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4 聖人候補の領地経営
703 《契約の首輪》
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703
私はなるべく落ち着いた口調を心がけ、柔和な笑顔を維持しながら、うつむき加減の三人の魔術師の前に机を挟んで座った。
「さて、まずは自己紹介をしましょうか。私の名はメイロード・マリス伯爵。このマリス領の領主を務めています」
私の言葉に、三人は反射的に顔を上げた。まぁ、それはそうだろう。通常ならば一介の盗賊に過ぎない者に領主が会いに来るなどあり得ないことだ。しかも声が少女、見れば姿もやっぱり少女なのだ。
「そんなに驚かないで……あ、私も魔法使いなのよ。でも貴族だから魔法を使えるわけじゃなくて……そもそも貴族になったのも最近で……あれ? 何を言おうとしてたんだっけ?」
自分のことを説明しようとしてしどろもどろになる私に、ちょっとだけ三人の表情が和らぐ。
(弱々しい反応だけど、どうやら完全に感情をなくしているわけでもなさそうね)
それでもひとことも言葉を発しない彼らの様子に、改めてその姿を眺めると、彼らの首元にはかなり太い首輪がはめられていた。
「これも護送のために用意した拘束具なのかしら?」
私が兵士に聞くと、違うとのことだ。どうやら、捕まる前からずっとはめられていたものらしい。
気になったので《鑑定》してみたところ、これは《契約の首輪》というものだった。魔法契約書がそのまま首輪に変化したもので、これがある限り契約の内容に即した行動しか取れなくなるという、人を無理やり従わせる効力のあるとても珍しい首輪だった。魔道具の一種とも言えるが、その中でもかなり特殊なものだ。
とはいえ《契約の首輪》の拘束力は、基本肉体だけで精神支配はできないはずだ。魔法学校で知ったことだが、魔法契約によって全人格を掌握し奴隷化することはできないそうだ。もちろん、以前セカー・バーバルという男が私の大事な料理人を魔法契約で縛っていうことを聞かせようとしたように、魔法契約書の効力は絶対だ。だが、それでも奴隷化となると話が違うのだ。
人の生存本能というのは強固なもので、自らの身の危険が及んでもなにひとつ抵抗できないまま隷属し続けるなどという契約は魔法契約だけでは不可能なのだ。唯一の例外は禁忌の《呪い》を含んだ契約だというが、これはまともな魔法使いが行うものではないという。
もちろん魔法契約の場合でも、そこにデスペナルティが記載されていれば死を迎えることもあるが、抵抗しようとすることはできる。逃げようとすることもできる。そういった生死に関わる行動や意思までは、奪うことはないのだ。
(まぁ、場合によっては意思を保ったまま、契約違反のペナルティによる苦痛を受ける方が、辛いかもしれないけどね)
ともあれ、苦痛を与えられても声すら出せないほどの制約がある首輪とは、これはまともな魔道具ではなさそうだ。どうやら彼らの首につけられている《契約の首輪》は抵抗する意思すらも許さないものらしい。これだけ力のあるあやしい魔道具の行使には大変な量の魔法力がいるはずだ。しかも危険性のあるなんらかの〝呪物〟も使われている……
「これは私だけではちょっと解決できないかも……」
私は少し考えて、ある人に協力を仰ぐことに決め、すぐにその場に鳥籠を設置して《伝令》を放った。そして数分後、私の超高速《伝令》に速攻で返事をしてくれたのは、ここからは遠く離れた、魔法学校のあるセルツの街に住む魔道具の専門家〝魔法薬師の宝箱〟店主であるエルリベット・バレリオさんだ。
(すごい高速《伝令》だなぁ。やっぱりエルさん、すごい魔法使い……)
だが、返信によると、やはりエルさんでも見てみないことにはたしかなことは言えないそうだ。ただ、呪物が使用されているものにうっかり触ったりするなと釘を刺された。
私は彼らを護送してきた兵士に聞いてみる。
