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3 魔法学校の聖人候補

365 食堂改革委員会

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365

「必要な量は分かった。わしのマジックバッグに保管している牛乳で急場はしのげるだろう。マジックバッグごと渡しておくから、それを使いなさい。その間に、魔法学校内の牧場整備と生産体制を整えねばな。研究施設も増やす必要があるか……」

チェット・モートさんの調査(実際は私の進言)により、早急な乳製品調達と食事改革の必要性が、魔法学校当局に認められた。
特に、学校側の主だった方々を招いての試食会の威力が絶大で、その味と栄養価に驚いた方々は、全会一致で改革推進派になってくれた。

更にそのためにも、魔法学校内での本格的な農業研究が必要ということも力説。その結果、異例のスピードで、唯一の専門家であるハンス・グッケンス博士に、その研究のために尽力してもらうことが認められた。

グッケンス博士は、思ってもいいなかったタイミングで、ずっと蔑ろにされ無視されてきた魔法学校での酪農研究が正式に学科として認められ、やる気満々だ。

学校側としては、本当のところは稀代の天才であるグッケンス博士には今でも魔法研究一筋でお願いしたい、と思っている。だが、博士以外にこのプロジェクトの責任者をできる人がいないことも理解しているため、表立って反対はできないと諦め、協力を確約した。そこでこれを更に推し進め、遂には博士念願の魔法農業研究を学科として認めさせることにも成功したのだ。

彼らの弱みに付け込んだ感はあるが、何よりも今は学生達の健康状態と食欲を戻し、モチベーションを上げることが急務なのだ。どうやら、今の1年組は予定カリキュラムの半分にも到達できていない人たち続出中で、基礎魔法講座を本格的に始める目処も立っていないらしい。

魔法力の回復が間に合っていないのだから勉強も訓練も遅れがちになるのが当然……ということは分かっているが、なすすべなし。教授陣も学生も焦る気持ちばかりで、何1つ解決策もないまま時だけが過ぎている。

まだ、学校は始まったばかりだが、このままの状態が長期化すれば、下手をしたら、重大な責任問題に発展し、学校全体が責められる可能性も強まってくる。
想定外の事態に、新入生達がこの学校の粗食に慣れてくれるのを待つようなゆとりはないと、さすがに事務局も観念したのだ。
もう文句は言いません。邪魔もしませんから、どうか助けてください、ということだ。

思わぬ事態から、大手を振って研究ができることになったグッケンス博士だが、学問についてはストイックな人なので、さすがに初年度から本格的なカリキュラムを組むことは難しいと判断した。本年度は、たっぷりと学校当局に恩を売りつつ、農業そして酪農の重要性を認識させ、来年度からの講座のための準備をすると決めたようだ。

当然、牧場についても学校からの全面バックアップが得られ、大規模な試験農場が与えられた。
これにより理想的な研究環境で放牧ができることになったので、博士は高原の隠し牧場を引き上げこちらに移動。更に、サイデムおじさまに集めてもらった乳牛も移動。これで乳牛の数が確保でき、なんとか学校の食堂が賄える目処がついた。

これからここでの研究が進めば、今よりも搾乳量も増え、もっと美味しい乳製品が作れるようになるだろう。
サイデム商会も、スポンサーとしていくらでも研究費用を出すと言ってくれているし、必要な物や人の確保についても、助けてもらえそうだ。

(博士はいくらでもお金はあるみたいだけど、人的支援はどうしても必要だ。経費についての細かい計算や取引価格の交渉など商売の部分は博士には任せられそうないないから、正直とても助かった)

牧場については、博士主導で形になりそうなので、次に私は〝食堂改革委員会〟の発足をモートさんに進言した。

今回のことに自信をなくし、辞職を願い出た料理長に代わり〝大地の恵み〟亭から引き抜いたダグロムさんを料理長として招聘し、チェット・モートさん(と私)が中心となって、生活管理に関する実務担当者たちと、これからの食堂を始めとする〝食関連部署〟の運営やメニュー選定を急ピッチで行う。

「一刻も早い現状改善のため、滋養のあるソースやスープ作りを優先して、旨味のある料理を作ります。若い学生が多いので、味は濃い目に設定。ただ、全てを変えようとしてもすぐには無理でしょう。当面は提供する料理の種類を減らし、そこに改善を集中させましょう」

私は〝定食〟を提案。

どの料理も基本的な副菜を同一にし、いくつか主菜だけを選べるスタイルだ。これならば、作る品数を絞れるので今までより手間のかかる料理を作っても効率的に賄える。私は、シラン村での給食やイスでのデリ運営で培った大量調理の知識があったので、思ったより円滑に改革の骨子を提案することができた。

そして委員会の方々にも、試食用として、イスのデリで提供しているコロッケやスープをいくつか用意し振る舞った。

「このコロッケはバリエーションも豊富で、大量に作るのにも適しています。量の増減がしやすいのも学生向きですね」

試食用に用意したコロッケは、チーズ入り、野菜ゴロゴロ系、スパイスを効かせたカレー風味などなど。ハンバーグも肉の比率を変えたものや茹で卵を巻いたスコッチエッグ、肉団子風など。スープは野菜たっぷりコンソメに豚汁、クリームスープ。

ダグロムさんにレシピを説明している間に、モートさんを始め、委員会メンバーはものすごい勢いで食べ始めている。

「あ、あの、試食ですよー。味わって食べてくださいねー」

「いやぁ、メイロードさん、これがイスの日常食なんですか?!
美味しすぎるじゃないですか!
これは、生徒たちの気持ちが分かります。これに慣れていては……」

食べるのに夢中の委員会メンバーに、私とダグロムさんは苦笑しながら、みなさんが落ち着くまで2人でメニューについての検討を続けた。
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