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5.西の港町
理性との戦い
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疫病の話でトーンダウンしたメイだったが、そこは酒場の娘。客に暗い顔を見せてばかりいられないと、明るい話題に切り替えた。
私としても、聞きたい話は聞けたので、後は彼女の話をもう少し聞いて、ここを出ようと思った。
しかし、何故か正面に座るリヒトの顔がぼやけてきた。おまけに、頭もふわふわして考えがまとまらない。
私の様子に気づいたリヒトが声をかけようとした途端、私は頭を大きく揺らして、テーブルに頭をぶつけた。
ガツンと思いっきりぶつけたものの、痛みを感じず、私は笑う。
「ふふ…痛くない~」
「…シェリ?」
「痛くらいって言ってるれしょ~!リヒトは心配し過ぎらの!」
呂律が回らず、顔を赤くした私を見て、リヒトは険しい顔で立ち上がった。いきなり怖い顔をしてどうしたのかしら…?
「…失礼、お金はこれで」
リヒトはマスターにお金を払い、またテーブル席に戻る。そしてすぐに、私を抱き上げた。いつもなら照れまくるところだが、今はそれもなく嬉しさが勝っている。
「リヒトに抱っこされると、落ち着くろよ~」
私の言葉にリヒトは足を一瞬止める。しかし、すぐに歩き出し、酒場のドアを開けて店から出ていった。
「えっ、ちょっとあんた達…!」
後に残されたメイはそれを唖然と見送り、リヒトがドアを閉めた後に、1人になった席で頬ずえをついた。
「何よあれ…あんなガキんちょ1人に慌てちゃって。私みたいな美人を前にして失礼じゃない!」
喚くメイに、周りの人達がわらわらと近づいてくる。
「振られたかメイ!ははは!まぁ、嫌なことは酒飲んで忘れろ」
「お父さん、1本追加っ!」
夜の酒場はやはり賑やかだった。
ーーー
酒場がより盛り上がっていく一方、店から出たリヒトはシェリマを抱いて宿まで帰ってきていた。
ようやく部屋に入ったかと思えば、シェリマはリヒトに強くしがみついてきた。男装をしているとはいえ、彼女はれっきとした少女だ。そこまで密着されると、彼女の柔らかな胸がリヒトに当たってしまうわけで。いつもは大きめの服のせいで分からない点が、余計に罪深いことをしている気にさせられる。
2人きりの部屋で、リヒトは顔を赤らめた。シェリマを引き離すことは容易なのだが、普段はここまで感情的にならない彼女だ。簡単にその身体を引き離すのは何だか勿体ない気もする。
リヒトは悩みながら、シェリマの顔に被さる赤毛を耳にかけてやる。彼女が髪を切った時は衝撃的だったが、今ではその髪も徐々に伸びてきている。肩口につくかつかないかの赤毛に、リヒトはそっと唇を落とす。
それに反応したシェリマはくすぐったそうに笑った。
あのメイとかいう少女が勧めたものは、シェリマには強かったらしい。リヒトも同じものを飲んだが、特に変化はない。恐らく、シェリマはかなり酒に弱い。これからは、自分のいないところでは絶対に酒を飲ませたら駄目だなと、リヒトは考える。
リヒトが真剣に考えているというのに、シェリマはそれを邪魔するかのように甘えて来る。まるで、リヒトの理性を試しているかのようだ。
「リヒト、いつも、ありがとぅ…」
リヒトの胸に頬をすり寄せながら、シェリマはそう呟く。可愛いことを言うシェリマにリヒトは笑いかける。
「僕の方こそ…。僕はやっぱり心の狭い天使だ。君が僕以外を見ていることは耐えられない」
でも、そんなリヒトを彼女は認めてくれる。多少叱ってくることもあるけれど、決してリヒトのことを嫌いだとは言わない。
本当は誰にも見せないように、閉じ込めたくなる。でも、それはシェリマの望むことではない。彼女はただでさえ、10年間閉じ込められてきたのだ。だからこそ、リヒトはシェリマの行動を縛りたくはない。
そうは思っても、こんなに可愛い姿のシェリマは誰にも見せたくない。その思いで、酒場から出てきたのだ。
リヒトは壊れ物を扱うように慎重にシェリマの頭を撫でる。
「シェリ…僕の愛しい人。僕は君の傍で生きていたいよ。君といれば、僕の心はこんなにも満たされる…」
すると、リヒトの告白にシェリマはタイミングよく頷いた。それに驚いたリヒトは彼女の頭を撫でていた手を止める。
シェリマをじっと見ていたリヒトは、彼女が次にとった行動にさらに驚く。
シェリマは腕を伸ばして、リヒトの首に自身の腕を絡めた。そして、リヒトの頬に軽く触れる程度の口付けをした。
間近で楽しそうに笑うシェリマに、いつもの照れは見られない。シェリマはクスクス笑いながら、リヒトにさらなる爆弾を落とす。
「ね、私、大好きらのよ?リヒトのこと…リヒトになら、何されても、らいじょーぶ…」
「っ…!何言って…。もう、シェリマ…!…君、起きたら絶対忘れてるよね…」
しどろもどろになりながら、リヒトは溜息をつく。本当に、素直なのは嬉しいけど、酒を飲んだシェリマはタチが悪い。このままでは、自分が本当に何をやらかすか分からない。
しかし、リヒトにとって大変なのはここからだった。何せ、彼は眠りを必要としない。つまり、シェリマが眠るまでひたすら理性と戦うしかないのだ。
「…うん、シェリマにお酒は絶対、駄目だ」
リヒトは複雑そうにそう呟く。それからシェリマが眠ったのはすぐのことだったが、リヒトは今までのどんな時よりも疲労を感じていた。人間のように眠いと錯覚するほどに。
私としても、聞きたい話は聞けたので、後は彼女の話をもう少し聞いて、ここを出ようと思った。
しかし、何故か正面に座るリヒトの顔がぼやけてきた。おまけに、頭もふわふわして考えがまとまらない。
私の様子に気づいたリヒトが声をかけようとした途端、私は頭を大きく揺らして、テーブルに頭をぶつけた。
ガツンと思いっきりぶつけたものの、痛みを感じず、私は笑う。
「ふふ…痛くない~」
「…シェリ?」
「痛くらいって言ってるれしょ~!リヒトは心配し過ぎらの!」
呂律が回らず、顔を赤くした私を見て、リヒトは険しい顔で立ち上がった。いきなり怖い顔をしてどうしたのかしら…?
