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第一話 南の島で年下の彼と再会しました。
第一話⑨
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観光を終えた私は、石垣島へと戻ってきていた。
竹富島観光は凄く充実していた。
遠浅のコンドイビーチにくるぶしまで足を浸けて綺麗な海を眺め、その後はカイジ浜で小瓶に星砂を拾い集めたり、水牛の牛車に乗って集落を観光したりと楽しんだ。
現在時刻は16時過ぎ。
そろそろ夕刻に差し掛かる頃合いではあるものの、八月の石垣島の空はまだ真昼のように明るい。
私は今日この後、喜友名くんが勤めているというバーにお邪魔しようと考えていた。
けれども彼のお店の営業時間は18時からとのことなので少し暇を持て余してしまう。
どうやって空いた時間を潰そうか。
「あ、そうだ。乃江ちゃんのお土産」
ちょうどいいから、いまのうちに買っておこう。
◇
離島ターミナルから東へ歩くことほんの数分。
私は『ユーグレナモール』へとやってきた。
ここは石垣島は美園町にある日本最南端のアーケード商店街だ。
並行するふたつの長いアーケードからなる割り合い規模の大きな商店街で、地元の方々には旧名である『あやぱにモール』の名称で親しまれている。
通りを覗くと沢山のお土産物屋さんや飲食店なんかが軒を連ね、大勢の観光客で賑わっていた。
露店で島野菜を売っているお婆さんもいて、こういうところもなんだか沖縄らしい。
私もその賑わいに混ざって、手前のお店の軒先から土産の品を物色していく。
「ふわぁー、たくさんあるなぁ」
平積みにされた沖縄定番のお菓子であるちんすこうやサーターアンダーギー。
変わったものだと沖縄限定パッケージのご当地ハイチューやご当地プリッツなんてのもある。
「中はどうかな?」
店内に入りお酒の陳列棚に目を移すと、三合瓶の一般的な泡盛のほかに、シーサーの陶器に詰められた泡盛もあった。
色んな商品があって、なんだかこうして眺めて歩いているだけでも楽しい。
「乃江ちゃん、どんなお土産だったら喜んでくれるかなぁ。……あ、このシーサーの置物なんかいいかも」
目に映った手のひらサイズの夫婦シーサーを、指先で突いてみる。
ざらざらとした焼き物の感触。
夫婦どちらのシーサーも、コミカルで可愛らしい満面の笑みを浮かべている。
ちなみに夫婦のシーサーはオスの方が大きく口を開いてそこから幸運を取り込み、もう一方のメスがしっかり口を閉じて幸せを逃がさないらしい。
「ふふ。可愛い……」
なんだか気に入ってしまった。
これは欲しいかも。
結局私はそのシーサーを自分用の旅の記念品として購入し、乃江ちゃんには琉球ガラスの綺麗なグラスセットを選んでお土産にすることにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あやぱにモールを後にした私は、喜友名くんからもらった名刺に書かれた地図を頼りにバーへと向かっていた。
「あ、ここかな」
少し入り組んだ路地を曲がった先にある一軒家。
そこは小さなお店だった。
ダークブラウンを基調としたシックな外観。
軒に据え付けられた暖色のスポットライトが玄関口を陽だまりのように柔らかく照らし、その脇に置かれた小洒落た立て看板に『BAR南風』と書かれてある。
どうやら間違いなく目的のお店なようだ。
私は玄関前に立ち、ごくりと喉を鳴らした。
どこか緊張している自分を感じる。
というのも私はお酒は外でも結構飲む方だけど、いつもは家庭的な居酒屋さんなんかを行きつけにしていて、ひとりでバーに入った経験などないからだ。
「よ、よし……」
なんとなく気合いを入れてから、アンティーク調のノブに手を掛ける。
そのまま扉を押し開くと、カランカランとドアベルが鳴った。
「ご、ごめんくださぁい……」
弱々しい声で呼びかける。
