地雷持ち聖女のチート商談

コトイアオイ

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地雷と書いて聖女と読む

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あれからどれくらい歩いたのか、それは定かではない。あの地獄の臭さとぬめりを乗り切った私は、晴れて早朝の陽の光を浴びていた。

「うぉふ、眩しいぃ…」

どこかはさっぱり分からないが、下水道を出てから、私はたまたま見つけた公園の噴水にダイブして身体を清めた。早朝の公園で助かった。それも誰もいない時間で良かった。昼間ならまず逮捕されるだろう。怪しすぎる。

所詮、公園の噴水の水も綺麗とは言い難いだろうと思いつつ、少しでもこの汚れと臭いが落ちるならと藁を掴む気持ちだった。

それがどうだろう。何と、あれほどの臭さと汚れがきれいさっぱりなのだ。臭いについては私の鼻が機能していなかったという可能性がある。しかし、汚れは目に見えて落ち、元々着ていたセーターとジーパンは新品のような色合い、手触りだった。

よく分からないけどラッキー。そのくらいにしか私は考えていなかった。

だが、幸運はそれだけではなかった。

公園で身を清めた後、フラフラと歩いていくと、非常に大きな邸宅に行き着いた。どこぞの金持ちだか知らないが、ここの車庫あたりにお邪魔しよう。車が三台は余裕で入りそうだ。公園も捨て難いけれど、脱獄後にすぐ捜索されそうな場所には留まるべきではないだろうし。

こっそり忍び寄ると、物陰から何かが飛び出して来た。それは、ひどく馴染みのある鳴き声だった。フワフワの毛並みのわんこだ。小さな身体で私に向かって尻尾をブンブン振っている。きゅるんとした瞳はこちらを一心に見つめており、可愛いの言葉に尽きる。

「よしよーし、可愛いなぁ。ごめんね、君のお宅の車庫ちょっとだけ借りるね」

どうぞ!とばかりにわんこは尻尾を激しく振る。多分OKの意だと勝手に解釈して、私はわんこと共に眠りについた。


ーーーー


 暖かい繭に包まれ、気持ち良く眠っている。そんな感覚の中、私はうとうとしていた。車庫のくせに暖かいとは何事だと思うが、快適さに思考は上手く働かない。

一緒に寝ていたわんこの気配が隣から消えたかと思えば、ふいに周りが騒がしくなった気がする。

何だもう朝か、目覚ましはまだ鳴ってないよ。

元々夜は明けていたが、そこは無視である。いつもの癖で二度寝に入ろうとした私は、聞こえてきた単語に目をカッと見開いた。

「聖女だ…」

「聖女なわけあるかい!!」

もはや禁句のレベルだ。地雷と言ってもいい。つい条件反射で反論してしまった。

「え」

「ん?」

禁句を漏らしたのは、目の前でわんこを抱っこしている男性に違いない。貴方は誰ですかと問おうとして、私は気づいた。人様の車庫を勝手に間借りした私の方が「誰や貴様」だと。彼はきっとこの家の人だ。

「あ、いえいえ、その、決して怪しい者ではないんです。私は真澄、雨宮真澄と言いまして、かつては営業をやっていた…あっ、営業で来たんじゃないんですよ!?」

まるで、この豪邸に図々しくも早朝から営業に来たような紹介になりそうで、慌てて弁解する。どこからどう見ても怪しい私に対して、男性……(二十代後半くらいの爽やかイケメン)は数秒見つめて言った。

「いや、聖女なんでしょう?」

「だから聖女じゃないっつってんだろ…あ、すみません、すみません!つい脊髄反射で」

喧嘩腰になる自分を抑えるべく、両手を耳の上に揃えて上げる。いわゆる、私は敵じゃありませんポーズでもある。

爽やかさんは顎に手を当てて、少し考える素振りを見せた。その姿すら絵になりそうなもので、私は羨ましさにギリィ…と心の中で歯ぎしりしていた。

「貴方の周りの光の膜は、聖女が身に纏うものだと言われています。お召し物には疑問が残りますが、ウルは家人と女性にしか懐きませんから女性で間違いないはずですが…」

ウルと呼ばれてわんこが反応する。なるほど、お名前はウルなんだね。で、説明からしてオスなのかな。……待ってそこじゃないだろ私。

光の膜。

そう、そこだよ。突っ込むところ!にしても、爽やかさんの笑えないジョーク来た!と苦笑してしまった。私は彼の言葉を全く信じずに、一応自分の周りを見る。

…………あれ、おかしいな。

私の目は爽やかさんの言う光の膜らしきものを捉えていた。身体全身から緩やかに黄金の光が発せられ、私が動く度にその光も呼応する。いやいやいや、まさかね。本物…なわけない。極端に暗い所から明るい所に来たから、一時的に目がおかしくなったのだろう。

「……出会い頭に言うのも何ですけれど、私も貴方も疲労が溜まっているみたいですね。眼科行った方がいいと思いますはい」

爽やかさんの気に障らないように、アドバイスする。二人して同じ幻を見るとは。

それにしても、この意味の分からない世界に飛ばされて初めての女性認定、私は感動に打ち震えていた。例えそれがわんこによる判断だったとしても。

私に完全否定された爽やかさんは、しかしながら強かった。彼に一言断りを入れられた後、優しく手を取られて割りと強引に家に招き入れられたのだ。あわあわしていた私はつるりと家に案内され、すとんと柔らかいソファーに座らされた。その間数分、問答無用であった。
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