「…失礼、お金はこれで」
リヒトはマスターにお金を払い、またテーブル席に戻る。そしてすぐに、私を抱き上げた。いつもなら照れまくるところだが、今はそれもなく嬉しさが勝っている。
「リヒトに抱っこされると、落ち着くろよ~」
私の言葉にリヒトは足を一瞬止める。しかし、すぐに歩き出し、酒場のドアを開けて店から出ていった。
「えっ、ちょっとあんた達…!」
後に残されたメイはそれを唖然と見送り、リヒトがドアを閉めた後に、1人になった席で頬ずえをついた。
「何よあれ…あんなガキんちょ1人に慌てちゃって。私みたいな美人を前にして失礼じゃない!」
喚くメイに、周りの人達がわらわらと近づいてくる。
「振られたかメイ!ははは!まぁ、嫌なことは酒飲んで忘れろ」
「お父さん、1本追加っ!」
夜の酒場はやはり賑やかだった。
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酒場がより盛り上がっていく一方、店から出たリヒトはシェリマを抱いて宿まで帰ってきていた。
ようやく部屋に入ったかと思えば、シェリマはリヒトに強くしがみついてきた。男装をしているとはいえ、彼女はれっきとした少女だ。そこまで密着されると、彼女の柔らかな胸がリヒトに当たってしまうわけで。いつもは大きめの服のせいで分からない点が、余計に罪深いことをしている気にさせられる。
2人きりの部屋で、リヒトは顔を赤らめた。シェリマを引き離すことは容易なのだが、普段はここまで感情的にならない彼女だ。簡単にその身体を引き離すのは何だか勿体ない気もする。
リヒトは悩みながら、シェリマの顔に被さる赤毛を耳にかけてやる。彼女が髪を切った時は衝撃的だったが、今ではその髪も徐々に伸びてきている。肩口につくかつかないかの赤毛に、リヒトはそっと唇を落とす。
それに反応したシェリマはくすぐったそうに笑った。
あのメイとかいう少女が勧めたものは、シェリマには強かったらしい。リヒトも同じものを飲んだが、特に変化はない。恐らく、シェリマはかなり酒に弱い。これからは、自分のいないところでは絶対に酒を飲ませたら駄目だなと、リヒトは考える。
リヒトが真剣に考えているというのに、シェリマはそれを邪魔するかのように甘えて来る。まるで、リヒトの理性を試しているかのようだ。
「リヒト、いつも、ありがとぅ…」
リヒトの胸に頬をすり寄せながら、シェリマはそう呟く。可愛いことを言うシェリマにリヒトは笑いかける。
「僕の方こそ…。僕はやっぱり心の狭い天使だ。君が僕以外を見ていることは耐えられない」
でも、そんなリヒトを彼女は認めてくれる。多少叱ってくることもあるけれど、決してリヒトのことを嫌いだとは言わない。
本当は誰にも見せないように、閉じ込めたくなる。でも、それはシェリマの望むことではない。彼女はただでさえ、10年間閉じ込められてきたのだ。だからこそ、リヒトはシェリマの行動を縛りたくはない。
そうは思っても、こんなに可愛い姿のシェリマは誰にも見せたくない。その思いで、酒場から出てきたのだ。
リヒトは壊れ物を扱うように慎重にシェリマの頭を撫でる。
「シェリ…僕の愛しい人。僕は君の傍で生きていたいよ。君といれば、僕の心はこんなにも満たされる…」
すると、リヒトの告白にシェリマはタイミングよく頷いた。それに驚いたリヒトは彼女の頭を撫でていた手を止める。
シェリマをじっと見ていたリヒトは、彼女が次にとった行動にさらに驚く。
シェリマは腕を伸ばして、リヒトの首に自身の腕を絡めた。そして、リヒトの頬に軽く触れる程度の口付けをした。
間近で楽しそうに笑うシェリマに、いつもの照れは見られない。シェリマはクスクス笑いながら、リヒトにさらなる爆弾を落とす。
「ね、私、大好きらのよ?リヒトのこと…リヒトになら、何されても、らいじょーぶ…」
「っ…!何言って…。もう、シェリマ…!…君、起きたら絶対忘れてるよね…」
しどろもどろになりながら、リヒトは溜息をつく。本当に、素直なのは嬉しいけど、酒を飲んだシェリマはタチが悪い。このままでは、自分が本当に何をやらかすか分からない。
しかし、リヒトにとって大変なのはここからだった。何せ、彼は眠りを必要としない。つまり、シェリマが眠るまでひたすら理性と戦うしかないのだ。
「…うん、シェリマにお酒は絶対、駄目だ」
リヒトは複雑そうにそう呟く。それからシェリマが眠ったのはすぐのことだったが、リヒトは今までのどんな時よりも疲労を感じていた。人間のように眠いと錯覚するほどに。
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