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4 聖人候補の領地経営
716 価値ある子供
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716
ストレスの溜まるお食事を続ける日々は四日目に突入。囚われの子供の演技を続ける私の我慢も限界に近づいた頃、やっと街らしき場所へと馬車は入っていった。
街へ入る際は一言も喋るなと脅された上に、木箱の中に押し込められ、荷物として扱われた。
入場した後は箱から出されたが、今度はすぐ馬車から下され、街中の一軒家に連れて行かれると、鍵付きの部屋に放り込まれた。宿屋でもなさそうなので、協力者の家なのだろうか。ここでは手首の拘束も外されて自由にはなれたが、私は〝魔法力はあるが知識はまだない子供〟という設定なので、下手なことはできない。
(まぁ、大人しくしているしかないか……)
ここからは、ただ待つだけの数日が続いた。食事は街の食堂から買ってくるようになったので、若干マシにはなったが、それでも相変わらず単調な味だ。あまり食欲は湧かないが、ここでもじっと我慢するしかない。美味しい地元のベリーや果物を頼りになんとか空腹を満たしている姿はいかにも憔悴した子供っぽく見えて、誘拐された子供らしくは見えるだろう。
はめ殺しの小さな窓だけの、硬いベッドしかない部屋に閉じ込められて過ごす毎日は、領主になってからこれまでの忙しい日々から比べると、のんびりしすぎるぐらいのんびりしたものだ。だが、休息にはなっているかもしれないが、楽しくもないし、任務遂行中だという緊張感はあるため、精神的にはあまり休めてはいない。
《索敵》には、ときどきあやしい気配があるし、それが敵か味方かもはっきりしないため、設定に沿った行動を常に心がけていなければいけないのだ。
(時々泣いたりしたほうがいいのかな……)
私は役作りを考えたりしながら、誘拐された女の子役をなんとか演じ続けた。
私の《地形探査》によれば、ここはロームバルト王国の首都からは遠く離れた街、名をケーシンという。交通の要所ではあるようで、宿も多く、人の往来は盛んなので、あまり目立ちたくない人間が紛れるにはちょうどいい場所だ。
ここで〝孤児院〟の関係者と接触し、私は〝売られる〟ことになる予定だ。
(売られていくって……やっぱり、気分のいいものではないよね……)
自ら決めたこととはいえ、見ず知らずの敵地へと向かっていくのはさすがに緊張する。だが、そんな私の気持ちをよそに、大人たちは極めてビジネスライクにことを進めている様子だ。
私のいた部屋は、何度か無遠慮にドアが開けられ、見知らぬ男たちが顔を出し、品定めをするように私を見て行った。私を買いにきた者どものリーダーらしき男の頬が緩んでいたのが不気味だったが、商談は即決だったらしく、その数時間後には私は別の馬車に乗せられ、ケーシンを出発することに決まっていた。
姿を消したままのセーヤとソーヤからの報告によると〝孤児院〟の男は、私に非常に大きな関心を見せ、私とふたりの魔術師を交換するところまで譲歩したそうだ。
〔最初にメイロードさまの魔法力として今回設定されている2500という値を告げたところから、完全に目の色が変わってましたね〕
〔あの男のメイロードさまの髪を見る目も尋常ではございませんでした。おそらく〝魔術宿る髪〟が、よほど重要なのでございましょう。もちろん、メイロードさまの髪の美しさは、たとえそうでなくとも魅了されずにはいられないお美しさでございますけれど〕
やはり事前の予想通り〝孤児院〟の男は是が非でもハイスペックな魔術師予備軍になる子供を手に入れようとしていたため、何ひとつ疑われることもなく、私の身柄は彼らへと引き渡された。
ここからはひとりでの潜入となる私のため(本当はセーヤもソーヤもいるけどね)、ドール参謀は大変貴重な魔道具を私に貸してくれた。
元の世界風に言えばGPSのようなもので、見た目は小さな人形に偽装し、その中に納められている。
「これはとても古い遺物で《輝鳴玉》というものだ。未だにその構造はまったく解明されていないが、このふたつの球体はお互いの場所を光の強さで教えてくれる。この遺物を身につけていれば、我々は魔法による遮蔽や隠蔽が行われたとしても、確実にメイロードのいる場所へ辿り着ける。この《輝鳴玉》は皇宮の宝物で皇族がたの安否を確認する必要があるときのみ使われる大変貴重な遺物だが、皇帝陛下のご許可を賜り、今回の任務のために使わせていただけることとなった」
きっといまも人形のお腹の中の《輝鳴玉》は光っているだろうが、外からは見えない。そしてもうひとつの《輝鳴玉》は、私の位置を捉え続けて追ってきているだろう。
その日の夕方、フードがついたマントを着せられ、その人形ひとつを胸に抱いた私は、いよいよ〝孤児院〟へ向かう馬車へと乗せられた。
どうやらこの馬車は、夜通し走り続けるらしい。
