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3 魔法学校の聖人候補
461 三学期の一年生
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461
「無属性って、一番よくわかんなくて難しいのに、よく取る気になるよね」
二学期の遅れを必死に取り戻すため、毎日の自主練を里帰り中も続けていたというトルルは、なんとか一年生の間に〝基礎魔法講座〟を終えようと、三学期に入り戻ってきてからは、今まで以上に熱心に頑張っている。一年生のうちに取り終えられなければ〝基礎魔法講座〟は落第となり、もう一度試験は最初からやり直しになってしまう。毎年ここでの落第者はとても多く、ここでリタイヤし学校を去る人もいるし、最初から落第覚悟という人たちもいるぐらいの難関授業だ。
あと一学期しか残されていない一年生三学期のこの時期になるとクラス内では合格確定組と、当確ライン組、そして落第確定組がはっきりしてくる。
(ちなみに落第組は翌年同じクラスにまとめられるので、新入生と落第組は同じクラスにはならない)
私、オーライリ、クローナの合格確定組は、とても落ち着いた気持ちで120種以外の推奨習得魔法に取り組んでいる。だが、トルルのような必須120種にいまだ届かずの当落線上の子たちは、みんな目が血走っているしイライラしているし、落ち込んだり喜んだり喜怒哀楽も激しく、周囲はかなり気を使って接している状況だ。
「無属性って〝どれでもあってどれでもない〟って言われていて、どの属性にも属さないけど色々な属性の影響を受けるものが多いんだよ。だから、習得が大変なんだよぉ~」
〝基礎魔法講座〟での必須取得魔法が一番少ない《無属性魔法》だが、確かにそういう点では非常に厄介で、私のような〝全属性適正〟を持たないと、かなり魔法消費が早く、練習は厳しい上に難しい。
なので〝基礎魔法講座〟の合格ギリギリラインにいるトルルは、この分野をできる限り避けて、自分の属性の《風魔法》《土魔法》の練習時間に魔法力のほとんどを使っている。それでも避けては通れない《無属性魔法》もあるため、三学期も魔法力を絞り出すようにして暮らしている。
彼女からしてみれば《無属性魔法》をこの時期に選んで規定より多く試験を受ける私はかなり〝余裕〟に見えるのだろう。でも《基礎魔法講座》が終わってからが本格的な魔法講座の始まりでもあるのだ。私も含め、みんな次の中級魔法へのステップを見据えて選択しているだけなのだけれど、それを言っても今のトルルたちにはなんの気休めにもならないだろう。
そんな状態なので、三学期はそれぞれに自分の魔法を磨くことに必死の状態が続き、特になんのイベントもなく駆け足で過ぎていった。
そして、私には学校の授業とはまったく関係のないイベントがやってきた。〝魔法薬研究会〟での〝エリクサー〟作成実験だ。
サマル・ラビ部長は、この日厳戒態勢で臨むことを約束してくれており、立会人も部長と副部長、それに記録係の3人だけに絞り、部室棟も〝危険実験中のため立ち入り禁止〟としてくれた。
実験棟の卓を囲んだ部長たちの前で、まず私は貴重な〝ヴァージン・ヒーリングドロップ〟〝聖龍の鱗〟〝再生の林檎〟〝妖精王の涙〟を反応実験した結果得られたいくつかのサンプルをまず披露した。
「この事前実験により、次の段階へ進むための最適な混合状態を見極める必要がありました。分量が最適でないとこのようにおかしな色になり、求める色にはなりません」
そこには、緑や赤灰色や形容しがたい泥のようなものまで色々な失敗例が並んでいる。本来ならばどれぐらい実験してどれぐらい失敗したのかも貴重な実験データなので開示すべきなのだが、ツッコミどころだらけで明かすには問題がありすぎるので、この膨大な失敗に関するデータは申し訳ないが開示するわけにはいかない。
せめてもの良心として、こうして失敗作を用意し、実験のざっくりしたやり方だけは開示してみた。
それだけでも、相当の魔法力や素材が使用されていることは想像がついたのだろう。
「すごい実験をなさいましたね。この実験、本来ならばこの〝魔法薬研究会〟が是が非でも行いたい実験でしたが、材料も魔法力も技術も足りずで、全くお恥ずかしいことです」
ラビ部長は、私の失敗作をまじまじと見ながら、溜息をついている。
「確かに、今の時代〝エリクサー〟はとても作りにくい薬になりました。素材の入手の厳しさも尋常ではないですからね。私は運が良かったのだと思います。でも、私の実験が成功してここで〝エリクサー〟作成実験が成功すれば、これに関する資料を基にしてしばらくの間は高い精度で再現可能になると思いますよ。まぁ、材料が揃えばですけど……」
残念ながら材料の質や採集時期の違いがある場合、私の実験データをそのまま次のエリクサー作成時に使えない可能性が高いとわかってはいるのだが、それでも近々の事前実験で得られた最適な混合比率に関するデータとこの実験の成功は、彼らの今後にとって役立つはずだし、これからの薬作りの参考になるはずだ。私は自分たちの不甲斐なさを責めるラビ部長を慰めるようにそう言うと、実験の準備を始めた。
