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世界でいちばん、美しい蝶
走ってきた理由なんて、一生知らないままでいて
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「はっ、はっ、はっ」
無心で、木刀をふるう。体育館の一階に設けられた道場には、まだ唯希しかいなかった。午後の授業中なのだから、当たり前だ。通常授業よりも大会や練習への参加が優先される『スポーツ科』と言えど、さすがに授業時間に部活動を割り当ててもいいのは地方大会で二週間前、全国大会で三週間前に限られる。ちょうど前の地方大会が終わったばかりの今は、どちらにも該当しない。どちらかと言うと、次の大会が始まる前に、と目一杯、通常授業を詰め込まれている。
(あいつら、今頃教室で泡ふいてんだろうな)
級友の愉快な姿を思い浮かべて、唯希はふっと笑った。ようやく少し、気が落ち着いてきたのを感じる。手を止めると、途端に体中から汗が噴き出した。まだ梅雨入り前だと言うのに、もう夏が眼前に迫っている。部室から道着と一緒に持ってきたタオルで顔を拭って、唯希は壁際に座り込んだ。
そのまま、全身の力を抜いて、冷たい床に寝転がる。
(行儀悪いって、師範に怒られんなー)
昔はよく、暑さに負けて床にへばりついては、声の大きい師範に怒られていた。どんなに怒られても、心地よさの方が勝るから、結局、十七になった今も、その癖は治っていないわけだけれど。
ぼうっと、床の表面を視線が滑った。窓から差し込む光が反射する様を目に映しているはずなのに、見えてくるのはどういうわけか、笑った顔の終一だった。
好きなやつが笑っている。それは、喜ぶべきことだ。予防線を張って人を遠ざけるばかりの終一が、笑っていられる場所が増えたなら、喜んで、祝福するべきだと。理性では、分かっている。それが理想だ。そういう自分でありたいと、ちゃんと、本気で思っている。なのに。
「っ、クソ……!」
腹の底で、獣が吠えている。そんなのは嫌だと、子供じみた駄々をこねる。あいつの笑顔も、弱った顔も、涙も、苛立ちも、吐き出す二酸化炭素すら、誰かにくれてやるのは惜しい。
(だってお前、俺以上に、その笑顔の価値を知らないだろ)
あいつが笑いかけてくれるだけで、ほかの全部、どうだって良くなる。たぶん、今から頭の上に隕石が降ってくるって言われても、終一が目の前で笑ってくれたら、唯希は喜んで、命を差し出す。地面にめり込んだっていいし、宇宙の塵になったっていい。ただ、終一が、俺に、笑ってくれるなら。
「いや。隕石降ってきたら、あいつまで死んじまうか」
それは、困る。――……困る、な。
嘘。
いや、やっぱ、嘘じゃない。
生きていてくれたら嬉しい。でも、ほんのひと欠片だけ。自分が死んだあとの世界で、誰かと添い遂げて、幸せに生きていく終一を想像すると、ほんの、ほんの小さなひと欠片だけ、心が痛いと泣き叫ぶ。
「性格わりーな。ほんとに」
分かり切っていることだし、普段はむしろ、馬鹿でいるよりいいだろと思っているけれど。
