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4 聖人候補の領地経営
710 新しい名前
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710
三人から、まず相談されたのは名前のことだった。どうしても私に名前をつけて欲しいと言うので、サンク以外のふたりには1の588にエイト、1の605にオーゴという名をつけた。
(適当で申し訳ないんだけど、何にも情報がないんで、やっつけっぽいけど許して!)
私の心中とは裏腹に、三人はこの名前をとても気に入ってくれたようなのでホッとしたが、考えてみれば名前すらない記号で呼ばれる環境がおかしいのだ。やはりどう考えてもその〝孤児院〟はおかしい。
だがこの謎の〝孤児院〟詳細は一切不明のままだ。場所すら特定できず、人気のない山中にあったことぐらいしかわからない。それがシド帝国なのか、ロームバルト王国なのか、はたまたキルム王国なのか……それによっても対応はまるで違うものになるのだがどうしたものか。
シド国内のことならば、案外話は早いかもしれないが他の国が絡む国際問題となると、いかに強国シドとはいってもそう簡単には捜査は進められないだろう。悩ましいことだ。
さて、健康的な食事としっかりした睡眠、そして安心できる快適な住環境はすぐにサンクたちの躰と心を回復させた。
すると根が真面目なのだろう、翌日からは領主館の仕事を手伝いたい申し出があり、屋敷の人間たちと働き始めた。読み書きなど基本的な教育は魔法習得のために必要だということで〝孤児院〟でも受けたらしく、事務の仕事を任せてみたところ、とてもいい働きをしてくれた。
(このまま事務官として採用したいぐらいだわ)
そんな数日を過ごしていると、サンクたちに会うためにグッケンス博士が領主館にやってきた。
魔法に関する知識だけは、子供の頃から聞かされているサンクたちは、やはり高名な魔術師であるシドの英雄〝ハンス・グッケンス博士〟
のことは知っていた。博士の英雄譚は、まったくの嘘から本当のことまであらゆる噂が昔から飛び交っているようで、私が紹介すると、ハンスたちはヒーローショーにやってきた子供のような目でグッケンス博士を凝視していた。
「こちらがグッケンス博士。今日はあなた方の魔法使いとしての技量を知りたいそうよ」
「はい! よろしくお願いいたします!」
緊張気味の三人は、それでも伝説の魔法使いの前で魔法を見せられることに、興奮している様子だ。
「そう気負うな。メイロードからそなたたちの育った環境については聞いている。今日はそれを少し確かめさせてもらうだけだよ」
そう言うと、博士は魔法を使い、館の庭に石造りの簡易的な的をいくつか作った。
「まずはこれに向かって基本的な魔法を使ってごらん」
「はい!」
素直なサンクたちは、言われた通り少し緊張しながらも基本的な魔法を的に向かい使い始めた。
長く訓練をしてきたこともあるのだろう。彼等の技の正確性はかなり高い。私のように高い《索敵》のスキルを持つわけではないサンクたちは、ひたすら訓練を積むことで技の正確性を磨いたようで、これはこれで素晴らしい能力と言えるだろう。
「だが、どの技も力が弱いの……」
確かにグッケンス博士の言う通り、彼等の魔法の威力は強くない。特に中級以上の魔法はその威力が弱まっているようだ。
「お前たち、魔法力はそう多くないのだな」
魔法力に関する情報は普通人に開示したりはしないが、三人は完全に観念している様子でうなずく。彼等の魔法力量は三人とも二百台、市井の人間として魔法屋をするには十分だが、強力な魔法を武器とする魔術師になるにはあまりにも少ない魔法力量だった。
「それでも子供のころは魔法力量が高いと言われ、限界まで伸ばすよう努力もしてきたのでございますが、ご覧の通りでございます」
サンクは自らの手を見ながら残念そうにそう言った。
シドでは魔法学校に入ることすら叶わない彼等の魔法力量では、中級以上の魔法を十分に練習し続けることは難しく、効果的に使うための修練が足りていないのだ。
「だから、同じ魔法を使っているのに効果が弱いんですね。少ない魔法力で、魔法力が多く必要な中級以上の魔法を何度も使っていると、残量が気になって集中力が削がれ、しかも躰を守ろうと無意識に、弱い魔法に切り替えてしまったりもする。そんな迷いがあっては、魔法の効果は弱まりますからね……」
つまりサンクたちは、決して向いていない魔術師を目指すことを子供の頃から強要され、その成果が不十分であったため〝売る〟と言う形で〝孤児院〟から放逐されたのだ。
(努力家で真面目な子たちなんだから、魔術師にこだわらずに済んでいればどんな道もあったでしょうに……)
博士も同じことを思っているようで、深いため息をつく。
「調書を読んだところでは、シドにたどり着くまでは男たちも逃げるだけで精一杯だったようだな。この三人も人を殺すような悪事はまださせられていなかったようだし……減刑の口添えはすることにしよう」
「グッケンス博士ありがとうございます!
