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第六章 最強の少女、罪に問われる

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「ほう、いいぞ。通せ」
 大臣がそう言うと、騎士が合図を出す。同時に扉が派手に開かれると、聞き慣れた声がツルカの耳に入る。
「ちょ、離しやがれっ!」
「なんで私達が悪いみたいに……!」
 それは騎士団に拘束されたジン達であった。
「お、お前ら!」
「ガキ⁉ やっと目を覚ましたのか!」
「長い間、目を覚まさないから心配したよ……」
「なんでお前らまでここに……」
「三日前のことだ。クエストから帰ってきたら、宿に騎士団の奴らが待ち構えていやがった。そんでここに連れてこられたってわけでな……」
「ツルカ=ハーランの仲間をお連れしました」
「うむ、下がれ」w
 複数の騎士が大臣と国王に頭を垂れると、素早くその場から退く。
「おい大臣、聞いたぞ……ガキを処刑するだと⁉ なんで罪もねえ……ましてや危険種を倒した英雄だってのに!」
「下民がげらげら口を開くな。さらにはなんだ、その口は」
「でもおかしいわよ! ツルカちゃんは国を脅かす存在を一つ抹消してくれたのよ⁉」
「そうだよ。なんにもツルカちゃんは悪くない! 私達の教官として……試験のサポートも徹底してくれてた。心から私達の事を見守ってくれてた優しい人!」
「君達がどうこう言おうとも無駄だ。我々は彼女を決して悪と言っているわけではない。ただ、彼女の力について危惧しているのだ。Cランク冒険者が上級魔法を使うのだぞ。才能というにはかなりの無理があるだろう。彼女に罪はなくとも……神々が残した言明には従うべきではないか? 彼女の力は他を卓越しすぎておる。このままでは神々の言う悪魔が彼女を依り代として蘇るやもしれん」
「でも、滅茶苦茶すぎませんか……!」
 無駄に力の入った体を震わせながら、ナユは歔欷していた。
「んなの古代の伝説だろ。そんな子供騙しみてえな事があってたまるかっ! 現実的に考えて、ガキの意味不明な罪状を吟味するべきだろうが!」
「異論は認めん。これは確定事項だ。神々の言伝に従えば、我々は道を踏み外すことはない。全ては神々の教えのままに」
 ジンがぼやくが大臣は一切相手にしない。膝を突くツルカの背後で、騎士がゆっくりと鞘から剣を抜く。白羽が眩しいほどに光芒を散らし、それをツルカの首筋に密接させる。
(まずい。マジでこいつ俺の首を斬る気だ。今すぐにも抵抗して逃げるか……!)
《そうしてしまえば本当に手配されると思われますが……》
 強行突破にしろ、それでは潔白どころか、事態の深刻化が予想される。
「……どうすれば」
 沈吟している間にも、ツルカの処刑が刻々と迫る。
「では、ツルカ=ハーランの処刑を執行する」
 騎士は剣を振り上げて、狙いを定めた。
「やれ」
 ツルカは間違いなく、この瞬間を最後と感じただろう。
「だめ───ッ!」
「ガキッ!」
 ……ふと、ツルカは閉じている目をゆっくり開く。刑が執行されるのが妙に遅いのだ。
「な、なんだ。どうしたんだ」
 大臣の不思議そうな顔を上目で眺めた後、ツルカは怯えながら後方の騎士を確認する。騎士は剣を構えたまま、どうしてか一歩たりとも動こうとしなかった。
「貴様、何をしている!」
「ち、違うのです大臣……! 身体がっ……動かない……!」
「何を言っているのだ!」
「うっ、な、誰だ⁉ 私の中に何かが、何かが入ってくる……っ! やめろ、話しかけるな! やめ……ろ……!」
 すると、騎士は突然と意識を失い、崩れるように倒れた。
「ど、どうした。何が起きている!」
 玉座の間が騒然とし始め、刑を執行する儼乎たる雰囲気とはガラッと一転。全員が一様に戸惑いの表情を浮かべ、目を大きく剥き出しにする。
 ツルカはひとまず安堵して肩の力を抜くが、それも刹那。またしても扉が粗雑に開かれ、一人の騎士が酷く取り乱した様子で玉座の間に入場する。
「た、大変です!」
「なんだ、無礼者。いきなり玉座の間に押し入るとは」
「も、申し訳ございません!」
 騎士は素早く膝を突き、油を引いたように光る汗まみれの顔で────
「ほ、報告致しますっ! 先程、ドリバルグ魔城国より……シトラ魔王様と全九人の夜魔将官を連れ、グランディール国に来訪。只今、城門を通過し、ここグランディール城へ歩みを進めております!」
「な、なんだと⁉」
 予期せぬ報告に大臣が声を荒げる。
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