利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

705 ご招待

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705

やっと落ち着きはしたものの、長い間話すことを禁じられていたとみられる魔術師は、なかなかうまく話し出すことができずにいた。それに思いもかけないところで絶望的な奴隷状態から解放されたことで、いままでの精神的な疲労が一気に表面化してしまったようだ。涙を流しながらの放心状態もまだ続いている。

かといって、まだ《契約の首輪》を着けているあとのふたりについては、エルさんに詳しいことを教えてもらえるまで、いまは様子を見る必要があるので、こちらとも話はできない。

そこで急ぐ必要もないと考えた私は、一旦落ち着いてもらうため彼らを一時休ませることにし、彼らが落ち着くのを待つ間、ここに至るまでの状況を少しでも把握しておくことにした。まずは剣を持っていた、いまは盗賊と判明したの男たちの事情聴取に当たっていた兵士から、彼らの様子を聞いてみることにし、護送されてきた盗賊たちが収監されている官舎へと向かおうとすると、慌てた兵士に止められ、応接室へと誘導された。

ひとりでこんなところをうろうろしている〝ご領主さま〟は、かなり珍しいだろうけど、私は領主なので、そのたびに慌てられるのも困るのだが、今回は黙って従い、事務をしていた兵士が無骨な手で差し出してくれた熱々のハーブティーを飲みつつ、取調べ担当者が来るのを待った。

「連中は、今回捕まったことですべてを諦めた様子で、淡々と取り調べを受けております。ですが……」

担当の兵士の話によると、自分たちのことについては罪状の詳細な部分まで、あまり隠そうともせず話をするにもかかわらず、あの三人の魔術師に関する話については、一切話さないのだそうだ。

いまのところ、かろうじて聞き出せたのは彼らを手に入れたとき〝そういう契約をした〟ということだけだという。

「それは、魔法契約の内容に関わっていそうね。話すことでひどいことが起こるとわかっているってことかも……もしかしたら、契約時にそのことに関わる一切を話すことを封じられているのかもしれない。おそらく魔術師の三人も、似たような契約に縛られているのよ」

あの三人の魔術師を手に入れる過程で、三人の盗賊も彼らに使役されることになった三人の魔術師も、とてつもなく拘束力が強い上にまともでない〝呪いの魔道具〟まで使った《魔法契約書》を取り交わしていることは、どうやら間違いなさそうだ。

(なぜそんなことになっているの? なぜあの魔術師たちは、そんな奴隷契約書のような書類にサインをしたの? それとも、させられた?)

私が悩んでいると、ひとりの兵士が部屋に知らせを持ってきた。

盗賊のひとりが、先ほどから苦しみ始め、のたうち回った末に気絶し、その後どうも様子がおかしいという。

「自分の名前や仲間の名前は覚えているのですが、魔術師の名前どころか、その存在もまったく覚えがない様子でございまして……一体何がどうなっているのか……」

「その男が苦しみ始めたのはいつ頃?」
「半刻ほど前でございます。突然、大声を上げて苦しみ始め、やめてくれと何度も叫び最後は昏倒したのでございます」

(丁度私が《契約の首輪》を壊したころだ。もしかしたら、彼らに関する魔法契約が何かの理由で解除されたときには、魔術師に関する記憶を忘れるように契約書に書かれていたのかもしれない……どうにも周到ね)

だが、おそらく《魔法契約書》を作った人間は、あの《契約の首輪》が魔術師に死を与えることなく外されることは想定していなかったのだろう。それにしても、この取引を仕組んだ何者かからは、この契約についての一切を表に出したくないという、強い意志を感じる。
そのために執拗な周到さで慎重に契約を結び、《契約の首輪》が物理的に破壊されれば魔術師はそこで死亡するように、そしてそれと同時に首輪の破壊と連動して彼らを使役していた盗賊は魔術師に関する記憶を抹消されるように魔法契約を作った。

これだけの保険がかけてあれば、たとえ彼らがどこかで捕まるような事態が起きても、一切の証拠も証言もないまま、この事件は迷宮入りし、魔術師たちについては何ひとつわからないまま事件は終わる。

元々違法な怪しい契約だ。盗賊たちもこの〝記憶を失う〟という契約を拒むことはできなかったということだろう。

(まぁ、記憶を削除する作業はだいぶ苦しかったようだけど、それは契約書には書いてなかったんだろうな。お気の毒)

どうやらこの事件には、三人と魔術師と三人の盗賊の間に、かなり魔法に精通した第三者が介在している。その謎を解くためには、やはり魔道具の謎を解き、魔術師に話を聞くしかない。

(彼らまで記憶を失っているとか、ないことを祈るよ)

私はひと通り話を聞き終わると、今度は《無限回廊の扉》を抜け、セルツへと向かった。

「おや、随分早く着いたもんだね」

セルツの〝魔術師横丁〟にある〝魔法薬師の宝箱〟に現れた私を見て、奥の席でいつものようにお茶を飲んでいた店主のエルさんは面白そうに笑った。

「はい。これからエルさんにも久しぶりに《無限回廊の扉》を抜けていただきたいのですが……」
「そうかい。ああ、いいとも。私もその首輪の話には興味も思い当たることもあるしね」

そう言ったエルさんは、座ったまま魔法を使って店の入り口にかけてあった看板を〝開店〟から〝閉店〟に付け替え、鍵をかけると、入口のランプを消した。

「さぁ、これで準備完了だ。行くよメイロード」

エルさんの洗練された魔法と対応の早さに少し笑いつつ、私は店の奥にあった扉を開ける。

「こちらを抜けて、私の領地にご案内しますね。あ、実は私、いま伯爵なんです」
「あんたも忙しい娘だねぇ……今度は貴族かい?」

私たちはそんな軽口を言いながら《無限回廊の扉》を抜け、マリス領へと向かった。
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