利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
299 / 840
3 魔法学校の聖人候補

488 スパイします

しおりを挟む
488

さすがのセーヤとソーヤも、今回はかなり手こずったようだが、それでも10日後には、イスにそれらしい女の存在を確認してきてくれた。

「名前は確かにキャサリナと名乗っており、イスの中でも最高級の宿のしかも一番上等な部屋に長逗留しています。ですが、その名は《鑑定》が使える人間以外には知られたくないらしく、自分はシルベスター公爵家所縁ユカリの者で、諸事情があり身分を隠しているので〝リナ〟と呼んでほしいと周囲の人に言っており、宿帳にはリナ・シルベスターと記載していましたよ」

(今度はシルベスター公爵家ですか……)

どうやら、騙した相手から得た情報を使って、次の相手を騙す気のようだ。名前や身分まで平気で借受けるとは盗人猛々しいというか、厚顔極まりないというべきか……なかなかに大胆なやり方をしている。

「で、やっぱりものすごい美人さんなの?」

「いえ、ごく普通のように見えましたが、というかむしろ若干トウのたったご婦人で……。にもかかわらず確かに周囲の方々は彼女のことをまったく疑う素振りを見せていませんでしたね。なぜなのかはわかりませんが……」

この件に関しては、ふたりとも不思議そうに首をひねっている。

「わかったわ。じゃ、引き続き監視と調査を続行してね。次のターゲットが騙される前に、なんとか捕まえたいから、イスで何をしようとしているのか突き止めてくれると助かる」

「では、行ってきます」
「必ず敵のやろうとしていること、つかんできますからね!」

その後もたらされた、ふたりからのキャサリナ観察情報によると、この人はとにかく贅沢三昧に暮らしている。衣装も宝石もものすごい数を持っていて、さらに自分でも買い、男たちにも山ほど貢がせている。

「特に宝飾品への執着は凄まじいですね。これは売る目的ではないようで、ただ自分が欲しいから買わせているようです。とんでもない高値の宝石にも躊躇なく手を出していますから、あの調子では、高額な詐欺でも続けてなければ、間違いなくすぐに困窮するでしょう」

「《傀儡薬》については何かわかった?」

「それが……まったくその気配はありません。かなり危ない魔法薬ですから、慎重になっているのかもしれないですが、いまは男たちを騙して貢がせることに集中しているようですよ」

「あ……それで、ちょっと小耳に挟んだのですが……」

クスクス笑いながら、ソーヤがその女が狙っている次の金持ちの話をしてくれた。

「どうやら、イスでの最終的な狙いはサイデム様のようなんです」

「なっ!! 本気なのそれ!?」

セーヤとソーヤは、二人揃って何度も小さくうなずいた。

「さすがのあの女も、多忙を極めるイスで最高の権力者までは、なかなか接触に至るのは難しいようで、どうやらいまはそのためのの段階のようです」

キャサリナは、誘惑した男たちに適当に貢がせつつ、虜にして信用させながら、徐々に上の人間へとつなぎをつけていくらしい。やり方はシルベスター公爵家に対して取った手口と同じだ。

「現在、何人かの中堅商人を籠絡して、なんとかサイデム様の出席なさるような上流階級のパーティーへの潜入を試みているようです。ですが、サイデム様が出席されるものはごく一部の上、挨拶だけしてさっさと退席されることが多いため、うまくいっておらず、だいぶ苛立っているようです」

だが、この詐欺師は資金力があるためか、性急にことを進めたりはしないようだ。中々上手くいかない状況に苛立ちつつも、少しずつ接近する機会を探っている。いずれ機会をつかんで必ずサイデムおじさまに接近を図るだろう。とはいえ、どちらにしても、おじさまは《傀儡薬》を売りつける相手としてはふさわしくない。とすればキャサリナの狙いはおじさまの財産なのか、あるいは所有する何かなのか……

「どうにか《傀儡薬》についての情報を引き出したいわね。おじさまをターゲットから外させて、キャサリナを追い詰めたら、どう動くかしらね」

私は、グッケンス博士にも詳細な報告を頼まれているというセーヤ・ソーヤとともに、学校の研究棟へと戻り、当面の敵の狙いがサイデムおじさまらしいということを告げた。

「それはサイデムも災難よの」

博士は苦笑しつつ、妖精スパイたちからの報告を詳細に聞き、質問を繰り返しながらうなづいている。

「どうやら、わしの推測は当たっていたようじゃ。これは、お前とセイリュウに頼んだ方がいいだろうなぁ」

博士は今回の〝詐欺師を騙す〟という難しいミッションには、どうしても私とセイリュウの協力が必要だという。

ソーヤが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、博士はこの女詐欺師のまったくもって面倒な能力について、博士の推測を聞かせてくれた。

「おそらく、この女は《幻惑魔法》を使う者だ。しかもスキルとしての《魅了》もしくは、《魅了》を増幅するを持っておる。この《幻惑魔法》というヤツは、人の心を操る魔法だが、少し時間を置けば徐々に効力が弱まるもので、寸借詐欺ぐらいには使えても、長期間相手を騙し続けることは難しい」

だが《魅了》という特殊なスキルを持った人がこれを使うと、強い増幅作用が生まれる。相手に無理やり自分への好意を植え付け、その精神にまで侵食することも可能なのだという。

「この《魅了》は、極めて安定性の悪いスキルで、この女のように相手を意のままに操ろうとすれば、かなりの魔法力もしくは増幅作用を持つ人工的な道具アーティファクトが必要なはずだ」

そこで博士は、ひとつ咳をするとこう言った。

「妖精や神の眷属そして高い聖性持つお前のような者には《魅了》の効果はない。《幻惑魔法》も結界で防げるだろう。
だが、わしやサイデムが真っ向からこの女と対峙した時、必ずその《幻惑魔法》を退けられる、とは言えん。
そういう厄介な魔法なのじゃよ」
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて

碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。 美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。 第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。