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4 聖人候補の領地経営
766 コラボ商品
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メイロードが企画し、領地の女性たちのいい内職として定着させたシュシュは、サイデム商会の独占で販売を開始し、高貴な女性たちの圧倒的な支持を得た。メイロードの人脈を通じて手に入れた上質な生地の端切れを素材に使用したこのシュシュは、ルミナーレ侯爵夫人を広告塔に一気に貴族社会へと広まっていったのだ。
この流行もまた大いにドール公爵家の名を上げ、ルミナーレ様の社交界での評価もさらに高くなった。
いまでは、それを真似た製品が市中にも多く出回り始め、貴族だけでなく街の女性たちの間でも人気のファッションアイテムになっている。そして、その中でもやはり〝マリス領〟ブランドのシュシュの人気は絶大で、大切な人への贈り物や婚礼の髪飾りとして、常に品薄が続く高級髪飾りとして、マリス領にも大きな収入をもたらしてくれている。
社交界でもその愛用者は多く、サイデム商会を通じて時折発表される新作の〝マリス領〟ブランドのシュシュは、そのたびに貴族の女性たちによる争奪戦が行われ、さまざまな夜会で話題となり、高貴な女性たちを髪を彩っている。
そして今日ルミナーレ侯爵夫人が身につけているのは、未発表の新作、しかも高級宝飾店とのコラボモデルなのだった。
「さすがはシュシュの流行を生み出されたルミナーレ様ですわ。なんてお美しい!」
「これは未発表の特注品ですわね。どこでも見たことがございませんもの!」
「この繊細な細工……さすがはマルニール工房ですわね。なんて素敵なのでしょう!」
「アリーシア様のシュシュにも、やはり香玉が? まぁ、なんて素晴らしい香り!」
女性たちの話を総合すると、ルミナーレ侯爵夫人の身に着けているシュシュには飾り加工がしてあり、それはパレスでも有名な香玉を使ったアクセサリー専門店〝パレス・フロレンシア〟の特注品ということらしかった。
たしかにそれを身に着けたふたりが動くたびに、上品な香りがふわりと立ち上り、その存在感と華やかさを高めるという実に優雅な髪飾りだ。
ルミナーレ侯爵夫人は百合の意匠が施された、アリーシア嬢は薔薇の意匠が施された飾りがチェーン状にシュシュに巻きつけられており、それに〝風の魔石〟と香玉も上手に組み込まれている。
(これは……見れば見るほど素晴らしい。ドール侯爵はあの皇宮御用達の名店〝パレス・フロレンシア〟を動かせるのか)
客が多すぎるという理由で、いまでは紹介のある少数の予約客以外入店すらできなくなっているパレス屈指の名店に、こうしてオリジナルの新作を発注できるドール侯爵家に人々の羨望が集まるのは当然だった。
マーゴット伯爵は、またも溝を開けられた悔しさを笑顔で覆い隠し、盛大に侯爵夫人と令嬢を褒め称えた。
「実に、実に素晴らしい芳醇な香り、そして見事な細工の飾りでございますな。社交界の大輪の花であられる侯爵夫人に相応しい髪飾りです!
お嬢様もまさに薔薇の美しさを体現なさったような可憐さだ。天上の花もかくやというお姿です!」
こうした称賛の声は、拍手と同じようなもので、聞き流していい言葉だ。返事をするかどうかは立場が上の者の気分次第なので、地位が高い人物に許可なく話しかけてはならないという社交会のルールには抵触しない。
それをいいことに、こうやってどこにでもズカズカ踏み込んでいくのがマーゴット伯爵なのだが、長年社交界で培ったバランス感覚と人あたりのいい笑顔のおかげか、この貴公子は不思議と(特に女性には)嫌われない。
ルミナーレ侯爵夫人は、マーゴット伯爵からの称賛の声にも嫣然と微笑まれているだけだが、アリーシア嬢は、男性からの手放しの賞賛にだいぶ気分を良くしているようだ。
「ありがとう、マーゴット伯爵。この指輪も〝パレス・フロレンシア〟のものなの。実はこれ、〝パレス・フロレンシア〟の最初の作品なのよ。すごいでしょう?」
あちらから話しかけてくれればこちらのものだとばかりに、マーゴット伯爵は大げさに驚いてみせる。
「おお、そうでございましたか。あの名店とそれほど以前からお付き合いをされているとは、さすがはドール侯爵様、実に先見の明がおありだ。それでこのような特注品も依頼できるのでございますね」
「当然だわ。私はメイロードのお友だちだもの」
(メイロード?)
