男装聖女と暴走天使

コトイアオイ

文字の大きさ
25 / 32
6.帝国の魔の手

天使の語り

しおりを挟む
 『リヒト!』


愛しい少女に名を呼ばれた気がして、リヒトはゆるゆるとまぶたを上げる。しかし、彼の目の前にはマントを身につけた男しかいなかった。
 

暫くぼんやりとしてからリヒトは覚醒する。そうだ、シェリが捕えられてしまった。守りきれなかったことが何より悔しいが、早く彼女を助けにいかないと。


そう思い身体を起こそうとするが、妙な痺れが残っていた。あの時の痛みもだが、これは一体何だろうか。目の前の天使の仕業か?


「そう睨まないでくれ。私は第31の使徒だ。私達はこの地上では少ない同胞だろう?仲良くやろう、第55の使徒よ」


「ふざけるな。僕はお前と仲良くする気はない」


31の使徒だと?まさか他の天使が地上にいるなんて…。天界であまり他の天使と交流を持とうとしなかったことが仇になったか。


「ふむ、そんなことは言っていられないと思うけどね。君の身体の不調は同じ天使にしか治せないよ?さっきだって、私が君の心臓に力を注いでいなければ危なかったし」


その発言に思わず31の使徒を凝視する。こいつ、何か知っているのか。


「天使が本来住まう場所ではないんだ、この地上はね。当然長く滞在すればするほど、僕らの身体は地上の毒素に蝕まれていくのさ。それを中和するのが慣れ親しんだ天使の聖なる力だ」


君はこのままだと死ぬしかない。天使が死ぬには翼を切られるか、毒素によってもがき苦しむかだし。だから、僕は天界と地上を行き来するんだ。この方法なら何とかなるから。


31の使徒は淡々と説明して、こちらの様子を窺う。どのみち死にかけの僕の力ではこいつを倒せないから色々と喋っているのだろう。ならば、それを利用して引き出せる情報は引き出そう。まだ身体は動く。リミットはそこまで迫っていないはずだ。


「…お前は何故地上に?」


天使はめったに地上に降りてこないはずだ。こいつの目的が分かれば、何かの時役立つかもしれない。なるべくこいつに話をさせよう。その間に少しは回復するだろう。


「そうだねぇ、驚きと楽しさを求めてかな?天界はいつも変わらないから暇で仕方なくてね」


こいつは天界のやつにしては、とんでもない変わり者のようだ。


「…ふーん。地上もそう変わらないと思うけどね?」


適当に話を流していると、31の使徒は「とんでもない!」と口を挟む。


「地上は実に楽しいとも。私のことを無条件に信じる人間達は滑稽だったしね。そう言えば君、あの村の者達を治したのかい?」



何の話だ?シェリと立ち寄った村のことだろうか。何故、こいつがその話をするのか疑問に思っていると、31の使徒は自分のしたことを暴露した。



「ほら、東の方の村だよ確か。僕が渡したお香を大事そうにしてた村人達だ。あれはお守りとは正反対の獣寄せだっていうのにね」


東の村、お香、獣…東の村クォーツのことか?リヒトは31の使徒の言う村に思い至り、舌打ちする。


こいつ、相当趣味が悪い…。シェリには絶対近づけたくない。


ただ、こいつの動機は大したことはなさそうだ。大方、帝国兵の様子から面白そうだと思って乱入したといったところか。これなら、どうにかこいつを利用できるかもしれない。


リヒトは31の使徒を説得するために思考を巡らせた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

処理中です...