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4 聖人候補の領地経営
799 談笑
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799
ルミナーレ様とお嬢様方は、時間通りにレストランへと現れた。おじさまのお仕事は時間通りにきっちり終わるとは限らないので、私にはそれまでの場を繋ぐというミッションもあるのだ。
(ルミナーレ様とも面識があり、おじさまやサイデム商会についての知識もあって、しかも貴族のお嬢様方と対等の立場で接待できる人材なんて、イスではすぐに見つけられないからね。これは私がやるしかないよ)
「おはよう、メイロード」
機嫌良く私に声をかけてくださる侯爵夫人に私も笑顔で礼を取る。
「おはようございます、ルミナーレ様。皆様も良くお休みになれましたでしょうか?」
私はお嬢様方の様子を見る。みなさん体調は良さそうだ。
「ええ、眠りに良いというお茶をありがとうございました。おかげさまでよく休むことができましたわ」
笑顔を向ける私に、お嬢様方も笑顔で返してくれる。どうやら私とお嬢様方との関係は良好のようだ。昨晩差し入れしたハーブティーはいい仕事をしてくれたらしい。
(おじさまと結婚なされば、私は小姑的なポジションになるかもしれないので、なるべく好感度は上げておきたいんだよね。仕事がしにくくなったら困るし)
「それはなによりでした。もうすぐおじさまも到着されると思いますので、どうぞお席でお待ちくださいませ」
そこからは、お茶と小さなお菓子を用意してお話の時間だ。
「そうでございますか。メイロードさまはサイデム様のご親友の御息女でいらっしゃったのでございますね」
「はい。その親友、つまり私の父であるアーサー・マリスの出自がシルベスター公爵家であることが最近わかったのです。それで私も公爵家に連なる身であることが公になりましたので、爵位を賜ることになりました」
「市井でお育ちのメイロードさまがいきなり公爵家の縁戚となられるというのは、大変なことも多いのではございませんの?」
「いえ、私は独立した家を興すことになりましたから、縁戚ではありますが公爵家と深いお付き合いはございません。それに普段から辺境の小さな領地にほとんどおりますから、パレスに行くことすらまれなのです」
ここでルミナーレ様がひと言。
「領主になってしまってからは、本当にパレスに来ることが少なくなりましたね。寂しいですわ。リアーナ様もメイロードが皇宮に来ることを楽しみにしていらっしゃいますのよ」
その言葉にお嬢様方が反応する。
「り、リアーナ様が皇宮で直接お会いになられるのでございますか?」
「ええ、そうですよ。メイロードは爵位を賜る以前から素晴らしい才覚を持つ商人だったのです。まだ小さい少女だったころからね。それにいまではメイロードは皇宮の立ち入り許可証も持っていますから、いつでも先ぶれも必要なく皇宮に入ることができますの。もちろん、正妃様ともお茶を共にされる間柄なのですよ」
普通のことのようにルミナーレ様はしれっと言ってのけたが、お嬢様方の私を見る目はいきなり変わった。
それはそうだろう。皇宮に自由に参内できることは、皇族に最も近い大貴族のさらに一部だけが持つ特権のひとつであり、それはそのまま社交界におけるヒエラルキーの頂点に近い存在であることを意味する。伯爵という地位の私がそれを持つなどあり得ないことなのだ。
この立ち入り自由の許可証は、先だっての姫君のご病気の際に治療にあたった折に頂いたもの。緊急事態でもなければちゃんとご予定を確認してからお伺いするので、実際に役立つ機会はあまりないのだが、どうも実用性だけではない価値があるものらしい。
(確かに正妃様には、すごく良くしていただいているんだよね。なんでだろ?)
