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4 聖人候補の領地経営
742 熱弁
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742
「本日は私にような若輩者と快く対戦していただき、誠にありがとうございました。感謝の言葉もございません」
私は圧倒的な勝ち方をしたことには一切触れず、極力低姿勢を保ち、ひたすら感謝の弁を述べた。
私のとても勝者とは思えない低姿勢で神妙な態度に、負けたという事実に一瞬フリーズしていた〝院長先生〟もすぐ威厳を取り戻し、ややひきつりながらも笑顔を見せた。
「うむ。メイロードよくやった。素晴らしい戦いぶりであった。よくぞここまでの修行をしたものだ。しかし、まだここへ来て間もなく、上級魔法を習う時間はそうなかったはずのお前が、どうしてこのような高等魔法を使えるのだ?」
(キタキタ! やっぱりそこ、疑問だよね)
この疑問は想定済み。実の所、私はグッケンス博士から今回使用した《巨大地震》をだいぶ前に教えてもらっていた。
(大きな畑を耕すときに便利かな、って思ってね。まぁ実際は強すぎて使えなかったけど……)
だが、それをいうわけにはいかないので、こう言い訳した。
「〝院長先生〟と模擬戦をさせていただけるという栄誉に、私もできる限りの努力をしなければと思い、図書棟へと日参しこの《巨大地震》という魔法に活路を見出しました。幸い私は土系の魔法に適性を持っておりましたので、これであれば必死に修練を積めば拙いながらも勝負になるのではないかと……」
「なんと! この短期間でここまで《巨大地震》を使えるようになったと申すか! これはいよいよ天賦の才であるな……」
「恐れ入ります」
〝孤児院〟側の人たちは、私のありえない習得速度に皆ものすごく驚いていたが、ここに至るまでの私のこの孤児院での破格の成長ぶりを知っているため、この相当無理がある説明にもなんとか納得してくれたようだ。
この最後の魔法で勝負をかけるため、私はまず、自陣の塔を《巨大地震》でも破壊されないところまで固く防御する必要があった。それを完了した後、そこからは《巨大地震》の準備のための刈り込み作業をしばらく行っていったのだ。
この《巨大地震》という魔法は中心を決め、そのあと方向を決めることで円形の範囲に展開する魔法だ。
もちろん私ならば、複数の《巨大地震》を同時に展開することで、複雑な地形であってもあまねくその魔法下に置くことが可能だが、これにはリスクがある。土系振動魔法である《巨大地震》は、魔法同士が干渉してしまう。さらにそれだけでなく、それを発動する場所の地形、地質など様々な要素でその影響範囲や威力が大きく変化してしまうのだ。
事前に競技場でのテストができれば、複数の《巨大地震》を展開したときの影響を考えた魔法を調整することも可能だっただろうが、競技場として設定された場所は孤児院の校庭のような位置関係で、常時人通りがあり、またそこを囲むように寮があるため、無数の窓が見下ろせる場所にあった。
ここで姿を晒さずに《巨大地震》を試すわけにもいかず、かといってどういった影響があるかわからない大地震を起こす魔法を、テストもせずいきなり周囲に子供たちがたくさんいる競技場で使えるわけもない。
(もちろん、周辺に防御魔法で結界は築かれているけれど、それも魔法学校ほどの精度は期待できないだろうし、私の魔法の威力に対してどこまで耐えられるのか、イマイチ信用できなかったんだよね)
そういうわけで、私は複雑な複数魔法の干渉による想定外の事故を避けるため、複数同時展開することはあきらめ、円形の《巨大地震》をひとつだけ展開することにしたのだ。
この《巨大地震》を使った攻撃は一撃で決着をつけられないと、相手に手の内を知られることになり、そこから再び作って壊してを始めたら、ものすごく面倒なことになる。そのために、確実に一度で決着をつけられるよう、私は魔法の影響範囲の外に建てられた〝院長先生〟の塔を、まず魔法で潰していったのだ。
数はいくら増えても同じこと。ともかく、私は自分の魔法に合った形に何食わぬ顔をして刈り込んでいたわけだ。
そして邪魔な塔を一掃したところで《巨大地震》の一撃を加え、敵陣のすべて壊して勝負を決めた。
今回は〝院長先生〟が、自分の魔法力にあぐらをかいた創造性のない魔術師だったからこそ、予測が立てやすく勝てたとも言える。だが、そんなことはおくびにも出してはならない。
「〝院長先生〟の比類なき膨大な魔法力の素晴らしさについては、私もお話をお伺いしておりました。私の能力では、とてもそのお相手は務まりません。そこで、子供ながらになんとか認めていただく方法を考えた末の賭けでございました……」
私は、まるでうまくいったのは〝運が良かっただけのこと〟であるかのように力説し〝院長先生〟の自尊心を満足させることを怠らなかった。周りの先生方も、私の言葉にうなづき、危険な賭けをした私を諌めてきたが、これも計算通りだ。
「申し訳ござません。ですが、私は一日も早く〝聖戦士〟としてお役に立ちたいのでございます。この世界を救う尊き方にお仕えしたいのでございます!」
私のなかなかあざとい演技をしながらの熱弁に〝院長先生〟は深くうなづいた。
「そちの心がけ見事である。そなたならば衆生を救う聖なる剣となれるかもしれぬ……よかろう、そなたを〝聖戦士〟として推挙する。旅の準備をするように、早々に出発だ」
「ありがたき幸せ……」
私は心の中でよしよしとニンマリしながらも、感動に打ち震え俯いた……ような態度をとった。
(これでやっと駒を進められる……いよいよ彼らのボスを拝めるよね!)