ごろん、と寝返りを打って、天井を見上げる。近所の、昔から通っている道場とは違って、二階に体育館があるせいで天井は高くない。出来心で手を伸ばしてみる。低いとは言え、天井だ。届くはずもない。
「……あいつ、きれーなんだもんなぁ」
「誰が?」
ぽすん、と伸ばした手に紙束が乗せられる。驚いて手を引くと、プリントが顔の上に落っこちてきた。「わぶっ」ぎゅっと目をつむって、衝撃を受け流す。
「情けない声」
突然の襲撃者は、そう言ってため息を吐いたようだった。いや、ため息を吐きたいのはこっちなんだけど。心の中でふてくされながら、唯希はひとまず、顔の上のプリントを床に振り落とした。ようやく晴れた視界の真ん中に、聞こえた声通り、世界で一番うつくしい蝶の、幼虫が立っている。
「終」
名前を呼ぶ。あいつの、青みがかった、黒い瞳がこちらを向く。唯希を見下ろす体勢のせいだろうか、長い前髪がふわりと浮いて、珍しく額が見えていた。
(こいつ、やっぱ顔きれーだなー)
スーツを着せて、ワックスで前髪をあげたら、樋口なんて目じゃない声量の悲鳴があがるだろう。あ、でも、普通にダボッとしたパーカーとか着てるのも見たいかも。ぼうっと見つめたせいか、終一はきゅっと形のいい眉を寄せた。唇も薄くて、眉も細くて、目も切れ長。終一は顔まで全部、繊細なつくりをしている。
「なに?」
きれーな顔してんな、と思って。
言ったら、どんな顔をするんだろう。言ってみて、あの後輩には見せたことがないだろう顔を引き出してみたい気もした。
「いや。なに? は俺のセリフなんだけど。なにやってんの、授業中だろ。今」
結局、嫌われて、逃げられる方が怖くて、いつも通りの口調で無難な言葉を返す。
「授業中なのは唯希も一緒だと思うけど」
「俺はサボり」
「堂々としすぎでしょ。師範さんに言いつけようかな」
不機嫌そうな顔をしたまま、終一は唯希の頭の上の方に座り込んだ。ぐーっと首をそらしてみると、両膝を立てて、そこにスケッチブックを置くのが見える。その姿越しに、床の上に布が広げられている。白い手ぬぐいの上に並ぶのは、何本かの鉛筆と練り消し、それからヨレヨレの教本だ。ごろん、と再度寝返りを打って、うつ伏せになる。紙に鉛筆を走らせる横顔は、真夜中の教室ほどではないけれど、澄んでいてうつくしかった。
組んだ両腕の上に頬をつけて、それをじっと見つめる。絵を描いているときは、どれだけ見つめても気づかれない。怒られないから都合がいいけれど、終一の関心を奪う白い画用紙が恨めしくもある。
(あ、髪、はねてる)
頭のてっぺんから、だいたい目の高さまでつながる、後頭部の丸いシルエット。襟足は短く、首筋に沿っている。その丸みが一筋、ちょんと跳ねていた。寝ぐせ、というよりは、なんというか……。
(……ちょっと、乱れてる?)
風の強い日に、体育でサッカーをやらされたときに、同じように跳ねているのを見たことがある気がする。それを可愛いと思った心が恋に化けるなんて知らなかった、お気楽な、高一の春のことだ。
「なに?」
瞳はスケッチブックをとらえたまま、終一の声だけが唯希を向く。
「いや、髪、はねてるから。どっか走ってきたの」
問いかけると手が止まって、瞳もこちらを向いた。おっと。なんか、怒らせた?
