利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

571 魔術師体験の終わりに

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571

「実は〝素材屋〟という仕事は、とても新しい仕事なのですよ。そして、この画期的な仕事の方法を考えられたのはサガン・サイデムさまの所属されていた伝説のクラン〝鋼の銀狐〟だったのです」

スフィロさんの話によると、この〝鋼の銀狐〟は剣技と魔法双方に卓越した〝双術の貴公子〟アーサー・マリス、圧倒的な攻撃力を誇る戦闘民族ゴルム族最強戦士〝戦姫〟レシータ・ゴルム、それに現イス警備隊隊長〝最強冒険者〟モリック・パサードといった、伝説級の凄腕冒険者だらけの超有名な冒険者グループだったのだそうだ。

最初こそ無名の小さなパーティーだったが、彼らは瞬く間にいくつもの難攻不落と言われていた未踏派の難関ダンジョンの攻略に成功する。

彼らは一気に有名になり、それからも超一流の冒険者パーティーとして活躍すると思われていたが、その行動は違っていた。彼らはイスで早々にクランを立ち上げ、人を集め始めた。しかも、危険なダンジョンへ行くことができない事情を持った優秀な人材に絞って人を集めていったのだ。子育て中の魔法使いや病気の両親を心配する剣士など、冒険者パーティーの嫌がる、危険な場所や遠方のダンジョンを転々とはできない人たちを優先的に仲間にしていったのだ。

そうして集めた仲間に、彼らは自分たちが命がけのダンジョン踏破で得た詳細な内部情報を彼らに提供し、いくつものパーティーを作った。こうして短期間により安全に大量の素材を集める〝素材屋〟を誕生させたのだという。

「ええ! 〝素材屋〟っておじさまが始めたんですか?!」
驚く私にスフィロさんは少し誇らしげにこう言った。
「ええ、そうですよ。効率的で危険が少なく、より収益性の高いダンジョン探索、いかにもサイデムさまらしいお考えですよね」

それからの彼らの活躍もまた伝説となった。

厳しいダンジョンを次々と踏破していくレシータさんたちの冒険者パーティーと、そこで得られた地図情報を元に効率的に素材を採取する〝採取屋〟パーティーを両輪に、〝鋼の銀狐〟はとんでもない収益をあげたと言われている。

(まぁ、競争相手もいない状況ならひとり勝ちだよね。おじさまの高笑いが聞こえるわぁ)

〝鋼の銀狐〟は、サイデムおじさまが商売に本格的に乗り出すことを決めたところで解散した。クラン設立時からそのつもりだと、仲間には伝えられていたそうで、アーサー・マリスやサガン・サイデムを始めとする中心メンバーは、その後のみんなの身の振り方についてもよく考えてくれたという。

彼らが蓄積した膨大な数のダンジョン地図に関する権利はレシータさんに引き継がれ、冒険者ギルドの仕事としてギルドの機能を強化のための大きな資金源となった。クランのメンバーはそれぞれ別の仕事を始め、スフィロさんの所属する〝剣士の荷馬車〟の初期メンバーは〝鋼の銀狐〟に所属していた人たちで、その仕事の仕方を受け継いだ〝採取屋〟専門集団なのだという。

「この仕事ができたことで、いままで力があっても実入りのいいパーティーに加われなかった人たちに新しい仕事ができました。私たち〝採取屋〟にとってサイデム様は神にも等しいお方です。そのお方が後見人をなさっているメイロードさまも素晴らしい方でした。あの〝ヒールロック〟攻略法も、私たちのためをお考えてくださった方法なのですよね」

確かに私が自分の魔法力にものを言わせて強い魔法を使えば、もっと簡単に〝ヒールロック〟を倒すことはできただろう。でも、その姿をトルルにも〝剣士の荷馬車〟の方々にも見せたくはなかったし、第一それでは次へ繋がらないとも思った。

「なるべく使える人が多い魔法を組み合わせて、冒険者の方と協力して倒せれば、次の方が攻略するときの助けになるだろうと思ったことは確かです。討伐した実例があれば、次の攻略は多少楽になるでしょうからね」

「ありがとうございます。あの戦闘経験は〝採取屋〟にとっては何よりも貴重な情報になりました」

スフィロさんはとても丁寧に私に頭を下げた。

「メイロードさまとともに働けたことを光栄に思います。重篤な病気の女性を何の見返りもなくお助けになり、その夫君を助けるために危険なダンジョンにまで入られる。なかなかできることではございません。メイロードさまの〝辺境の聖女〟の通り名にも納得いたしました」

「いやいや、たまたまなんですよ。本当にたまたまだけで、そんな大したことでは……」

どうやらスフィロさんは私とオルダンさん一家の関係についてもリサーチ済みのようで、私が何やら不思議な薬で命が危なかった女性を救ったということも知っていた。

(オルダンさんには、私の名前は絶対出さないよう釘を刺してきたけど、スフィロさんにはわかっちゃうよね……)

「イスにお戻りになりましたら、ぜひ私どものクランにもお立ち寄りくださいませ。メイロードさまのご依頼ならば、必ず必要な素材を調達させていただきますよ。どうぞご贔屓に」

「ありがとうございます。いまはイスを離れていますが、戻りましたらご挨拶させていただきますね。私も商人の端くれですから、きっとご縁があるでしょう」

私たちは笑顔で乾杯した。

トルルはダンジョンでの冒険について話せる人たちに囲まれて、楽しそうしている。やっと思い切りおしゃべりすることができて、本当に嬉しそうだ。

(一応、他の人にはあまり聞こえないよう《消音の結界》を張っておこっと)

私はこっそり魔法を使う。もちろん、〝剣士の荷馬車〟のみなさんは重要な情報を大声で話すようなヘマはしないだろうが、トルルにそれができるかどうかはあやしい。

(保険はかけておかないとね)

これで、値千金の貴重なダンジョンの情報が他のテーブルの人に伝わるようなことはないだろう。

もう明日には〝天舟アマフネ〟がやってくる。

魔術師生活はひとまず終了。

(さて、学生生活に戻りましょうかね)
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