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4 聖人候補の領地経営
758 グッケンス博士にご相談
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758
「なぜ〝魔術師ギルド〟の下部組織なのだ? 職業としての確立というなら独立した組織を作り上げれば良かろう」
「それも考えましたが、〝魔法屋〟の独自ギルド設立はまだ時期尚早かと思います。それに〝魔術師ギルド〟との連携がある方が〝魔法屋ギルド〟としては利点が多いんですよ」
「なるほどな……様子を見ながら仕事の住み分けを進めて敵対しない関係を維持しながら。同時に魔術師との接点も残しておきたいというわけだ」
現在の魔法屋は隙間産業なようなニッチな仕事だ。実際問題、技術ということに関しては、魔法使いにできなくて〝魔法屋〟だけにできるということは少ない。〝魔法屋〟のメリットは安くて早いことにつきると多くの人は考えているし、個々の技術水準がまちまちということもあり、信頼性も低く見積もられている。
以前イスの魔法屋エミに伝授した《パーフェクト・バニッシュ》のように、独自のウリのある魔法屋はほとんどないし、エミは魔法学校で基礎を学んだ本格派で、魔法力量だけでなく技術水準も魔法使いとさして変わらないほど高かったので例外的だ。
となると、魔法使いが受けたがらないような仕事が魔法屋の仕事ということになる。だがその棲み分けは曖昧なので、仕事の範囲をある程度明確にし、トラブルを避けるためにも、ギルド間の連携が不可欠だと思われた。仮にこれから魔法屋の技術水準が上がれば、さらに必要になるだろう。
「ええ、現状の〝魔法屋〟には魔法使いには頼めないから仕方なく利用されているという側面があります。できる仕事も不確定で技術もピンキリなので、信用度はどうしても低くなってしまいます。そして信用度が低いから、値段もあまり取れないという人が大多数なんです。これでは、仕事として確立したものにはなり得ません」
そもそもギルドの名前が戦闘系の技量の高い魔法使いの総称である〝魔術師〟を使っていることからもわかるように、魔法使いへの依頼は魔物の討伐やダンジョン攻略、商団警備や要人保護など攻撃的な魔法が求められる依頼が多い。もちろんそれ以外の依頼も多く寄せられるのだが、ぶっちゃけていえば、そうした戦闘系の依頼の方がお金になるのでそちらが優先されるのだ。
お金にならない魔法使いには人気のない仕事はなかなか依頼が達成されず、宙に浮いてしまいがちになり、それはギルドの悩みでもあるのだ。
「なるほど……〝魔術師ギルド〟で塩漬けになりがちな仕事を〝魔法屋ギルド〟の〝仕事〟としてやらせたいわけだな」
「はい。〝魔術師ギルド〟ではなかなか請け負う人が現れないような仕事でも、技術のある〝魔法屋〟なら喜んで請け負うでしょう。お互いのギルドにいいことだと思いませんか?」
グッケンス博士はラム酒の効いたパウンドケーキを食べて目を細め、何度か頷いている。なかなかお気に入りのようだ。その横でソーヤはこのずっしりとしたケーキを丸々一本持って幸せそうに一気食いしているが、まぁ、それはいつものことなので放っておく。
ケーキを食べる手を止めた博士は、ちらっと私の方を見た。
「で、それと〝孤児院〟の子供たちとの関係はどうなる? あの子たちを、その〝魔法屋ギルド〟で抱えろと?」
私は玄米茶の湯呑みをそろそろと持ち上げながら、そうではないと笑った。
「まさか、そこまで押し付けるつもりはありませんよ。逆に、彼らには職業としての〝魔法屋〟確立のための人材になってもらおうと思っているんです」
「どういうことだ?」
「学校です! 〝魔法屋〟専門学校! そこで資格を取得してもらい、一定水準の技術を保障するシステムを作ります」
「お前さんは面白いことを考えるのぉ……」
博士は何だか楽しそうな様子で二杯目のコーヒーを啜った。
「これについては、サイデム商会とサガン・サイデム男爵個人も資金提供を申し出てくれています。私も出資しますよ。〝魔法屋〟に仕事を依頼することはサイデム商会でもよくあるそうで、技術水準が保障された魔法屋が増えることは、サイデム商会にとっても商いの街イスにとっても望ましいそうです。さらにサイデム男爵としては、貴族の義務として気の毒な立場にある子供たちの救済のために助力したいそうですよ」
「なるほどな……男爵ともなると、サイデムも気を使うものじゃの」
貴族というのは、こういった寄付や寄進をすることで自分の名声をあげる行為を定期的にするものなのだそうだ。ちょうどいいので、ガッツリ資金提供してもらうことにした。おじさまはお金持ちなので、遠慮はしない。
「お前は出資をするだけなのか、メイロード?」
さすがにグッケンス博士は、私が資金だけ出すとは思っていないようだ。
たしかに〝専門学校〟なんていう考え方や組織のついて、この世界の人は知らないわけで、ある程度私がコミットしなければ迅速に話を進めることは難しいだろう。
「表に出るつもりはありませんが、設立に関してはある程度口を出さざるを得ないでしょうね。あ、博士には名誉顧問の役を振りますからね!」
「おいおい……」
博士は困り顔だが、これぐらいの箔付けは欲しいところなので、覚悟してもらおう。とはいっても、名誉顧問なんて、名前だけでいいのだから安心してもらっていいのだけれど……
ともかく方針は決まった。
あとは気になるあの子たちと少し話をして、本格的に〝魔法屋専門学校〟設立に向けて動くぞ!
