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5.西の港町
酒場にて
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町が夜の闇に包まれ始めた頃、ギルツナイトでは屋台や酒場に明かりが灯り出す。日中も賑やかだが、この町は夜もなお明るい。長期間の漁から帰宅した男達や、既に漁師を引退した者などが夜の酒場に集まるのだ。
店からは陽気な舟歌が響き、まるで今からが1日の始まりとも錯覚させるような活気に溢れている。
夜を待っていたシェリマとリヒトの2人はというと、その酒場の中でも1番大きな場所に入っていた。
「よぉーし、今後のギルツナイトに乾杯!」
誰かの野太い声に、その場に居合わせた客が酒に浮かれた声で歓声を上げる。
酒場には、筋肉質な男達がたむろしていた。その中に、小さな少年と美青年が混じっては確実に浮くだろうなと私は思っていた。
しかし、そんなことはなかった。酒場には子連れの客もいるし、シェリマと同じ年頃の女の子も幾人かいたからだ。年齢制限とかは一切ないらしい。大らかなこの町らしいことだ。
計算違いというか、忘れていたことは、リヒトが騒がしいのは苦手だったということだ。そう言えば、ルビアで出会った少年の大声にも嫌そうな顔をしていたもんな…。
そのことに気づいて、リヒトの服の袖を軽く引っ張って声をかけた。
「リヒト、リヒト!ごめんね、うるさいのは苦手だったよね…情報集めるのは別の方法にしよう」
「大丈夫。シェリがいるなら僕は気にしない」
…即答だった。彼はこう言っているけど、本当に大丈夫だろうか?…とにかく、彼の頑張りを無駄にしないよう、なるべく早めにお店を出れるように頑張ろう。
気を取り直して、私達は酒場の席につく。テーブル席に向かい合うような形で私達は座った。
ちなみに、私は16歳だが帝国ではギリギリこの歳から飲酒可能である。しかし、今までにお酒を飲んだことがないので、ジュースにしてもらう。リヒトも何を注文すれば良いのか迷ったのか、私と同じものを頼んだ。
こんな時にどうかと思うけど、イケメンとジュース…何か可愛い。
私の考えと同じ思いだったのか、隣のテーブル席に座った女の子がリヒトに話しかけてきた。
「え~お兄さん、酒場に来ておいてジュースなのぉ?それも可愛いけど、私と一緒にこっち飲まない?」
何と!リヒトがナンパされている。かっこいいもんね、そりゃあ誘われるわよね…。しかも、誘ってきた女の子は私より少し歳上くらいの美人さんだ。男装をして髪も短い自分より、あの女の子の方が断然可愛い。
私は変にモヤモヤする胸元を押さえる。私がしょんぼり落ち込んでいると、リヒトは迷わず少女の誘いを断った。
「何で僕が君と?僕はシェリさえいればいいし、シェリと同じものしか飲まないよ」
一刀両断である。正直ほっとした。
ここまではっきり断言されたら…私ならめげるが、少女は決して折れなかった。
隣のテーブル席から立ち上がり、私の横に座った。何で私の横?リヒトの隣じゃなくて?
純粋に気になったので聞いてみたら、少女からは面倒そうな顔をされた。
「正面じゃないとイケメンの顔が拝めないでしょ!」
…こういうことらしい。
リヒトにグイグイ迫る少女は、酒場のマスターに新しい飲み物を注文した。少女は話に付き合ってくれたら奢ってあげると、得意気に言った。
飲み物はともかく、情報を仕入れることが目的なので、私達は大人しく彼女に従う。
やがて、テーブルに運ばれた飲み物は薄らと桃色に光っていた。少女によると、彼女が大好きなもので、アルコールの度はかなり低いそうだ。少女でも飲めるならいけるだろうと私もグラスにそっと口をつける。
仄かな桃の香りが口の中に広がり、私はその美味しさに感嘆の声を漏らした。
「美味しいですね、これ…!」
「でしょ?分かるじゃない少年」
…うん。今日も私の変装は完璧だわ。ここまでばれないなんて、私、逆に凄くない?