博士に少しアドバイスをもらったことで、喜び勇んで基礎魔法の訓練をし始めているサンクたちの様子を見ながら、私と博士はなんとかサンクたちを助ける道はないかと考えていた。
三人から、まず相談されたのは名前のことだった。どうしても私に名前をつけて欲しいと言うので、サンク以外のふたりには1の588にエイト、1の605にオーゴという名をつけた。
(適当で申し訳ないんだけど、何にも情報がないんで、やっつけっぽいけど許して!)
私の心中とは裏腹に、三人はこの名前をとても気に入ってくれたようなのでホッとしたが、考えてみれば名前すらない記号で呼ばれる環境がおかしいのだ。やはりどう考えてもその〝孤児院〟はおかしい。
だがこの謎の〝孤児院〟詳細は一切不明のままだ。場所すら特定できず、人気のない山中にあったことぐらいしかわからない。それがシド帝国なのか、ロームバルト王国なのか、はたまたキルム王国なのか……それによっても対応はまるで違うものになるのだがどうしたものか。
シド国内のことならば、案外話は早いかもしれないが他の国が絡む国際問題となると、いかに強国シドとはいってもそう簡単には捜査は進められないだろう。悩ましいことだ。
さて、健康的な食事としっかりした睡眠、そして安心できる快適な住環境はすぐにサンクたちの躰と心を回復させた。
すると根が真面目なのだろう、翌日からは領主館の仕事を手伝いたい申し出があり、屋敷の人間たちと働き始めた。読み書きなど基本的な教育は魔法習得のために必要だということで〝孤児院〟でも受けたらしく、事務の仕事を任せてみたところ、とてもいい働きをしてくれた。
(このまま事務官として採用したいぐらいだわ)
そんな数日を過ごしていると、サンクたちに会うためにグッケンス博士が領主館にやってきた。
魔法に関する知識だけは、子供の頃から聞かされているサンクたちは、やはり高名な魔術師であるシドの英雄〝ハンス・グッケンス博士〟
のことは知っていた。博士の英雄譚は、まったくの嘘から本当のことまであらゆる噂が昔から飛び交っているようで、私が紹介すると、ハンスたちはヒーローショーにやってきた子供のような目でグッケンス博士を凝視していた。
「こちらがグッケンス博士。今日はあなた方の魔法使いとしての技量を知りたいそうよ」
「はい! よろしくお願いいたします!」
緊張気味の三人は、それでも伝説の魔法使いの前で魔法を見せられることに、興奮している様子だ。
「そう気負うな。メイロードからそなたたちの育った環境については聞いている。今日はそれを少し確かめさせてもらうだけだよ」
そう言うと、博士は魔法を使い、館の庭に石造りの簡易的な的をいくつか作った。
「まずはこれに向かって基本的な魔法を使ってごらん」
「はい!」
素直なサンクたちは、言われた通り少し緊張しながらも基本的な魔法を的に向かい使い始めた。
長く訓練をしてきたこともあるのだろう。彼等の技の正確性はかなり高い。私のように高い《索敵》のスキルを持つわけではないサンクたちは、ひたすら訓練を積むことで技の正確性を磨いたようで、これはこれで素晴らしい能力と言えるだろう。
「だが、どの技も力が弱いの……」
確かにグッケンス博士の言う通り、彼等の魔法の威力は強くない。特に中級以上の魔法はその威力が弱まっているようだ。
「お前たち、魔法力はそう多くないのだな」
魔法力に関する情報は普通人に開示したりはしないが、三人は完全に観念している様子でうなずく。彼等の魔法力量は三人とも二百台、市井の人間として魔法屋をするには十分だが、強力な魔法を武器とする魔術師になるにはあまりにも少ない魔法力量だった。
「それでも子供のころは魔法力量が高いと言われ、限界まで伸ばすよう努力もしてきたのでございますが、ご覧の通りでございます」
サンクは自らの手を見ながら残念そうにそう言った。
シドでは魔法学校に入ることすら叶わない彼等の魔法力量では、中級以上の魔法を十分に練習し続けることは難しく、効果的に使うための修練が足りていないのだ。
「だから、同じ魔法を使っているのに効果が弱いんですね。少ない魔法力で、魔法力が多く必要な中級以上の魔法を何度も使っていると、残量が気になって集中力が削がれ、しかも躰を守ろうと無意識に、弱い魔法に切り替えてしまったりもする。そんな迷いがあっては、魔法の効果は弱まりますからね……」
つまりサンクたちは、決して向いていない魔術師を目指すことを子供の頃から強要され、その成果が不十分であったため〝売る〟と言う形で〝孤児院〟から放逐されたのだ。
(努力家で真面目な子たちなんだから、魔術師にこだわらずに済んでいればどんな道もあったでしょうに……)
博士も同じことを思っているようで、深いため息をつく。
「調書を読んだところでは、シドにたどり着くまでは男たちも逃げるだけで精一杯だったようだな。この三人も人を殺すような悪事はまださせられていなかったようだし……減刑の口添えはすることにしよう」
「グッケンス博士ありがとうございます!
博士に少しアドバイスをもらったことで、喜び勇んで基礎魔法の訓練をし始めているサンクたちの様子を見ながら、私と博士はなんとかサンクたちを助ける道はないかと考えていた。
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