お飾りな妻は何を思う

湖月もか

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憤怒した親友は笑う

 あの子は初めてできた友達。
 自分の口調がきついことも、感情の起伏が少し大きいところも。つり目できつく見られがちなのも、赤を纏うと怖がられるのも。……周りから避けられてるのも、ぜんぶぜんぶ分かっている。でも、好きな物も好きな色も誰かのために我慢することなんて出来なくて。令嬢風に装ってみても私には淡い色なんて似合わなかったし、笑った顔で泣かれたこともあった。

 だからこそ、同性の友人なんて夢のまた夢だったのだ。リーリアと出会うまでは。

 それは十歳前後の子供たちが集められ、親子の交流の場として開催されたお茶会。
 当時の私は九歳で。可愛らしい格好をして楽しそうに話をしている女の子達に混ざることも、大人たちに混ざることも出来ず。一人寂しく美味しい紅茶とお菓子をひっそりと楽しんでいた。

「その赤いドレス素敵ね! あなたのためにあるみたい」

 そんな時に出会ったのがリーリアである。
 彼女は少しだけ遅れて会場にやってきて、真っ先に私の所へ駆け寄り、蜂蜜色の綺麗な瞳をキラキラと輝かせながらドレスを褒めてくれたのだ。

「あ、ありがとう。貴方もその髪にあるリボン、すごく素敵だわ。夜空に浮かぶ月みたい」

 そう褒めた時。彼女は瞳を大きくして、綻ぶように笑ったのだ。
 あとから聞いた話だが、そのリボンは親からの誕生日プレゼントで、お気に入りのリボンだったそう。日に照らされた淡い黄色が深い紺色の彼女の髪にとても似合っていた。

 そして私を怖がらない彼女と手紙で交流したり、お互いの家へ遊びに行ったり、共に出かけたり。そんなふうに子供の頃は過ごしていた。
 リーリアとはそれからの付き合いなのである。

 そんなリーリアが十歳になった頃。

「婚約者に先日会ったの。凄く綺麗なお顔をしてる素敵な人だったわ!」

 頬を赤らめ興奮した様子で。
 ちょっとだけ面白くないなと思っていたものの、彼女が幸せそうに笑うからそれでいいなと思ったの。

 ──だって、まさかあんなことになるなんて。あんなことをするヤツだったなんて思ってもみなかったもの。

 -----

「……は? 殿下、もう一度言ってくださる? リーリアの婚約者がなんですって?」
「だから、アルドにとても親しい女性がいる。友人の域は出ていないと思うが……いつも一緒にいるらしい。それ以上のことは分からない。ただ、とても楽しそうに二人で話している姿を目撃されてるようだ」

 十二歳の頃に婚約した婚約者のレオ殿下と王宮の庭でお茶会をしていた時。殿下からもたらされた情報に最初は耳がおかしくなったのかと思った。
 途端にじわじわ湧き上がってくる怒り。

 なんでも学園に入学し、そこで美しい容姿の息が合い話も合う女性にアルドが出会い、それ以来共に過ごしているのだとか。
 女性も剣を取り、己を鍛えて騎士をめざしているそうで、それがより二人で過ごさせる要因になっているのではというのがレオ殿下の推測である。
 殿下は騎士科の方に普段は用がないため、発覚したのはリーリアの入学数ヶ月前というお粗末な話。
 しかも騎士科の人々もアルドに婚約者がいることを知らず。また、二人とも仲が良い友人だなとしか思っていなかったんだとかで、殿下にも話が上がらずこんなことになってしまっている。
 たまたま。本当にたまたま用事があって騎士科の方に行った殿下が、二人が楽しげにしているのを見て少し距離近くないか?と疑問に思ったのがきっかけ。
 周りに聞いてみれば出るわ出るわ。ただ身体的接触は訓練時以外にはないらしく、なんとも指摘しにくい状況なんだとか。

 なんだそれ。どいつもこいつもポンコツなのでは。

「……まてまてまてまて。ミーシャどこへ行く」
「決まってるでしょう? 実際に見に行くのよ」
「君は俺の婚約者のはずだが? それに護衛がくっついてくからすぐにバレるぞ。断念するんだな」
「じゃあどうすれば良いのよ! あの子この間手紙が来ないって寂しそうにしてたのに」

 殿下を責めるのは筋違い。そんなことは百も承知だ。

「……一応あれから定期的に見に行ったんだ。だがいつ見ても話をしていたり、試合していたりするだけだった。恋人のような触れ合いは確認できなかったから責める訳にもいかない。あれは二人……いや三人の問題になってしまうし、こちらとしては手が出せない。君は不服だろうが」

 正論。そう言われてしまって結局私は何も出来なかった。

 そうして、本当に浮気をしているのか定かではないまま、時が過ぎて疑惑は残ったままリーリアはその婚約者と結婚した。
 結婚式で睨んでしまったのは悪くない。咎められたけど悪いとはちっとも思っていないんだから!