扉を開いた先には、わずかばかり照明の明度を落とした薄暗い通路があった。
木製の床板をギシリと軋ませながら、その廊下を一歩ずつ、恐る恐る進んでいく。
通路を抜けた先は開けたスペースだ。
そこに辿り着いた私は、店内を見回しカウンターの中に喜友名くんの姿を見つけた。
バーテンダー姿の彼も、すでに私の来店に気付いている。
「あ、あの……。き、来ちゃった」
「ええ。待ってました」
喜友名くんが優しい笑みを向けてくれる。
「ご、ごめんね。お邪魔じゃなかったかな?」
「先輩のことが邪魔だなんて、とんでもないですよ。あり得ないです。それに言ったでしょう、待ってたって」
彼の言葉に偽りはなさそうだ。
だって喜友名くん、どことなく嬉しそう。
普段は少し吊り目がちで鋭い眼差しの彼とのギャップを感じさせるその表情に、私はトクンと胸が高鳴った。
「さぁ、先輩。こちらへどうぞ」
「う、うん」
勧められるままにバーカウンターの、喜友名くんの真ん前の席に座る。
けれども私はさっきからそわそわしてしまって、なんだか落ち着かない。
「では改めまして。いらっしゃいませ、ようこそお客さま」
喜友名くんが唐突に、大きく腕を回しながら挨拶してきた。
随分と芝居がかった口調や仕草だ。
いきなりどうしたんだろう。
よくわからないけど見ようによっては少し滑稽にも感じられる彼の様子に、さっきからなんとなく感じていた緊張がほぐれていく。
「ふふ。喜友名くんってそんなキャラだっけ? ふふふ」
「……ちょっと気取りすぎですかね?」
「ううん。喜友名くんイケメンだし、案外そういうのも似合ってるかもしれないよ。ふふふ」
「そうですかね? お嬢さま、お褒めに預かり光栄でございます」
「やだ、なにそれぇ? ふふふ」
「って、これだとバーテンダーじゃなく執事か。あはは」
ふたりして笑いあう。
そして気付いた。
あ、そうか。
もしかして喜友名くん、私がちょっと固くなってるのを見抜いて、緊張をほぐそうとしてくれたのかな?
いやきっとそうだろう。
彼の細やかな心遣いに、私はなんだか胸がじんわり暖まるのを感じた。
竹富島観光は凄く充実していた。
遠浅のコンドイビーチにくるぶしまで足を浸けて綺麗な海を眺め、その後はカイジ浜で小瓶に星砂を拾い集めたり、水牛の牛車に乗って集落を観光したりと楽しんだ。
現在時刻は16時過ぎ。
そろそろ夕刻に差し掛かる頃合いではあるものの、八月の石垣島の空はまだ真昼のように明るい。
私は今日この後、喜友名くんが勤めているというバーにお邪魔しようと考えていた。
けれども彼のお店の営業時間は18時からとのことなので少し暇を持て余してしまう。
どうやって空いた時間を潰そうか。
「あ、そうだ。乃江ちゃんのお土産」
ちょうどいいから、いまのうちに買っておこう。
◇
離島ターミナルから東へ歩くことほんの数分。
私は『ユーグレナモール』へとやってきた。
ここは石垣島は美園町にある日本最南端のアーケード商店街だ。
並行するふたつの長いアーケードからなる割り合い規模の大きな商店街で、地元の方々には旧名である『あやぱにモール』の名称で親しまれている。
通りを覗くと沢山のお土産物屋さんや飲食店なんかが軒を連ね、大勢の観光客で賑わっていた。
露店で島野菜を売っているお婆さんもいて、こういうところもなんだか沖縄らしい。
私もその賑わいに混ざって、手前のお店の軒先から土産の品を物色していく。
「ふわぁー、たくさんあるなぁ」
平積みにされた沖縄定番のお菓子であるちんすこうやサーターアンダーギー。
変わったものだと沖縄限定パッケージのご当地ハイチューやご当地プリッツなんてのもある。
「中はどうかな?」
店内に入りお酒の陳列棚に目を移すと、三合瓶の一般的な泡盛のほかに、シーサーの陶器に詰められた泡盛もあった。
色んな商品があって、なんだかこうして眺めて歩いているだけでも楽しい。
「乃江ちゃん、どんなお土産だったら喜んでくれるかなぁ。……あ、このシーサーの置物なんかいいかも」
