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6 謎の事件と聖人候補
993 追跡飛行
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993
私にだけ見える赤い糸……目の前に浮かんでいるそれは、行き着く先のわからないはるか彼方まで続いていた。
「あそこに細くて赤い糸があるんだけど……見えないかな?」
空を指を挿して〝糸〟の場所を教えてみたが、アタタガもソーヤ・セーヤも、やはりあの〝糸〟をまったく視認できないそうだ。
「そうなんだ……やっぱり私にしか見えないんだね、あれ」
こうしてアタタガ・フライの飛行箱の窓からじっくり見ても、誰にも見えないらしいそれは、私にはとても細い〝糸〟としてはっきり見てとれる。だが実際には〝糸〟ではなく、あの球体につながる魔力の残滓が見えているのだろうとグッケンス博士は言っていた。
「あの球体がエピゾフォールの権能《王への供物》を拡張した、いうなれば魔力の遠隔吸引装置だとすれば、それを取り込むためには〝本体〟とつながっている必要があるのじゃろう。確かにそう考えれば、あれがエピゾフォールまでつながっている可能性は十分にあるの。
しかし、そんなものが見えるとは考えられん……が、メイロードには見えているのじゃな。
実に不思議な現象じゃが、それを解明しているほど時間はないの。ともかくお前さん以外にあれを追いかけられる者はおらんよ」
博士の推測の通りだとすれば、この赤い糸は魔王エピゾフォールの居場所に続いているに違いない。ならば、これを追うことで少なくとも敵の居場所を明らかにできるはずだ。
(魔王と直接戦うとかそんなことはさすがに考えられないけど、私には博士直伝の《迷彩魔法》があるし、敵に見つからずに魔王の居場所を突き止めるぐらいのことはできるんじゃないかな)
〝魔道具家電〟をばら撒かれて大量の〝魔法力〟を盗まれ、帝都パレスを狙ったダンジョンを造られ、そこでいままさに〝巨大暴走〟を起こされている。
冷静にみて、現在の私たちは完全に後手に回っている状況だ。このまま責められっぱなしで敵の居場所もわからないでは、エピゾフォールにただ魔力をくれてやって、その復活を手助けしながら疲弊させられていくだけだ。いまのままでは、反撃するための作戦も立てようがないだろう。
〔これは私にしかできないスパイ活動だもの、できるだけ早く敵の場所を見つけなきゃ!〕
赤い糸はときどき見失いそうになるほど細かったが、それでもそれを頼りにアタタガは全速力で飛んでくれた。
〔このまま真っ直ぐに飛んで〕
〔はい〕
〔少し右に、そこから真っ直ぐお願い〕
〔了解です〕
見失わないよう〝糸〟と並走し、時間が過ぎていく。
(やはり沿海州の方向ね)
私は《完全脳内地図把握》を使い脳内に構築した世界地図を眺める。だが、この地図を使っても《聖なる壁》の正確な位置は把握できない。ただ、何カ所か不思議な力に阻まれたという場所が記録されており、それが沿海州周辺に点在しているため、ぼんやりと方向がわかるぐらいだ。
(沿海州の先に広がる広大な海のどこかにある〝裂け目〟なんて、どうやったって見つけられないよね。しかも透明な壁らしいし……)
やはり頼りになりそうなのは、この細い〝糸〟だけだ。とはいえ、この〝糸〟は張りつめているわけではなく、クネクネと大きく蛇行していて、しっかりみていないと見失いそうなほど細く、正確な方向を簡単には把握させてくれない。
(せめて糸がピンと張っていてくれたら行き先を予測しやすいんだけど、これじゃ沿海州の方角ってことぐらいしか特定できないし、まだまだ行き先の正確な位置はわかんないなぁ)
もう数時間ずっと窓に張りついている私のために、ソーヤとセーヤが窓際に座りやすい椅子とテーブルを用意してくれ、甲斐甲斐しくお茶を淹れなおしてくれたり、お菓子や軽食を持ってきてくれる。
「ありがとうね、ふたりとも」
私が作った素朴な花々の刺繍の入ったテーブルクロスの上には、以前シラン村の工房で苦労して説明しながら作ってもらったアフタヌーンティー用の三枚のお皿が乗るスタンドが置かれている。
これも私が陶器の工房にいろいろと注文して作ってもらった美しいお皿には、綺麗な断面を見せているひとくちサイズの野菜や卵、ハム、塩漬けの魚のサンドイッチ。ピンチョス風の串に刺さった小さなコロッケやチーズにキッシュ。ひとくちサイズの焼き菓子〝プゴの実〟や〝マルマッジ〟〝ポクル〟といったこの世界で見つけた果物がたくさん使われてたプチフールが彩りよく並べられていた。
どれもソーヤと一緒に楽しく作ってきたこの世界の味だ。
(このひとくちで食べられる感じが、グッケンス博士やサイデムおじさまに喜ばれるもんだから、ついいろいろ作っちゃったんだよね)
どの道具にもどの料理にも小さな思い出があり、それを喜んでくれる人たちの笑顔があった。
「たくさん……作ってきたね」
私はアタタガに休憩しようと伝え、近くの人目につかない海岸に近い場所へと降りてもらった。
「まだ先は長そうだもの。焦らずにいきましょう」
「はい、メイロードさま」
私は落ち着いてお茶を飲み、料理を味わった。確かに忙しくしているとき、この一口で食べられる料理はありがたい。
(あせらない、無理をしない、でも早く見つけなきゃ。 大丈夫、しっかり食べたもの。きっとできるわ)