「なぜ〝魔術師ギルド〟の下部組織なのだ? 職業としての確立というなら独立した組織を作り上げれば良かろう」
「それも考えましたが、〝魔法屋〟の独自ギルド設立はまだ時期尚早かと思います。それに〝魔術師ギルド〟との連携がある方が〝魔法屋ギルド〟としては利点が多いんですよ」
「なるほどな……様子を見ながら仕事の住み分けを進めて敵対しない関係を維持しながら。同時に魔術師との接点も残しておきたいというわけだ」
現在の魔法屋は隙間産業なようなニッチな仕事だ。実際問題、技術ということに関しては、魔法使いにできなくて〝魔法屋〟だけにできるということは少ない。〝魔法屋〟のメリットは安くて早いことにつきると多くの人は考えているし、個々の技術水準がまちまちということもあり、信頼性も低く見積もられている。
以前イスの魔法屋エミに伝授した《パーフェクト・バニッシュ》のように、独自のウリのある魔法屋はほとんどないし、エミは魔法学校で基礎を学んだ本格派で、魔法力量だけでなく技術水準も魔法使いとさして変わらないほど高かったので例外的だ。
となると、魔法使いが受けたがらないような仕事が魔法屋の仕事ということになる。だがその棲み分けは曖昧なので、仕事の範囲をある程度明確にし、トラブルを避けるためにも、ギルド間の連携が不可欠だと思われた。仮にこれから魔法屋の技術水準が上がれば、さらに必要になるだろう。
「ええ、現状の〝魔法屋〟には魔法使いには頼めないから仕方なく利用されているという側面があります。できる仕事も不確定で技術もピンキリなので、信用度はどうしても低くなってしまいます。そして信用度が低いから、値段もあまり取れないという人が大多数なんです。これでは、仕事として確立したものにはなり得ません」
そもそもギルドの名前が戦闘系の技量の高い魔法使いの総称である〝魔術師〟を使っていることからもわかるように、魔法使いへの依頼は魔物の討伐やダンジョン攻略、商団警備や要人保護など攻撃的な魔法が求められる依頼が多い。もちろんそれ以外の依頼も多く寄せられるのだが、ぶっちゃけていえば、そうした戦闘系の依頼の方がお金になるのでそちらが優先されるのだ。
お金にならない魔法使いには人気のない仕事はなかなか依頼が達成されず、宙に浮いてしまいがちになり、それはギルドの悩みでもあるのだ。
「なるほど……〝魔術師ギルド〟で塩漬けになりがちな仕事を〝魔法屋ギルド〟の〝仕事〟としてやらせたいわけだな」
「はい。〝魔術師ギルド〟ではなかなか請け負う人が現れないような仕事でも、技術のある〝魔法屋〟なら喜んで請け負うでしょう。お互いのギルドにいいことだと思いませんか?」
グッケンス博士はラム酒の効いたパウンドケーキを食べて目を細め、何度か頷いている。なかなかお気に入りのようだ。その横でソーヤはこのずっしりとしたケーキを丸々一本持って幸せそうに一気食いしているが、まぁ、それはいつものことなので放っておく。
ケーキを食べる手を止めた博士は、ちらっと私の方を見た。
「で、それと〝孤児院〟の子供たちとの関係はどうなる? あの子たちを、その〝魔法屋ギルド〟で抱えろと?」
私は玄米茶の湯呑みをそろそろと持ち上げながら、そうではないと笑った。
「まさか、そこまで押し付けるつもりはありませんよ。逆に、彼らには職業としての〝魔法屋〟確立のための人材になってもらおうと思っているんです」
「どういうことだ?」
「学校です! 〝魔法屋〟専門学校! そこで資格を取得してもらい、一定水準の技術を保障するシステムを作ります」
「お前さんは面白いことを考えるのぉ……」
博士は何だか楽しそうな様子で二杯目のコーヒーを啜った。
「これについては、サイデム商会とサガン・サイデム男爵個人も資金提供を申し出てくれています。私も出資しますよ。〝魔法屋〟に仕事を依頼することはサイデム商会でもよくあるそうで、技術水準が保障された魔法屋が増えることは、サイデム商会にとっても商いの街イスにとっても望ましいそうです。さらにサイデム男爵としては、貴族の義務として気の毒な立場にある子供たちの救済のために助力したいそうですよ」
「なるほどな……男爵ともなると、サイデムも気を使うものじゃの」
貴族というのは、こういった寄付や寄進をすることで自分の名声をあげる行為を定期的にするものなのだそうだ。ちょうどいいので、ガッツリ資金提供してもらうことにした。おじさまはお金持ちなので、遠慮はしない。
「お前は出資をするだけなのか、メイロード?」
さすがにグッケンス博士は、私が資金だけ出すとは思っていないようだ。
たしかに〝専門学校〟なんていう考え方や組織のついて、この世界の人は知らないわけで、ある程度私がコミットしなければ迅速に話を進めることは難しいだろう。
「表に出るつもりはありませんが、設立に関してはある程度口を出さざるを得ないでしょうね。あ、博士には名誉顧問の役を振りますからね!」
「おいおい……」
博士は困り顔だが、これぐらいの箔付けは欲しいところなので、覚悟してもらおう。とはいっても、名誉顧問なんて、名前だけでいいのだから安心してもらっていいのだけれど……
ともかく方針は決まった。
あとは気になるあの子たちと少し話をして、本格的に〝魔法屋専門学校〟設立に向けて動くぞ!
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