目に映った手のひらサイズの夫婦シーサーを、指先で突いてみる。
ざらざらとした焼き物の感触。
夫婦どちらのシーサーも、コミカルで可愛らしい満面の笑みを浮かべている。
ちなみに夫婦のシーサーはオスの方が大きく口を開いてそこから幸運を取り込み、もう一方のメスがしっかり口を閉じて幸せを逃がさないらしい。
「ふふ。可愛い……」
なんだか気に入ってしまった。
これは欲しいかも。
結局私はそのシーサーを自分用の旅の記念品として購入し、乃江ちゃんには琉球ガラスの綺麗なグラスセットを選んでお土産にすることにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あやぱにモールを後にした私は、喜友名くんからもらった名刺に書かれた地図を頼りにバーへと向かっていた。
「あ、ここかな」
少し入り組んだ路地を曲がった先にある一軒家。
そこは小さなお店だった。
ダークブラウンを基調としたシックな外観。
軒に据え付けられた暖色のスポットライトが玄関口を陽だまりのように柔らかく照らし、その脇に置かれた小洒落た立て看板に『BAR南風』と書かれてある。
どうやら間違いなく目的のお店なようだ。
私は玄関前に立ち、ごくりと喉を鳴らした。
どこか緊張している自分を感じる。
というのも私はお酒は外でも結構飲む方だけど、いつもは家庭的な居酒屋さんなんかを行きつけにしていて、ひとりでバーに入った経験などないからだ。
「よ、よし……」
なんとなく気合いを入れてから、アンティーク調のノブに手を掛ける。
そのまま扉を押し開くと、カランカランとドアベルが鳴った。
「ご、ごめんくださぁい……」
弱々しい声で呼びかける。
扉を開いた先には、わずかばかり照明の明度を落とした薄暗い通路があった。
木製の床板をギシリと軋ませながら、その廊下を一歩ずつ、恐る恐る進んでいく。
通路を抜けた先は開けたスペースだ。
そこに辿り着いた私は、店内を見回しカウンターの中に喜友名くんの姿を見つけた。
バーテンダー姿の彼も、すでに私の来店に気付いている。
「あ、あの……。き、来ちゃった」
「ええ。待ってました」
喜友名くんが優しい笑みを向けてくれる。
「ご、ごめんね。お邪魔じゃなかったかな?」
「先輩のことが邪魔だなんて、とんでもないですよ。あり得ないです。それに言ったでしょう、待ってたって」
彼の言葉に偽りはなさそうだ。
だって喜友名くん、どことなく嬉しそう。
普段は少し吊り目がちで鋭い眼差しの彼とのギャップを感じさせるその表情に、私はトクンと胸が高鳴った。
「さぁ、先輩。こちらへどうぞ」
「う、うん」
勧められるままにバーカウンターの、喜友名くんの真ん前の席に座る。
けれども私はさっきからそわそわしてしまって、なんだか落ち着かない。
「では改めまして。いらっしゃいませ、ようこそお客さま」
喜友名くんが唐突に、大きく腕を回しながら挨拶してきた。
随分と芝居がかった口調や仕草だ。
いきなりどうしたんだろう。
よくわからないけど見ようによっては少し滑稽にも感じられる彼の様子に、さっきからなんとなく感じていた緊張がほぐれていく。
「ふふ。喜友名くんってそんなキャラだっけ? ふふふ」
「……ちょっと気取りすぎですかね?」
「ううん。喜友名くんイケメンだし、案外そういうのも似合ってるかもしれないよ。ふふふ」
「そうですかね? お嬢さま、お褒めに預かり光栄でございます」
「やだ、なにそれぇ? ふふふ」
「って、これだとバーテンダーじゃなく執事か。あはは」
ふたりして笑いあう。
そして気付いた。
あ、そうか。
もしかして喜友名くん、私がちょっと固くなってるのを見抜いて、緊張をほぐそうとしてくれたのかな?
いやきっとそうだろう。
彼の細やかな心遣いに、私はなんだか胸がじんわり暖まるのを感じた。
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