「はぁ? そんなの唯希が、」
終一の言葉が不自然に途切れる。眉間に深く皺を刻んで、唯希を睨みつけていた顔にじわじわと朱がさす。しまいには、ぷいっと顔を逸らされてしまうから、唯希は口を半分開けて瞬いた。
(は? なんだそのかわいい顔)
終一は鉛筆をぎゅっと握りしめて、唇を噛んでいる。眉根がきゅっと寄せられているけれど、ほのかに赤いから、なんというか、ただほんとに、シンプルに、可愛いだけだ。
「俺が、なに」
続きをねだって、身を乗り出す。逃げるように、さらに首がそっぽを向いた。なに、言って。教えて。俺の何が、お前にそんな顔させられんの。何したら、お前、そんな顔してくれんの。
「……」
終一はかたくなに口を開かない。目も合わない。
「終」
焦れて、唯希の方から名前を呼んだ。体を起こして、視線を迎えに行く。
「……終。なに、おしえて」
下から覗き込めば、ちらりと青みがかった黒い瞳が唯希を捉えた。長い睫毛がふるえて、わずかに目が見開かれる。「ん? どうした?」首をかしげて続きを促せば、終一は少し固まる。ぽかん、とした顔もかわいい。なんだこいつ。存在ぜんぶ、かわいいな。
「ふ」
じっと見つめた瞳が、不意に綻ぶ。切れ長の目じりが下がって、薄い唇が少し開く。特別な、唯希の一番好きな笑い方。あぁ、くそ。好きだな。こいつのそばに居たい。そのうつくしさに、身を焼かれることになっても。
「なんだ、元気そうだね」
終一はそう言って、唯希に細い指先を伸ばした。骨ばった指が揶揄うように前髪を掬う。そのまま、ぐいっと額を押された。終一の方に身を乗り出していた唯希はあっけなくバランスを崩して、その場に尻もちをつく。ほかの誰かなら、触れられる前に避けるのだけれど。
「なんだよ」
「教えてやんない」
ふふん、と終一は珍しく機嫌よさげに笑った。「はー? お前、俺がこんなに聞いてんのに」文句を言いながら、本当はもう、心が満たされている。我ながら単純で馬鹿だ。終一が笑えば、なんだって、ぜんぶどうでもよくなるなんて。
(一生、こうがいいな)
終一のことで乱されて、それをこいつは知らないままで。別にそう意図したわけでもない終一の笑顔とか、視線とか、そういうもので、勝手にご機嫌になって。
(一生、こうやって、そばに居られればいいのに)
「なに」
あっという間に画用紙に向き直ってしまった終一が、声だけで問いかけてくる。今日はやけにこちらを気にしてくれる。それだけで、唯希の表情は緩んだ。
「教えてやんねー」
「なにそれ」
「さっきの終の真似」
「再現度マイナス五点」
「内訳は?」
「せめて口調くらい似せてくるべきでしょ」
「ははっ」
二人きりの道場に意味のない会話が転がる。まだ蝉の声は聞こえない。けれど確かに、梅雨の気配が近づいている。なんの理由もなくても、二人の間に意味がなくても、こうして当たり前みたいな顔で傍にいられる時間の終わりが、ゆっくりと背後に迫っていた。
無心で、木刀をふるう。体育館の一階に設けられた道場には、まだ唯希しかいなかった。午後の授業中なのだから、当たり前だ。通常授業よりも大会や練習への参加が優先される『スポーツ科』と言えど、さすがに授業時間に部活動を割り当ててもいいのは地方大会で二週間前、全国大会で三週間前に限られる。ちょうど前の地方大会が終わったばかりの今は、どちらにも該当しない。どちらかと言うと、次の大会が始まる前に、と目一杯、通常授業を詰め込まれている。
(あいつら、今頃教室で泡ふいてんだろうな)
級友の愉快な姿を思い浮かべて、唯希はふっと笑った。ようやく少し、気が落ち着いてきたのを感じる。手を止めると、途端に体中から汗が噴き出した。まだ梅雨入り前だと言うのに、もう夏が眼前に迫っている。部室から道着と一緒に持ってきたタオルで顔を拭って、唯希は壁際に座り込んだ。
そのまま、全身の力を抜いて、冷たい床に寝転がる。
(行儀悪いって、師範に怒られんなー)
昔はよく、暑さに負けて床にへばりついては、声の大きい師範に怒られていた。どんなに怒られても、心地よさの方が勝るから、結局、十七になった今も、その癖は治っていないわけだけれど。
ぼうっと、床の表面を視線が滑った。窓から差し込む光が反射する様を目に映しているはずなのに、見えてくるのはどういうわけか、笑った顔の終一だった。
