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4 聖人候補の領地経営
686 皇子登場
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686
次から次へと運ばれてくるお料理に、壇上の私たちは、あれが美味しい、これが絶品、と勧めあいながら、楽しいひとときを過ごしていた。そんなとき、にわかに会場がざわつき始めた。
するとすぐさま壇上近くへ召使いが駆けてきて、おじさまに耳打ちする。
「エーデン殿下、ユリシル殿下がご到着になったとのことでございます」
その言葉におじさまは少しむずかしい顔をしながらも、すぐ知らせにきた召使いに指示を出した。
「やっぱり来たか……第四皇子まで来るとは予想外だったが……まぁいい。丁重にご案内申し上げるように、頼むぞ」
「はっ」
そして私に向き直ったおじさまは、真面目な表情でこう言った。
「メイロード、よく聞きなさい。本日はご公務の関係で来場できない正妃リアーナ様の名代として、第四、第五皇子が、お前に挨拶するためにお越しくださった。いま、おふたりの席をご用意するので、お礼を申し上げ、しっかりもてなすように」
「は、はい、わかりました」
私はまだお皿とフォークを持ったままだったが、神妙に答えるとおじさまがこそっと耳打ちしてきた。
(だが、やりすぎるなよ……面倒がイヤならな)
私はおじさまの耳打ちの理由がどういうことなのか、いまひとつわからぬまま、ともかく身嗜みを整えおふたりの到着を待った。先ほどまで突然の皇子様登場のお触れに、びっくりしながら顔を赤らめ夢心地になっていたアリーシアは、思い立ったように身支度を見直すため化粧室へ大急ぎで向かってしまっている。
よくみれば、先触れが会場全体にも伝わったのだろう、若い女性たちが一斉に髪を直したり、アリーシアのように化粧室へ向かっていた。
(皇子様たち、人気なのね。まぁ、当たり前か)
シド帝国の皇家の権力はとてつもなく大きい。娘が皇子に嫁げば、それだけで一族郎党の出世も富も約束されたも同然だし、もちろん嫁いだ女性にも贅沢で煌びやかな宮廷生活が待っている。私からすれば、窮屈極まりない生活にしか思えないが、生まれたときからそれを夢見ながら育ってきている貴族のお嬢様方にとっては、それこそが最高の嫁入り先なのだろう。
私はひそひそ声で、お隣に座るルミナーレ様に聞いてみた。
「あの、おふたりの皇子様にお目通りするのは初めてなのですが……おふたりはどんな方なのでしょう?」
「あら、メイロードでもやはり皇子様のことは気になるのね」
ざわつく会場の様子にも動じず、泰然自若としていたルミナーレ様は少し愉快そうな笑顔で微笑みながら、おふたりについて教えてくれた。
「第四皇子のエーデン様は十七歳、いまは騎士になるため学校へ通われているわ。第五皇子のユリシル様は十五歳、今年から魔法学校へ入学されたわね。エーデン様は側室パーリャ様の、ユリシル様はリアーナ様のお子様なの。でも、皇子の序列は生まれた順なので、継承権はエーデン様の方が上、ということのなるわね」
どうやらユリシル皇子は私と入れ違いに魔法学校へ入学したようだ。
「それにしても、どうしておふたりもいらしたのでしょうか?」
私の質問に、ルミナーレ様は目を大きく開けて驚かれた。
「まぁまぁ、そう……メイロードはまだ貴族になって間がないのですから、わからないのも仕方がないのかしら……おふたりはね……」
と、そこまでお話を聞いたところで、皇子様方の登壇の御触れがあった。
「エーデン・シド殿下、並びにユリシル・シド殿下。正妃リアーナ様の名代として、メイロード・マリス伯爵の領主就任を祝うためご来場されました」
その声とともに、音楽は公式行事でよく使われる荘厳なものに変わり、満場の拍手が沸き起こった。
