地雷持ち聖女のチート商談

コトイアオイ

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脱獄犯は私です

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暗い。じめじめしている。臭い。

地下牢の感想である。何故、私がこんな所に押し込められないといけないのか。考えるだけでイライラしてくる。

そう、ヤツだ。

「津村鈴め…許すまじその所業…。呪う、呪ってやるぅ…」

魔女のようなセリフだが、残念ながらそれに本人は気づかず怒っていた。

私が魔女って、何じゃそりゃ!魔法なんて使ってないのに、魔女確定っておかしいでしょ。疑わしきは罰せよってやつ?情けをくれ。

実家のトイレと同じ位の狭さの牢獄で、私は胡座をかいて座っていた。いいのよ、誰も見てないんだから気にしないで。それに、私ってばジーパンだから男判定らしいしさ。ふん、絶対美女になって、この神殿みたいなとこの男達を誘惑してこっぴどく振ってやる。


「それにしても狭いんだよねー。足を思いっきり伸ばして寝たい…どっかに隠しボタンとかあってどうにかならないかなぁ」


勿論、そんなものはない。牢に入れられて三日目、一日1回昼頃に運ばれるご飯時位しか脱獄のチャンスは見当たらない。既に牢の中はチェック済みである。本当にただの牢で、汚い壁に四方を囲まれ、前方は重たく太い鉄格子で塞がれている。鍵は見回りの兵士が持っているのだろうが、牢に接近する昼時でさえ、獄中からギリギリ届かない範囲を保っている。いっそ行けそう!と錯覚する近さに来るくらいなら、もっと離れろよと無駄に頭にくる。


「何で私がこんな目に遭わないといかんのじゃー!!」

理不尽な境遇に後ろの壁をぶん殴った。恐らく深夜を回った牢獄内に私の声だけが響いた。この時間なら、見張りの番をしているのは初老の男性一人だけだ。その彼は、大抵この時間は熟睡しているのも知っている。うるさいいびきなので見ずとも分かる。

あー、痛いぞこれ…。
私は殴った瞬間に我に返って後悔した。

ところが、実際、壁を殴った痛みは全然なかった。それどころか、壁がメリメリと音を立てて崩れていくではないか。

あれ、私ってそんな馬鹿力ではないはずなんだけど。握力も二十以下のレベルだよ。

紙のようにぐしゃぐしゃと呆気なく壁は崩壊した。見張り番もさすがに起きてしまっただろうと、慌てて耳を潜める。この部屋を見たら何も言い逃れができない。まぁ、朝になったら分かることではあるけれども。

「ぐ…?」

いびきが止まった!私は緊張した。早まる鼓動を抑え、必死に息を殺して待つ。

「ぐー?ぐごがぁぁがぁぁぁ…ぐぅう…」

私は拳を握った。勝った!よく分からないけど何か多分やり過ごせた!

どうせ壁もこの有様だし、上手くいけば念願の脱獄できそうだなぁ。

取り敢えず、壁の残骸を大股で避けながら私は進んだ。進む方向は、ずばり勘である。いや、仕方ないじゃんね。この牢獄に連れて来られる際はご丁寧なことに、目隠しされて連行されたからね。方向感覚とかそれ以前の問題だから。


左右に別れる道は適当に右、右、左などと直感で選び、足をとめずに進むこと三十分。今までとは違う道に辿り着いた。地下の牢獄と言われていた場所からさらに、下へ向かう階段を発見したのだ。足を踏み外さないよう慎重に階段を降り、そこでまた二つの選択肢が私を待ち受けていた。

右、錠前や鎖でグルグル巻きの扉。見るからにやばいもんを隠してるから入っちゃあかーん!な扉。

左、よく見ればカビが生えている。よく探せば茸も生えてきそうな湿った扉。立て付けが悪そうで、開けたらぶっ壊れそうな弱々しい扉。

「うん、私は逃げたいだけだしな。そもそも錠前とか開けれないわ」

迷うことなくカビを選んだ。

手で力を込めて扉を押す。するとギィギィと嫌な音を立てて、扉が開く。私は扉をくぐり、一歩踏み出した。

……そして、こけた。


「いや、ぬめり過ぎでしょうが!!」

どうも、私が押し開けた扉は下水道へと繋がる道だったようだ。非常に、くさい。牢獄と比べ物にならない臭さだ。乙女として、人間として耐え難き臭いである。

けれど、逃げ道ならそれを我慢するしかない。

私は口呼吸でパクパクと必死に酸素を確保して、ぬめりに足を取られないよう、一歩一歩確実な足取りで下水道の側溝脇を歩いていった。
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