好きなやつが笑っている。それは、喜ぶべきことだ。予防線を張って人を遠ざけるばかりの終一が、笑っていられる場所が増えたなら、喜んで、祝福するべきだと。理性では、分かっている。それが理想だ。そういう自分でありたいと、ちゃんと、本気で思っている。なのに。
「っ、クソ……!」
腹の底で、獣が吠えている。そんなのは嫌だと、子供じみた駄々をこねる。あいつの笑顔も、弱った顔も、涙も、苛立ちも、吐き出す二酸化炭素すら、誰かにくれてやるのは惜しい。
(だってお前、俺以上に、その笑顔の価値を知らないだろ)
あいつが笑いかけてくれるだけで、ほかの全部、どうだって良くなる。たぶん、今から頭の上に隕石が降ってくるって言われても、終一が目の前で笑ってくれたら、唯希は喜んで、命を差し出す。地面にめり込んだっていいし、宇宙の塵になったっていい。ただ、終一が、俺に、笑ってくれるなら。
「いや。隕石降ってきたら、あいつまで死んじまうか」
それは、困る。――……困る、な。
嘘。
いや、やっぱ、嘘じゃない。
生きていてくれたら嬉しい。でも、ほんのひと欠片だけ。自分が死んだあとの世界で、誰かと添い遂げて、幸せに生きていく終一を想像すると、ほんの、ほんの小さなひと欠片だけ、心が痛いと泣き叫ぶ。
「性格わりーな。ほんとに」
分かり切っていることだし、普段はむしろ、馬鹿でいるよりいいだろと思っているけれど。
ごろん、と寝返りを打って、天井を見上げる。近所の、昔から通っている道場とは違って、二階に体育館があるせいで天井は高くない。出来心で手を伸ばしてみる。低いとは言え、天井だ。届くはずもない。
「……あいつ、きれーなんだもんなぁ」
「誰が?」
ぽすん、と伸ばした手に紙束が乗せられる。驚いて手を引くと、プリントが顔の上に落っこちてきた。「わぶっ」ぎゅっと目をつむって、衝撃を受け流す。
「情けない声」
突然の襲撃者は、そう言ってため息を吐いたようだった。いや、ため息を吐きたいのはこっちなんだけど。心の中でふてくされながら、唯希はひとまず、顔の上のプリントを床に振り落とした。ようやく晴れた視界の真ん中に、聞こえた声通り、世界で一番うつくしい蝶の、幼虫が立っている。
「終」
名前を呼ぶ。あいつの、青みがかった、黒い瞳がこちらを向く。唯希を見下ろす体勢のせいだろうか、長い前髪がふわりと浮いて、珍しく額が見えていた。
(こいつ、やっぱ顔きれーだなー)
スーツを着せて、ワックスで前髪をあげたら、樋口なんて目じゃない声量の悲鳴があがるだろう。あ、でも、普通にダボッとしたパーカーとか着てるのも見たいかも。ぼうっと見つめたせいか、終一はきゅっと形のいい眉を寄せた。唇も薄くて、眉も細くて、目も切れ長。終一は顔まで全部、繊細なつくりをしている。
「なに?」
きれーな顔してんな、と思って。
言ったら、どんな顔をするんだろう。言ってみて、あの後輩には見せたことがないだろう顔を引き出してみたい気もした。
「いや。なに? は俺のセリフなんだけど。なにやってんの、授業中だろ。今」
結局、嫌われて、逃げられる方が怖くて、いつも通りの口調で無難な言葉を返す。
「授業中なのは唯希も一緒だと思うけど」
「俺はサボり」
「堂々としすぎでしょ。師範さんに言いつけようかな」
不機嫌そうな顔をしたまま、終一は唯希の頭の上の方に座り込んだ。ぐーっと首をそらしてみると、両膝を立てて、そこにスケッチブックを置くのが見える。その姿越しに、床の上に布が広げられている。白い手ぬぐいの上に並ぶのは、何本かの鉛筆と練り消し、それからヨレヨレの教本だ。ごろん、と再度寝返りを打って、うつ伏せになる。紙に鉛筆を走らせる横顔は、真夜中の教室ほどではないけれど、澄んでいてうつくしかった。
組んだ両腕の上に頬をつけて、それをじっと見つめる。絵を描いているときは、どれだけ見つめても気づかれない。怒られないから都合がいいけれど、終一の関心を奪う白い画用紙が恨めしくもある。
(あ、髪、はねてる)
頭のてっぺんから、だいたい目の高さまでつながる、後頭部の丸いシルエット。襟足は短く、首筋に沿っている。その丸みが一筋、ちょんと跳ねていた。寝ぐせ、というよりは、なんというか……。
(……ちょっと、乱れてる?)