「本日は私にような若輩者と快く対戦していただき、誠にありがとうございました。感謝の言葉もございません」
私は圧倒的な勝ち方をしたことには一切触れず、極力低姿勢を保ち、ひたすら感謝の弁を述べた。
私のとても勝者とは思えない低姿勢で神妙な態度に、負けたという事実に一瞬フリーズしていた〝院長先生〟もすぐ威厳を取り戻し、ややひきつりながらも笑顔を見せた。
「うむ。メイロードよくやった。素晴らしい戦いぶりであった。よくぞここまでの修行をしたものだ。しかし、まだここへ来て間もなく、上級魔法を習う時間はそうなかったはずのお前が、どうしてこのような高等魔法を使えるのだ?」
(キタキタ! やっぱりそこ、疑問だよね)
この疑問は想定済み。実の所、私はグッケンス博士から今回使用した《巨大地震》をだいぶ前に教えてもらっていた。
(大きな畑を耕すときに便利かな、って思ってね。まぁ実際は強すぎて使えなかったけど……)
だが、それをいうわけにはいかないので、こう言い訳した。
「〝院長先生〟と模擬戦をさせていただけるという栄誉に、私もできる限りの努力をしなければと思い、図書棟へと日参しこの《巨大地震》という魔法に活路を見出しました。幸い私は土系の魔法に適性を持っておりましたので、これであれば必死に修練を積めば拙いながらも勝負になるのではないかと……」
「なんと! この短期間でここまで《巨大地震》を使えるようになったと申すか! これはいよいよ天賦の才であるな……」
「恐れ入ります」
〝孤児院〟側の人たちは、私のありえない習得速度に皆ものすごく驚いていたが、ここに至るまでの私のこの孤児院での破格の成長ぶりを知っているため、この相当無理がある説明にもなんとか納得してくれたようだ。
この最後の魔法で勝負をかけるため、私はまず、自陣の塔を《巨大地震》でも破壊されないところまで固く防御する必要があった。それを完了した後、そこからは《巨大地震》の準備のための刈り込み作業をしばらく行っていったのだ。
この《巨大地震》という魔法は中心を決め、そのあと方向を決めることで円形の範囲に展開する魔法だ。
もちろん私ならば、複数の《巨大地震》を同時に展開することで、複雑な地形であってもあまねくその魔法下に置くことが可能だが、これにはリスクがある。土系振動魔法である《巨大地震》は、魔法同士が干渉してしまう。さらにそれだけでなく、それを発動する場所の地形、地質など様々な要素でその影響範囲や威力が大きく変化してしまうのだ。
事前に競技場でのテストができれば、複数の《巨大地震》を展開したときの影響を考えた魔法を調整することも可能だっただろうが、競技場として設定された場所は孤児院の校庭のような位置関係で、常時人通りがあり、またそこを囲むように寮があるため、無数の窓が見下ろせる場所にあった。
ここで姿を晒さずに《巨大地震》を試すわけにもいかず、かといってどういった影響があるかわからない大地震を起こす魔法を、テストもせずいきなり周囲に子供たちがたくさんいる競技場で使えるわけもない。
(もちろん、周辺に防御魔法で結界は築かれているけれど、それも魔法学校ほどの精度は期待できないだろうし、私の魔法の威力に対してどこまで耐えられるのか、イマイチ信用できなかったんだよね)
そういうわけで、私は複雑な複数魔法の干渉による想定外の事故を避けるため、複数同時展開することはあきらめ、円形の《巨大地震》をひとつだけ展開することにしたのだ。
この《巨大地震》を使った攻撃は一撃で決着をつけられないと、相手に手の内を知られることになり、そこから再び作って壊してを始めたら、ものすごく面倒なことになる。そのために、確実に一度で決着をつけられるよう、私は魔法の影響範囲の外に建てられた〝院長先生〟の塔を、まず魔法で潰していったのだ。
数はいくら増えても同じこと。ともかく、私は自分の魔法に合った形に何食わぬ顔をして刈り込んでいたわけだ。
そして邪魔な塔を一掃したところで《巨大地震》の一撃を加え、敵陣のすべて壊して勝負を決めた。
今回は〝院長先生〟が、自分の魔法力にあぐらをかいた創造性のない魔術師だったからこそ、予測が立てやすく勝てたとも言える。だが、そんなことはおくびにも出してはならない。
「〝院長先生〟の比類なき膨大な魔法力の素晴らしさについては、私もお話をお伺いしておりました。私の能力では、とてもそのお相手は務まりません。そこで、子供ながらになんとか認めていただく方法を考えた末の賭けでございました……」
私は、まるでうまくいったのは〝運が良かっただけのこと〟であるかのように力説し〝院長先生〟の自尊心を満足させることを怠らなかった。周りの先生方も、私の言葉にうなづき、危険な賭けをした私を諌めてきたが、これも計算通りだ。
「申し訳ござません。ですが、私は一日も早く〝聖戦士〟としてお役に立ちたいのでございます。この世界を救う尊き方にお仕えしたいのでございます!」
私のなかなかあざとい演技をしながらの熱弁に〝院長先生〟は深くうなづいた。
「そちの心がけ見事である。そなたならば衆生を救う聖なる剣となれるかもしれぬ……よかろう、そなたを〝聖戦士〟として推挙する。旅の準備をするように、早々に出発だ」
「ありがたき幸せ……」
私は心の中でよしよしとニンマリしながらも、感動に打ち震え俯いた……ような態度をとった。
(これでやっと駒を進められる……いよいよ彼らのボスを拝めるよね!)
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