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6 謎の事件と聖人候補
952 しんがりの役目
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「なぁ、俺たちなにを見せられてるんだ?」
爆音響が響き渡る〝壁抜き〟工事現場の背後で、周囲を警戒しながら避難できる体制が整うまで待機している人たちが、あまり良くない顔色でそう呟いていた。
「俺に聞くなって! こんなすごい魔法を見たのは俺も初めてなんだよ」
「なんか、この世の終わりみてぇなとんでもない音がしてるが、これって、だ……大丈夫なのか?」
「埃で前はよく見えないが、大型ハンマーでも傷ひとつつけられないダンジョンの壁を壊し続けているんだから、音ぐらい我慢しやがれ!」
「おう、いまも確実にメイロードさまは退路を作ってくださっている。大丈夫だ、心配するな」
「それにしても……スゲーなぁ」
「ああ、想像を超えるばけも……とんでもないお人だな」
(きっと彼らの中で、私の〝姐さん力〟は爆上がりしちゃってるんだろうなぁ……こんな姿見せちゃったら、これからさらに怖がられちゃうんだろうけど、ここは甘んじて受け入れよう!)
私としては、料理上手で愛嬌のある親しみやすい人物像が理想なのだが、すでに〝姐さん〟扱いされているところでの、この爆裂魔法となったら、もうその道は絶たれたと諦めるしかない。
(いまはみんなを助けることが最優先! 個人的な哀しい気持ちは封印よ!)
私は宣言通り、十分台ですべての壁を貫通させた。貫通させることが優先だったので、穴は歪だしそれほど大きくもないが、大人ふたりが並んで進めるぐらいの大きさはなんとか確保きている。
(冒険者の皆さんには躰の大きな人が多いから、最低でもこのぐらいの大きさはないと急いで移動できないからね。その分ちょっと手こずったかな)
貫通できたことの達成感に浸る間もなく、私は周囲の安全確認をしてから、このときを待っている人たちに大きな声でこう告げた。
「さぁ、退路は確保されました! 瓦礫に気をつけながら前進してください! いまは落ち着いているようですが、危険は続いています。壁が動きそうなどの異変があれば、すぐに知らせてくださいね」
いま怖いのは、移動中に壁が動き始めてしまう事態だ。そうなれば、また壁を壊す時間が必要になり、全体の動きを止めることになる。それを避けるためにも、いまは一刻も早い素早い撤退が必要だ。
私がこの強硬手段に出たのも、通常の方法で避難している間に壁の移動が頻発し始める可能性を考えてのことだ。〝壁抜き〟は私ひとりだ。あちこちで散発的に大規模な壁移動が起こるような状況は極力避けたい。だから一点集中で時間を節約したかった。
それに背後では全員が必死で戦い続けているのだ。ここが危険すぎることは、誰もが十二分に理解しているのだろう。緊張の面持ちで私の言葉に頷いた皆さんは、転ばないギリギリまでスピードを上げて穴を駆け抜けていく。
「行くぞ! だが、絶対転んだりするなよ、後ろの邪魔だ!」
「わかってるよ、進むぞ!」
〝壁抜き〟が終わったことが、全員に告げられ、戦いを続けながらも主力部隊も徐々に移動を開始した。通り抜けていく様子を見ていると、多くの人たちが血を流している。いままでとは、段違いの数の多さにさすがの一流冒険者たちも無傷とはいかなかったようだ。だが、いまは時間がない。動けない者だけに簡単な応急処置を施した状態で、全員が壁に開けられた穴に飛び込んでいく。
最後にやってきたのはテーセウス隊の冒険者たちだった。
「メイロードさま、パーティー全員の避難を確認いたしました。われわれが最後です。さあ、参りましょう」
いくつかの擦り傷は負っているものの、隊の損傷が大きくないのは、さすがだった。そして最後まで残って戦い他の冒険者たちを先に逃すというその態度には、冷静に全員を束ねる者の責任を果たすのだという強い意志が感じられた。
「わかりました。では、皆さんが先に進んでください。私にはやることがありますので……」
「そんな、われわれがお守りいたします! さあ……」
私は微笑みながら首を振り、こう言う。
「この層の魔獣は増えすぎています。私が最後にきっちりこの壁の穴を塞いでおかなければ、最悪このパーティーは前後から大量の魔物に襲われる危険があるのです。ですから、私は最後のひとりになってから背後の壁を塞ぎます」
「メイロードさま……」
一瞬の戸惑いを見せたテーセウスさんだったが、私が微笑むと少し泣きそうな顔をしながらうなずき、こう言ってから走り出した。
「ご武運を、上でお待ちしております!」
「ええ、皆さんをお願いしますね」
彼らの背中を見送った私は、セイリュウとセーヤ・ソーヤに声をかける。
「ご苦労様、なんとかなったわね。まずは壁の前に結界を強く張ってとりあえずの魔物の侵入を防いでから、土魔法で壁の穴を全部埋めちゃいましょう!」
「大変だったね、メイロード。君を煩わせる魔物は全部僕らが排除するから、安心して」
「ありがとうセイリュウ、お願いね」
そして私は壁に開けられた穴を進みながら土魔法で背後の壁を塞いでいった。この措置も付け焼き刃にしかすぎないが、いまは少しでもパーティーの危険を減らしたかった。
穴を開けた壁の側面には《物理結界》をできる限り施してあるので、侵入してくる魔物はなかったが、その結界の中に〝湧き〟が起こってしまった場合、それは防ぎようがない。先に進んだ人たちも、私たちもまだ危険の真っ只中だ。
「気を抜かずに最後まで、さあ上層へ向かうよ!」
「なぁ、俺たちなにを見せられてるんだ?」
爆音響が響き渡る〝壁抜き〟工事現場の背後で、周囲を警戒しながら避難できる体制が整うまで待機している人たちが、あまり良くない顔色でそう呟いていた。
「俺に聞くなって! こんなすごい魔法を見たのは俺も初めてなんだよ」
「なんか、この世の終わりみてぇなとんでもない音がしてるが、これって、だ……大丈夫なのか?」
「埃で前はよく見えないが、大型ハンマーでも傷ひとつつけられないダンジョンの壁を壊し続けているんだから、音ぐらい我慢しやがれ!」
「おう、いまも確実にメイロードさまは退路を作ってくださっている。大丈夫だ、心配するな」
「それにしても……スゲーなぁ」
「ああ、想像を超えるばけも……とんでもないお人だな」
(きっと彼らの中で、私の〝姐さん力〟は爆上がりしちゃってるんだろうなぁ……こんな姿見せちゃったら、これからさらに怖がられちゃうんだろうけど、ここは甘んじて受け入れよう!)
