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3 魔法学校の聖人候補
516 銀の骨
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516
そこにあったのは、野球のボールより一回り大きいふたつの魔石と一個の小さな銀色の骨だった。
「これはキングリザードから出てまいりました《雷の魔石》と《火の魔石》でございます。この銀の骨はその間にございまして、これひとつだけ変わった色をしておりましたのでお持ちいたしました」
「とても大きなものですね。これこそお売りになれば大変高価なものではないのでしょうか? それをいただくわけにはまいりません」
私の言葉に長老は首を振った。
「いえ、これだけはメイロードさまにお受け取りいただきたいのでございます。この我々にとって禍々しい魔石は、手元に置くことも、はたまたこれを売った対価を得ることも不名誉、嬉しいものではないのでございます。これは穢れなき聖女様の元で浄化し役立てていただくことが一番良いのでございますよ」
確かに、彼らの仲間を直接殺す原因となった〝王の審判〟は、この魔石から放たれたものだ。それが彼らにとって忌むべきものなのは理解できる。でも、私が聖女様扱いになっているのはいただけない。
「私はただの魔法学校の学生です。聖女などではありませんし、ニパを助けることになったのも偶然。すべては成り行きなのですから、あまり大げさなことを言わないでください。それより、私の名をよそで決して出さないでくれる方が、ずっと私にはありがたいのです」
ニパが苦笑しながら長老に言う。
「だから言ったじゃないですか。メイロードさまは目立たず静かに人々を見守られたいのです。社を立てて祭ったり、像を立てたりすることは望まれていないんですから!」
(え、ニパ、そんな計画があったの?! まったくこの世界の人たちは、すぐそういうことを……)
どうやら、私の行いのせいで完全に〝聖女認定〟されてしまっているようで、色々な計画が進んでいたらしい。私は、それを全力で拒否する代わりとして、魔石についてはもらうことを了承した。ただ、決して私の名前は出さないので、私が《無限回廊の扉》を設置したあの空き家は、今回の出来事を語り継ぐためのよすがとしてそのままにしてほしいと言われ、仕方なくそれだけは了承した。
「決して私の名を伝えないでくださいね」
ニパと私の粘り強い説得で、そのことには皆さん同意してくれたが、おそらく適当な名前をつけてあの小屋は拝まれてしまうことになるのだろう。もうそれについては諦めるしかなさそうだ。
(まぁ、なんだかわからなかっただろうけど《生産の陣》まで見せちゃってるしなぁ……やりすぎたか)
一夜にして大きな毒の池を作り出し、それを一瞬で浄化して見せてしまったら、それは、確かに少なくとも奇跡に近い魔法ではある。そもそも池作りにはセイリュウの力を借りているので、神力を使ったとも言えなくもないのだ。セイリュウは水に関わる魔法はお手の物なので、あの大穴に水を短時間で貯める方法を考えていた私に、
「じゃ、僕がやるよ。水を入れればいいんだね」
と言って、乾燥した砂地に染み込んでしまわないよう私がコーティングした後、ちゃっちゃとあの穴の上だけ滝のような大雨を降らせて一瞬で池を作ってしまった。そこへ、私が濃縮して作ったリザード用の毒藥を《生産の陣》を使って流し込んだというわけだ。
「確かになかなかのイリュージョンではあったかな……」
博士の研究棟のリビングに置かれた赤い光を放つ《火の魔石》と白と黄色の混じる光を放つ《雷の魔石》を見ながら、苦笑した。そして、一緒にもらった金属のような光沢の骨を《鑑定》してみると、それはただ〝橋〟と表示された。
(なんだそれ? 金属のように見えるこの小さい骨が〝橋〟?)