「アリーシア、皇子様方がご到着ですよ」
そこで、会話は途切れ、おふたりは取り巻きとともに移動してしまった。
(メイロード……たしかに聞いた名だが……どこのメイロードだ?)
そこでマーゴット伯爵は、社交界の生き字引と言われているオドレイ子爵の姿を慌てて探した。
オドレイ子爵家は、家業として貴族のいわゆる〝紳士録〟と呼ばれる、現在の貴族の家系の状況やその地位について記した書物を編纂しており、貴族に関してならば、最も情報通だ。オドレイ子爵は自分の家の仕事に忠実で寡黙な人物であり、饒舌に知識を語ったりはしない。必ずと言っていいほど顔を出すどんなパーティーでも、じっと人々を観察しているだけだ。
だが、マーゴット伯爵は、彼らの仕事を大いに尊敬しているとして、その編纂のため莫大な協力金を何かにつけて寄付している。そのおかげで、オドレイ子爵は、マーゴット伯爵には協力的なのだ。
「オドレイ子爵。メイロードという名で記憶にある人物はいるか? 〝パレス・フロレンシア〟と関わりがあるらしい」
度の強いメガネをした小柄な中年男性は、手にしていたグラスのジュースを回しながら、上目遣いにマーゴット伯爵を見た。
「唐突ですな、マーゴット伯爵様……メイロードという名の女性は大変多くいらっしゃいますが〝パレス・フロレンシア〟と関わりがあるとすれば、メイロード・マリス女伯爵様でございましょう」
メイロードが企画し、領地の女性たちのいい内職として定着させたシュシュは、サイデム商会の独占で販売を開始し、高貴な女性たちの圧倒的な支持を得た。メイロードの人脈を通じて手に入れた上質な生地の端切れを素材に使用したこのシュシュは、ルミナーレ侯爵夫人を広告塔に一気に貴族社会へと広まっていったのだ。
この流行もまた大いにドール公爵家の名を上げ、ルミナーレ様の社交界での評価もさらに高くなった。
いまでは、それを真似た製品が市中にも多く出回り始め、貴族だけでなく街の女性たちの間でも人気のファッションアイテムになっている。そして、その中でもやはり〝マリス領〟ブランドのシュシュの人気は絶大で、大切な人への贈り物や婚礼の髪飾りとして、常に品薄が続く高級髪飾りとして、マリス領にも大きな収入をもたらしてくれている。
社交界でもその愛用者は多く、サイデム商会を通じて時折発表される新作の〝マリス領〟ブランドのシュシュは、そのたびに貴族の女性たちによる争奪戦が行われ、さまざまな夜会で話題となり、高貴な女性たちを髪を彩っている。
そして今日ルミナーレ侯爵夫人が身につけているのは、未発表の新作、しかも高級宝飾店とのコラボモデルなのだった。
「さすがはシュシュの流行を生み出されたルミナーレ様ですわ。なんてお美しい!」
「これは未発表の特注品ですわね。どこでも見たことがございませんもの!」
「この繊細な細工……さすがはマルニール工房ですわね。なんて素敵なのでしょう!」
「アリーシア様のシュシュにも、やはり香玉が? まぁ、なんて素晴らしい香り!」
女性たちの話を総合すると、ルミナーレ侯爵夫人の身に着けているシュシュには飾り加工がしてあり、それはパレスでも有名な香玉を使ったアクセサリー専門店〝パレス・フロレンシア〟の特注品ということらしかった。
たしかにそれを身に着けたふたりが動くたびに、上品な香りがふわりと立ち上り、その存在感と華やかさを高めるという実に優雅な髪飾りだ。
ルミナーレ侯爵夫人は百合の意匠が施された、アリーシア嬢は薔薇の意匠が施された飾りがチェーン状にシュシュに巻きつけられており、それに〝風の魔石〟と香玉も上手に組み込まれている。
(これは……見れば見るほど素晴らしい。ドール侯爵はあの皇宮御用達の名店〝パレス・フロレンシア〟を動かせるのか)
客が多すぎるという理由で、いまでは紹介のある少数の予約客以外入店すらできなくなっているパレス屈指の名店に、こうしてオリジナルの新作を発注できるドール侯爵家に人々の羨望が集まるのは当然だった。
マーゴット伯爵は、またも溝を開けられた悔しさを笑顔で覆い隠し、盛大に侯爵夫人と令嬢を褒め称えた。
「実に、実に素晴らしい芳醇な香り、そして見事な細工の飾りでございますな。社交界の大輪の花であられる侯爵夫人に相応しい髪飾りです!
