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第六章 最強の少女、罪に問われる
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「お姉様、お姉様」
「……うん……うん」
「お姉様、寝ぼけておられないで起きてください」
一人の少女が上機嫌でベッドカーテンをぱっと開き、横たわる姉の身体を揺らす。
「ん……ああ、シト……ラ? どうした」
「お姉様。今日は国務や執務のお仕事がお休みと、夜魔将官の皆様からお聞きしました。どうです。今、お暇でしょう?」
「……いや、寝ていたんだが」
「ささっ、お姉様。早く起きましょうっ!」
少女は寝間着姿の姉の手を握って、いやおうなしに寝室から連れ出した。しかし、廊下に出てすぐに一人の女騎士が少女を捕える。
「こーら妹様。駄目ではありませんか、お休み中の魔王様を起こされては」
「な、ナタール……モルナも」
「こんな早くに元気だね~」
微笑しながら女騎士──ナタールは少女の頭を撫でる。彼女は魔王直属の第三位夜魔将官であり、主に城内の監視長官として働く。どうやら少女は徘徊中のナタールに運悪く出くわしたらしい。さらには姉の親友──モルナも一緒だ。
「わざわざこんな朝から魔王さまを叩き起こすなんて容赦ないね~」
「魔王様には久方ぶりの休日を与えられているのですから、妹様も少し自重しませんと」
「は、はい……」
「よいよい、ナタール、モルナ。ふぁーっ、最近は仕事ばかりで妹ともあまり関わることができていない。今日は、シトラと街へ出掛けることにするぞ」
「い、いいのですかお姉様!」
「ああ、久しぶりに遊ぼうか」
「あはは。魔王さまが言うならね~」
「はぁ……ふふっ、まったく。そうですか。かしこまりました。ですが魔王様、まずはお着替えにならないと」
笑顔を弾かせて魔王の妹──シトラは、姉の手を強く握った。
「今日だけは普通の姉妹として遊ぼうね、マリアネお姉ちゃんっ!」
────。
────────。
「……ん。あれ」
見慣れた天井が目に映る。
「ここは……えっと……まず、俺は何してたっけ」
重い体をゆっくりと起こし、窓から景色を一望する。ここはいつも自分が寝泊まりする宿だ。
「……そういえばクエスト行ってたんだっけ。おっとっと……。ふらふらするな」
身体の感覚が覚束ない少女──ツルカは、蹌踉と部屋を出る。階段を下るにもなかなかの時間を掛けて、やっとの思いで受付まで顔を出した。
「……ん? まあ、ツルカさん⁉ ようやくお目覚めになられたのですか!」
「よ、ようやく? そんなに俺は寝ていたのか」
「そうですよ! ツルカさんが宿に運ばれてから三日間、ずっとお眠りになられていたのですから」
「み、三日⁉」
頬をびくびくとさせながら、ツルカは宿の滞在履歴を観覧する。
「ま、マジじゃん……」
「いつ目を覚ましてくださるのかと……。本当に良かったです」
「み、みんなは」
「ツルカさんのお仲間なら本日もクエストに向かわれています。教官が不在でもクエストの成績だけは評価点のために残しておこうという考えらしいです。その間、ツルカさんのお世話を任されておりまして」
「なるほど……」
「いや、そんなことよりもです!」
「んんっ⁉」
受付の女性がいきなりカウンターを叩きつけるようにしてツルカを睨む。
「……ツルカさん。昏睡状態になった理由……『賢人』級魔法による魔力の過剰消費が原因と伺いました。加えて、二百年間討伐が成されなかった黒竜アザンドラを倒したと!」
「ギクッ……」
「ツルカさんを運んでくださった女性騎士から詳しいことを伺いました。さらにはビジルゴス国の冒険者ギルド協会の人までも! その方がアザンドラの討伐経緯について国に伝達されたらしいですし。ツルカさん、今あなたは相当の有名人となっていると思います」
「ば、バカなっ……」
「ツルカさんは騎士団にも臨時で就任しているので、恐らく騎士団の皆様にもかなり伝わっているかと」
ツルカの顔から血の気が引いていき、ゆっくりと崩れていく。慌てて受付の女性はツルカの体を支えて二階の客室へと運んでいった。
《まー無茶しましたもんね。そりゃ有名にもなります》
