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3 魔法学校の聖人候補
427 困惑と癒しと
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427
私の〝外部推薦特別枠〟での〝魔法競技会〟出場の噂は、光の速さで駆け巡ってしまった。
おかげで主に一年の成績上位者と三年生から、今まで浴びたことのない熱視線にさらされる毎日だ。私が現れただけでざわつくので、二学期になってからは、うかつに大食堂にもいけなくなってしまった。
「なんだか、注目の的だよね、マリスさん」
教室で会ったトルルは面白がっているが、正直なところまいっている。三年生にしてみれば、自分たちをいかに目立たせ軍属にアピールするかに心を砕いて必死に訓練をしているのに、外部=軍部からの推薦で、平民出身者が一年生の競技とはいえいきなり本戦へ出てくるという状況は、嫉妬の対象にしかならない。彼らにとって私は心底邪魔な存在だろう。
今まで、私のことなどまったく見向きもしなかった一年生上位の貴族たちからも、バシバシ嫌味が飛んでくる。
「どういった強力なお知り合いがいらっしゃるのかしらね。いきなり本戦だなんて……拝見するのが楽しみですわ」
「実力が伴わないのに、高貴な方々も御臨席される本戦へ出場するなんて、私なら恥ずかしくてとてもできませんわ」
「僕が予選からで、君がいきなり本戦だなんて、おかしいだろう!」
(ハイハイ、そうです。その通りですね)
今までグッケンス博士の庇護を受けているため、表立って何かをされることがなかった私だが、一気に皆さんの反感を買う存在に昇格してしまった。それもこれまでの紆余曲折が招いた結果ではあるが、ドール参謀の権力を甘く見ていたし、軍属と魔法学校の関係について知っていたにもかかわらず対策を取らなかった自分の甘さが悔やまれる。
とはいえ、私が〝メイロード・マリス〟の名を隠せなかったのには事情がある。簡単に言えば《鑑定》の存在だ。私は強力な加護を受けているので、能力については絶対に人に見られることはないのだが、さすがに名前や年齢までは高い《鑑定》能力を持つ人から隠すことができないのだ。高い能力者がいる可能性の高い魔法学校で、下手に偽って後からバレたらそれこそ面倒なので、仕方なく名前はそのまま使ってしまった。
(こんなことが起こるなら、なにか隠せる方法がないか、研究した方がいいのかも……)
私は元々お世話係ポジションのため、あまり学生たちと接触はなかったが、二学期になってからは極力教室以外での接触を避けるようにしている。私と一緒にいるとトルルやオーライリにまで嫌味攻撃が波及しそうだったので、ふたりにもあまり会わないよう気をつけているほどだ。
だがそうやって、すぐ教室から消えてしまう私の様子も、それはそれで、グッケンス博士からの個人授業を受け放題で影で練習している、という噂になっており、もう四面楚歌だ。
(ドール参謀、本当に恨みますよ)
きっと、ドール参謀にしてみれば、知っている子が面白い成績を出しているようなので見てみたい、というだけのことなのだろうけれど、影響力が強すぎるのだ。
(いっそ、取り下げてもらえないか、交渉に行ってこようかな……)
図書館にも行きづらくなって部屋で勉強中の私は、直接交渉の線も考えたのだが、その場合、ドール参謀につないでもらうためにルミナーレ様たちにコンタクトすることになる。そうなれば絶対おふたりにも興味を持たれてしまい、さらにドツボにはまる可能性が高い。最悪ご一家で御臨席という可能性もあるのだ。
そうなれば私があっけなく負けた場合、ドール家に恥をかかせるという事態になってしまう。ドール参謀については正直どうでもいいが、ルミナーレ様やアリーシア様に恥をかかせるのは、とても心苦しい。
さすがに私を推薦した軍属が誰かまでは人に知られていないので、今の状況であればドール参謀の見込み違いで押し通せる。
「メイロードなら、おそらく三年生と戦っても負けないけどね。勝つつもりがないなら、防御魔法をもう少し強化するといいかもね。ただ《聖魔法》は使わないように気をつけてね」
セイリュウがそう助言してくれた。確かに、迂闊に《聖魔法》を見せてしまったらまずい。私の防御は《聖魔法》が主力なので、使わないよう心しておかなければ。
ストレス発散にもなるので、今日は歌のレッスンのためミゼルの元へやってきている。
〔お声に荒さがございますね。気持ちに余裕がないのは良くございません。発散のために歌われるのはよろしいですが、気持ちまで荒れさせてはいけませんよ〕
ミゼルからは容赦ない指導が入る。だが、そうやってミゼルの伴奏で歌い続けていると、とても心が穏やかになっていき、レッスンを終えるととてもスッキリしていた。
「ありがとう、ミゼル。とても気持ちが楽になったわ。やはり、あなたは素晴らしい音楽家ね」
〔お役に立てて、何よりでございました。メイロードさま、お辛いことがございましたらいつでも歌いに来てくださいませ。メイロードさまの歌声は、メイロードさま自身も癒してくれるはずですよ〕
いつものように、私たちの周りでは霊山の近くに住む動物たちがミゼルの音楽を聞いてくつろいでいる。その様子は本当に美しく清らかなものだ。私自身も、彼らのように音楽に癒されているのだろう。
現状を嘆いても仕方がない。私にはアドバイスをくれるセイリュウや癒しをくれるミゼル、グッケンス博士だっている。ちゃんと考えれば、この難局だって乗り越えられるはずだ。私が競技会で目立たずにやり過ごせれば、きっとすぐ噂も沈静化してくれるだろう。