「この首輪には誰か触ったのかしら?」
「はい。彼らが話さない理由に関係があるかもしれないと考え外そうと試みました。ですが、まったく壊れないだけでなく、壊そうとするとその衝撃が対象者に伝わり激痛が走る様子で、下手に壊せば死んでしまうのではないかと考え、その後は触っておりません」
「触った人には特に異常はなかったの?」
「はい、特に異常はありませんでした」
それから兵士はもうひとつ、彼らの置かれた立場のわかる事情を説明してくれた。
「あの、それに実はあの魔術師たちを護送しようとしたところ、街を出たあたりで首輪が閉まり苦しみ始めまして……どうやらあの男たちと一定以上の距離離れられないようなのです。それで、仕方なくあの男たちも一緒に護送してきました」
どうやら、彼らは思った以上に酷い扱いを受け拘束されているようだ。
エルさんには不用意に触るなと言われたが、すでに触った兵士がいて、兵士には特に問題はなかったようだ。ただし、首輪をしている側は首輪への攻撃をその身に受けてしまうようだが……
だが、このまま沈黙されていては、何もわからない。助けてもあげられない。そこで、私は立ち上がり魔術師のひとりに近づいた。
「少し、首輪を見せてもらうわね。大丈夫、壊そうとしたりはしないから……」
なるべく優しげに微笑みながらそう言ってはみたが、若い魔術師は青ざめた顔色のまま小刻みに震えている。この状態では同意を得られそうにもない。
そこで私は三人の《封じの腕輪》を外すよう兵士に頼んだ。もちろん兵士たちは私に万が一何かあったらと躊躇したが、こと魔法に関してなら、私はそうやすやすとやられたりはしない。
「大丈夫よ。むしろ私がいれば、あなたたちを攻撃させたりしないわ。私はこれでもグッケンス博士の弟子ですからね。あなたたちも、攻撃したりしないでしょう?」
私の言葉に三人の魔術師はオドオドとしながら頷いた。
私は一応室内に結界を作り、魔術師でも簡単には逃げられないようにしてから、まずは殺風景なテーブルにマジックバッグから取り出した清潔なテーブルクロスをかけ、お茶の準備を始めた。
私はなるべく落ち着いた口調を心がけ、柔和な笑顔を維持しながら、うつむき加減の三人の魔術師の前に机を挟んで座った。
「さて、まずは自己紹介をしましょうか。私の名はメイロード・マリス伯爵。このマリス領の領主を務めています」
私の言葉に、三人は反射的に顔を上げた。まぁ、それはそうだろう。通常ならば一介の盗賊に過ぎない者に領主が会いに来るなどあり得ないことだ。しかも声が少女、見れば姿もやっぱり少女なのだ。
「そんなに驚かないで……あ、私も魔法使いなのよ。でも貴族だから魔法を使えるわけじゃなくて……そもそも貴族になったのも最近で……あれ? 何を言おうとしてたんだっけ?」
自分のことを説明しようとしてしどろもどろになる私に、ちょっとだけ三人の表情が和らぐ。
(弱々しい反応だけど、どうやら完全に感情をなくしているわけでもなさそうね)
それでもひとことも言葉を発しない彼らの様子に、改めてその姿を眺めると、彼らの首元にはかなり太い首輪がはめられていた。
「これも護送のために用意した拘束具なのかしら?」
私が兵士に聞くと、違うとのことだ。どうやら、捕まる前からずっとはめられていたものらしい。
気になったので《鑑定》してみたところ、これは《契約の首輪》というものだった。魔法契約書がそのまま首輪に変化したもので、これがある限り契約の内容に即した行動しか取れなくなるという、人を無理やり従わせる効力のあるとても珍しい首輪だった。魔道具の一種とも言えるが、その中でもかなり特殊なものだ。
とはいえ《契約の首輪》の拘束力は、基本肉体だけで精神支配はできないはずだ。魔法学校で知ったことだが、魔法契約によって全人格を掌握し奴隷化することはできないそうだ。もちろん、以前セカー・バーバルという男が私の大事な料理人を魔法契約で縛っていうことを聞かせようとしたように、魔法契約書の効力は絶対だ。だが、それでも奴隷化となると話が違うのだ。