呆れたようなアイナの素っ気ない声が、ぼそっとツルカの脳内に響いた。
「……うん……うん」
「お姉様、寝ぼけておられないで起きてください」
一人の少女が上機嫌でベッドカーテンをぱっと開き、横たわる姉の身体を揺らす。
「ん……ああ、シト……ラ? どうした」
「お姉様。今日は国務や執務のお仕事がお休みと、夜魔将官の皆様からお聞きしました。どうです。今、お暇でしょう?」
「……いや、寝ていたんだが」
「ささっ、お姉様。早く起きましょうっ!」
少女は寝間着姿の姉の手を握って、いやおうなしに寝室から連れ出した。しかし、廊下に出てすぐに一人の女騎士が少女を捕える。
「こーら妹様。駄目ではありませんか、お休み中の魔王様を起こされては」
「な、ナタール……モルナも」
「こんな早くに元気だね~」
微笑しながら女騎士──ナタールは少女の頭を撫でる。彼女は魔王直属の第三位夜魔将官であり、主に城内の監視長官として働く。どうやら少女は徘徊中のナタールに運悪く出くわしたらしい。さらには姉の親友──モルナも一緒だ。
「わざわざこんな朝から魔王さまを叩き起こすなんて容赦ないね~」
「魔王様には久方ぶりの休日を与えられているのですから、妹様も少し自重しませんと」
「は、はい……」
「よいよい、ナタール、モルナ。ふぁーっ、最近は仕事ばかりで妹ともあまり関わることができていない。今日は、シトラと街へ出掛けることにするぞ」
「い、いいのですかお姉様!」
「ああ、久しぶりに遊ぼうか」
「あはは。魔王さまが言うならね~」
「はぁ……ふふっ、まったく。そうですか。かしこまりました。ですが魔王様、まずはお着替えにならないと」
笑顔を弾かせて魔王の妹──シトラは、姉の手を強く握った。
「今日だけは普通の姉妹として遊ぼうね、マリアネお姉ちゃんっ!」
────。
────────。
「……ん。あれ」
見慣れた天井が目に映る。
「ここは……えっと……まず、俺は何してたっけ」
重い体をゆっくりと起こし、窓から景色を一望する。ここはいつも自分が寝泊まりする宿だ。
「……そういえばクエスト行ってたんだっけ。おっとっと……。ふらふらするな」
身体の感覚が覚束ない少女──ツルカは、蹌踉と部屋を出る。階段を下るにもなかなかの時間を掛けて、やっとの思いで受付まで顔を出した。
「……ん? まあ、ツルカさん⁉ ようやくお目覚めになられたのですか!」
「よ、ようやく? そんなに俺は寝ていたのか」
「そうですよ! ツルカさんが宿に運ばれてから三日間、ずっとお眠りになられていたのですから」
「み、三日⁉」
頬をびくびくとさせながら、ツルカは宿の滞在履歴を観覧する。
「ま、マジじゃん……」
「いつ目を覚ましてくださるのかと……。本当に良かったです」
「み、みんなは」
「ツルカさんのお仲間なら本日もクエストに向かわれています。教官が不在でもクエストの成績だけは評価点のために残しておこうという考えらしいです。その間、ツルカさんのお世話を任されておりまして」
「なるほど……」
「いや、そんなことよりもです!」
「んんっ⁉」
受付の女性がいきなりカウンターを叩きつけるようにしてツルカを睨む。
「……ツルカさん。昏睡状態になった理由……『賢人』級魔法による魔力の過剰消費が原因と伺いました。加えて、二百年間討伐が成されなかった黒竜アザンドラを倒したと!」
「ギクッ……」
「ツルカさんを運んでくださった女性騎士から詳しいことを伺いました。さらにはビジルゴス国の冒険者ギルド協会の人までも! その方がアザンドラの討伐経緯について国に伝達されたらしいですし。ツルカさん、今あなたは相当の有名人となっていると思います」
「ば、バカなっ……」
「ツルカさんは騎士団にも臨時で就任しているので、恐らく騎士団の皆様にもかなり伝わっているかと」
ツルカの顔から血の気が引いていき、ゆっくりと崩れていく。慌てて受付の女性はツルカの体を支えて二階の客室へと運んでいった。
《まー無茶しましたもんね。そりゃ有名にもなります》
呆れたようなアイナの素っ気ない声が、ぼそっとツルカの脳内に響いた。
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