「それじゃ、まずは一年生の競技会での試合方法について、詳しく調べてみましょうかね」
私の〝外部推薦特別枠〟での〝魔法競技会〟出場の噂は、光の速さで駆け巡ってしまった。
おかげで主に一年の成績上位者と三年生から、今まで浴びたことのない熱視線にさらされる毎日だ。私が現れただけでざわつくので、二学期になってからは、うかつに大食堂にもいけなくなってしまった。
「なんだか、注目の的だよね、マリスさん」
教室で会ったトルルは面白がっているが、正直なところまいっている。三年生にしてみれば、自分たちをいかに目立たせ軍属にアピールするかに心を砕いて必死に訓練をしているのに、外部=軍部からの推薦で、平民出身者が一年生の競技とはいえいきなり本戦へ出てくるという状況は、嫉妬の対象にしかならない。彼らにとって私は心底邪魔な存在だろう。
今まで、私のことなどまったく見向きもしなかった一年生上位の貴族たちからも、バシバシ嫌味が飛んでくる。
「どういった強力なお知り合いがいらっしゃるのかしらね。いきなり本戦だなんて……拝見するのが楽しみですわ」
「実力が伴わないのに、高貴な方々も御臨席される本戦へ出場するなんて、私なら恥ずかしくてとてもできませんわ」
「僕が予選からで、君がいきなり本戦だなんて、おかしいだろう!」
(ハイハイ、そうです。その通りですね)
今までグッケンス博士の庇護を受けているため、表立って何かをされることがなかった私だが、一気に皆さんの反感を買う存在に昇格してしまった。それもこれまでの紆余曲折が招いた結果ではあるが、ドール参謀の権力を甘く見ていたし、軍属と魔法学校の関係について知っていたにもかかわらず対策を取らなかった自分の甘さが悔やまれる。
とはいえ、私が〝メイロード・マリス〟の名を隠せなかったのには事情がある。簡単に言えば《鑑定》の存在だ。私は強力な加護を受けているので、能力については絶対に人に見られることはないのだが、さすがに名前や年齢までは高い《鑑定》能力を持つ人から隠すことができないのだ。高い能力者がいる可能性の高い魔法学校で、下手に偽って後からバレたらそれこそ面倒なので、仕方なく名前はそのまま使ってしまった。
(こんなことが起こるなら、なにか隠せる方法がないか、研究した方がいいのかも……)
私は元々お世話係ポジションのため、あまり学生たちと接触はなかったが、二学期になってからは極力教室以外での接触を避けるようにしている。私と一緒にいるとトルルやオーライリにまで嫌味攻撃が波及しそうだったので、ふたりにもあまり会わないよう気をつけているほどだ。
だがそうやって、すぐ教室から消えてしまう私の様子も、それはそれで、グッケンス博士からの個人授業を受け放題で影で練習している、という噂になっており、もう四面楚歌だ。
(ドール参謀、本当に恨みますよ)
きっと、ドール参謀にしてみれば、知っている子が面白い成績を出しているようなので見てみたい、というだけのことなのだろうけれど、影響力が強すぎるのだ。
(いっそ、取り下げてもらえないか、交渉に行ってこようかな……)
図書館にも行きづらくなって部屋で勉強中の私は、直接交渉の線も考えたのだが、その場合、ドール参謀につないでもらうためにルミナーレ様たちにコンタクトすることになる。そうなれば絶対おふたりにも興味を持たれてしまい、さらにドツボにはまる可能性が高い。最悪ご一家で御臨席という可能性もあるのだ。
そうなれば私があっけなく負けた場合、ドール家に恥をかかせるという事態になってしまう。ドール参謀については正直どうでもいいが、ルミナーレ様やアリーシア様に恥をかかせるのは、とても心苦しい。
さすがに私を推薦した軍属が誰かまでは人に知られていないので、今の状況であればドール参謀の見込み違いで押し通せる。
「メイロードなら、おそらく三年生と戦っても負けないけどね。勝つつもりがないなら、防御魔法をもう少し強化するといいかもね。ただ《聖魔法》は使わないように気をつけてね」
セイリュウがそう助言してくれた。確かに、迂闊に《聖魔法》を見せてしまったらまずい。私の防御は《聖魔法》が主力なので、使わないよう心しておかなければ。
ストレス発散にもなるので、今日は歌のレッスンのためミゼルの元へやってきている。
〔お声に荒さがございますね。気持ちに余裕がないのは良くございません。発散のために歌われるのはよろしいですが、気持ちまで荒れさせてはいけませんよ〕
ミゼルからは容赦ない指導が入る。だが、そうやってミゼルの伴奏で歌い続けていると、とても心が穏やかになっていき、レッスンを終えるととてもスッキリしていた。
「ありがとう、ミゼル。とても気持ちが楽になったわ。やはり、あなたは素晴らしい音楽家ね」
〔お役に立てて、何よりでございました。メイロードさま、お辛いことがございましたらいつでも歌いに来てくださいませ。メイロードさまの歌声は、メイロードさま自身も癒してくれるはずですよ〕
いつものように、私たちの周りでは霊山の近くに住む動物たちがミゼルの音楽を聞いてくつろいでいる。その様子は本当に美しく清らかなものだ。私自身も、彼らのように音楽に癒されているのだろう。
現状を嘆いても仕方がない。私にはアドバイスをくれるセイリュウや癒しをくれるミゼル、グッケンス博士だっている。ちゃんと考えれば、この難局だって乗り越えられるはずだ。私が競技会で目立たずにやり過ごせれば、きっとすぐ噂も沈静化してくれるだろう。
「それじゃ、まずは一年生の競技会での試合方法について、詳しく調べてみましょうかね」
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