そんな許可証の所有者であるということは、ほとんどパレスにもおらず、社交界にも顔を出さない子供が、実はルミナーレ様と同等の地位にいる人物だと社交界では認識される……らしい。これは貴族社会に生きるお嬢様方にとっては、ただの田舎伯爵とはまったく違う権威であるようだ。
私はあわててフォローしてみる。
「それは、たまたま私のお菓子を気に入ってくださった正妃様のきまぐれによるもので、私のような取るに足りない子供のことだから許可を与えてくださったのでございましょう」
「なにを言うのメイロード。そんなことはありませんよ。それにそれだけではないのですもの。〝パレス・フロレンシア〟の首飾りも、とてもお気に入りになっていらっしゃるのですよ。もちろん私もね」
ルミナーレ様はさらに悪気なくしれっと私の情報を開示する。
「え……あの〝皇宮御用達〟の超高級宝飾店〝パレス・フロレンシア〟の経営をこんなこど……小さなお嬢様が!?」
さらにざわつくのも無理はない。〝パレス・フロレンシア〟については、細工も超一流ゆえに数は作れない。マルニール工房で存分に仕事をしてもらうためにも、どんどん単価を上げることになり、それがまた社交界での高いステータスになり……いまでは超高額商品が完全に主力になっているのだ。おかげで顧客も上級貴族や超富裕層ばかりになっている。
そんなステータスの高いお嬢様方垂涎の店のオーナーがこんな子供と聞いては驚くしかないだろう。
「すべては一流の職人さんをご紹介くださったドール侯爵様のおかげでございます。私は運がいいですわ」
なんとか手柄をドール家に投げて、私への興味を削ごうとしたが果たしてどのぐらい成功したのかはわからない。だがともかく、そこで話をドール家やアリーシア様のことにシフトさせ、
なんとか私の話は終わりにすることに成功。
そして、さらに皆様の昨晩からの過ごし方やイスの印象などに話が移ったところで、やっとサイデムおじさまが到着した。
ルミナーレ様に深々と頭を下げたおじさまは、ルミナーレ様のお言葉を待つ。
「忙しいことはわかっていますよ。お知らせしたように、あなたを煩わせるのはこれで終わりです。ですが、あなたも誠意を持って、最後までこちらのお嬢様方に対応してくださることを期待しておりますわ」
「もちろんでございます」
おじさまはお嬢様方に笑顔を向け、席に着くと背筋を正してこう告げた。
「お嬢様方、お待たせして申し訳ございませんでした。これが今回最後の機会となります。どうぞ、ご質問があれば何なりと。さぁ、楽しく食事をいたしましょう」
(いよいよ最後のお見合い開始だね)
ルミナーレ様とお嬢様方は、時間通りにレストランへと現れた。おじさまのお仕事は時間通りにきっちり終わるとは限らないので、私にはそれまでの場を繋ぐというミッションもあるのだ。
(ルミナーレ様とも面識があり、おじさまやサイデム商会についての知識もあって、しかも貴族のお嬢様方と対等の立場で接待できる人材なんて、イスではすぐに見つけられないからね。これは私がやるしかないよ)
「おはよう、メイロード」
機嫌良く私に声をかけてくださる侯爵夫人に私も笑顔で礼を取る。
「おはようございます、ルミナーレ様。皆様も良くお休みになれましたでしょうか?」
私はお嬢様方の様子を見る。みなさん体調は良さそうだ。
「ええ、眠りに良いというお茶をありがとうございました。おかげさまでよく休むことができましたわ」
笑顔を向ける私に、お嬢様方も笑顔で返してくれる。どうやら私とお嬢様方との関係は良好のようだ。昨晩差し入れしたハーブティーはいい仕事をしてくれたらしい。
(おじさまと結婚なされば、私は小姑的なポジションになるかもしれないので、なるべく好感度は上げておきたいんだよね。仕事がしにくくなったら困るし)
「それはなによりでした。もうすぐおじさまも到着されると思いますので、どうぞお席でお待ちくださいませ」
そこからは、お茶と小さなお菓子を用意してお話の時間だ。
「そうでございますか。メイロードさまはサイデム様のご親友の御息女でいらっしゃったのでございますね」
「はい。その親友、つまり私の父であるアーサー・マリスの出自がシルベスター公爵家であることが最近わかったのです。それで私も公爵家に連なる身であることが公になりましたので、爵位を賜ることになりました」
「市井でお育ちのメイロードさまがいきなり公爵家の縁戚となられるというのは、大変なことも多いのではございませんの?」
