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みんな仲良く温泉天国。

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岩風呂に顔を出したグウェンドリエルは、すでに衣服を脱いでいた。
惜しげもなく裸体を晒している。
その姿に一切の羞恥はなく、むしろ堂々とさえしている。

「――ぶふぉ! は、裸ぁ⁉︎」

ルシフェルは日本酒を吹き出した。
酒が気管に入って苦しい。
ごほごほと咳き込む。

「ルシフェル様⁉︎ 大変ですわ!」

グウェンドリエルは慌てながらも作法にのっとり、足先からそろりと湯船に浸かった。
すぅーと湯を進むとルシフェルに近づく。
咳き込むルシフェルの背中をそっと撫でて、介抱を始める。

「ごほっ! ごほっ!
「ルシフェル様、大丈夫ですこと?」
「けふっ! ふ、服を着て、服を……!」

ルシフェルは童貞だった。
女性の裸など、これまで直に見たことはない。
そんな初心なルシフェルに、抜群のプロポーションを誇るグウェンドリエルの肢体は刺激が強すぎた。

「まぁ、これは異なことを仰られますのね」

テンパるルシフェルに対して、グウェンドリエルは実に自然体だ。
何の気負いもない。
普通に話している。

「この日本式温泉という湯では誰しもが一糸纏わぬ姿になる。それが作法だとお教え下さいましたのは、ルシフェル様ご自身ですわ。だから私、服を脱いで来ましたの」

ルシフェルは温泉を作ってすぐ、グウェンドリエルやジズに出来栄えを自慢していた。
日本式温泉についての蘊蓄をアレコレ語っていたのだ。
その際に湯にタオルは浸けるなとか、水着は邪道だとか教えていた。

「いや確かにそう言ったけどさ! 俺、混浴だとは一言もいってないよね⁉︎」
「……混浴? はて、それはどういう意味でございますの?」

ルシフェルは男湯、女湯の話まではしていなかったことを思い出す。
でも普通は分かるだろ、と心の中で突っ込んだ。

「う、うううー」

ルシフェルは顔を半分までお湯に沈めた。
湯をぶくぶくさせながら、ちらりと隣を流し見る。

視界の端に、グウェンドリエルの裸体が映った。
普段は雪のように白い肌が、少し血色を帯びてほのかに桜色に染まっている。
少し扇状的で、でもそれ以上にとても美しい。

「うー! 飲む!」

ルシフェルは湯から顔を上げた。
気恥ずかしさを誤魔化すために、日本酒を一気に煽った。
ごくごくと飲む。
飲み干してはまた次の酒を作り出し、ごくごくと飲む。
頭がくらくらしてきた。

「ふふふ。ルシフェル様、素晴らしい飲みっぷりですわ! 私、見惚れてしまいます。でもよければ次の一杯は、私にお酌をさせて下さいませんこと?」



そうこうしていると、ジズまでやってきた。

「ルシフェル様ぁー。ジズも一緒に温泉入るのー!」

ジズもやはり素っ裸だ。
凹凸のないつるんとした裸体に、ルシフェルは少しほっとする。
ジズはざぶんと湯に飛び込んではルシフェルに抱き付いた。

「えへへー。温泉あったかいの!」
「こ、こら! 離れて。離れなさい!」
「嫌なの! ジズ、ルシフェル様にくっ付くー!」

見ればアダムとイヴまで、ジズに連れられて来ていた。
やはりこちらのふたりも素っ裸である。
ルシフェルは酒で意識をぼうっとさせながらも、頭を抱えた。

ああ、乱れている。
天使の風紀が乱れている!

ジズは苦悩するルシフェルには気付かずに、兄妹に入浴を促す。

「アダムとイヴも、はやく温泉に浸かるの! これはジズお姉ちゃんの命令なの!」
「……う、うう。ボク、奴隷なのに、ルシフェル様や皆様と一緒に、こんな立派なお風呂に浸かってもいいのかなぁ……?」
「お兄ちゃん、ジズお姉ちゃんが呼んでるんだから、覚悟を決めなきゃ。――えいっ!」

イヴが温泉に飛び込んだ。
アダムはその後におっかなびっくり続く。

「ま、待ってよぉ!」

兄より妹の方が思い切りが良いようだ。
温泉に浸かったふたりは隅っこで小さくなりながらも、すぐに表情を蕩けさせた。

温泉の魔力には誰も抗えぬのだ。
なんだかんだでみんな気持ち良さそうである。



ジズはルシフェルから離れると、バタ足しながら兄妹のところに行った。
湯を掛け合って遊び始める。

その光景を眺めながら、グウェンドリエルはルシフェルに話しかける。

「……ふふふ、ちびっ子たちは騒がしいですこと。でも喜んでいますわ。きっとルシフェル様に感謝していますことよ。それより、ささ、お酒の続きを。もう一献いかがです?」

グウェンドリエルが徳利を持ち上げた。
湯けむりで霞む中にあっても彼女の金髪縦ロールはキラキラと輝いて美しい。

「さぁさ、ご遠慮なさらず。メイドたちがいないのですから、不肖この私がお酌をさせて頂きますわ。ですが慣れておりませんので、もし少々の不作法がありましてもお許しくださいまし」

控えめな言葉とは裏腹に、グウェンドリエルはぐいぐい行く。
ルシフェルにぴったりと肌をくっ付けて離れない。

グウェンドリエルは他の守護天使やお目付役がいない今の内に、ルシフェルを独占してしまおうという魂胆だった。
抜け目がないのである。

酒が回り始めたルシフェルは、なんだか細かなことはもうどうでも良い気分になってきた。

温泉なんだし裸の付き合いくらい普通だろう。
というかルシフェルは、熱い温泉と一気飲みしたお酒のせいでちょっと頭がのぼせていた。

「ひっく……。じゃあ、一杯もらおうかな。あ、グウェンドリエルも飲まない? 食べるの好きなんだよね。肴だすよ。温泉卵でいい?」
「まぁ、嬉しいですわ! ルシフェル様とお酒を楽しめるなんて、なんと素晴らしいご褒美。それでは私もご相伴させて頂きますわ!」

こうしてルシフェル一行は温泉を堪能し、日頃の疲れを十分に癒したのだった。
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