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7.結末
脱出
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ーー聞こえるはずがない声が聞こえた気がした。私が部屋での騒動の隙に、兵士に扮して逃げていた時に。私の幻聴なのだろうと思った。いつも彼に頼っていたから、この心細い状況が引き起こした幻聴なのだろうと。
だけど、私の目の前に現れたのは見慣れた美しい天使で。炎によってあちこち焦がして、顔色だって悪いのに、彼は来てくれた。
堪らず、彼の名を呼んだら勢い良く抱きしめられた。少し苦しいくらいに私を抱きしめるリヒトに、ようやく私も安堵の息を漏らした。
良かった、リヒトが無事でいてくれて。私の起こしたボヤ騒ぎのせいで、ところどころ焦げた跡があるのが申し訳ない。
「リヒト、来てくれてありがとう…!会いたかった…」
「僕もだよ。君が思うよりずっと僕はしつこいんだから」
二人して再会の喜びに浸っていると、後ろからごほんごほんとわざとらしい咳払いが聞こえてくる。私が振り返るとそこにいたのは、あの金髪天使だった。最後に見た、彼がリヒトの心臓を杖で貫いていた光景を思い出し、咄嗟にリヒトを背に庇う。
「やれやれ、私は嫌われてしまったようだ。君から説明してくれないか?僕は君を助けたんだってね」
全然堪えた様子もなく、彼はリヒトに話を振る。この天使がリヒトを助けたの?彼はリヒトを傷つけていたはず…。
説明を求めてリヒトの目をじっと見つめる。リヒトは困ったような顔を浮かべ、「後から説明するよ。今は取り敢えず味方だから」と端的に説明した。
気になるところだが、確かに今は長話をしている暇はない。私達はここから逃げなくては、今までのことが全て台無しになってしまう。
火の手が回っていない、塔の外壁を目指して私達は走る。金髪天使が先に塔から脱出した。改めてボロボロに崩れている塔を見て、彼はにこやかに笑っている。何が楽しいのか全然理解できない。リヒトもそんな彼を嫌そうに見ているし。
私達も彼の後を追い、塔からの脱出を図る。しかし、あともう少しという所で邪魔が入った。私とリヒトの前に立ち塞がったのは、私を捕らえた兵士長とその側近達だった。10人以上の兵士が私達の行く手を阻む。てっきり逃げ出しているのだろうと油断していた。
「聖女様、どこへゆかれるのです?それにその格好はどういうことですかな」
分かっているくせにいちいち聞いてくるのが嫌味ったらしい。
「ここから出てくに決まってるでしょ!」
噛み付くようにして私がそう言うと、彼らは無言で包囲の幅を狭めてくる。兵士達は静かに剣を抜いた。それを見て、リヒトも右手を水平にかざし光の剣を作り出す。
「シェリ、僕から離れないでね」
リヒトがそう言ったのを合図に、混戦が始まった。金髪天使の助力なんて、最初から期待していないからそこはいいんだけど…兵士を煽るようなことを言うのはやめて欲しい。
私も時折、光魔法で兵士の目を眩ませてリヒトを援護する。
数分と経たない内に、リヒトが巧みな剣さばきで兵士長を追い詰めた。兵士長はリヒトの剣に力負けして、壁側と反対側へ吹っ飛ぶ。この場をどうにか切り抜けられそうだとほっとしていると、リヒトが突然胸元を押さえて苦しみ始めた。その瞬間に彼の手からは光の粒子が霧散していく。
「リヒト!?」
彼の異変に私が治癒の力を使おうとした時、リヒトに追い詰められていた兵士長が背後からリヒトに剣を振るった。その剣はリヒトの片翼を深く斬り裂く。
「…っ」
小さく呻いたリヒトは、それでも兵士長に向かって光の波動を繰り出した。その衝撃波に兵士長は再び吹き飛ばされ、今度こそ気絶した。
この場の敵を一掃したはいいものの、リヒトが怪我をしてしまった。早く、早く治さなければ!あんなに深く切られて平気なはずがない。
「リヒト、今治すからーー」
私が慌ててリヒトの身体を支えてそう言うと、リヒトは優しく微笑んだ。そして、先程まで出していた光の剣を作り出したかと思いきや、迷うことなく傷ついた翼を切り捨てた。嫌な音をたてて、赤に染まった純白の翼が塔の床に落ちていく。そのあっという間の出来事に、私は言葉を失っていた。外で高みの見物を決め込んでいたあの天使ですら、驚きに息を呑んでいた。
「は…っ……シェリ…逃げるよ、僕に捕まって…」
それでも、まだ無理して私を抱えようとするので、私は慌ててその腕を優しく押しとどめた。どう見ても、そんな力はないはずだ。それこそ、今のリヒトこそ一番重症だ。すぐに私は持てる力全部を振り絞って、彼の傷口を修復する。暫く集中して治癒を行い、何とか出血は抑えた。
