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7.結末
リヒトの容態
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あれからどのくらい経っただろうか。リヒトは未だに目を覚まさない。あの後、金髪天使は白の塔からある程度離れた森の小屋に私達を降ろした。そこで、力を酷使し続けた私もついに限界を迎え、寝込んでしまった。三日間丸々寝て、今日の朝再び目を覚ましたが、リヒトは変わらず瞳を閉じたままだった。
リヒトが眠っている間、金髪天使から色々と話を聞いた。リヒトが今、何故こんなにも苦しんでいるのか。どうすればいいのか。
怪我ならばすぐに癒すことができる。しかし、リヒトを苦しめるものはこの地上そのものと言われてはどうしようもない。救いは、私の聖女としての力の質が極めて天界の者の力に近いということくらいだ。リヒトの苦しみは同じ天使か、それに類した力でないと抑えられないらしい。
私の力はリヒトを癒すことができるが、それでも多少の苦しみはあるだろうと金髪天使は言う。ましてや、今は片翼を失っている状態だ。かつてない激痛がリヒトを襲っており、自身の身体の回復で精一杯だから彼は目覚めないのだ。
「リヒト…苦しいよね…ごめんね、私がもっと力を持っていたら…。ううん、私といるせいでこんなに貴方を苦しめてしまって…」
寝ているリヒトに私は涙を流しながら謝る。彼がいなければ、私はきっとずっとあの塔に囚われたままだった。だから、連れ出してくれた彼には感謝しているし、彼との旅も楽しかった。それでも、それがリヒトにとっては苦しみと引き換えになるなら…私は彼から離れた方がいい。
「もし、具合が良くなったら…私のことは置いていってね…。私は…これ以上リヒトを苦しませたくないよ…」
冷たいリヒトの手を両手で握り、私は弱音を吐き出す。本当はリヒトと離れたくない。ずっと一緒にいたい。でも、こんな風にリヒトが苦しむくらいなら…私は…。
終わりの見えない葛藤に目を閉じて気持ちを押し殺す。そうして自分の気持ちを固めるつもりで、リヒトの手をそっと離す。その瞬間、微かな声が私の耳に届いた。
「……シェ、リ…」
…え?今の、リヒト…?
慌ててリヒトの顔を覗き込むと、彼はゆっくりと目を開けて、私に手を伸ばした。
いつかのように、彼は優しい顔で、私の大好きな甘い声で尋ねた。
「…悲しいの…?シェリ…」
「…うん…でも、リヒトが目を覚ましてくれて良かった。私はリヒトが元気に生きていてくれればそれで充分…」
涙ながらにそう語っていると、リヒトの視線がどこか険しいものに変わった。ん?私、何かまずいこと言った?
「僕はそんなの嫌」
少し拗ねた顔でリヒトは反対の意を表す。うっ、イケメンの拗ねた顔が眩しい…!
「で、でも!あの天使から聞いたよ。リヒトの身体のこと考えたらそれが…んんっ!?」
リヒトの長い腕に引き寄せられたかと思うと、軽く身を起こした彼に口を塞がれた。あまりのことに私は動揺しまくる。リヒトが怪我人ということも忘れて彼の身体をグイグイ押すも、その手はがっちり私の頬をホールドしていて離してくれない。
流石に息が苦しくなったところで、リヒトは私を解放してくれた。息苦しさと羞恥で私の顔は真っ赤になっていることだろう。全くもってリヒトの行動が読めない。それに私にとっては初めてのことで、なかなか頬の熱は冷めそうにない。
「悪いこと言う口は塞がないといけないね?」
そう言ってリヒトは妖しい笑みを浮かべた。そういう方面には慣れていないので、私は本題も忘れて口ごもる。
「な、だ、だからって何で急にキス!私、初めてなのに…」
「良かった」
「何が!?何も良くないわよ、リヒトの馬鹿!」
「え、だって…もし、シェリとキスしたなんて男いたら始末しなきゃだし…」
私、変なスイッチ押した?つるっと物騒なリヒトが出てきたんだけど。何か、オーウェンの時を思い出した。
「ねぇ、シェリは僕のこと嫌い?」
リヒトは真剣な顔でそう聞く。話の脈絡についていけない私は咄嗟に力強く「好きだよ!」と答えてしまった。自分で言っておいて赤面する。ちょっと、手頃な穴があったらそこに閉じこもりたい。
私が恥ずかしさに悶絶していると、リヒトは私の身体を離し、正面から私を見つめる。
「なら、何で離れるって言うの?」
その顔はまさに捨てられた子犬のごとく。切ない表情でそう訴えられ、私はあたふたと説明する。それを初めは大人しく聞いていたリヒトだったが、途中でまたぎゅっと私を抱きしめる。…何だか、抱き枕の気分が分かりそう…。く、苦しい。
「僕のことなら心配しないで。暫くはあいつが付き合ってくれるし、ここまで回復すればあとは古傷が痛む程度だから」
リヒトがあいつと言いながら、目線を私から小屋の片隅でこちらを見つめている金髪天使に向ける。私達の視線に気づくと、金髪天使は「若いっていいねぇ」と笑った。そう言えば、どういう訳であの天使は手助けしてくれたんだろう。後でそこも聞かないと。って、今はそれよりも!