「いえ、私は独立した家を興すことになりましたから、縁戚ではありますが公爵家と深いお付き合いはございません。それに普段から辺境の小さな領地にほとんどおりますから、パレスに行くことすらまれなのです」
ここでルミナーレ様がひと言。
「領主になってしまってからは、本当にパレスに来ることが少なくなりましたね。寂しいですわ。リアーナ様もメイロードが皇宮に来ることを楽しみにしていらっしゃいますのよ」
その言葉にお嬢様方が反応する。
「り、リアーナ様が皇宮で直接お会いになられるのでございますか?」
「ええ、そうですよ。メイロードは爵位を賜る以前から素晴らしい才覚を持つ商人だったのです。まだ小さい少女だったころからね。それにいまではメイロードは皇宮の立ち入り許可証も持っていますから、いつでも先ぶれも必要なく皇宮に入ることができますの。もちろん、正妃様ともお茶を共にされる間柄なのですよ」
普通のことのようにルミナーレ様はしれっと言ってのけたが、お嬢様方の私を見る目はいきなり変わった。
それはそうだろう。皇宮に自由に参内できることは、皇族に最も近い大貴族のさらに一部だけが持つ特権のひとつであり、それはそのまま社交界におけるヒエラルキーの頂点に近い存在であることを意味する。伯爵という地位の私がそれを持つなどあり得ないことなのだ。
この立ち入り自由の許可証は、先だっての姫君のご病気の際に治療にあたった折に頂いたもの。緊急事態でもなければちゃんとご予定を確認してからお伺いするので、実際に役立つ機会はあまりないのだが、どうも実用性だけではない価値があるものらしい。
(確かに正妃様には、すごく良くしていただいているんだよね。なんでだろ?)
そんな許可証の所有者であるということは、ほとんどパレスにもおらず、社交界にも顔を出さない子供が、実はルミナーレ様と同等の地位にいる人物だと社交界では認識される……らしい。これは貴族社会に生きるお嬢様方にとっては、ただの田舎伯爵とはまったく違う権威であるようだ。
私はあわててフォローしてみる。
「それは、たまたま私のお菓子を気に入ってくださった正妃様のきまぐれによるもので、私のような取るに足りない子供のことだから許可を与えてくださったのでございましょう」
「なにを言うのメイロード。そんなことはありませんよ。それにそれだけではないのですもの。〝パレス・フロレンシア〟の首飾りも、とてもお気に入りになっていらっしゃるのですよ。もちろん私もね」
ルミナーレ様はさらに悪気なくしれっと私の情報を開示する。
「え……あの〝皇宮御用達〟の超高級宝飾店〝パレス・フロレンシア〟の経営をこんなこど……小さなお嬢様が!?」
さらにざわつくのも無理はない。〝パレス・フロレンシア〟については、細工も超一流ゆえに数は作れない。マルニール工房で存分に仕事をしてもらうためにも、どんどん単価を上げることになり、それがまた社交界での高いステータスになり……いまでは超高額商品が完全に主力になっているのだ。おかげで顧客も上級貴族や超富裕層ばかりになっている。
そんなステータスの高いお嬢様方垂涎の店のオーナーがこんな子供と聞いては驚くしかないだろう。
「すべては一流の職人さんをご紹介くださったドール侯爵様のおかげでございます。私は運がいいですわ」
なんとか手柄をドール家に投げて、私への興味を削ごうとしたが果たしてどのぐらい成功したのかはわからない。だがともかく、そこで話をドール家やアリーシア様のことにシフトさせ、
なんとか私の話は終わりにすることに成功。
そして、さらに皆様の昨晩からの過ごし方やイスの印象などに話が移ったところで、やっとサイデムおじさまが到着した。
ルミナーレ様に深々と頭を下げたおじさまは、ルミナーレ様のお言葉を待つ。
「忙しいことはわかっていますよ。お知らせしたように、あなたを煩わせるのはこれで終わりです。ですが、あなたも誠意を持って、最後までこちらのお嬢様方に対応してくださることを期待しておりますわ」
「もちろんでございます」
おじさまはお嬢様方に笑顔を向け、席に着くと背筋を正してこう告げた。
「お嬢様方、お待たせして申し訳ございませんでした。これが今回最後の機会となります。どうぞ、ご質問があれば何なりと。さぁ、楽しく食事をいたしましょう」
(いよいよ最後のお見合い開始だね)
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