利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
497 / 840
4 聖人候補の領地経営

686 皇子登場

しおりを挟む
686

次から次へと運ばれてくるお料理に、壇上の私たちは、あれが美味しい、これが絶品、と勧めあいながら、楽しいひとときを過ごしていた。そんなとき、にわかに会場がざわつき始めた。

するとすぐさま壇上近くへ召使いが駆けてきて、おじさまに耳打ちする。

「エーデン殿下、ユリシル殿下がご到着になったとのことでございます」

その言葉におじさまは少しむずかしい顔をしながらも、すぐ知らせにきた召使いに指示を出した。

「やっぱり来たか……第四皇子まで来るとは予想外だったが……まぁいい。丁重にご案内申し上げるように、頼むぞ」
「はっ」

そして私に向き直ったおじさまは、真面目な表情でこう言った。

「メイロード、よく聞きなさい。本日はご公務の関係で来場できない正妃リアーナ様の名代として、第四、第五皇子が、お前に挨拶するためにお越しくださった。いま、おふたりの席をご用意するので、お礼を申し上げ、しっかりもてなすように」

「は、はい、わかりました」

私はまだお皿とフォークを持ったままだったが、神妙に答えるとおじさまがこそっと耳打ちしてきた。

(だが、やりすぎるなよ……面倒がイヤならな)

私はおじさまの耳打ちの理由がどういうことなのか、いまひとつわからぬまま、ともかく身嗜みを整えおふたりの到着を待った。先ほどまで突然の皇子様登場のお触れに、びっくりしながら顔を赤らめ夢心地になっていたアリーシアは、思い立ったように身支度を見直すため化粧室へ大急ぎで向かってしまっている。

よくみれば、先触れが会場全体にも伝わったのだろう、若い女性たちが一斉に髪を直したり、アリーシアのように化粧室へ向かっていた。

(皇子様たち、人気なのね。まぁ、当たり前か)

シド帝国の皇家の権力はとてつもなく大きい。娘が皇子に嫁げば、それだけで一族郎党の出世も富も約束されたも同然だし、もちろん嫁いだ女性にも贅沢で煌びやかな宮廷生活が待っている。私からすれば、窮屈極まりない生活にしか思えないが、生まれたときからそれを夢見ながら育ってきている貴族のお嬢様方にとっては、それこそが最高の嫁入り先なのだろう。

私はひそひそ声で、お隣に座るルミナーレ様に聞いてみた。

「あの、おふたりの皇子様にお目通りするのは初めてなのですが……おふたりはどんな方なのでしょう?」

「あら、メイロードでもやはり皇子様のことは気になるのね」

ざわつく会場の様子にも動じず、泰然自若としていたルミナーレ様は少し愉快そうな笑顔で微笑みながら、おふたりについて教えてくれた。

「第四皇子のエーデン様は十七歳、いまは騎士になるため学校へ通われているわ。第五皇子のユリシル様は十五歳、今年から魔法学校へ入学されたわね。エーデン様は側室パーリャ様の、ユリシル様はリアーナ様のお子様なの。でも、皇子の序列は生まれた順なので、継承権はエーデン様の方が上、ということのなるわね」

どうやらユリシル皇子は私と入れ違いに魔法学校へ入学したようだ。

「それにしても、どうしておふたりもいらしたのでしょうか?」

私の質問に、ルミナーレ様は目を大きく開けて驚かれた。

「まぁまぁ、そう……メイロードはまだ貴族になって間がないのですから、わからないのも仕方がないのかしら……おふたりはね……」

と、そこまでお話を聞いたところで、皇子様方の登壇の御触れがあった。

「エーデン・シド殿下、並びにユリシル・シド殿下。正妃リアーナ様の名代として、メイロード・マリス伯爵の領主就任を祝うためご来場されました」

その声とともに、音楽は公式行事でよく使われる荘厳なものに変わり、満場の拍手が沸き起こった。

その中を手を振りながらふたりの皇子が壇上へと登ってきた。背の高い方がおそらくエーデン皇子。金色の長い髪をゆるく結んだ姿は、どちらかと言えば細身で、騎士のイメージからは遠い雰囲気だ。やさしそうな雰囲気で、とてもハンサム。
その後ろから上がってきたのが、おそらくユリシル皇子。短めに整えられた金髪のお顔は、たしかにリアーナ様に似ておられて少し鋭い目をされている。こちらもかなりの美形だ。こうした壇上で手を振ったりすることに、少しまだ抵抗がある感じが初々しい。

おじさまがおふたりの前に跪くと、エーデン皇子はすぐに〝許し〟を与えた。この一言がないと、格下のものは一切皇子に話しかけることは許されないのだ。

「お許しを賜り恐悦至極にございます。私は本日この宴を主催させていただいておりますサガン・サイデムにございます。尊き御身にこの祝宴へとお運びいただけましたこと、どんなに言葉を尽くしても足りぬ行幸にございます」

「あなたのことは陛下からよく伺っております。サイデム男爵。今宵はリアーナ様の名代なれど、私もパレス随一と謳われるサイデム邸の宴には興味があったのです。存分に楽しませていただきますよ」

エーデン皇子は、あまりかしこまりすぎなくとも良いという言葉をかけ、彼らを見上げる人たちの緊張を解いた。十七歳というお年からすれば、とても堂々として世馴れた振る舞いだ。

そして、おじさまが私を手招きした。私は静々とふたりの皇子の前でひざまずくと口上を述べた。

「敬愛するリアーナ妃殿下にご降臨頂けなかったことは誠に残念ではございますが、正妃様のご名代にて両殿下にご臨席を賜り、心より感謝申し上げます。本日は、私メイロード・マリスの私的な祝宴に足をお運びいただけましたこと、リアーナ妃殿下のお心配りにただただ恐縮いたしております。なんのおもてなしもできませんが、せめてイス自慢の音楽や料理をお楽しみいただければ幸いにございます」

なんとかお礼言上を終えてひざまずいた私が顔を上げると、そこでいきなり

「あーー!!」

っという場違いに大きな声が会場に響わたった。

(え? なに?)
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。