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3 魔法学校の聖人候補
524 特別なお菓子
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私が最初に目指したのは、ロームバルトの王室周辺にいる人たちが自らの意思で直接ベラミ妃様に頼まなければ手に入らないもの、しかも彼らが心から欲するものを早急に作ることだった。こういった関係性が生まれることで、ベラミ妃様の機嫌を損ねたくないという気持ちが生まれ、今までより気を使った対応をしてくれるであろうという目論見だ。
案の定〝アンクルーデの石畳〟にすっかり魅了された貴族の皆さんは、もうすでに今の段階で物欲しげな表情を浮かべベラミ妃様の方をチラチラ見るようになっている。そこにダメ押し。
「こちらの〝アンクルーデの石畳〟は大変手間のかかるものでございますので、大量にはお作りできませんし、パレスの店でも販売しない予定です。これはロームバルトの、しかも極少数の皆様方だけがお召し上がりになれるものとなるでしょう」
「なんと! この素晴らしい風味の菓子は私たちのためだけに作られたのか! シドの者は食べることもできぬとは……気の毒なことだのぉ」
(いや、シド帝国の人は多分甘すぎて食べられません)
私の心の中でのツッコミも知らず、王妃様の口角は嬉しさとプライドが満たされた喜びを隠しきれず上がりまくりだ。だが、その特別が手に入るかどうかは、ベラミ妃様のお心次第なのだ。
ベラミ妃様は、優しく微笑まれたまま言葉を発することなく、ゆったりとお茶を口にされている。それでいいのだ。お妃様にとっては〝大したことではない〟こと、だが〝アンクルーデの石畳〟の窓口は彼女おひとり……というこの状況さえ作れれば、あとはなにもする必要はない。
ここでもうひとつ、別のアプローチもしておくことにした。アンクルーデ名物〝飴の木〟から採れる樹液の蜜をたっぷり使ったお菓子を机に広げると、今度は何かと、みなさん一斉に注目してくれる。もちろん皆さん初めて見るお菓子だろう。今回の謁見で披露する菓子を作るに当たって、まず私は甘さへの耐性がとにかく強いアンクルーデに住む方たちを満足させる甘味とはなんだろうと色々と考えてみた。
最初に思いついた私の知識にある最も甘いお菓子は、インドのシロップ漬けされたお団子のような丸い揚げ菓子〝 グラブジャムン〟だ。これは、まぁとんでもなく甘い。本当に歯が浮くような甘さなのだ。知らずに一口で食べたりしたら、あまりの甘さにパニックに陥りそうな破壊力だった。これはきっとアンクルーデの方々は気にいるだろうと考えたのだが、ちょっと華やかさにかけたのと、もうひと工夫が思いつかなかったため今回は見送ることにした。
次に目をつけたのは〝バクラヴァ〟だった。トルコやギリシャ、地中海の国々で多く食べられているこの菓子は、シロップ漬けのパイ菓子といったものだ。なかなかにパンチの効いた甘さなのだが、バターの香りとナッツの食感が楽しくとても美味しい。ナッツには本来くるみやピスタチオを使うのだが、この世界で見つけた同じような風味のナッツを使うことで、とても良い食感に仕上げることができた。
次は何が出てくるのかと、前のめりでテーブルに注目する皆様の前には〝飴の木〟を煮詰めて作った激甘シロップに漬け込んだ〝バクラヴァ〟が静々と運び込まれ鎮座している。上に散らしたのは色味のいい数種のナッツ、それに金箔をアクセントに飾った。断面にもナッツが見え隠れし、たっぷり蜜を吸った生地が艶々として、なかなか魅惑的なビジュアルだ。
「ベラミ妃様にもこちらを召し上がっていただきたいところですが、ご懐妊中は甘いものを食べ過ぎるのは良くございません。そこで、こちらの甘さを控えたものを用意させていただきました」
私はそう言ってベラミ妃様の御前に特別な〝バクラヴァ〟をお出しした。
見た目はほぼ同じものだ。もちろん甘さやカロリーについて調整したものなのだが、実は《異世界召喚の陣》を使って取り寄せた和三盆をたっぷりと使っている。
「こちらはある程度常温保存もできますが、できればマジックバッグをお使いいただき、お疲れの時少しずつお召し上がりいただくのがよろしいかと思います」
私の言葉に優しくうなずかれたベラミ妃様は、ゆっくりと特製〝バクラヴァ〟を口に運ばれた。そして一瞬目を大きく開かれた後、頬を紅潮させてこう言われた。
「美味しい……美味しいわメイロード」
どうやら、一口でもそれなりに異世界食品効果が出ているようだ。これを少しづつ食べて過ごしていただければ、きっと気力も戻り、いつものように才気あふれる強い心のベラミ様に戻られるに違いない。
「このレシピは、シド帝国の菓子店でもまだ発売していないものですが、ベラミ姫様に贈らせていただきます。菓子名も〝麗しの王太子妃に捧げるバクラヴァ〟とさせていただきたいと思います」
私の言葉に、お菓子に夢中だったロームバルトの方々が、自分たちにもこの菓子のレシピを教えてもらえるのではないか、と活気づく。望むところだ。この〝教えて差し上げる〟というカードをどう使っていくか、それもまたベラミ妃様次第。
