人一倍弱虫なぼくはファンタジー世界でアンデッドな彼女に恋をする

所為堂篝火

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第3話

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 無数のグールに囲まれて、隠しボスであるオブソリートリッチが鎮座していた。その姿は禍々しく、薄茶色の朽ちかけた骨が寄せ集まってできた怪物だ。見るからに禍々し様相を呈している。

 石造りで囲まれたドーム状の部屋へ想次郎が踏み入った瞬間、入口が地面から這い出してきた石板で塞がれる。

 幾度となく経験してきたことだけに流石の想次郎も狼狽えず、カランビットナイフを片手に早くも聖属性魔法を唱える。

「フォルストゥム」

 魔法の効果でナイフが白く輝く。装備している武器に聖属性を付与するエンチャント魔法だ。これによって、このボスのようなアンデッド属のモンスターには効率よくダメージを通すことができる。

「うえぇ」

 オブソリートリッチの妙に生々しい質感に気分が悪くなりながらも、慣れた身のこなしで攻撃を躱しつつ、適格にナイフでダメージを与えていく想次郎。そして取り巻きのグールには目もくれず、ものの数分で隠しボス、オブソリートリッチを撃破した。

「はぁ……あとは……」

 このボスは取り巻きのグールを含めて「ボス扱い」となる為、あとはその雑魚敵を処理すれば無事クリアとなるのだが、このボスステージの厄介なところは一定時間でその雑魚的が復活してしまうことだ。

 しかしステージの適正レベルを大きく上回る想次郎ならば既にグール程度の雑魚的ならまとめて瞬殺できる実力だった。

 だが、想次郎は動きの遅いグールの攻撃を掻い潜りながら、グールが一体復活すると時折攻撃を加え、また一体処理、といったように、明らかに意図的に攻撃の手を緩めて戦闘を続ける。

 無限に湧き続けるグールを倒していると、稀に別種のモンスターが出現する。女性型のアンデッド属モンスター、バンシーである。

 薄汚れたボロ布を纏う肌はどこかのマッドサイエンティストの実験体にでもされたのか、所々継ぎ接ぎだらけで、その瞳は燃えるように赤かった。クラスはグールよりも上のC2で、所謂レアキャラに位置する存在だ。

 レアキャラと言っても通常よりも強敵になる為、プレイヤーにとっては出会ってしまうこと自体が不運でしかなく、ゲームクリアの邪魔をする制作側の用意した意地の悪いトラブルイベントと捉えるのが普通だ。

「来たっ!」

 しかし想次郎は違った。そのシルエットを確認するなり、歓喜の声を上げる。

「――っと、違う。この娘じゃない」

 と思いきや、瞬時に表情を曇らせ出現したばかりのバンシーを躊躇なく倒してしまう。

 それからもひたすらグールを狩り続け、時折出現するバンシーを倒していった結果、9体目のバンシーが姿を現す。

 モンスターの頭上に表示されるキャラ名にはその同名モンスターが複数体存在する場合、アルファベットがAから順番に割り振られるのだが、たった今現れたバンシーは9体目を示すバンシーIと表示されていた。

 このゲームのリアルへの追求は敵となる各種モンスターにも現れており、同名モンスターでも無数の容姿パターンが存在するのだ。

 バンシーIは長い銀髪の背が高い女性型で、他のバンシーと同じくボロボロの布切れのような服に身を包み、その肌は他と同様に継ぎ接ぎだらけだ。しかし、その禍々しい見た目の中には隠し切れない女性の艶やかさが滲み出ている。左右にバランスを崩しながらゆらゆらと歩く様子も、そのスタイルの良さが相まってどこか妖艶ですらある。

 端的に言えば、バンシーIは美人だった。美人アンデッドである。

 想次郎の目的、それはこのバンシーに出会うことであった。

 そう、想次郎はこのファンタジー世界のアンデッドモンスターに恋心を抱いていた。

「やっと会えた……」

 目当てのバンシーから視線を逸らさないまま、周囲から襲い来るグールを瞬時に一掃する想次郎。

 レベルアップ時のステータスをある程度自由に割り振れる本ゲームにおいて、想次郎がその大半を俊敏性に割り振ったのも彼女に会う為の効率性を重視した結果であった。





------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【魔法】
聖属性C2:フォルストゥム
装備武器に一定時間、聖属性をエンチャントする。
祈りに特別な神具は必要ない。水星の日時や刻印の力すら不要だ。あなたが心から真の祈りを捧げるのなら、神は常に平等に光を分け与えるのだから。
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