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4 聖人候補の領地経営
759 八組のメンバーとの再会
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759
「メイロードさまーー!!」
ノルエリアさんは再会した私にいきなり抱きついてきた。この子のテンションはいつもこうなのでもう慣れたが、背の低い私は若干押しつぶされ気味になるので、苦しいことは苦しい。
「久しぶりね。みんなあれから元気にしている?」
ここはロームバルト王国内の一時滞在所として用意された施設のひとつだ。この場所には魔法力の高い子供たちが主に集められており、当然〝孤児院〟トップだったソルトーニ君やノルエリアさんたちもここにいる。
この元八組だった子たちは、すでにほぼアーティファクトの影響から抜けていたため、この施設内でも特別な存在になっている。ともかく協力的な上、他の子供たちからの尊敬を集めている彼らがいることで、心配されていた暴走行為や洗脳から脱する過程での反抗的な行動なども抑えられ、調査も順調に進んでいるという。
「みんな他の子たちをうまくまとめてくれていると聞いているわ。ありがとう」
私の言葉にソルトーニ君がとんでもないという表情で手と首を振る。
「何を言われるのですか。メイロード様がいらっしゃらなかったら、私たちはどうなっていたと思われますか? 間違いなく、行きたくもない戦場で朽ち果てるか、もしくは捕まって死刑か……あなたさまはそんな救いのない運命から私たちを救ってくださったのですよ」
「そうですわ。その通りです! ここで私たちにできることは、まだ混乱の中にいる皆さんを正常へと戻すお手伝いをすることぐらいですもの。私たちの救出にご尽力いただいた方々のお手伝いをすることは当然でございますし、何よりメイロードさまに恥をかかせるようなことはできませんから」
以前よりずっと落ち着いた服装になったノルエリアさんは落ち着いた笑顔で、仲間と私にそう言った。他の子たちもその言葉に大きく頷いている。
すでにこのメンバーはその出自も明らかとなり、親元にも連絡が届いているそうだ。
ソルトーニ君の本当の名前はヴィスコ・ソルトーニという。シドでも有名な多くの学者を輩出する名門家系の子供だったそうだ。ノルエリアさんは残念ながら貴族の家の生まれではなかったが、かなり羽振りの良い商家のお嬢様だったそうだ。
「でもワタクシ、自分を貴族だと信じておりましたでしょう? いまさら商家の娘だといわれてもどうもピンときませんの」
少し困ったような笑顔でそう言うノルエリアさんの姿に、私は返す言葉が見つからなかった。
彼らの戸惑いは当然で、幼い頃から十年近くをある意味別人となるよう記憶操作されて生きてきているのだから、たとえ過去の記憶が戻ってきたとしても、いまの自分との齟齬はどうしても付きまとう。
他の三人も同様のようで、見つかった家族との関係修復は簡単にはいかなそうな気配だ。
「まぁ、どちらにしても我々は魔術師への道を進むしかありませんから、このままロームバルトかシドのどちらかの魔法学校へ入ることになるでしょう。いまとなってはそのほうがいいのかもしれません……」
ソルトーニ君が少し悲しげな表情で、わたしに微笑みかける。
彼らは魔法力も魔法の熟練度も申し分ない国家魔術師候補生だ。それが明らかになっている以上、どこの国へ帰ったとしても、魔法学校へ進む道以外は与えられない。そのことを彼らはもう知っていた。ちょうど十五歳を迎えている四人は、すでに魔術師選別も受けたそうだ。
学者の道へ進みたいソルトーニ君にとってはあまり嬉しくないことだろうけれど、他の子たちはその道に進むことを納得しているようで、以前よりずっと自由に勉強できる学校生活に希望を持っていると話してくれた。
「魔法学校にはたくさん貴族の方々がいらっしゃるんでしょう? 私の美貌と魔法力がありましたら、あっという間に貴族の婚約者ができますわ、きっと! 楽しみですわ」
どうやらノルエリアさんは、なかなか面白い魔法学校生活を送りそうだ。
「どちらにしても、入学前にご家族との時間を作ってくれるようお願いしてあるから、まずは失われてしまった過去を少しでも取り戻して、新たな気持ちで、本当の名前で前に進んでね」
「ありがとうございます」
四人は最後まで笑顔でそう言ってくれた。これ以上彼らのためにしてあげられることはないけれど、彼らの新しい学生生活がいいものであるよう祈ろう。
そのあとは、他の上位組の子たちとも話してみたが、やはり彼らもすでに魔法学校への進学が不可避であることに納得していた。ただ、まだその学齢に達していない子供たちは、一旦家に戻された後、それぞれの選択をすることになるだろう。
魔法学校は、この上位二割の中で近親者が見つからなかったり、様々な事情で帰れない状況になった子供たちのために、特別寄宿制度を設けることを決めている。彼らは衣食住が保障され教育も受けられる環境で、十五歳の魔術師選別まで暮らし、その後正式に魔法学校へ入学する。魔術師獲得のためには、あらゆる手段を講じてくれるというわけだ。