人の生存本能というのは強固なもので、自らの身の危険が及んでもなにひとつ抵抗できないまま隷属し続けるなどという契約は魔法契約だけでは不可能なのだ。唯一の例外は禁忌の《呪い》を含んだ契約だというが、これはまともな魔法使いが行うものではないという。
もちろん魔法契約の場合でも、そこにデスペナルティが記載されていれば死を迎えることもあるが、抵抗しようとすることはできる。逃げようとすることもできる。そういった生死に関わる行動や意思までは、奪うことはないのだ。
(まぁ、場合によっては意思を保ったまま、契約違反のペナルティによる苦痛を受ける方が、辛いかもしれないけどね)
ともあれ、苦痛を与えられても声すら出せないほどの制約がある首輪とは、これはまともな魔道具ではなさそうだ。どうやら彼らの首につけられている《契約の首輪》は抵抗する意思すらも許さないものらしい。これだけ力のあるあやしい魔道具の行使には大変な量の魔法力がいるはずだ。しかも危険性のあるなんらかの〝呪物〟も使われている……
「これは私だけではちょっと解決できないかも……」
私は少し考えて、ある人に協力を仰ぐことに決め、すぐにその場に鳥籠を設置して《伝令》を放った。そして数分後、私の超高速《伝令》に速攻で返事をしてくれたのは、ここからは遠く離れた、魔法学校のあるセルツの街に住む魔道具の専門家〝魔法薬師の宝箱〟店主であるエルリベット・バレリオさんだ。
(すごい高速《伝令》だなぁ。やっぱりエルさん、すごい魔法使い……)
だが、返信によると、やはりエルさんでも見てみないことにはたしかなことは言えないそうだ。ただ、呪物が使用されているものにうっかり触ったりするなと釘を刺された。
私は彼らを護送してきた兵士に聞いてみる。
「この首輪には誰か触ったのかしら?」
「はい。彼らが話さない理由に関係があるかもしれないと考え外そうと試みました。ですが、まったく壊れないだけでなく、壊そうとするとその衝撃が対象者に伝わり激痛が走る様子で、下手に壊せば死んでしまうのではないかと考え、その後は触っておりません」
「触った人には特に異常はなかったの?」
「はい、特に異常はありませんでした」
それから兵士はもうひとつ、彼らの置かれた立場のわかる事情を説明してくれた。
「あの、それに実はあの魔術師たちを護送しようとしたところ、街を出たあたりで首輪が閉まり苦しみ始めまして……どうやらあの男たちと一定以上の距離離れられないようなのです。それで、仕方なくあの男たちも一緒に護送してきました」
どうやら、彼らは思った以上に酷い扱いを受け拘束されているようだ。
エルさんには不用意に触るなと言われたが、すでに触った兵士がいて、兵士には特に問題はなかったようだ。ただし、首輪をしている側は首輪への攻撃をその身に受けてしまうようだが……
だが、このまま沈黙されていては、何もわからない。助けてもあげられない。そこで、私は立ち上がり魔術師のひとりに近づいた。
「少し、首輪を見せてもらうわね。大丈夫、壊そうとしたりはしないから……」
なるべく優しげに微笑みながらそう言ってはみたが、若い魔術師は青ざめた顔色のまま小刻みに震えている。この状態では同意を得られそうにもない。
そこで私は三人の《封じの腕輪》を外すよう兵士に頼んだ。もちろん兵士たちは私に万が一何かあったらと躊躇したが、こと魔法に関してなら、私はそうやすやすとやられたりはしない。
「大丈夫よ。むしろ私がいれば、あなたたちを攻撃させたりしないわ。私はこれでもグッケンス博士の弟子ですからね。あなたたちも、攻撃したりしないでしょう?」
私の言葉に三人の魔術師はオドオドとしながら頷いた。
私は一応室内に結界を作り、魔術師でも簡単には逃げられないようにしてから、まずは殺風景なテーブルにマジックバッグから取り出した清潔なテーブルクロスをかけ、お茶の準備を始めた。
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