男装聖女と暴走天使

コトイアオイ

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2.北の街

与えられた名前

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 北の街で結局2週間の時を過ごした私達は、昨日そこを後にした。住民からは惜しまれたが、また来ると約束して別れて来た。   


 次に目指すは、東の村、クォーツだ。北の街の人々が言うに、そこでは野獣の被害が多いと聞いた。獣についてはどうこうできる問題ではないが、行ってみる価値はあるはずだ。


「…ところで、すごく今更だけど、貴方名前は?」


私は旅の途中、夕食のために傍らで火を起こす天使に質問する。ずっと天使と呼んでいたので、名前を知らない。二人の時はそれでも問題なかったが、人前でこの呼び方はまずい。それをルビアで実感したところだ。


「え…、名前なんてないよ?」


天使は一瞬戸惑った後、困った顔でそう答えた。


どんな名前だろうかと期待した私のワクワク返せ。


名前がないなんて、今までどうやって生きてきたんだろう。不便でしかないじゃないの。


「本当に?でも、ずっと天使って呼ぶわけにもいかないでしょ」


「…なら、君が付けてくれる?」
 

「え!?」


「君が付ける名前なら、僕はどんなものでも好きになれるよ。だって、僕は君が好きだからね」


天使は眩しい笑みを向ける。美しい顔で、そんなことを言うのは止めて欲しい。私はそういうストレートな言葉に慣れてないし!


でも、名前か…。彼は私にとって運命を変えてくれた存在だ。暫く考え込んで、私は昔母に聞いた絵物語を思い出す。その物語では、悪者を倒した勇者が「リヒト」と呼ばれていた。


「リヒト、ある国では光を意味すると聞いたことがあるわ。…この名はどうかしら?」


私が彼にそう提案すると、彼はこくりと頷いた。それも大変嬉しげに。


「うん、良い名だね。君が僕のために考えてくれたから嬉しい。沢山呼んでね」


「う、うん。じゃあリヒト、改めて塔から連れ出してくれてありがとう。そして、これからもよろしくね」


私が手を差し出すと、リヒトは同じように手を伸ばし、握手を交わした。彼の手は、人間と同じように暖かかった。


「あ、そうだ。僕も一つ提案なんだけど…シェリマのこと、シェリって呼んでもいいかな?」
 

別にそれくらい全然構わない。家族もそう呼んでいたし。そう答えると、リヒトは子供のような無邪気な笑顔で抱きついてきた。


「じゃあ、僕も今からシェリの家族…だね?…それと、家族以外にその名前…呼ばせないでね」


よく分からないが早く離れてほしいので、私は深く考えずに返事をする。適当な返事だったけれども、リヒトは満足したのか長い腕を私の首元から離した。


そして、また火を起こす作業に戻ったかと思えば、手早く火をつけ、川魚を炙り始めた。


彼は天使なのに、何故こんなに人間的なんだろうか…。しかも、ぽやーっとした雰囲気に似合わず、生活力も高いようだ。


一緒に旅をする中で、私は旅の連れの不思議さに疑問を抱いた。


 まぁ、取り敢えずは腹ごしらえをしなくては。この夕食を食べ終えたら、またリヒトに抱えてもらって移動するのだから。本当は徒歩で旅をしたいところなのだが、色々な問題があって断念せざるを得なかった。


 私の体力や各地の大都市付近にある検閲など、どうしても歩きだけでは無理があったからだ。


そこで、人々が寝静まった夜の時間に、リヒトに抱えてもらって、検閲場所を越えたり兵士の駐屯所がある場所を通過したりしている。
  

たかが人間の私では到底できない芸当だ。しかし、リヒトのおかげで今のところ追手が迫るという事態には至っていない。


 彼がいないと何もできないことが悔しいが、それを彼に伝えたところ、逆に喜ばれた。不可解極まりないという顔をした私に、彼はこう言ったのだ。


「え、僕は頼ってもらえて役得というか…。君が僕だけを見て頼ってくれる方が嬉しいし」


ところどころよく分からなかったけど、どうやら不満を抱いているわけではなさそうだったので、結局今も彼の好意に甘えている。


いつか、お礼をしよう。でも、彼は何が欲しいのか全く見当がつかない。後でそれを聞いてみよう。


 今は…焼き魚を食べて精をつけておく。旅をしていて分かったことだが、治癒の力は自分には効き目が薄いからだ。だから、なるべく病気や怪我には気を付けなくては。


 夕暮れ時、二人で火を囲みながら焼き魚を食べる。それから少し休憩して夜になった頃、私達は空から東に向かって移動したーー。
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