私としては、料理上手で愛嬌のある親しみやすい人物像が理想なのだが、すでに〝姐さん〟扱いされているところでの、この爆裂魔法となったら、もうその道は絶たれたと諦めるしかない。
(いまはみんなを助けることが最優先! 個人的な哀しい気持ちは封印よ!)
私は宣言通り、十分台ですべての壁を貫通させた。貫通させることが優先だったので、穴は歪だしそれほど大きくもないが、大人ふたりが並んで進めるぐらいの大きさはなんとか確保きている。
(冒険者の皆さんには躰の大きな人が多いから、最低でもこのぐらいの大きさはないと急いで移動できないからね。その分ちょっと手こずったかな)
貫通できたことの達成感に浸る間もなく、私は周囲の安全確認をしてから、このときを待っている人たちに大きな声でこう告げた。
「さぁ、退路は確保されました! 瓦礫に気をつけながら前進してください! いまは落ち着いているようですが、危険は続いています。壁が動きそうなどの異変があれば、すぐに知らせてくださいね」
いま怖いのは、移動中に壁が動き始めてしまう事態だ。そうなれば、また壁を壊す時間が必要になり、全体の動きを止めることになる。それを避けるためにも、いまは一刻も早い素早い撤退が必要だ。
私がこの強硬手段に出たのも、通常の方法で避難している間に壁の移動が頻発し始める可能性を考えてのことだ。〝壁抜き〟は私ひとりだ。あちこちで散発的に大規模な壁移動が起こるような状況は極力避けたい。だから一点集中で時間を節約したかった。
それに背後では全員が必死で戦い続けているのだ。ここが危険すぎることは、誰もが十二分に理解しているのだろう。緊張の面持ちで私の言葉に頷いた皆さんは、転ばないギリギリまでスピードを上げて穴を駆け抜けていく。
「行くぞ! だが、絶対転んだりするなよ、後ろの邪魔だ!」
「わかってるよ、進むぞ!」
〝壁抜き〟が終わったことが、全員に告げられ、戦いを続けながらも主力部隊も徐々に移動を開始した。通り抜けていく様子を見ていると、多くの人たちが血を流している。いままでとは、段違いの数の多さにさすがの一流冒険者たちも無傷とはいかなかったようだ。だが、いまは時間がない。動けない者だけに簡単な応急処置を施した状態で、全員が壁に開けられた穴に飛び込んでいく。
最後にやってきたのはテーセウス隊の冒険者たちだった。
「メイロードさま、パーティー全員の避難を確認いたしました。われわれが最後です。さあ、参りましょう」
いくつかの擦り傷は負っているものの、隊の損傷が大きくないのは、さすがだった。そして最後まで残って戦い他の冒険者たちを先に逃すというその態度には、冷静に全員を束ねる者の責任を果たすのだという強い意志が感じられた。
「わかりました。では、皆さんが先に進んでください。私にはやることがありますので……」
「そんな、われわれがお守りいたします! さあ……」
私は微笑みながら首を振り、こう言う。
「この層の魔獣は増えすぎています。私が最後にきっちりこの壁の穴を塞いでおかなければ、最悪このパーティーは前後から大量の魔物に襲われる危険があるのです。ですから、私は最後のひとりになってから背後の壁を塞ぎます」
「メイロードさま……」
一瞬の戸惑いを見せたテーセウスさんだったが、私が微笑むと少し泣きそうな顔をしながらうなずき、こう言ってから走り出した。
「ご武運を、上でお待ちしております!」
「ええ、皆さんをお願いしますね」
彼らの背中を見送った私は、セイリュウとセーヤ・ソーヤに声をかける。
「ご苦労様、なんとかなったわね。まずは壁の前に結界を強く張ってとりあえずの魔物の侵入を防いでから、土魔法で壁の穴を全部埋めちゃいましょう!」
「大変だったね、メイロード。君を煩わせる魔物は全部僕らが排除するから、安心して」
「ありがとうセイリュウ、お願いね」
そして私は壁に開けられた穴を進みながら土魔法で背後の壁を塞いでいった。この措置も付け焼き刃にしかすぎないが、いまは少しでもパーティーの危険を減らしたかった。
穴を開けた壁の側面には《物理結界》をできる限り施してあるので、侵入してくる魔物はなかったが、その結界の中に〝湧き〟が起こってしまった場合、それは防ぎようがない。先に進んだ人たちも、私たちもまだ危険の真っ只中だ。
「気を抜かずに最後まで、さあ上層へ向かうよ!」
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