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3 魔法学校の聖人候補
551 一獲千金の魔物
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551
翌日も朝から魔術師ギルドへ向かう。トルルは昨日のことがあったので、とても警戒しながら歩いている。
「警戒は重要だけど、あまり神経を張り詰めてばかりでも疲れちゃうよ」
私の言葉にうなづきながらも、やはり昨日の連中のことが頭から離れないらしい。背格好としては、確かに私とトルルは姉に守られている妹にしか見えないし、トルルも魔法があるとはいっても肉体的には非力な私を自分が守らなくちゃ、という使命感があるらしい。
(弟妹にも優しい、いいお姉ちゃんだもんね、トルルは)
たくさんのギルドが同じエリアにあるからなのか、改めてみると冒険者の方たちも随分たくさん歩いていて、そこかしこでなにやら話をしている。しかも、昨日よりさらに人が多い印象だ。
どうも騒がしいので、何か大きな事件でも起きたのかと気になり、私は彼らの声に耳をそばだてた。ただ立っているのも怪しいかなと思い、露天で〝薬草茶〟というミントのような香りのするすっきりした味わいのお茶を買い、周囲に溶け込みながら話を聞いてみる。
「行くなら絶対10階層だよ! ヒールロックが出たんだぜ! 奴を倒してその核にある石を手に入れられたら、それを使って上級ポーションの材料が10個分は作れるっていうじゃないか! 最低でもハイポーション、もし質のいいやつが取れたらハイパーポーション10本分だぜ。一攫千金じゃねーか!」
どうやら、この町の近くにできたダンジョンで、かなり珍しいお宝が見つかったようだ。
「いまは癒し系の薬の材料が取れるダンジョンが減って、以前よりずっと高額で取引されるようになってるからなぁ。ここは無理してでもヒールロックを狙いたいもんだねぇ」
「そうはいうがよ。相手は人の躰よりデカくてしかもガッチガチに固いんだぜ。すごい勢いで突進してくるって話だし、俺たちには無理じゃないか?」
「魔法使いのいるパーティーならなんとかなるんだろうけどな……」
「腕のいい魔術師がこんな簡単なダンジョンに入ってくれるもんか!」
「だが、ひとつでもやっつけられたらひと儲けできるんだぜ!」
私たちはお茶を飲み終わると屋台にコップを戻して、何事もなかったかのようにその場を離れギルドへと向かった。
(もし私たちが魔法使いだと知れたら、パーティーに入ってくれという勧誘をしてくる人に捕まるかも知れないし、ここは黙って移動しようっと)
魔術師ギルドについた私たちは、昨日のように掲示板で現在依頼が出ている主な仕事を見てみることにした。
「ああ、さっきの噂話はやっぱり本当みたいだね。急にダンジョン攻略パーティー募集が増えてる」
一番お金になりそうなヒールロックという獲物を仕留めたい。だが魔法使いがいるといないとではかかる時間が雲泥の差になる、ということのようだ。それに、ヒールロックが仕留められるならば、魔術師を雇っても十分に元が取れるということなのだろう。
依頼書を読むと、どうやら求められているのは風系の雷属性の魔法が使える魔法使いらしい。
「ってことは、それがヒールロックの弱点ってことだよね……」
風系の適性があるトルルは、二年生になってから風系の上位魔法である雷の魔法に取り組んでいると言っていた。
「《雷》は、できるようになったんだけど、上位魔法は魔法力も多くいるし、そうたくさんは打てないなぁ。どのぐらい打てば倒せるんだろう?」
狩り大好き、そして高額報酬のもらえるお仕事大好きのトルルは、この仕事を受けられないものかと考えているようだ。
確かに報酬はかなり魅力的。成果報酬がボーナスとして計上されている案件も多い。
「ねえ、メイロードは薬のことも詳しいんだよね。どれぐらいするのかなぁ、この“ヒールロックの核”って」
目をキラキラさせながら、トルルが私に聞いてくる。
「……そうだねぇ。ハイポーションが作れるなら、素材がなかなか揃わなくなっているらしいし、最低でも4000-5000ポルで買い取ってもらえるんじゃないかな? もし、ハイパーポーションが作れるほど質がいいものが手に入ったら、その10倍以上じゃない?」
「50000……5万ポルって大金貨5枚、ひぃ!」
(まぁ、そういう反応になるよね)
ヒールロック一匹狩って五千万円分の大金貨がもらえる。誰しもが夢見てしまう一獲千金の獲物だ。だが、噂話を聞くだけでもとんでもない化け物だ。巨大な石の塊相手に戦うなんて、軽く踏まれただけで、確実に命を持っていかれるし、敵の防御力は凄まじいと想像できる。
「私たちが狩れるような相手じゃないと思うよ」
私の言葉にトルルはそうだよね、と笑ってこの話はおしまいになった。結局、この日はヒールロック騒ぎで、魔術師ギルドの担当者も忙しくしていて相談もできなかったため、しかたなく休養日に充てることにした。
「そうだ! 門であったオルダンさんのお店に行ってみようよ」
