅かったことに、家族は心配しながら迎えてくれた。
それから、夕食やお風呂を済ませて、ようやく自室へ戻った。私のベッドには、既にセパルが座っている。
「遅かったのう。全く…小娘が夜遊びかえ?けしからぬぞ」
父親のようなことをセパルが呟く。しかし、それどころではない私は、気になっていたことをセパルに尋ねた。
「セパル、少し聞きたいのだけど。アンドラスという名に覚えは?」
「人の話を聞かぬか…。…アンドラス?何故そなたがその名を知っておる?」
どうやら知っているようだ。これならネロンに聞く手間が省ける。
「今日遭遇した悪魔が口にしていたんです」
「…アンドラスは古き同胞じゃ。妾よりも前から存在する悪魔でな。ただ、奴は長い眠りについていたはずじゃが。まさか、目覚めたというのか…?」
アンドラスとはセパルやネロンより古くから存在する悪魔であり、人間の魂を無差別に喰らい続ける様から「暴食」と呼ばれているらしい。
「もし、学園に潜む悪魔が奴ならば納得がいく。学園なら沢山の人間が集まるしのう。それも力の強い者共じゃからな」
「でも、ネロンの話からすると、暴食目的ではないみたいですよね…」
既にセパルが違和感を感じているというのに、生徒達に何かしらの被害があったとは全く聞いていない。
思わぬ所で学園内の悪魔かもしれない情報が入った。暴食とは違う感じが気になるから、まだアンドラスが学園内の悪魔とは断定できない。しかし、今までよりは具体的な情報だ。
…夏休みは私に不穏な予兆を告げていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,943
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる