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4.南のゴーストタウン
リヒトの暴走
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「うっ…痛…」
背中を床に強かに打ち付け、苦痛の声を漏らす。衝撃に目を瞑っていたが、目を開けた瞬間目の前にはオーウェンの顔があった。
こけた私達は、私を下にしてオーウェンがそれに覆いかぶさっているような体勢になっていた。
オーウェンもなるべく私に体重がかからないようにしているのだろう。少し苦しそうに呻き、体勢を立て直そうとする。
そして、身体を動かすため彼は手を床につけようとした。しかし、手が滑ったのか、彼の手は床ではなく私の胸元に置かれた。
…は?
ちょっと、ど、どこ触って…!
私は怒りと焦りに突き動かされるまま、声を上げようとした。
「なー」
「ん?…お前、男だよな?何で胸が…げふっっっ」
オーウェンは身じろぎして、私の胸元から手を離す。そして、疑問を正直に口にしていたのだが、最後まで言い終わることなく彼はその場から吹っ飛んだ。
言うまでもなく、犯人はリヒトだった。私に大の大人の男性を突き飛ばす力なんてないし。
リヒトは無言で私の前にしゃがみ、私の肩を支えながら身を起こす手伝いをしてくれた。
…?やけに静かで様子がおかしいわね…。
リヒトの様子に違和感を覚え、彼の顔を見ると、いつもは柔和な笑顔の彼はそこにはいなかった。
氷のように表情が固まったリヒトは、私の背中を撫でて、「…シェリ、大丈夫?」と小さな声で尋ねてくる。
それに、少し背中が痛むくらいだと返すと、リヒトは私から身を離して、自分が突き飛ばしたオーウェンの元へ近寄って行った。
それを見つめることしかできない私は、ハラハラと彼の行動を見守る。私の背中も悲鳴ものだけど、リヒトが何をするのか分からないことも不穏過ぎる…。
突然突き飛ばされた形となったオーウェンはというと、家の隅に倒れ込んでいた。彼は少し前までは立派な怪我人だったのだ。足はかなり回復しているはずだが、またどこかを痛めてはいないか不安だ。
オーウェンはよろよろと立ち上がる。その様子から彼の無事が分かり、私は安堵した。
「う、痛てて…、確かに俺が悪かったけど、何もここまでしなくても…そんな格好じゃ女の子なんて分からないだろ…」
うん。私も思う。オーウェンを引き離してくれた点は感謝したい。だけど、どう見てもやり過ぎだ。普段ここまで乱暴なことをしないはずなのに、一体リヒトは何をそんなに怒っているんだろう。怒るの、私の方じゃないの。
私は完全にオーウェンを責めるタイミングを失って、もう怒る気すら湧いてこない。元々、彼もわざと触ったわけじゃないしね。事故だもの。
そう思う私とは反対に、リヒトはオーウェンの目の前に立ち、何事かを彼の耳元で囁く。その瞬間、オーウェンの顔は恐怖に染まった。
いや、ちょっと、何言ったのよ。
リヒトは言いたいことを言い終えたのか、また私の元へ戻り、私を正面から抱きしめた。
打ち付けた背中が痛まないよう、その腕は緩く私を包み込んでいる。
私がリヒトの行動の真意を図りかねていると、彼はぽつぽつと不満を漏らす。
「今日、僕よりあの男に触れてる時間の方が多かった…」
「えっ?いや、だってほら治療だし…?」
不機嫌なリヒトに慌てて答えるが、彼は納得がいかない様子だ。
「…それに、僕も触ったことないのに…あの男…本気で始末したい…始末しようよサクッと」
前半に突っ込もうとしたら、後半でどす黒い本音が漏れ出てきた。私も怒ったし恥ずかしかったけどさ、胸触って死刑なんて人いないでしょ!え、いないよね…?
混乱した私は、オーウェンに助けを求めてみるが、彼は青い顔で首を振る。さらに、「これ以上、痴話喧嘩に俺を巻き込まないでくれ」と言われた。痴話喧嘩じゃない…。
リヒトの不機嫌をどうにかしようと、私が必死に考えていると、リヒトはふと、私の身体に回していた腕を解いた。
怒りが収まったのかと期待した私に、彼はふわりと微笑む。その笑みは大変美しい。だから、私は油断してしまった。
リヒトはするりと私の手を取り、彼の口元へ近づける。一体何をするんだとその動きを目で追っていると、彼は驚きの行動に出た。
「きゃあぁ!?」
私が気を抜いていたら、リヒトは何と私の指先にキスしてきたのだ。おまけに1箇所とかそういう問題じゃないくらい。
「な、なな何してるのリヒト!人前で、何を…!」
動揺に声がひっくり返った私に、リヒトはいつしか見せた妖しい瞳を向ける。何となく、私は狩られる兎の気持ちとは、こんなものかもしれないと思った。もちろん、リヒトに命の危険を感じているわけじゃないけど…。
「消毒だよ。人前って…シェリは人前じゃなければキスしてもいいってこと?」
違う!そうじゃない!そう主張するも、私の言いたいことは彼にいまいち伝わらない。
「まぁ、僕は人前だろうと気にしないんだけど…。むしろ、シェリが僕だけのものって示せていいし」
…伝わらないし、何か大胆なことを言っている。彼は時折、ギリギリなセリフを言う。それは知ってたけど、初対面の人にこの問答を聞かれるのは相当恥ずかしい!天使には羞恥心がないの?
「ほんとはね…ここも消毒したいところだけど、それはシェリも嫌がるからね」
「ここ」と言いながら、リヒトの指は私の胸元を指す。
「そんなもん、当たり前でしょ!」と私が思いっきり答えると、彼は「だからね」と言葉を続けた。
「だから、代わりにシェリが僕にキスして?」
…え?
リヒトは無邪気な笑顔で私にキスを要求した。だからの前と後との文の繋がりがよく分からない。なぜ、私が彼にその、キ、キスしないといけないのよ!?
「さぁ、今度は君が僕に印を付けて。僕は君だけのものだから、遠慮はいらないよ?」
リヒトの言葉に私の頭は限界を超えた。
家族以外にキスなんてしたことがない私に、そんな大胆なことできないわよ!オーウェンが見てるし、今のリヒトはキスだけで済むように思えない。
そして、色々とキャパオーバーした私はふらりと身体を揺らし、その場に倒れたのだった。
背中を床に強かに打ち付け、苦痛の声を漏らす。衝撃に目を瞑っていたが、目を開けた瞬間目の前にはオーウェンの顔があった。
こけた私達は、私を下にしてオーウェンがそれに覆いかぶさっているような体勢になっていた。
オーウェンもなるべく私に体重がかからないようにしているのだろう。少し苦しそうに呻き、体勢を立て直そうとする。
そして、身体を動かすため彼は手を床につけようとした。しかし、手が滑ったのか、彼の手は床ではなく私の胸元に置かれた。
…は?
ちょっと、ど、どこ触って…!
私は怒りと焦りに突き動かされるまま、声を上げようとした。
「なー」
「ん?…お前、男だよな?何で胸が…げふっっっ」
オーウェンは身じろぎして、私の胸元から手を離す。そして、疑問を正直に口にしていたのだが、最後まで言い終わることなく彼はその場から吹っ飛んだ。
言うまでもなく、犯人はリヒトだった。私に大の大人の男性を突き飛ばす力なんてないし。
リヒトは無言で私の前にしゃがみ、私の肩を支えながら身を起こす手伝いをしてくれた。
…?やけに静かで様子がおかしいわね…。
リヒトの様子に違和感を覚え、彼の顔を見ると、いつもは柔和な笑顔の彼はそこにはいなかった。
氷のように表情が固まったリヒトは、私の背中を撫でて、「…シェリ、大丈夫?」と小さな声で尋ねてくる。
それに、少し背中が痛むくらいだと返すと、リヒトは私から身を離して、自分が突き飛ばしたオーウェンの元へ近寄って行った。
それを見つめることしかできない私は、ハラハラと彼の行動を見守る。私の背中も悲鳴ものだけど、リヒトが何をするのか分からないことも不穏過ぎる…。
突然突き飛ばされた形となったオーウェンはというと、家の隅に倒れ込んでいた。彼は少し前までは立派な怪我人だったのだ。足はかなり回復しているはずだが、またどこかを痛めてはいないか不安だ。
オーウェンはよろよろと立ち上がる。その様子から彼の無事が分かり、私は安堵した。
「う、痛てて…、確かに俺が悪かったけど、何もここまでしなくても…そんな格好じゃ女の子なんて分からないだろ…」
うん。私も思う。オーウェンを引き離してくれた点は感謝したい。だけど、どう見てもやり過ぎだ。普段ここまで乱暴なことをしないはずなのに、一体リヒトは何をそんなに怒っているんだろう。怒るの、私の方じゃないの。
私は完全にオーウェンを責めるタイミングを失って、もう怒る気すら湧いてこない。元々、彼もわざと触ったわけじゃないしね。事故だもの。
そう思う私とは反対に、リヒトはオーウェンの目の前に立ち、何事かを彼の耳元で囁く。その瞬間、オーウェンの顔は恐怖に染まった。
いや、ちょっと、何言ったのよ。
リヒトは言いたいことを言い終えたのか、また私の元へ戻り、私を正面から抱きしめた。
打ち付けた背中が痛まないよう、その腕は緩く私を包み込んでいる。
私がリヒトの行動の真意を図りかねていると、彼はぽつぽつと不満を漏らす。
「今日、僕よりあの男に触れてる時間の方が多かった…」
「えっ?いや、だってほら治療だし…?」
不機嫌なリヒトに慌てて答えるが、彼は納得がいかない様子だ。
「…それに、僕も触ったことないのに…あの男…本気で始末したい…始末しようよサクッと」
前半に突っ込もうとしたら、後半でどす黒い本音が漏れ出てきた。私も怒ったし恥ずかしかったけどさ、胸触って死刑なんて人いないでしょ!え、いないよね…?
混乱した私は、オーウェンに助けを求めてみるが、彼は青い顔で首を振る。さらに、「これ以上、痴話喧嘩に俺を巻き込まないでくれ」と言われた。痴話喧嘩じゃない…。
リヒトの不機嫌をどうにかしようと、私が必死に考えていると、リヒトはふと、私の身体に回していた腕を解いた。
怒りが収まったのかと期待した私に、彼はふわりと微笑む。その笑みは大変美しい。だから、私は油断してしまった。
リヒトはするりと私の手を取り、彼の口元へ近づける。一体何をするんだとその動きを目で追っていると、彼は驚きの行動に出た。
「きゃあぁ!?」
私が気を抜いていたら、リヒトは何と私の指先にキスしてきたのだ。おまけに1箇所とかそういう問題じゃないくらい。
「な、なな何してるのリヒト!人前で、何を…!」
動揺に声がひっくり返った私に、リヒトはいつしか見せた妖しい瞳を向ける。何となく、私は狩られる兎の気持ちとは、こんなものかもしれないと思った。もちろん、リヒトに命の危険を感じているわけじゃないけど…。
「消毒だよ。人前って…シェリは人前じゃなければキスしてもいいってこと?」
違う!そうじゃない!そう主張するも、私の言いたいことは彼にいまいち伝わらない。
「まぁ、僕は人前だろうと気にしないんだけど…。むしろ、シェリが僕だけのものって示せていいし」
…伝わらないし、何か大胆なことを言っている。彼は時折、ギリギリなセリフを言う。それは知ってたけど、初対面の人にこの問答を聞かれるのは相当恥ずかしい!天使には羞恥心がないの?
「ほんとはね…ここも消毒したいところだけど、それはシェリも嫌がるからね」
「ここ」と言いながら、リヒトの指は私の胸元を指す。
「そんなもん、当たり前でしょ!」と私が思いっきり答えると、彼は「だからね」と言葉を続けた。
「だから、代わりにシェリが僕にキスして?」
…え?
リヒトは無邪気な笑顔で私にキスを要求した。だからの前と後との文の繋がりがよく分からない。なぜ、私が彼にその、キ、キスしないといけないのよ!?
「さぁ、今度は君が僕に印を付けて。僕は君だけのものだから、遠慮はいらないよ?」
リヒトの言葉に私の頭は限界を超えた。
家族以外にキスなんてしたことがない私に、そんな大胆なことできないわよ!オーウェンが見てるし、今のリヒトはキスだけで済むように思えない。
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