博士に聞いてみても、やはりご存知ないようだ。博士もキングリザードから取れるこの小さな金属片のような骨を見るのは初めてらしい。
「魔物から取れるこうした貴重な魔石には目がいくが、こんな小さな骨に注目するものはあまりおらんからな。使い道も装飾品ぐらいにしかならんし、大きな骨の方がずっと価値も高いしの」
きっとニパたちも、綺麗で珍しそうだったので一緒にしておいてくれたのだろう。
だが私にはちょっと引っかかることがある。
キングリザードの〝王の審判〟では、完全に混合された強力な炎と雷が放たれていた。仮説だが、ふたつの魔石を完全に混合して出力することが可能ならその威力は増幅される、という可能性はある。だが、あれだけ正確に性質のまったく異なるふたつの力を完全に混合することは、魔法使いでもかなりの技術がなければできないことだ。
(何か秘密がある気がする。それにこの〝橋〟も気になるよね)
私は新たに得た研究の題材、銀色に輝く小さな骨を手に取った。
そこにあったのは、野球のボールより一回り大きいふたつの魔石と一個の小さな銀色の骨だった。
「これはキングリザードから出てまいりました《雷の魔石》と《火の魔石》でございます。この銀の骨はその間にございまして、これひとつだけ変わった色をしておりましたのでお持ちいたしました」
「とても大きなものですね。これこそお売りになれば大変高価なものではないのでしょうか? それをいただくわけにはまいりません」
私の言葉に長老は首を振った。
「いえ、これだけはメイロードさまにお受け取りいただきたいのでございます。この我々にとって禍々しい魔石は、手元に置くことも、はたまたこれを売った対価を得ることも不名誉、嬉しいものではないのでございます。これは穢れなき聖女様の元で浄化し役立てていただくことが一番良いのでございますよ」
確かに、彼らの仲間を直接殺す原因となった〝王の審判〟は、この魔石から放たれたものだ。それが彼らにとって忌むべきものなのは理解できる。でも、私が聖女様扱いになっているのはいただけない。
「私はただの魔法学校の学生です。聖女などではありませんし、ニパを助けることになったのも偶然。すべては成り行きなのですから、あまり大げさなことを言わないでください。それより、私の名をよそで決して出さないでくれる方が、ずっと私にはありがたいのです」
ニパが苦笑しながら長老に言う。
「だから言ったじゃないですか。メイロードさまは目立たず静かに人々を見守られたいのです。社を立てて祭ったり、像を立てたりすることは望まれていないんですから!」
(え、ニパ、そんな計画があったの?! まったくこの世界の人たちは、すぐそういうことを……)
どうやら、私の行いのせいで完全に〝聖女認定〟されてしまっているようで、色々な計画が進んでいたらしい。私は、それを全力で拒否する代わりとして、魔石についてはもらうことを了承した。ただ、決して私の名前は出さないので、私が《無限回廊の扉》を設置したあの空き家は、今回の出来事を語り継ぐためのよすがとしてそのままにしてほしいと言われ、仕方なくそれだけは了承した。
「決して私の名を伝えないでくださいね」
ニパと私の粘り強い説得で、そのことには皆さん同意してくれたが、おそらく適当な名前をつけてあの小屋は拝まれてしまうことになるのだろう。もうそれについては諦めるしかなさそうだ。
(まぁ、なんだかわからなかっただろうけど《生産の陣》まで見せちゃってるしなぁ……やりすぎたか)
一夜にして大きな毒の池を作り出し、それを一瞬で浄化して見せてしまったら、それは、確かに少なくとも奇跡に近い魔法ではある。そもそも池作りにはセイリュウの力を借りているので、神力を使ったとも言えなくもないのだ。セイリュウは水に関わる魔法はお手の物なので、あの大穴に水を短時間で貯める方法を考えていた私に、
「じゃ、僕がやるよ。水を入れればいいんだね」
と言って、乾燥した砂地に染み込んでしまわないよう私がコーティングした後、ちゃっちゃとあの穴の上だけ滝のような大雨を降らせて一瞬で池を作ってしまった。そこへ、私が濃縮して作ったリザード用の毒藥を《生産の陣》を使って流し込んだというわけだ。
「確かになかなかのイリュージョンではあったかな……」
博士の研究棟のリビングに置かれた赤い光を放つ《火の魔石》と白と黄色の混じる光を放つ《雷の魔石》を見ながら、苦笑した。そして、一緒にもらった金属のような光沢の骨を《鑑定》してみると、それはただ〝橋〟と表示された。
(なんだそれ? 金属のように見えるこの小さい骨が〝橋〟?)
博士に聞いてみても、やはりご存知ないようだ。博士もキングリザードから取れるこの小さな金属片のような骨を見るのは初めてらしい。
「魔物から取れるこうした貴重な魔石には目がいくが、こんな小さな骨に注目するものはあまりおらんからな。使い道も装飾品ぐらいにしかならんし、大きな骨の方がずっと価値も高いしの」
きっとニパたちも、綺麗で珍しそうだったので一緒にしておいてくれたのだろう。
だが私にはちょっと引っかかることがある。
キングリザードの〝王の審判〟では、完全に混合された強力な炎と雷が放たれていた。仮説だが、ふたつの魔石を完全に混合して出力することが可能ならその威力は増幅される、という可能性はある。だが、あれだけ正確に性質のまったく異なるふたつの力を完全に混合することは、魔法使いでもかなりの技術がなければできないことだ。
(何か秘密がある気がする。それにこの〝橋〟も気になるよね)
私は新たに得た研究の題材、銀色に輝く小さな骨を手に取った。
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