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3 魔法学校の聖人候補
488 スパイします
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488
さすがのセーヤとソーヤも、今回はかなり手こずったようだが、それでも10日後には、イスにそれらしい女の存在を確認してきてくれた。
「名前は確かにキャサリナと名乗っており、イスの中でも最高級の宿のしかも一番上等な部屋に長逗留しています。ですが、その名は《鑑定》が使える人間以外には知られたくないらしく、自分はシルベスター公爵家所縁の者で、諸事情があり身分を隠しているので〝リナ〟と呼んでほしいと周囲の人に言っており、宿帳にはリナ・シルベスターと記載していましたよ」
(今度はシルベスター公爵家ですか……)
どうやら、騙した相手から得た情報を使って、次の相手を騙す気のようだ。名前や身分まで平気で借受けるとは盗人猛々しいというか、厚顔極まりないというべきか……なかなかに大胆なやり方をしている。
「で、やっぱりものすごい美人さんなの?」
「いえ、ごく普通のように見えましたが、というかむしろ若干トウのたったご婦人で……。にもかかわらず確かに周囲の方々は彼女のことをまったく疑う素振りを見せていませんでしたね。なぜなのかはわかりませんが……」
この件に関しては、ふたりとも不思議そうに首をひねっている。
「わかったわ。じゃ、引き続き監視と調査を続行してね。次のターゲットが騙される前に、なんとか捕まえたいから、イスで何をしようとしているのか突き止めてくれると助かる」
「では、行ってきます」
「必ず敵のやろうとしていること、つかんできますからね!」
その後もたらされた、ふたりからのキャサリナ観察情報によると、この人はとにかく贅沢三昧に暮らしている。衣装も宝石もものすごい数を持っていて、さらに自分でも買い、男たちにも山ほど貢がせている。
「特に宝飾品への執着は凄まじいですね。これは売る目的ではないようで、ただ自分が欲しいから買わせているようです。とんでもない高値の宝石にも躊躇なく手を出していますから、あの調子では、高額な詐欺でも続けてなければ、間違いなくすぐに困窮するでしょう」
「《傀儡薬》については何かわかった?」
「それが……まったくその気配はありません。かなり危ない魔法薬ですから、慎重になっているのかもしれないですが、いまは男たちを騙して貢がせることに集中しているようですよ」
「あ……それで、ちょっと小耳に挟んだのですが……」
クスクス笑いながら、ソーヤがその女が狙っている次の金持ちの話をしてくれた。
「どうやら、イスでの最終的な狙いはサイデム様のようなんです」
「なっ!! 本気なのそれ!?」
セーヤとソーヤは、二人揃って何度も小さくうなずいた。
「さすがのあの女も、多忙を極めるイスで最高の権力者までは、なかなか接触に至るのは難しいようで、どうやらいまはそのための仕込みの段階のようです」
キャサリナは、誘惑した男たちに適当に貢がせつつ、虜にして信用させながら、徐々に上の人間へとつなぎをつけていくらしい。やり方はシルベスター公爵家に対して取った手口と同じだ。
「現在、何人かの中堅商人を籠絡して、なんとかサイデム様の出席なさるような上流階級のパーティーへの潜入を試みているようです。ですが、サイデム様が出席されるものはごく一部の上、挨拶だけしてさっさと退席されることが多いため、うまくいっておらず、だいぶ苛立っているようです」
だが、この詐欺師は資金力があるためか、性急にことを進めたりはしないようだ。中々上手くいかない状況に苛立ちつつも、少しずつ接近する機会を探っている。いずれ機会をつかんで必ずサイデムおじさまに接近を図るだろう。とはいえ、どちらにしても、おじさまは《傀儡薬》を売りつける相手としてはふさわしくない。とすればキャサリナの狙いはおじさまの財産なのか、あるいは所有する何かなのか……
