男装聖女と暴走天使

コトイアオイ

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5.西の港町

病院での一芝居

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 うぅ…頭が…頭が割れるように痛いっ!


目覚めた私を襲ったのは経験のないレベルの頭痛だった。これがお酒による弊害、二日酔いというやつか。もう、お酒は飲まない…。


頭を押さえる私をリヒトは心配そうに見ていたが、その顔は何となく憔悴している。
 

「おはよ…リヒト、顔色悪いけど…前から思ってたけど、やっぱり天使も寝るべきなんだよ…」


「おはよう、それは別にいいんだけどね。ちなみにシェリ、昨日はどこまで覚えているの?」


…どこ、まで?どこまでも何も、情報収集のために酒場へ行って…行ってからメイの話を…。


あれ。私、ここまでどうやって帰ってきた?


「…シェリは僕が運んで帰ったよ」


リヒトがそう言うのを聞いて、私は頭を抱えた。そうだ、あの度が低いお酒で思いっきり酔っちゃったんだ!しかも、私あの時何かとんでもないこと口走ってなかった!?ううう…細かい記憶が飛んでて良かったのか悪かったのか…。幸い、リヒトはそれ以上突っ込んでこなかったので、この話はここで打ち切った。



それよりも…疫病が優先だもの!メイから聞いた話では、病院に行くのが早いかもしれない。もし、入院していない人がいればその人達用に薬を作ろう。


「よし、今日は病院に行ってみよう!」


リヒトには私の容態を心配されたが、多少の頭痛なら何とかなる。私の力は自分には作用しにくいようだが、じき治るだろうし。




ーーー




宿から随分歩いた先に目指すべき病院があった。他の小さな病院にも寄ったが、疫病の患者と思われる者はそこでは面倒を見きれないということで、この大きな病院に回されているらしい。


 受付まで来て、どうやって治療までこぎつけるかという問題にぶつかった。病院にいきなり知らない旅人が来て「疫病?私が治しますよ」と言っても信じられないよね…。


すると、リヒトが受付前で堂々とのたまった。



「僕達は神の使徒だ。この街で流行っている疫病を治すべしという天啓を受け、参った次第。ここを通してはもらえないだろうか?」


行ったー!ドストレートに!


普段隠している翼まで出したリヒトに受付の人固まってるよ。ただでさえ神々しい美貌だし、これ案外最良の説得法じゃ…?


案の定、受付の人はバタバタと走り去ったかと思うと、白衣の医者を伴って戻ってきた。そして、「神様!どうかお助け下さい!」の一言である。



リヒトの度胸すごいわ。見習いたい。



難なく病室へ案内された私は、かつて演じたように大げさな口振りで力を発現した。


流石に今の体調で全ての患者を治すことはできないので、明日も来ることを約束してその日は早めに病院を後にした。


医者から聞いた話では、この疫病はある時期から急に広まっていったという。大漁を願う祭りの後、患者が次々に増えていったのだと医者は言っていた。その祭りには、普段あまり来ないような帝国の兵士もやって来たらしい。


原因は未だ分からないが、まずは救える患者を救うことが仕事だからと医者は決意を口にしていた。私はそれを聞きながらも帝国の兵士がここに来たことに胸騒ぎを感じていた。


ギルツナイトが特別交流を避けているわけではないのだから、彼らがここに来てもおかしくはない。だけど、どこかそれだけでは納得できない不安が私の心には燻っていた。
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