(でも、中間層の子供たちの受け入れ先は、まだ未確定なんだよね……早く決めてあげなくちゃね)
「メイロードさまーー!!」
ノルエリアさんは再会した私にいきなり抱きついてきた。この子のテンションはいつもこうなのでもう慣れたが、背の低い私は若干押しつぶされ気味になるので、苦しいことは苦しい。
「久しぶりね。みんなあれから元気にしている?」
ここはロームバルト王国内の一時滞在所として用意された施設のひとつだ。この場所には魔法力の高い子供たちが主に集められており、当然〝孤児院〟トップだったソルトーニ君やノルエリアさんたちもここにいる。
この元八組だった子たちは、すでにほぼアーティファクトの影響から抜けていたため、この施設内でも特別な存在になっている。ともかく協力的な上、他の子供たちからの尊敬を集めている彼らがいることで、心配されていた暴走行為や洗脳から脱する過程での反抗的な行動なども抑えられ、調査も順調に進んでいるという。
「みんな他の子たちをうまくまとめてくれていると聞いているわ。ありがとう」
私の言葉にソルトーニ君がとんでもないという表情で手と首を振る。
「何を言われるのですか。メイロード様がいらっしゃらなかったら、私たちはどうなっていたと思われますか? 間違いなく、行きたくもない戦場で朽ち果てるか、もしくは捕まって死刑か……あなたさまはそんな救いのない運命から私たちを救ってくださったのですよ」
「そうですわ。その通りです! ここで私たちにできることは、まだ混乱の中にいる皆さんを正常へと戻すお手伝いをすることぐらいですもの。私たちの救出にご尽力いただいた方々のお手伝いをすることは当然でございますし、何よりメイロードさまに恥をかかせるようなことはできませんから」
以前よりずっと落ち着いた服装になったノルエリアさんは落ち着いた笑顔で、仲間と私にそう言った。他の子たちもその言葉に大きく頷いている。
すでにこのメンバーはその出自も明らかとなり、親元にも連絡が届いているそうだ。
ソルトーニ君の本当の名前はヴィスコ・ソルトーニという。シドでも有名な多くの学者を輩出する名門家系の子供だったそうだ。ノルエリアさんは残念ながら貴族の家の生まれではなかったが、かなり羽振りの良い商家のお嬢様だったそうだ。
「でもワタクシ、自分を貴族だと信じておりましたでしょう? いまさら商家の娘だといわれてもどうもピンときませんの」
少し困ったような笑顔でそう言うノルエリアさんの姿に、私は返す言葉が見つからなかった。
彼らの戸惑いは当然で、幼い頃から十年近くをある意味別人となるよう記憶操作されて生きてきているのだから、たとえ過去の記憶が戻ってきたとしても、いまの自分との齟齬はどうしても付きまとう。
他の三人も同様のようで、見つかった家族との関係修復は簡単にはいかなそうな気配だ。
「まぁ、どちらにしても我々は魔術師への道を進むしかありませんから、このままロームバルトかシドのどちらかの魔法学校へ入ることになるでしょう。いまとなってはそのほうがいいのかもしれません……」
ソルトーニ君が少し悲しげな表情で、わたしに微笑みかける。
彼らは魔法力も魔法の熟練度も申し分ない国家魔術師候補生だ。それが明らかになっている以上、どこの国へ帰ったとしても、魔法学校へ進む道以外は与えられない。そのことを彼らはもう知っていた。ちょうど十五歳を迎えている四人は、すでに魔術師選別も受けたそうだ。
学者の道へ進みたいソルトーニ君にとってはあまり嬉しくないことだろうけれど、他の子たちはその道に進むことを納得しているようで、以前よりずっと自由に勉強できる学校生活に希望を持っていると話してくれた。
「魔法学校にはたくさん貴族の方々がいらっしゃるんでしょう? 私の美貌と魔法力がありましたら、あっという間に貴族の婚約者ができますわ、きっと! 楽しみですわ」
どうやらノルエリアさんは、なかなか面白い魔法学校生活を送りそうだ。
「どちらにしても、入学前にご家族との時間を作ってくれるようお願いしてあるから、まずは失われてしまった過去を少しでも取り戻して、新たな気持ちで、本当の名前で前に進んでね」
「ありがとうございます」
四人は最後まで笑顔でそう言ってくれた。これ以上彼らのためにしてあげられることはないけれど、彼らの新しい学生生活がいいものであるよう祈ろう。
そのあとは、他の上位組の子たちとも話してみたが、やはり彼らもすでに魔法学校への進学が不可避であることに納得していた。ただ、まだその学齢に達していない子供たちは、一旦家に戻された後、それぞれの選択をすることになるだろう。
魔法学校は、この上位二割の中で近親者が見つからなかったり、様々な事情で帰れない状況になった子供たちのために、特別寄宿制度を設けることを決めている。彼らは衣食住が保障され教育も受けられる環境で、十五歳の魔術師選別まで暮らし、その後正式に魔法学校へ入学する。魔術師獲得のためには、あらゆる手段を講じてくれるというわけだ。
(でも、中間層の子供たちの受け入れ先は、まだ未確定なんだよね……早く決めてあげなくちゃね)
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