風の強い日に、体育でサッカーをやらされたときに、同じように跳ねているのを見たことがある気がする。それを可愛いと思った心が恋に化けるなんて知らなかった、お気楽な、高一の春のことだ。
「なに?」
瞳はスケッチブックをとらえたまま、終一の声だけが唯希を向く。
「いや、髪、はねてるから。どっか走ってきたの」
問いかけると手が止まって、瞳もこちらを向いた。おっと。なんか、怒らせた?
「はぁ? そんなの唯希が、」
終一の言葉が不自然に途切れる。眉間に深く皺を刻んで、唯希を睨みつけていた顔にじわじわと朱がさす。しまいには、ぷいっと顔を逸らされてしまうから、唯希は口を半分開けて瞬いた。
(は? なんだそのかわいい顔)
終一は鉛筆をぎゅっと握りしめて、唇を噛んでいる。眉根がきゅっと寄せられているけれど、ほのかに赤いから、なんというか、ただほんとに、シンプルに、可愛いだけだ。
「俺が、なに」
続きをねだって、身を乗り出す。逃げるように、さらに首がそっぽを向いた。なに、言って。教えて。俺の何が、お前にそんな顔させられんの。何したら、お前、そんな顔してくれんの。
「……」
終一はかたくなに口を開かない。目も合わない。
「終」
焦れて、唯希の方から名前を呼んだ。体を起こして、視線を迎えに行く。
「……終。なに、おしえて」
下から覗き込めば、ちらりと青みがかった黒い瞳が唯希を捉えた。長い睫毛がふるえて、わずかに目が見開かれる。「ん? どうした?」首をかしげて続きを促せば、終一は少し固まる。ぽかん、とした顔もかわいい。なんだこいつ。存在ぜんぶ、かわいいな。
「ふ」
じっと見つめた瞳が、不意に綻ぶ。切れ長の目じりが下がって、薄い唇が少し開く。特別な、唯希の一番好きな笑い方。あぁ、くそ。好きだな。こいつのそばに居たい。そのうつくしさに、身を焼かれることになっても。
「なんだ、元気そうだね」
終一はそう言って、唯希に細い指先を伸ばした。骨ばった指が揶揄うように前髪を掬う。そのまま、ぐいっと額を押された。終一の方に身を乗り出していた唯希はあっけなくバランスを崩して、その場に尻もちをつく。ほかの誰かなら、触れられる前に避けるのだけれど。
「なんだよ」
「教えてやんない」
ふふん、と終一は珍しく機嫌よさげに笑った。「はー? お前、俺がこんなに聞いてんのに」文句を言いながら、本当はもう、心が満たされている。我ながら単純で馬鹿だ。終一が笑えば、なんだって、ぜんぶどうでもよくなるなんて。
(一生、こうがいいな)
終一のことで乱されて、それをこいつは知らないままで。別にそう意図したわけでもない終一の笑顔とか、視線とか、そういうもので、勝手にご機嫌になって。
(一生、こうやって、そばに居られればいいのに)
「なに」
あっという間に画用紙に向き直ってしまった終一が、声だけで問いかけてくる。今日はやけにこちらを気にしてくれる。それだけで、唯希の表情は緩んだ。
「教えてやんねー」
「なにそれ」
「さっきの終の真似」
「再現度マイナス五点」
「内訳は?」
「せめて口調くらい似せてくるべきでしょ」
「ははっ」
二人きりの道場に意味のない会話が転がる。まだ蝉の声は聞こえない。けれど確かに、梅雨の気配が近づいている。なんの理由もなくても、二人の間に意味がなくても、こうして当たり前みたいな顔で傍にいられる時間の終わりが、ゆっくりと背後に迫っていた。
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