お嬢様もまさに薔薇の美しさを体現なさったような可憐さだ。天上の花もかくやというお姿です!」
こうした称賛の声は、拍手と同じようなもので、聞き流していい言葉だ。返事をするかどうかは立場が上の者の気分次第なので、地位が高い人物に許可なく話しかけてはならないという社交会のルールには抵触しない。
それをいいことに、こうやってどこにでもズカズカ踏み込んでいくのがマーゴット伯爵なのだが、長年社交界で培ったバランス感覚と人あたりのいい笑顔のおかげか、この貴公子は不思議と(特に女性には)嫌われない。
ルミナーレ侯爵夫人は、マーゴット伯爵からの称賛の声にも嫣然と微笑まれているだけだが、アリーシア嬢は、男性からの手放しの賞賛にだいぶ気分を良くしているようだ。
「ありがとう、マーゴット伯爵。この指輪も〝パレス・フロレンシア〟のものなの。実はこれ、〝パレス・フロレンシア〟の最初の作品なのよ。すごいでしょう?」
あちらから話しかけてくれればこちらのものだとばかりに、マーゴット伯爵は大げさに驚いてみせる。
「おお、そうでございましたか。あの名店とそれほど以前からお付き合いをされているとは、さすがはドール侯爵様、実に先見の明がおありだ。それでこのような特注品も依頼できるのでございますね」
「当然だわ。私はメイロードのお友だちだもの」
(メイロード?)
「アリーシア、皇子様方がご到着ですよ」
そこで、会話は途切れ、おふたりは取り巻きとともに移動してしまった。
(メイロード……たしかに聞いた名だが……どこのメイロードだ?)
そこでマーゴット伯爵は、社交界の生き字引と言われているオドレイ子爵の姿を慌てて探した。
オドレイ子爵家は、家業として貴族のいわゆる〝紳士録〟と呼ばれる、現在の貴族の家系の状況やその地位について記した書物を編纂しており、貴族に関してならば、最も情報通だ。オドレイ子爵は自分の家の仕事に忠実で寡黙な人物であり、饒舌に知識を語ったりはしない。必ずと言っていいほど顔を出すどんなパーティーでも、じっと人々を観察しているだけだ。
だが、マーゴット伯爵は、彼らの仕事を大いに尊敬しているとして、その編纂のため莫大な協力金を何かにつけて寄付している。そのおかげで、オドレイ子爵は、マーゴット伯爵には協力的なのだ。
「オドレイ子爵。メイロードという名で記憶にある人物はいるか? 〝パレス・フロレンシア〟と関わりがあるらしい」
度の強いメガネをした小柄な中年男性は、手にしていたグラスのジュースを回しながら、上目遣いにマーゴット伯爵を見た。
「唐突ですな、マーゴット伯爵様……メイロードという名の女性は大変多くいらっしゃいますが〝パレス・フロレンシア〟と関わりがあるとすれば、メイロード・マリス女伯爵様でございましょう」
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