(うまく使ってくださいね、ベラミ妃様、マリリア様)
私が最初に目指したのは、ロームバルトの王室周辺にいる人たちが自らの意思で直接ベラミ妃様に頼まなければ手に入らないもの、しかも彼らが心から欲するものを早急に作ることだった。こういった関係性が生まれることで、ベラミ妃様の機嫌を損ねたくないという気持ちが生まれ、今までより気を使った対応をしてくれるであろうという目論見だ。
案の定〝アンクルーデの石畳〟にすっかり魅了された貴族の皆さんは、もうすでに今の段階で物欲しげな表情を浮かべベラミ妃様の方をチラチラ見るようになっている。そこにダメ押し。
「こちらの〝アンクルーデの石畳〟は大変手間のかかるものでございますので、大量にはお作りできませんし、パレスの店でも販売しない予定です。これはロームバルトの、しかも極少数の皆様方だけがお召し上がりになれるものとなるでしょう」
「なんと! この素晴らしい風味の菓子は私たちのためだけに作られたのか! シドの者は食べることもできぬとは……気の毒なことだのぉ」
(いや、シド帝国の人は多分甘すぎて食べられません)
私の心の中でのツッコミも知らず、王妃様の口角は嬉しさとプライドが満たされた喜びを隠しきれず上がりまくりだ。だが、その特別が手に入るかどうかは、ベラミ妃様のお心次第なのだ。
ベラミ妃様は、優しく微笑まれたまま言葉を発することなく、ゆったりとお茶を口にされている。それでいいのだ。お妃様にとっては〝大したことではない〟こと、だが〝アンクルーデの石畳〟の窓口は彼女おひとり……というこの状況さえ作れれば、あとはなにもする必要はない。
ここでもうひとつ、別のアプローチもしておくことにした。アンクルーデ名物〝飴の木〟から採れる樹液の蜜をたっぷり使ったお菓子を机に広げると、今度は何かと、みなさん一斉に注目してくれる。もちろん皆さん初めて見るお菓子だろう。今回の謁見で披露する菓子を作るに当たって、まず私は甘さへの耐性がとにかく強いアンクルーデに住む方たちを満足させる甘味とはなんだろうと色々と考えてみた。
最初に思いついた私の知識にある最も甘いお菓子は、インドのシロップ漬けされたお団子のような丸い揚げ菓子〝 グラブジャムン〟だ。これは、まぁとんでもなく甘い。本当に歯が浮くような甘さなのだ。知らずに一口で食べたりしたら、あまりの甘さにパニックに陥りそうな破壊力だった。これはきっとアンクルーデの方々は気にいるだろうと考えたのだが、ちょっと華やかさにかけたのと、もうひと工夫が思いつかなかったため今回は見送ることにした。
次に目をつけたのは〝バクラヴァ〟だった。トルコやギリシャ、地中海の国々で多く食べられているこの菓子は、シロップ漬けのパイ菓子といったものだ。なかなかにパンチの効いた甘さなのだが、バターの香りとナッツの食感が楽しくとても美味しい。ナッツには本来くるみやピスタチオを使うのだが、この世界で見つけた同じような風味のナッツを使うことで、とても良い食感に仕上げることができた。
次は何が出てくるのかと、前のめりでテーブルに注目する皆様の前には〝飴の木〟を煮詰めて作った激甘シロップに漬け込んだ〝バクラヴァ〟が静々と運び込まれ鎮座している。上に散らしたのは色味のいい数種のナッツ、それに金箔をアクセントに飾った。断面にもナッツが見え隠れし、たっぷり蜜を吸った生地が艶々として、なかなか魅惑的なビジュアルだ。
「ベラミ妃様にもこちらを召し上がっていただきたいところですが、ご懐妊中は甘いものを食べ過ぎるのは良くございません。そこで、こちらの甘さを控えたものを用意させていただきました」
私はそう言ってベラミ妃様の御前に特別な〝バクラヴァ〟をお出しした。
見た目はほぼ同じものだ。もちろん甘さやカロリーについて調整したものなのだが、実は《異世界召喚の陣》を使って取り寄せた和三盆をたっぷりと使っている。
「こちらはある程度常温保存もできますが、できればマジックバッグをお使いいただき、お疲れの時少しずつお召し上がりいただくのがよろしいかと思います」
私の言葉に優しくうなずかれたベラミ妃様は、ゆっくりと特製〝バクラヴァ〟を口に運ばれた。そして一瞬目を大きく開かれた後、頬を紅潮させてこう言われた。
「美味しい……美味しいわメイロード」
どうやら、一口でもそれなりに異世界食品効果が出ているようだ。これを少しづつ食べて過ごしていただければ、きっと気力も戻り、いつものように才気あふれる強い心のベラミ様に戻られるに違いない。
「このレシピは、シド帝国の菓子店でもまだ発売していないものですが、ベラミ姫様に贈らせていただきます。菓子名も〝麗しの王太子妃に捧げるバクラヴァ〟とさせていただきたいと思います」
私の言葉に、お菓子に夢中だったロームバルトの方々が、自分たちにもこの菓子のレシピを教えてもらえるのではないか、と活気づく。望むところだ。この〝教えて差し上げる〟というカードをどう使っていくか、それもまたベラミ妃様次第。
(うまく使ってくださいね、ベラミ妃様、マリリア様)
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