少しやさぐれつつも、少女の心を掴んだ私達は彼女からこの町のことを聞いていく。彼女は最初にこの町の伝説を語ってくれた。ざっくり要約すると、この町の人は海の神様が零した涙から誕生したという。
「…だからメイ達は海の神様の末裔なのよ!」
少女はメイと名乗り、私達に様々な話をしてくれた。彼女はこの酒場の娘らしく、かなりの情報通だった。本当に、話が途切れることがなく、その話術には舌を巻く。
しかし、テンポよく話していたメイは、唐突に暗い顔になった。それまでが高いテンションだったので、その落差は激しい。一体どうしたんだろう。
「メイ?」
「…ギルツナイトはすっごく良いところなの。皆明るくて元気で。でもね、最近体調が悪い人が多いのよ」
私はそれにドキリとした。旅の途中に聞いた噂では、ここギルツナイトで疫病が流行り始めているのではないかと聞いている。メイの言うことは噂を肯定する話かもしれない。
リヒトもまた、先程までは興味なさげに聞いていたが、疫病の影には耳を傾けている。
「旅人に話すことじゃないのは分かってる…。でもね、私のお母さんもなのよ。急に高熱を出してから、ずっと咳と幻覚症状が止まらないの」
疫病の症状を聞いて、私とリヒトは顔を合わせる。やはり、噂と同じだ。ここ、ギルツナイトでは、疫病が蔓延していたーー。
店からは陽気な舟歌が響き、まるで今からが1日の始まりとも錯覚させるような活気に溢れている。
夜を待っていたシェリマとリヒトの2人はというと、その酒場の中でも1番大きな場所に入っていた。
「よぉーし、今後のギルツナイトに乾杯!」
誰かの野太い声に、その場に居合わせた客が酒に浮かれた声で歓声を上げる。
酒場には、筋肉質な男達がたむろしていた。その中に、小さな少年と美青年が混じっては確実に浮くだろうなと私は思っていた。
しかし、そんなことはなかった。酒場には子連れの客もいるし、シェリマと同じ年頃の女の子も幾人かいたからだ。年齢制限とかは一切ないらしい。大らかなこの町らしいことだ。
計算違いというか、忘れていたことは、リヒトが騒がしいのは苦手だったということだ。そう言えば、ルビアで出会った少年の大声にも嫌そうな顔をしていたもんな…。
そのことに気づいて、リヒトの服の袖を軽く引っ張って声をかけた。
「リヒト、リヒト!ごめんね、うるさいのは苦手だったよね…情報集めるのは別の方法にしよう」
「大丈夫。シェリがいるなら僕は気にしない」
…即答だった。彼はこう言っているけど、本当に大丈夫だろうか?…とにかく、彼の頑張りを無駄にしないよう、なるべく早めにお店を出れるように頑張ろう。
気を取り直して、私達は酒場の席につく。テーブル席に向かい合うような形で私達は座った。
ちなみに、私は16歳だが帝国ではギリギリこの歳から飲酒可能である。しかし、今までにお酒を飲んだことがないので、ジュースにしてもらう。リヒトも何を注文すれば良いのか迷ったのか、私と同じものを頼んだ。
こんな時にどうかと思うけど、イケメンとジュース…何か可愛い。
私の考えと同じ思いだったのか、隣のテーブル席に座った女の子がリヒトに話しかけてきた。
「え~お兄さん、酒場に来ておいてジュースなのぉ?それも可愛いけど、私と一緒にこっち飲まない?」
何と!リヒトがナンパされている。かっこいいもんね、そりゃあ誘われるわよね…。しかも、誘ってきた女の子は私より少し歳上くらいの美人さんだ。男装をして髪も短い自分より、あの女の子の方が断然可愛い。
私は変にモヤモヤする胸元を押さえる。私がしょんぼり落ち込んでいると、リヒトは迷わず少女の誘いを断った。
「何で僕が君と?僕はシェリさえいればいいし、シェリと同じものしか飲まないよ」
一刀両断である。正直ほっとした。
ここまではっきり断言されたら…私ならめげるが、少女は決して折れなかった。
隣のテーブル席から立ち上がり、私の横に座った。何で私の横?リヒトの隣じゃなくて?
純粋に気になったので聞いてみたら、少女からは面倒そうな顔をされた。
「正面じゃないとイケメンの顔が拝めないでしょ!」
…こういうことらしい。
リヒトにグイグイ迫る少女は、酒場のマスターに新しい飲み物を注文した。少女は話に付き合ってくれたら奢ってあげると、得意気に言った。
飲み物はともかく、情報を仕入れることが目的なので、私達は大人しく彼女に従う。
やがて、テーブルに運ばれた飲み物は薄らと桃色に光っていた。少女によると、彼女が大好きなもので、アルコールの度はかなり低いそうだ。少女でも飲めるならいけるだろうと私もグラスにそっと口をつける。
仄かな桃の香りが口の中に広がり、私はその美味しさに感嘆の声を漏らした。
「美味しいですね、これ…!」
「でしょ?分かるじゃない少年」
…うん。今日も私の変装は完璧だわ。ここまでばれないなんて、私、逆に凄くない?
少しやさぐれつつも、少女の心を掴んだ私達は彼女からこの町のことを聞いていく。彼女は最初にこの町の伝説を語ってくれた。ざっくり要約すると、この町の人は海の神様が零した涙から誕生したという。
「…だからメイ達は海の神様の末裔なのよ!」
少女はメイと名乗り、私達に様々な話をしてくれた。彼女はこの酒場の娘らしく、かなりの情報通だった。本当に、話が途切れることがなく、その話術には舌を巻く。
しかし、テンポよく話していたメイは、唐突に暗い顔になった。それまでが高いテンションだったので、その落差は激しい。一体どうしたんだろう。
「メイ?」
「…ギルツナイトはすっごく良いところなの。皆明るくて元気で。でもね、最近体調が悪い人が多いのよ」
私はそれにドキリとした。旅の途中に聞いた噂では、ここギルツナイトで疫病が流行り始めているのではないかと聞いている。メイの言うことは噂を肯定する話かもしれない。
リヒトもまた、先程までは興味なさげに聞いていたが、疫病の影には耳を傾けている。
「旅人に話すことじゃないのは分かってる…。でもね、私のお母さんもなのよ。急に高熱を出してから、ずっと咳と幻覚症状が止まらないの」
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