その中を手を振りながらふたりの皇子が壇上へと登ってきた。背の高い方がおそらくエーデン皇子。金色の長い髪をゆるく結んだ姿は、どちらかと言えば細身で、騎士のイメージからは遠い雰囲気だ。やさしそうな雰囲気で、とてもハンサム。
その後ろから上がってきたのが、おそらくユリシル皇子。短めに整えられた金髪のお顔は、たしかにリアーナ様に似ておられて少し鋭い目をされている。こちらもかなりの美形だ。こうした壇上で手を振ったりすることに、少しまだ抵抗がある感じが初々しい。
おじさまがおふたりの前に跪くと、エーデン皇子はすぐに〝許し〟を与えた。この一言がないと、格下のものは一切皇子に話しかけることは許されないのだ。
「お許しを賜り恐悦至極にございます。私は本日この宴を主催させていただいておりますサガン・サイデムにございます。尊き御身にこの祝宴へとお運びいただけましたこと、どんなに言葉を尽くしても足りぬ行幸にございます」
「あなたのことは陛下からよく伺っております。サイデム男爵。今宵はリアーナ様の名代なれど、私もパレス随一と謳われるサイデム邸の宴には興味があったのです。存分に楽しませていただきますよ」
エーデン皇子は、あまりかしこまりすぎなくとも良いという言葉をかけ、彼らを見上げる人たちの緊張を解いた。十七歳というお年からすれば、とても堂々として世馴れた振る舞いだ。
そして、おじさまが私を手招きした。私は静々とふたりの皇子の前でひざまずくと口上を述べた。
「敬愛するリアーナ妃殿下にご降臨頂けなかったことは誠に残念ではございますが、正妃様のご名代にて両殿下にご臨席を賜り、心より感謝申し上げます。本日は、私メイロード・マリスの私的な祝宴に足をお運びいただけましたこと、リアーナ妃殿下のお心配りにただただ恐縮いたしております。なんのおもてなしもできませんが、せめてイス自慢の音楽や料理をお楽しみいただければ幸いにございます」
なんとかお礼言上を終えてひざまずいた私が顔を上げると、そこでいきなり
「あーー!!」
っという場違いに大きな声が会場に響わたった。
(え? なに?)
次から次へと運ばれてくるお料理に、壇上の私たちは、あれが美味しい、これが絶品、と勧めあいながら、楽しいひとときを過ごしていた。そんなとき、にわかに会場がざわつき始めた。
するとすぐさま壇上近くへ召使いが駆けてきて、おじさまに耳打ちする。
「エーデン殿下、ユリシル殿下がご到着になったとのことでございます」
その言葉におじさまは少しむずかしい顔をしながらも、すぐ知らせにきた召使いに指示を出した。
「やっぱり来たか……第四皇子まで来るとは予想外だったが……まぁいい。丁重にご案内申し上げるように、頼むぞ」
「はっ」
そして私に向き直ったおじさまは、真面目な表情でこう言った。
「メイロード、よく聞きなさい。本日はご公務の関係で来場できない正妃リアーナ様の名代として、第四、第五皇子が、お前に挨拶するためにお越しくださった。いま、おふたりの席をご用意するので、お礼を申し上げ、しっかりもてなすように」
「は、はい、わかりました」
私はまだお皿とフォークを持ったままだったが、神妙に答えるとおじさまがこそっと耳打ちしてきた。
(だが、やりすぎるなよ……面倒がイヤならな)
私はおじさまの耳打ちの理由がどういうことなのか、いまひとつわからぬまま、ともかく身嗜みを整えおふたりの到着を待った。先ほどまで突然の皇子様登場のお触れに、びっくりしながら顔を赤らめ夢心地になっていたアリーシアは、思い立ったように身支度を見直すため化粧室へ大急ぎで向かってしまっている。
よくみれば、先触れが会場全体にも伝わったのだろう、若い女性たちが一斉に髪を直したり、アリーシアのように化粧室へ向かっていた。
(皇子様たち、人気なのね。まぁ、当たり前か)