「では、始めましょうか」
「無属性って、一番よくわかんなくて難しいのに、よく取る気になるよね」
二学期の遅れを必死に取り戻すため、毎日の自主練を里帰り中も続けていたというトルルは、なんとか一年生の間に〝基礎魔法講座〟を終えようと、三学期に入り戻ってきてからは、今まで以上に熱心に頑張っている。一年生のうちに取り終えられなければ〝基礎魔法講座〟は落第となり、もう一度試験は最初からやり直しになってしまう。毎年ここでの落第者はとても多く、ここでリタイヤし学校を去る人もいるし、最初から落第覚悟という人たちもいるぐらいの難関授業だ。
あと一学期しか残されていない一年生三学期のこの時期になるとクラス内では合格確定組と、当確ライン組、そして落第確定組がはっきりしてくる。
(ちなみに落第組は翌年同じクラスにまとめられるので、新入生と落第組は同じクラスにはならない)
私、オーライリ、クローナの合格確定組は、とても落ち着いた気持ちで120種以外の推奨習得魔法に取り組んでいる。だが、トルルのような必須120種にいまだ届かずの当落線上の子たちは、みんな目が血走っているしイライラしているし、落ち込んだり喜んだり喜怒哀楽も激しく、周囲はかなり気を使って接している状況だ。
「無属性って〝どれでもあってどれでもない〟って言われていて、どの属性にも属さないけど色々な属性の影響を受けるものが多いんだよ。だから、習得が大変なんだよぉ~」
〝基礎魔法講座〟での必須取得魔法が一番少ない《無属性魔法》だが、確かにそういう点では非常に厄介で、私のような〝全属性適正〟を持たないと、かなり魔法消費が早く、練習は厳しい上に難しい。
なので〝基礎魔法講座〟の合格ギリギリラインにいるトルルは、この分野をできる限り避けて、自分の属性の《風魔法》《土魔法》の練習時間に魔法力のほとんどを使っている。それでも避けては通れない《無属性魔法》もあるため、三学期も魔法力を絞り出すようにして暮らしている。
彼女からしてみれば《無属性魔法》をこの時期に選んで規定より多く試験を受ける私はかなり〝余裕〟に見えるのだろう。でも《基礎魔法講座》が終わってからが本格的な魔法講座の始まりでもあるのだ。私も含め、みんな次の中級魔法へのステップを見据えて選択しているだけなのだけれど、それを言っても今のトルルたちにはなんの気休めにもならないだろう。
そんな状態なので、三学期はそれぞれに自分の魔法を磨くことに必死の状態が続き、特になんのイベントもなく駆け足で過ぎていった。
そして、私には学校の授業とはまったく関係のないイベントがやってきた。〝魔法薬研究会〟での〝エリクサー〟作成実験だ。
サマル・ラビ部長は、この日厳戒態勢で臨むことを約束してくれており、立会人も部長と副部長、それに記録係の3人だけに絞り、部室棟も〝危険実験中のため立ち入り禁止〟としてくれた。
実験棟の卓を囲んだ部長たちの前で、まず私は貴重な〝ヴァージン・ヒーリングドロップ〟〝聖龍の鱗〟〝再生の林檎〟〝妖精王の涙〟を反応実験した結果得られたいくつかのサンプルをまず披露した。
「この事前実験により、次の段階へ進むための最適な混合状態を見極める必要がありました。分量が最適でないとこのようにおかしな色になり、求める色にはなりません」
そこには、緑や赤灰色や形容しがたい泥のようなものまで色々な失敗例が並んでいる。本来ならばどれぐらい実験してどれぐらい失敗したのかも貴重な実験データなので開示すべきなのだが、ツッコミどころだらけで明かすには問題がありすぎるので、この膨大な失敗に関するデータは申し訳ないが開示するわけにはいかない。
せめてもの良心として、こうして失敗作を用意し、実験のざっくりしたやり方だけは開示してみた。
それだけでも、相当の魔法力や素材が使用されていることは想像がついたのだろう。
「すごい実験をなさいましたね。この実験、本来ならばこの〝魔法薬研究会〟が是が非でも行いたい実験でしたが、材料も魔法力も技術も足りずで、全くお恥ずかしいことです」
ラビ部長は、私の失敗作をまじまじと見ながら、溜息をついている。
「確かに、今の時代〝エリクサー〟はとても作りにくい薬になりました。素材の入手の厳しさも尋常ではないですからね。私は運が良かったのだと思います。でも、私の実験が成功してここで〝エリクサー〟作成実験が成功すれば、これに関する資料を基にしてしばらくの間は高い精度で再現可能になると思いますよ。まぁ、材料が揃えばですけど……」
残念ながら材料の質や採集時期の違いがある場合、私の実験データをそのまま次のエリクサー作成時に使えない可能性が高いとわかってはいるのだが、それでも近々の事前実験で得られた最適な混合比率に関するデータとこの実験の成功は、彼らの今後にとって役立つはずだし、これからの薬作りの参考になるはずだ。私は自分たちの不甲斐なさを責めるラビ部長を慰めるようにそう言うと、実験の準備を始めた。
「では、始めましょうか」
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