「どうにか《傀儡薬》についての情報を引き出したいわね。おじさまをターゲットから外させて、キャサリナを追い詰めたら、どう動くかしらね」
私は、グッケンス博士にも詳細な報告を頼まれているというセーヤ・ソーヤとともに、学校の研究棟へと戻り、当面の敵の狙いがサイデムおじさまらしいということを告げた。
「それはサイデムも災難よの」
博士は苦笑しつつ、妖精スパイたちからの報告を詳細に聞き、質問を繰り返しながらうなづいている。
「どうやら、わしの推測は当たっていたようじゃ。これは、お前とセイリュウに頼んだ方がいいだろうなぁ」
博士は今回の〝詐欺師を騙す〟という難しいミッションには、どうしても私とセイリュウの協力が必要だという。
ソーヤが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、博士はこの女詐欺師のまったくもって面倒な能力について、博士の推測を聞かせてくれた。
「おそらく、この女は《幻惑魔法》を使う者だ。しかもスキルとしての《魅了》もしくは、《魅了》を増幅する何かを持っておる。この《幻惑魔法》というヤツは、人の心を操る魔法だが、少し時間を置けば徐々に効力が弱まるもので、寸借詐欺ぐらいには使えても、長期間相手を騙し続けることは難しい」
だが《魅了》という特殊なスキルを持った人がこれを使うと、強い増幅作用が生まれる。相手に無理やり自分への好意を植え付け、その精神にまで侵食することも可能なのだという。
「この《魅了》は、極めて安定性の悪いスキルで、この女のように相手を意のままに操ろうとすれば、かなりの魔法力もしくは増幅作用を持つ人工的な道具が必要なはずだ」
そこで博士は、ひとつ咳をするとこう言った。
「妖精や神の眷属そして高い聖性持つお前のような者には《魅了》の効果はない。《幻惑魔法》も結界で防げるだろう。
だが、わしやサイデムが真っ向からこの女と対峙した時、必ずその《幻惑魔法》を退けられる、とは言えん。
そういう厄介な魔法なのじゃよ」
さすがのセーヤとソーヤも、今回はかなり手こずったようだが、それでも10日後には、イスにそれらしい女の存在を確認してきてくれた。
「名前は確かにキャサリナと名乗っており、イスの中でも最高級の宿のしかも一番上等な部屋に長逗留しています。ですが、その名は《鑑定》が使える人間以外には知られたくないらしく、自分はシルベスター公爵家所縁の者で、諸事情があり身分を隠しているので〝リナ〟と呼んでほしいと周囲の人に言っており、宿帳にはリナ・シルベスターと記載していましたよ」
(今度はシルベスター公爵家ですか……)
どうやら、騙した相手から得た情報を使って、次の相手を騙す気のようだ。名前や身分まで平気で借受けるとは盗人猛々しいというか、厚顔極まりないというべきか……なかなかに大胆なやり方をしている。
「で、やっぱりものすごい美人さんなの?」
「いえ、ごく普通のように見えましたが、というかむしろ若干トウのたったご婦人で……。にもかかわらず確かに周囲の方々は彼女のことをまったく疑う素振りを見せていませんでしたね。なぜなのかはわかりませんが……」
この件に関しては、ふたりとも不思議そうに首をひねっている。
「わかったわ。じゃ、引き続き監視と調査を続行してね。次のターゲットが騙される前に、なんとか捕まえたいから、イスで何をしようとしているのか突き止めてくれると助かる」
「では、行ってきます」
「必ず敵のやろうとしていること、つかんできますからね!」
その後もたらされた、ふたりからのキャサリナ観察情報によると、この人はとにかく贅沢三昧に暮らしている。衣装も宝石もものすごい数を持っていて、さらに自分でも買い、男たちにも山ほど貢がせている。
「特に宝飾品への執着は凄まじいですね。これは売る目的ではないようで、ただ自分が欲しいから買わせているようです。とんでもない高値の宝石にも躊躇なく手を出していますから、あの調子では、高額な詐欺でも続けてなければ、間違いなくすぐに困窮するでしょう」