シド帝国の皇家の権力はとてつもなく大きい。娘が皇子に嫁げば、それだけで一族郎党の出世も富も約束されたも同然だし、もちろん嫁いだ女性にも贅沢で煌びやかな宮廷生活が待っている。私からすれば、窮屈極まりない生活にしか思えないが、生まれたときからそれを夢見ながら育ってきている貴族のお嬢様方にとっては、それこそが最高の嫁入り先なのだろう。
私はひそひそ声で、お隣に座るルミナーレ様に聞いてみた。
「あの、おふたりの皇子様にお目通りするのは初めてなのですが……おふたりはどんな方なのでしょう?」
「あら、メイロードでもやはり皇子様のことは気になるのね」
ざわつく会場の様子にも動じず、泰然自若としていたルミナーレ様は少し愉快そうな笑顔で微笑みながら、おふたりについて教えてくれた。
「第四皇子のエーデン様は十七歳、いまは騎士になるため学校へ通われているわ。第五皇子のユリシル様は十五歳、今年から魔法学校へ入学されたわね。エーデン様は側室パーリャ様の、ユリシル様はリアーナ様のお子様なの。でも、皇子の序列は生まれた順なので、継承権はエーデン様の方が上、ということのなるわね」
どうやらユリシル皇子は私と入れ違いに魔法学校へ入学したようだ。
「それにしても、どうしておふたりもいらしたのでしょうか?」
私の質問に、ルミナーレ様は目を大きく開けて驚かれた。
「まぁまぁ、そう……メイロードはまだ貴族になって間がないのですから、わからないのも仕方がないのかしら……おふたりはね……」
と、そこまでお話を聞いたところで、皇子様方の登壇の御触れがあった。
「エーデン・シド殿下、並びにユリシル・シド殿下。正妃リアーナ様の名代として、メイロード・マリス伯爵の領主就任を祝うためご来場されました」
その声とともに、音楽は公式行事でよく使われる荘厳なものに変わり、満場の拍手が沸き起こった。
その中を手を振りながらふたりの皇子が壇上へと登ってきた。背の高い方がおそらくエーデン皇子。金色の長い髪をゆるく結んだ姿は、どちらかと言えば細身で、騎士のイメージからは遠い雰囲気だ。やさしそうな雰囲気で、とてもハンサム。
その後ろから上がってきたのが、おそらくユリシル皇子。短めに整えられた金髪のお顔は、たしかにリアーナ様に似ておられて少し鋭い目をされている。こちらもかなりの美形だ。こうした壇上で手を振ったりすることに、少しまだ抵抗がある感じが初々しい。
おじさまがおふたりの前に跪くと、エーデン皇子はすぐに〝許し〟を与えた。この一言がないと、格下のものは一切皇子に話しかけることは許されないのだ。
「お許しを賜り恐悦至極にございます。私は本日この宴を主催させていただいておりますサガン・サイデムにございます。尊き御身にこの祝宴へとお運びいただけましたこと、どんなに言葉を尽くしても足りぬ行幸にございます」
「あなたのことは陛下からよく伺っております。サイデム男爵。今宵はリアーナ様の名代なれど、私もパレス随一と謳われるサイデム邸の宴には興味があったのです。存分に楽しませていただきますよ」
エーデン皇子は、あまりかしこまりすぎなくとも良いという言葉をかけ、彼らを見上げる人たちの緊張を解いた。十七歳というお年からすれば、とても堂々として世馴れた振る舞いだ。
そして、おじさまが私を手招きした。私は静々とふたりの皇子の前でひざまずくと口上を述べた。
「敬愛するリアーナ妃殿下にご降臨頂けなかったことは誠に残念ではございますが、正妃様のご名代にて両殿下にご臨席を賜り、心より感謝申し上げます。本日は、私メイロード・マリスの私的な祝宴に足をお運びいただけましたこと、リアーナ妃殿下のお心配りにただただ恐縮いたしております。なんのおもてなしもできませんが、せめてイス自慢の音楽や料理をお楽しみいただければ幸いにございます」
なんとかお礼言上を終えてひざまずいた私が顔を上げると、そこでいきなり
「あーー!!」
っという場違いに大きな声が会場に響わたった。
(え? なに?)
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