 結婚してから少したったある日。
『私お飾りなのよ』
 幸せに過ごせてるか気になった私が呼び出したカフェの個室で、笑いながらリーリアはそういったのだ。
 どうしてそこで笑えるのだろうか。結婚前からかなり親しい女性がいて、結婚後は家に寄り付かなくて。自分がお飾りだなんて、私からすると屈辱でしかない。

 思わすカップを持つ手が震え、カチャとソーサにカップが当たって音を立てる。
 それでもリーリアは大丈夫というのだ。
 本人に大丈夫と言われたからには何もできなかった。

 この時何がなんでも強行していたら、いまこんなことにはなってなかったのではないか。
 そう思いながらたまたま訪れた教会の前でリーリアを捕獲──いや、保護したのだった。

 -----

「本日は参列いただきありがとうございます」

 保護してから半月くらいが経過した今日はリーリアの葬式。目の前にある棺には何も無いことを私は知っている・・・・・
 でも友人として参加しない訳には行かないので、喪服を着て気に食わない男の顔を見にやってきているのだ。

 男は悲しそうな素振りもなく淡々と進めていく。
 リーリアの両親が居るのにも関わらず、男は一つも表情を変えなかった。気まずい思いも感じいないのだろうか。

 結局何事もなく式は終了。
 例の女は来ていないようだった。こんなところに来ていたら手が出ていたと思うので対面を果たさなくて良かったのかもしれない。

 アルドには声をかけず、私はその場を後にした。
 もうこれでアイツに煩わされることも無いだろうと思って。

 しかしやつはそんな私の思いをぶん殴るかのように裏切った。

「……は? なんですって? アルドに女性の同伴者がいる? ふざけてるのかしら」
「入口で家族以外の同伴者は婚約者以外ダメだと突っぱねたそうですが、婚約者だからと通ってしまわれました」

 殿下と私の結婚式にやらかしやがったのだ。
 アルドは世間的には妻を亡くしてまだ数週間なのに、婚約者として別の女性を伴って公の場。それも王太子殿下の結婚式という国を挙げての公式の場だ。

 バタン
 とノックもなしに殿下が慌てた様子で控え室に乗り込んできた。

「聞いたな? 絶対動くなよ」
「あら殿下お褒めの言葉よりもそちらが先ですか?」
「もちろん綺麗だが、それよりも乗り込むなよ? いいか? 絶対に式はそのまま何事もないように進めるんだからな?」
「……流石に分かっていますわよ! 王家の黒歴史として残したくないもの。ただ、終わったら好きにしてもいいですわよね? もう我慢も限界よ!」
「アイツら異動が決まってるからその候補先の提案くらいなら受け付ける。それ以外はダメだ」
「……分かったわよ。仕方ないから国境付近で手を打ってあげるわ」
「国境付近……えげつないな、お前」

 隣国からも来ている結婚式。ふいにする訳には行かないし歴史に恥ずべき内容を残すべきでは無い。
 ただ、アイツからの挨拶は無視して意趣返しをした。だって妻の親友の結婚式に別の女連れてくるなんて、腹が立つというものである。
 それに危ない国境付近に飛ばされるのが待ち遠しい。

 アイツらのその後については、関わることをやめたからわからない。
 噂で妻の葬式から一ヶ月後に例の女と結婚したとか聞いたあと、割と早くに殿下が国境近くへの異動を命じたからである。王家がいる王都から国境へは遠いためその後は本当に噂も何も耳に入ることは無かった。

 ただ、一度。名前と髪型などを変えたリーリアと共に、お忍びで街を歩いていた時に入った食事処。美味しいと有名なお店で個室へ向かう際。再婚直後で妻自慢をしてるアイツが店内に居たのを見かけたくらい。幸せそうに笑い自慢していたから殴りたくなったが、異動直前だったのかそれ以降は見かけることも無くなった。


 異動して数ヶ月。ふとその後どうなったのかが気になった。公務中の書類に国境という文字があったからかもしれない。
 既に結婚し、王太子妃になった私。危ない場所なので直接見ることは出来なかったが、私の代わりに女性騎士の一人にアルドがいる地域へ様子を見に行ってもらうことにした。
 もし居たら私の親友を大事にしなかった恨み言を言って欲しいと伝言お使いもお願いした。何度も。
 報告ではリーリアを蔑ろにしながら愛し、結婚した相手に捨てられ、怪我が悪化して亡くなったそうだ。

 思わずざまあみろと高笑いがでてしまった。
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