お金に余裕もできたので、学校のみんなへのお土産を買いたいとトルルが言うので、私たちはオルダンさんのお店があるという通りへと向かったのだった。
翌日も朝から魔術師ギルドへ向かう。トルルは昨日のことがあったので、とても警戒しながら歩いている。
「警戒は重要だけど、あまり神経を張り詰めてばかりでも疲れちゃうよ」
私の言葉にうなづきながらも、やはり昨日の連中のことが頭から離れないらしい。背格好としては、確かに私とトルルは姉に守られている妹にしか見えないし、トルルも魔法があるとはいっても肉体的には非力な私を自分が守らなくちゃ、という使命感があるらしい。
(弟妹にも優しい、いいお姉ちゃんだもんね、トルルは)
たくさんのギルドが同じエリアにあるからなのか、改めてみると冒険者の方たちも随分たくさん歩いていて、そこかしこでなにやら話をしている。しかも、昨日よりさらに人が多い印象だ。
どうも騒がしいので、何か大きな事件でも起きたのかと気になり、私は彼らの声に耳をそばだてた。ただ立っているのも怪しいかなと思い、露天で〝薬草茶〟というミントのような香りのするすっきりした味わいのお茶を買い、周囲に溶け込みながら話を聞いてみる。
「行くなら絶対10階層だよ! ヒールロックが出たんだぜ! 奴を倒してその核にある石を手に入れられたら、それを使って上級ポーションの材料が10個分は作れるっていうじゃないか! 最低でもハイポーション、もし質のいいやつが取れたらハイパーポーション10本分だぜ。一攫千金じゃねーか!」
どうやら、この町の近くにできたダンジョンで、かなり珍しいお宝が見つかったようだ。
「いまは癒し系の薬の材料が取れるダンジョンが減って、以前よりずっと高額で取引されるようになってるからなぁ。ここは無理してでもヒールロックを狙いたいもんだねぇ」
「そうはいうがよ。相手は人の躰よりデカくてしかもガッチガチに固いんだぜ。すごい勢いで突進してくるって話だし、俺たちには無理じゃないか?」
「魔法使いのいるパーティーならなんとかなるんだろうけどな……」
「腕のいい魔術師がこんな簡単なダンジョンに入ってくれるもんか!」
「だが、ひとつでもやっつけられたらひと儲けできるんだぜ!」
私たちはお茶を飲み終わると屋台にコップを戻して、何事もなかったかのようにその場を離れギルドへと向かった。
(もし私たちが魔法使いだと知れたら、パーティーに入ってくれという勧誘をしてくる人に捕まるかも知れないし、ここは黙って移動しようっと)
魔術師ギルドについた私たちは、昨日のように掲示板で現在依頼が出ている主な仕事を見てみることにした。
「ああ、さっきの噂話はやっぱり本当みたいだね。急にダンジョン攻略パーティー募集が増えてる」
一番お金になりそうなヒールロックという獲物を仕留めたい。だが魔法使いがいるといないとではかかる時間が雲泥の差になる、ということのようだ。それに、ヒールロックが仕留められるならば、魔術師を雇っても十分に元が取れるということなのだろう。
依頼書を読むと、どうやら求められているのは風系の雷属性の魔法が使える魔法使いらしい。
「ってことは、それがヒールロックの弱点ってことだよね……」
風系の適性があるトルルは、二年生になってから風系の上位魔法である雷の魔法に取り組んでいると言っていた。
「《雷》は、できるようになったんだけど、上位魔法は魔法力も多くいるし、そうたくさんは打てないなぁ。どのぐらい打てば倒せるんだろう?」
狩り大好き、そして高額報酬のもらえるお仕事大好きのトルルは、この仕事を受けられないものかと考えているようだ。
確かに報酬はかなり魅力的。成果報酬がボーナスとして計上されている案件も多い。
「ねえ、メイロードは薬のことも詳しいんだよね。どれぐらいするのかなぁ、この“ヒールロックの核”って」
目をキラキラさせながら、トルルが私に聞いてくる。
「……そうだねぇ。ハイポーションが作れるなら、素材がなかなか揃わなくなっているらしいし、最低でも4000-5000ポルで買い取ってもらえるんじゃないかな? もし、ハイパーポーションが作れるほど質がいいものが手に入ったら、その10倍以上じゃない?」
「50000……5万ポルって大金貨5枚、ひぃ!」
(まぁ、そういう反応になるよね)
ヒールロック一匹狩って五千万円分の大金貨がもらえる。誰しもが夢見てしまう一獲千金の獲物だ。だが、噂話を聞くだけでもとんでもない化け物だ。巨大な石の塊相手に戦うなんて、軽く踏まれただけで、確実に命を持っていかれるし、敵の防御力は凄まじいと想像できる。
「私たちが狩れるような相手じゃないと思うよ」
私の言葉にトルルはそうだよね、と笑ってこの話はおしまいになった。結局、この日はヒールロック騒ぎで、魔術師ギルドの担当者も忙しくしていて相談もできなかったため、しかたなく休養日に充てることにした。
「そうだ! 門であったオルダンさんのお店に行ってみようよ」
お金に余裕もできたので、学校のみんなへのお土産を買いたいとトルルが言うので、私たちはオルダンさんのお店があるという通りへと向かったのだった。
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