利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

473 プーアのプレゼン

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473

〔よしよし、想定通りの展開になってきたわね〕

〔ええ、すべてはメイロードさまの思惑通りでございます。ザイザロンガの工房はずっと監視していましたから、奴らの考えていることは筒抜けでございましたし。偉そうにしているだけのあの男はデザインすら人任せで、細かい作業はすべて指示も出さずに丸投げ、目立つ場所のさして技術もいらない作業しかしていなかったことも、しっかり確認いたしております。まったくもって救い難い御仁です〕

私とセーヤは、審査を遠巻きに見ている観客に紛れながら、この審査の様子をこっそりと見ていた。

もちろん、ザイザロンガが工房で面倒がってしていなかった、地味で手間のかかる作業についての情報をサラエ隊長にリークしたのも私だ。この男の誠実さの欠片もない仕事ぶりは、まったく呆れたもので、先ほど自慢げに語っていた今回持ち込んだ鞍のアイディアもすべて、工房の職人たちによるもの。真面目な職人たちの手柄を横取りして恥じる気配もないとは、〝厚顔〟とはこの男のためにある言葉だろう。

この会場中が凍りつくような状況の中

「恐れながら申し上げます」

ザイザロンガの後ろに控えていたマバロンガが、薄笑いを浮かべ、ギラギラの指輪だらけの手でもみ手をしながら、厳しい表情のサラエ隊長に話しかけてきた。

「確かに工房の人間に任せた部分はございましょうが、工房主は職人を指導して仕事を任せてやることも、必要なのでございますよ。これらの見事な鞍はザイザロンガが親方として指揮をとり仕上げた、まごうかたなき〝ザイザロンガ工房〟の品物でございます。それでよろしいのではございませんか?」

「私にはとてもとは思えない説明であったがな。工程にしっかり関わっていたならば絶対に答えられるはずの、しかも出来不出来に大きく関わる問いに返答できず、はたして〝ザイザロンガ〟の名を冠してよいものなのか? 私はザイザロンガ工房の仕事に。だが、これを重要なことだと思わないと言うのならば、まぁ良い。審査を続けよう」

〝お前ら、馬具造りで適当な仕事してんじゃないぞ!〟

と、氷のような微笑みを浮かべるサラエ隊長に衆人環視の中で叱責されたも同然のザイザロンガは、先ほどまでの勢いもどこへやら、すっかり萎縮し、マバロンガに引きづられるようにして席へ戻り、小さく震えていた。

(以外に小心者、と言うべきかサラエ隊長が怖すぎる、と言うべきか……)

私とセーヤが顔を見合わせて苦笑していると、いよいよ最後の審査、前回の〝鞍揃え〟において最高評価第1席を得た〝チェンチェン工房〟の番となった。

さすがに、熟練の職人たちの多くを失ったままのチェンチェン工房では、5つもの新しいアイディアを取り入れた鞍を作ることはできず、今回は3つの新作を披露することになった。

(この3つの鞍を仕上げるために、プーアさんは寝食を忘れて頑張ったんだよね)

名前を呼ばれた新工房長プーアさんは、しっかりと背筋を伸ばし、堂々と新作の馬具をつけた3頭の馬を引き連れて会場の人々に一礼した。

「なんとも、堂々としたものじゃないか」
「若いが、チェンチェン親方の面影もあるな。いい面構えだ」
「閉じこもってばかりの弱っちいダメ男だってのは、噂だけだったんだな」

遠くで見守る見物人も、噂とは異なるプーアの堂々とした態度に少し驚いていた。

プーアさん、今回の鞍造りの過程で職人としての自信を取り戻し、工房の職人たちとの関係も深まった。父の死と度重なる兄弟子の妨害という今回の逆境を乗り越えようとすることで、人間的もとても強くなり成長したのだ。

そんなプーアさんに、さらに私とエルさんとで、追い込みをかけた。1週間ほどかけてプレゼンテーションの時の態度について、徹底的なスパルタ熱血指導を行ったのだ。

「いいですか、絶対に目線を揺らしたり下を向いたりしてはいけませんよ。特に、最初の印象はとっても大事です。
工房主に自信がなさそうに見えたら台無しですよ。そんな人の言うことは、誰も信用してくれません」

「 プーア! 背筋を伸ばして!! あんたは親方譲りの筋肉質のいい躰をしてるんだ。ちゃんと立っているだけでいい男に見えるんだからね! ほら!」

エルさんに背中を叩かれ、一生懸命プーアさんは背筋を伸ばす。

「説明は、相手に伝わるようゆっくりと。今回はサラエ隊長ひとりにしっかり伝わることを考えてください。彼女を説得できれば、すべての人が納得してくれます」

私は馬具フェチ……もとい、馬具に造詣の深いサラエ隊長なら、最小の説明でこちらの言わんとしていることは伝わるはずだから、長い説明をするよりポイントを押さえて簡潔に説明するようお願いした。

プーアさんは鬼教官エルさんの特訓が実り、鋭い目つきの審査員たちと観衆が見つめる中でも、自信に満ちたゆったりとした態度で説明をしている。確かにプーアさん、こうして綺麗に立っていれば風格のあるいい面構えだ。

「まずひとつ目の馬具では〝チェンチェン工房〟の伝統的な技術を継承し、乗り手を支え馬に負担をかけない構造、さらに最高の革素材として通気性と撥水性に優れた希少なスノウ・トロールを使用しております」

プーアの言葉に観衆がどよめく。

「スノウ・トロールと言ったら、滅多に下界へ降りることはないが凶暴さでは指折りの大型魔獣だぞ! よく手に入れたな、さすがは〝チェンチェン工房〟だ」

プーアの言葉にうなづいたサラエ隊長は、馬具に近づきその仕事を確かめる。

「うむ。素晴らしい出来栄えだな。スノウ・トロールといえば、決して扱いやすい素材ではないはずだが、亡き親方を彷彿とさせるこの乱れのない縫い目は実にいい仕事だ。素材の良さを超える高い技術がうかがわれるな。いい腕だ、プーア」

「恐れ入ります」

先ほどまでの厳しい顔とは打って変わって、実に楽しそうに鞍を吟味しているサラエ隊長。プーアさんはどんな細かい技術的質問でも即座に答え、どこを工房の職人が作り、自分がどう関わり相談したかまで、簡潔に答えていった。

「先代の親方をなくしたことで、より結束が深まり、職人たちは皆いい仕事をしてくれました」

そう言うプーアさんはすっかり〝親方〟に顔だ。

そして、これまた激レア素材を使った、超軽量仕上げの鞍の説明も無難にこなしたプーアさんは、いよいよ今回の目玉とも言える最後の鞍について説明を始める。

(頑張れ、プーアさん!)
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