「《傀儡薬》については何かわかった?」
「それが……まったくその気配はありません。かなり危ない魔法薬ですから、慎重になっているのかもしれないですが、いまは男たちを騙して貢がせることに集中しているようですよ」
「あ……それで、ちょっと小耳に挟んだのですが……」
クスクス笑いながら、ソーヤがその女が狙っている次の金持ちの話をしてくれた。
「どうやら、イスでの最終的な狙いはサイデム様のようなんです」
「なっ!! 本気なのそれ!?」
セーヤとソーヤは、二人揃って何度も小さくうなずいた。
「さすがのあの女も、多忙を極めるイスで最高の権力者までは、なかなか接触に至るのは難しいようで、どうやらいまはそのための仕込みの段階のようです」
キャサリナは、誘惑した男たちに適当に貢がせつつ、虜にして信用させながら、徐々に上の人間へとつなぎをつけていくらしい。やり方はシルベスター公爵家に対して取った手口と同じだ。
「現在、何人かの中堅商人を籠絡して、なんとかサイデム様の出席なさるような上流階級のパーティーへの潜入を試みているようです。ですが、サイデム様が出席されるものはごく一部の上、挨拶だけしてさっさと退席されることが多いため、うまくいっておらず、だいぶ苛立っているようです」
だが、この詐欺師は資金力があるためか、性急にことを進めたりはしないようだ。中々上手くいかない状況に苛立ちつつも、少しずつ接近する機会を探っている。いずれ機会をつかんで必ずサイデムおじさまに接近を図るだろう。とはいえ、どちらにしても、おじさまは《傀儡薬》を売りつける相手としてはふさわしくない。とすればキャサリナの狙いはおじさまの財産なのか、あるいは所有する何かなのか……
「どうにか《傀儡薬》についての情報を引き出したいわね。おじさまをターゲットから外させて、キャサリナを追い詰めたら、どう動くかしらね」
私は、グッケンス博士にも詳細な報告を頼まれているというセーヤ・ソーヤとともに、学校の研究棟へと戻り、当面の敵の狙いがサイデムおじさまらしいということを告げた。
「それはサイデムも災難よの」
博士は苦笑しつつ、妖精スパイたちからの報告を詳細に聞き、質問を繰り返しながらうなづいている。
「どうやら、わしの推測は当たっていたようじゃ。これは、お前とセイリュウに頼んだ方がいいだろうなぁ」
博士は今回の〝詐欺師を騙す〟という難しいミッションには、どうしても私とセイリュウの協力が必要だという。
ソーヤが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、博士はこの女詐欺師のまったくもって面倒な能力について、博士の推測を聞かせてくれた。
「おそらく、この女は《幻惑魔法》を使う者だ。しかもスキルとしての《魅了》もしくは、《魅了》を増幅する何かを持っておる。この《幻惑魔法》というヤツは、人の心を操る魔法だが、少し時間を置けば徐々に効力が弱まるもので、寸借詐欺ぐらいには使えても、長期間相手を騙し続けることは難しい」
だが《魅了》という特殊なスキルを持った人がこれを使うと、強い増幅作用が生まれる。相手に無理やり自分への好意を植え付け、その精神にまで侵食することも可能なのだという。
「この《魅了》は、極めて安定性の悪いスキルで、この女のように相手を意のままに操ろうとすれば、かなりの魔法力もしくは増幅作用を持つ人工的な道具が必要なはずだ」
そこで博士は、ひとつ咳をするとこう言った。
「妖精や神の眷属そして高い聖性持つお前のような者には《魅了》の効果はない。《幻惑魔法》も結界で防げるだろう。
だが、わしやサイデムが真っ向からこの女と対峙した時、必ずその《幻惑魔法》を退けられる、とは言えん。
そういう厄介な魔法なのじゃよ」
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