「お嬢さん、とにかく今はそれくらいで。そろそろ逃げないとここも崩れてしまう」
金髪天使がそう言い、片腕に私を、もう片方の腕にはリヒトを抱えて空へ飛び出す。
深手を負ったリヒトに治癒の力をひたすら行使しながら、私達は崩れゆく白の塔を後にした。
だけど、私の目の前に現れたのは見慣れた美しい天使で。炎によってあちこち焦がして、顔色だって悪いのに、彼は来てくれた。
堪らず、彼の名を呼んだら勢い良く抱きしめられた。少し苦しいくらいに私を抱きしめるリヒトに、ようやく私も安堵の息を漏らした。
良かった、リヒトが無事でいてくれて。私の起こしたボヤ騒ぎのせいで、ところどころ焦げた跡があるのが申し訳ない。
「リヒト、来てくれてありがとう…!会いたかった…」
「僕もだよ。君が思うよりずっと僕はしつこいんだから」
二人して再会の喜びに浸っていると、後ろからごほんごほんとわざとらしい咳払いが聞こえてくる。私が振り返るとそこにいたのは、あの金髪天使だった。最後に見た、彼がリヒトの心臓を杖で貫いていた光景を思い出し、咄嗟にリヒトを背に庇う。
「やれやれ、私は嫌われてしまったようだ。君から説明してくれないか?僕は君を助けたんだってね」
全然堪えた様子もなく、彼はリヒトに話を振る。この天使がリヒトを助けたの?彼はリヒトを傷つけていたはず…。
説明を求めてリヒトの目をじっと見つめる。リヒトは困ったような顔を浮かべ、「後から説明するよ。今は取り敢えず味方だから」と端的に説明した。
気になるところだが、確かに今は長話をしている暇はない。私達はここから逃げなくては、今までのことが全て台無しになってしまう。
火の手が回っていない、塔の外壁を目指して私達は走る。金髪天使が先に塔から脱出した。改めてボロボロに崩れている塔を見て、彼はにこやかに笑っている。何が楽しいのか全然理解できない。リヒトもそんな彼を嫌そうに見ているし。
私達も彼の後を追い、塔からの脱出を図る。しかし、あともう少しという所で邪魔が入った。私とリヒトの前に立ち塞がったのは、私を捕らえた兵士長とその側近達だった。10人以上の兵士が私達の行く手を阻む。てっきり逃げ出しているのだろうと油断していた。
「聖女様、どこへゆかれるのです?それにその格好はどういうことですかな」
分かっているくせにいちいち聞いてくるのが嫌味ったらしい。
「ここから出てくに決まってるでしょ!」
噛み付くようにして私がそう言うと、彼らは無言で包囲の幅を狭めてくる。兵士達は静かに剣を抜いた。それを見て、リヒトも右手を水平にかざし光の剣を作り出す。
「シェリ、僕から離れないでね」
リヒトがそう言ったのを合図に、混戦が始まった。金髪天使の助力なんて、最初から期待していないからそこはいいんだけど…兵士を煽るようなことを言うのはやめて欲しい。
私も時折、光魔法で兵士の目を眩ませてリヒトを援護する。
数分と経たない内に、リヒトが巧みな剣さばきで兵士長を追い詰めた。兵士長はリヒトの剣に力負けして、壁側と反対側へ吹っ飛ぶ。この場をどうにか切り抜けられそうだとほっとしていると、リヒトが突然胸元を押さえて苦しみ始めた。その瞬間に彼の手からは光の粒子が霧散していく。
「リヒト!?」
彼の異変に私が治癒の力を使おうとした時、リヒトに追い詰められていた兵士長が背後からリヒトに剣を振るった。その剣はリヒトの片翼を深く斬り裂く。
「…っ」
小さく呻いたリヒトは、それでも兵士長に向かって光の波動を繰り出した。その衝撃波に兵士長は再び吹き飛ばされ、今度こそ気絶した。
この場の敵を一掃したはいいものの、リヒトが怪我をしてしまった。早く、早く治さなければ!あんなに深く切られて平気なはずがない。
「リヒト、今治すからーー」
私が慌ててリヒトの身体を支えてそう言うと、リヒトは優しく微笑んだ。そして、先程まで出していた光の剣を作り出したかと思いきや、迷うことなく傷ついた翼を切り捨てた。嫌な音をたてて、赤に染まった純白の翼が塔の床に落ちていく。そのあっという間の出来事に、私は言葉を失っていた。外で高みの見物を決め込んでいたあの天使ですら、驚きに息を呑んでいた。
「は…っ……シェリ…逃げるよ、僕に捕まって…」
それでも、まだ無理して私を抱えようとするので、私は慌ててその腕を優しく押しとどめた。どう見ても、そんな力はないはずだ。それこそ、今のリヒトこそ一番重症だ。すぐに私は持てる力全部を振り絞って、彼の傷口を修復する。暫く集中して治癒を行い、何とか出血は抑えた。
「お嬢さん、とにかく今はそれくらいで。そろそろ逃げないとここも崩れてしまう」
金髪天使がそう言い、片腕に私を、もう片方の腕にはリヒトを抱えて空へ飛び出す。
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