男装聖女と暴走天使

コトイアオイ

文字の大きさ
27 / 32
6.帝国の魔の手

再会

しおりを挟む
 「さっさとしてくれるかな、31の。僕のシェリが待ってるんだから」


「君、ほんとお熱いねぇ。そう急かさなくとも、もう着いたよ。あれだろう?お姫様が囚われている塔っていうのは」


空の上から見下ろした先に、かつて見た白い塔がそびえ立っている。空は既に夜闇に包まれる頃合になっていた。だが、事を起こすのなら夜の方が都合がいい。


 シェリマと引き離されてから、身体の回復を待ってリヒトは動き出していた。以前、31の使徒と話をしていた空間は彼の作り出した擬似空間だと言う。そこから出てきて、暫く空を飛んで移動してきたという次第である。



31の使徒を説得して、リヒトはここまで戻ってきた。思った通り、帝国の後ろ暗い話などを説明すると、彼はそれに反応した。どうやら、帝国の裏を暴く方がより楽しいことだと判断してくれたらしい。こちらとしては願ったり叶ったりだ。


「で?ここからどうするんだい」


「最上階を破壊して脅す」


天使とは思えない物騒なことを平気で言うリヒトに、31の使徒はにやりと笑う。それは彼が同意したことを意味していた。


リヒトの考えでは窓がある最上階の部屋、すなわち昔シェリが過ごしていた部屋は二度と使わないと考えている。一度聖女の誘拐を許した奴らからすれば、窓のある部屋は決して使わないだろう。一応、シェリの気配を辿るが、最上階からは一切人の気配を感じない。むしろ、塔のある一部の場所が異様に力に満ちている。これは…彼女が何かしているのか。


何にせよ、早く彼女の無事な姿を目にしない限り安心できない。それに、彼女を逃がすには、帝国兵の目をこちらにひきつけなければならない。


指先に力を集めて、光の粒子を形に変えていく。31の使徒がしたように、何か形を定めた方が力を集めやすいので一振の剣を想像する。


身の丈を優に超える光の大剣を振り下ろし、リヒトは躊躇いなく最上階を破壊した。


塔全体を震わすその衝撃と激しい物音に、塔内部が一気に騒然となる。それを見下ろし、リヒト達は先程感じ取ったシェリの力を目印に、彼女がいるだろう位置へと向かう。


シェリがいると思われる部屋はやはり窓はなく、ただの白い壁にしか見えない。

ここを同じように破壊するわけにはいかないと思い、リヒトが宙で立ち止まっていると。


「待て、これは…爆発するぞ!離れるんだ!」


31の使徒が慌てた顔でリヒトの腕を掴み、その場から離れた瞬間、部屋は轟音と共に崩れていく。おまけに、瓦礫からはパチパチと弾ける炎が見える。


一体、何が起こっている?シェリ…!


部屋には人が残っている気配はしないから避難しているとは思う。それでも心配を抑えきれず、リヒトは瓦礫と炎の中を突っ切って白の塔へ侵入した。羽やら服やらが焦げるのも構わず。



「シェリ!どこにいる!?」



塔内は混乱と悲鳴で溢れかえっていた。人々は我先にと塔の崩壊や火の手から逃れようと必死だ。異物である自分を追い出す余裕もないらしい。邪魔が入らない中堂々と塔内を駆け回るが、リヒトの探す人影は一向に見当たらない。


早く見つけ出さないと、塔自体も危ない。


 シェリの力の残滓をたどっていくと、一人の兵士がこちらを見上げて立ち止まっていた。初めは天使の姿に驚いて声も出ないのかと思っていた。だけど、すぐに間違いに気がつく。この、力の感じ。そして、この声。



「リヒト!!」



彼女の声を聞くより早く、リヒトはその華奢な身体を抱きしめた。久し振りに会った彼女は少し痩せてしまったようだ。それでも、こうして無事でいてくれた。ーー名前を呼んでくれた。


「守りきれなくて、怖い思いをさせて、ごめん。遅くなったけど…迎えに来たよ」


腕の中の彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

処理中です...