「で、でも、ずっと苦しいって!人間と同じように短命で死ぬって…」
「だからそれでいいんだよ。シェリと同じ時間を生きるってことでしょ?僕にとっては長生きするより大事なことだよ」
「…本当に?後悔するかもよ?私といたら色々気が休まらないだろうし」
現に、兵士に捕まったり、ボヤ騒ぎだのの一連の騒動に巻き込まれて彼は深手を負ったのだ。決して私の周りは平和ではない。
「言いたいことは終わった?全部込みで僕はシェリが好きなんだから、関係ないよ」
そう言って、リヒトはずっと悩んでいた自分が馬鹿になるくらい、良い笑顔を浮かべた。
リヒトが眠っている間、金髪天使から色々と話を聞いた。リヒトが今、何故こんなにも苦しんでいるのか。どうすればいいのか。
怪我ならばすぐに癒すことができる。しかし、リヒトを苦しめるものはこの地上そのものと言われてはどうしようもない。救いは、私の聖女としての力の質が極めて天界の者の力に近いということくらいだ。リヒトの苦しみは同じ天使か、それに類した力でないと抑えられないらしい。
私の力はリヒトを癒すことができるが、それでも多少の苦しみはあるだろうと金髪天使は言う。ましてや、今は片翼を失っている状態だ。かつてない激痛がリヒトを襲っており、自身の身体の回復で精一杯だから彼は目覚めないのだ。
「リヒト…苦しいよね…ごめんね、私がもっと力を持っていたら…。ううん、私といるせいでこんなに貴方を苦しめてしまって…」
寝ているリヒトに私は涙を流しながら謝る。彼がいなければ、私はきっとずっとあの塔に囚われたままだった。だから、連れ出してくれた彼には感謝しているし、彼との旅も楽しかった。それでも、それがリヒトにとっては苦しみと引き換えになるなら…私は彼から離れた方がいい。
「もし、具合が良くなったら…私のことは置いていってね…。私は…これ以上リヒトを苦しませたくないよ…」
冷たいリヒトの手を両手で握り、私は弱音を吐き出す。本当はリヒトと離れたくない。ずっと一緒にいたい。でも、こんな風にリヒトが苦しむくらいなら…私は…。
終わりの見えない葛藤に目を閉じて気持ちを押し殺す。そうして自分の気持ちを固めるつもりで、リヒトの手をそっと離す。その瞬間、微かな声が私の耳に届いた。
「……シェ、リ…」
…え?今の、リヒト…?
慌ててリヒトの顔を覗き込むと、彼はゆっくりと目を開けて、私に手を伸ばした。
いつかのように、彼は優しい顔で、私の大好きな甘い声で尋ねた。
「…悲しいの…?シェリ…」
「…うん…でも、リヒトが目を覚ましてくれて良かった。私はリヒトが元気に生きていてくれればそれで充分…」
涙ながらにそう語っていると、リヒトの視線がどこか険しいものに変わった。ん?私、何かまずいこと言った?
「僕はそんなの嫌」
少し拗ねた顔でリヒトは反対の意を表す。うっ、イケメンの拗ねた顔が眩しい…!
「で、でも!あの天使から聞いたよ。リヒトの身体のこと考えたらそれが…んんっ!?」
リヒトの長い腕に引き寄せられたかと思うと、軽く身を起こした彼に口を塞がれた。あまりのことに私は動揺しまくる。リヒトが怪我人ということも忘れて彼の身体をグイグイ押すも、その手はがっちり私の頬をホールドしていて離してくれない。
流石に息が苦しくなったところで、リヒトは私を解放してくれた。息苦しさと羞恥で私の顔は真っ赤になっていることだろう。全くもってリヒトの行動が読めない。それに私にとっては初めてのことで、なかなか頬の熱は冷めそうにない。
「悪いこと言う口は塞がないといけないね?」
そう言ってリヒトは妖しい笑みを浮かべた。そういう方面には慣れていないので、私は本題も忘れて口ごもる。
「な、だ、だからって何で急にキス!私、初めてなのに…」
「良かった」
「何が!?何も良くないわよ、リヒトの馬鹿!」
「え、だって…もし、シェリとキスしたなんて男いたら始末しなきゃだし…」
私、変なスイッチ押した?つるっと物騒なリヒトが出てきたんだけど。何か、オーウェンの時を思い出した。
「ねぇ、シェリは僕のこと嫌い?」
リヒトは真剣な顔でそう聞く。話の脈絡についていけない私は咄嗟に力強く「好きだよ!」と答えてしまった。自分で言っておいて赤面する。ちょっと、手頃な穴があったらそこに閉じこもりたい。
私が恥ずかしさに悶絶していると、リヒトは私の身体を離し、正面から私を見つめる。
「なら、何で離れるって言うの?」
その顔はまさに捨てられた子犬のごとく。切ない表情でそう訴えられ、私はあたふたと説明する。それを初めは大人しく聞いていたリヒトだったが、途中でまたぎゅっと私を抱きしめる。…何だか、抱き枕の気分が分かりそう…。く、苦しい。
「僕のことなら心配しないで。暫くはあいつが付き合ってくれるし、ここまで回復すればあとは古傷が痛む程度だから」
リヒトがあいつと言いながら、目線を私から小屋の片隅でこちらを見つめている金髪天使に向ける。私達の視線に気づくと、金髪天使は「若いっていいねぇ」と笑った。そう言えば、どういう訳であの天使は手助けしてくれたんだろう。後でそこも聞かないと。って、今はそれよりも!
「で、でも、ずっと苦しいって!人間と同じように短命で死ぬって…」
「だからそれでいいんだよ。シェリと同じ時間を生きるってことでしょ?僕にとっては長生きするより大事なことだよ」
「…本当に?後悔するかもよ?私といたら色々気が休まらないだろうし」
現に、兵士に捕まったり、ボヤ騒ぎだのの一連の騒動に巻き込まれて彼は深手を負ったのだ。決して私の周りは平和ではない。
「言いたいことは終わった?全部込みで僕はシェリが好きなんだから、関係ないよ」
そう言って、リヒトはずっと悩んでいた自分が馬鹿になるくらい、良い笑顔を浮かべた。
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