束の間波の音を聞きながら休息した私たちは、上空に浮かぶ赤い糸を見上げ、必ず敵の所在を見つけると誓った。
私にだけ見える赤い糸……目の前に浮かんでいるそれは、行き着く先のわからないはるか彼方まで続いていた。
「あそこに細くて赤い糸があるんだけど……見えないかな?」
空を指を挿して〝糸〟の場所を教えてみたが、アタタガもソーヤ・セーヤも、やはりあの〝糸〟をまったく視認できないそうだ。
「そうなんだ……やっぱり私にしか見えないんだね、あれ」
こうしてアタタガ・フライの飛行箱の窓からじっくり見ても、誰にも見えないらしいそれは、私にはとても細い〝糸〟としてはっきり見てとれる。だが実際には〝糸〟ではなく、あの球体につながる魔力の残滓が見えているのだろうとグッケンス博士は言っていた。
「あの球体がエピゾフォールの権能《王への供物》を拡張した、いうなれば魔力の遠隔吸引装置だとすれば、それを取り込むためには〝本体〟とつながっている必要があるのじゃろう。確かにそう考えれば、あれがエピゾフォールまでつながっている可能性は十分にあるの。
しかし、そんなものが見えるとは考えられん……が、メイロードには見えているのじゃな。
実に不思議な現象じゃが、それを解明しているほど時間はないの。ともかくお前さん以外にあれを追いかけられる者はおらんよ」
博士の推測の通りだとすれば、この赤い糸は魔王エピゾフォールの居場所に続いているに違いない。ならば、これを追うことで少なくとも敵の居場所を明らかにできるはずだ。
(魔王と直接戦うとかそんなことはさすがに考えられないけど、私には博士直伝の《迷彩魔法》があるし、敵に見つからずに魔王の居場所を突き止めるぐらいのことはできるんじゃないかな)
〝魔道具家電〟をばら撒かれて大量の〝魔法力〟を盗まれ、帝都パレスを狙ったダンジョンを造られ、そこでいままさに〝巨大暴走〟を起こされている。
冷静にみて、現在の私たちは完全に後手に回っている状況だ。このまま責められっぱなしで敵の居場所もわからないでは、エピゾフォールにただ魔力をくれてやって、その復活を手助けしながら疲弊させられていくだけだ。いまのままでは、反撃するための作戦も立てようがないだろう。
〔これは私にしかできないスパイ活動だもの、できるだけ早く敵の場所を見つけなきゃ!〕
赤い糸はときどき見失いそうになるほど細かったが、それでもそれを頼りにアタタガは全速力で飛んでくれた。
〔このまま真っ直ぐに飛んで〕
〔はい〕
〔少し右に、そこから真っ直ぐお願い〕
〔了解です〕
見失わないよう〝糸〟と並走し、時間が過ぎていく。
(やはり沿海州の方向ね)
私は《完全脳内地図把握》を使い脳内に構築した世界地図を眺める。だが、この地図を使っても《聖なる壁》の正確な位置は把握できない。ただ、何カ所か不思議な力に阻まれたという場所が記録されており、それが沿海州周辺に点在しているため、ぼんやりと方向がわかるぐらいだ。
(沿海州の先に広がる広大な海のどこかにある〝裂け目〟なんて、どうやったって見つけられないよね。しかも透明な壁らしいし……)
やはり頼りになりそうなのは、この細い〝糸〟だけだ。とはいえ、この〝糸〟は張りつめているわけではなく、クネクネと大きく蛇行していて、しっかりみていないと見失いそうなほど細く、正確な方向を簡単には把握させてくれない。
(せめて糸がピンと張っていてくれたら行き先を予測しやすいんだけど、これじゃ沿海州の方角ってことぐらいしか特定できないし、まだまだ行き先の正確な位置はわかんないなぁ)
もう数時間ずっと窓に張りついている私のために、ソーヤとセーヤが窓際に座りやすい椅子とテーブルを用意してくれ、甲斐甲斐しくお茶を淹れなおしてくれたり、お菓子や軽食を持ってきてくれる。
「ありがとうね、ふたりとも」
私が作った素朴な花々の刺繍の入ったテーブルクロスの上には、以前シラン村の工房で苦労して説明しながら作ってもらったアフタヌーンティー用の三枚のお皿が乗るスタンドが置かれている。
これも私が陶器の工房にいろいろと注文して作ってもらった美しいお皿には、綺麗な断面を見せているひとくちサイズの野菜や卵、ハム、塩漬けの魚のサンドイッチ。ピンチョス風の串に刺さった小さなコロッケやチーズにキッシュ。ひとくちサイズの焼き菓子〝プゴの実〟や〝マルマッジ〟〝ポクル〟といったこの世界で見つけた果物がたくさん使われてたプチフールが彩りよく並べられていた。
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どの道具にもどの料理にも小さな思い出があり、それを喜んでくれる人たちの笑顔があった。
「たくさん……作ってきたね」
私はアタタガに休憩しようと伝え、近くの人目につかない海岸に近い場所へと降りてもらった。
「まだ先は長そうだもの。焦らずにいきましょう」
「はい、メイロードさま」
私は落ち着いてお茶を飲み、料理を味わった。確かに忙しくしているとき、この一口で食べられる料理はありがたい。
(あせらない、無理をしない、でも早く見つけなきゃ。 大丈夫、しっかり食べたもの。きっとできるわ)
束の間波の音を聞きながら休息した私たちは、上空に浮かぶ赤い糸を見上げ、必ず敵の所在を見つけると誓った。
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