馬車には魔法がいくつか施されているらしく、走り始めるとケーシンの街はアッっという間に遠ざかり、そのまま夜の帷の中を疾走していった。
ストレスの溜まるお食事を続ける日々は四日目に突入。囚われの子供の演技を続ける私の我慢も限界に近づいた頃、やっと街らしき場所へと馬車は入っていった。
街へ入る際は一言も喋るなと脅された上に、木箱の中に押し込められ、荷物として扱われた。
入場した後は箱から出されたが、今度はすぐ馬車から下され、街中の一軒家に連れて行かれると、鍵付きの部屋に放り込まれた。宿屋でもなさそうなので、協力者の家なのだろうか。ここでは手首の拘束も外されて自由にはなれたが、私は〝魔法力はあるが知識はまだない子供〟という設定なので、下手なことはできない。
(まぁ、大人しくしているしかないか……)
ここからは、ただ待つだけの数日が続いた。食事は街の食堂から買ってくるようになったので、若干マシにはなったが、それでも相変わらず単調な味だ。あまり食欲は湧かないが、ここでもじっと我慢するしかない。美味しい地元のベリーや果物を頼りになんとか空腹を満たしている姿はいかにも憔悴した子供っぽく見えて、誘拐された子供らしくは見えるだろう。
はめ殺しの小さな窓だけの、硬いベッドしかない部屋に閉じ込められて過ごす毎日は、領主になってからこれまでの忙しい日々から比べると、のんびりしすぎるぐらいのんびりしたものだ。だが、休息にはなっているかもしれないが、楽しくもないし、任務遂行中だという緊張感はあるため、精神的にはあまり休めてはいない。
《索敵》には、ときどきあやしい気配があるし、それが敵か味方かもはっきりしないため、設定に沿った行動を常に心がけていなければいけないのだ。
(時々泣いたりしたほうがいいのかな……)
私は役作りを考えたりしながら、誘拐された女の子役をなんとか演じ続けた。
私の《地形探査》によれば、ここはロームバルト王国の首都からは遠く離れた街、名をケーシンという。交通の要所ではあるようで、宿も多く、人の往来は盛んなので、あまり目立ちたくない人間が紛れるにはちょうどいい場所だ。
ここで〝孤児院〟の関係者と接触し、私は〝売られる〟ことになる予定だ。
(売られていくって……やっぱり、気分のいいものではないよね……)
自ら決めたこととはいえ、見ず知らずの敵地へと向かっていくのはさすがに緊張する。だが、そんな私の気持ちをよそに、大人たちは極めてビジネスライクにことを進めている様子だ。
私のいた部屋は、何度か無遠慮にドアが開けられ、見知らぬ男たちが顔を出し、品定めをするように私を見て行った。私を買いにきた者どものリーダーらしき男の頬が緩んでいたのが不気味だったが、商談は即決だったらしく、その数時間後には私は別の馬車に乗せられ、ケーシンを出発することに決まっていた。
姿を消したままのセーヤとソーヤからの報告によると〝孤児院〟の男は、私に非常に大きな関心を見せ、私とふたりの魔術師を交換するところまで譲歩したそうだ。
〔最初にメイロードさまの魔法力として今回設定されている2500という値を告げたところから、完全に目の色が変わってましたね〕
〔あの男のメイロードさまの髪を見る目も尋常ではございませんでした。おそらく〝魔術宿る髪〟が、よほど重要なのでございましょう。もちろん、メイロードさまの髪の美しさは、たとえそうでなくとも魅了されずにはいられないお美しさでございますけれど〕
やはり事前の予想通り〝孤児院〟の男は是が非でもハイスペックな魔術師予備軍になる子供を手に入れようとしていたため、何ひとつ疑われることもなく、私の身柄は彼らへと引き渡された。
ここからはひとりでの潜入となる私のため(本当はセーヤもソーヤもいるけどね)、ドール参謀は大変貴重な魔道具を私に貸してくれた。
元の世界風に言えばGPSのようなもので、見た目は小さな人形に偽装し、その中に納められている。
「これはとても古い遺物で《輝鳴玉》というものだ。未だにその構造はまったく解明されていないが、このふたつの球体はお互いの場所を光の強さで教えてくれる。この遺物を身につけていれば、我々は魔法による遮蔽や隠蔽が行われたとしても、確実にメイロードのいる場所へ辿り着ける。この《輝鳴玉》は皇宮の宝物で皇族がたの安否を確認する必要があるときのみ使われる大変貴重な遺物だが、皇帝陛下のご許可を賜り、今回の任務のために使わせていただけることとなった」
きっといまも人形のお腹の中の《輝鳴玉》は光っているだろうが、外からは見えない。そしてもうひとつの《輝鳴玉》は、私の位置を捉え続けて追ってきているだろう。
その日の夕方、フードがついたマントを着せられ、その人形ひとつを胸に抱いた私は、いよいよ〝孤児院〟へ向かう馬車へと乗せられた。
どうやらこの馬車は、夜通し走り続けるらしい。
馬車には魔法がいくつか施されているらしく、走り始めるとケーシンの街はアッっという間に遠ざかり、そのまま夜の帷の中を疾走していった。
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