A級冒険者の俺、年下ギルド職員に迫られてます!

月衣

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 ギルドから家へ帰るもやることが無いので椅子に腰掛けてとりあえず本を開いた。読書に没頭していたようで時間はあっという間にすぎていた。コンコンというドアを叩く音で我に返り、気付けば辺りがすっかりと暗くなっていた。そういえばランスが来てくれるんだったとドアを開ければ両手に沢山の荷物を抱えた状態で突っ立っていた。

「いらっしゃい。あんま広くないけど……ってなんだその荷物」
「ノアさんの役に立ちます!」

 荷物についての返答は貰えずキラキラした笑顔でやる気を出すランスに思わず吹き出し家の中へいれた。

「ここがノアさんのお家……」

 興味深そうに部屋をキョロキョロ見渡しながら落ち着かない様子の彼をとりあえずダイニングテーブルに座らせた。

「来てくれてありがとう。片手しか使えないからとりあえず俺とランスの分で飯取り分けてくれるか?」
「え?俺も食べて良いんですか?」
「そりゃあもちろん」
「ありがとうございます!!一緒に食べれるなんて……」

 どこか感極まった様子に首を傾げる。一緒にご飯を食べるのはこれが初めてというわけでは無いのにまるで初めてだと言わんばかりの態度だ。

「飯は一緒に行ったことあるだろう?」
「1回だけ…」

 控えめに返答するランスにピンときた。俺は毎晩のように大人数で連れ立って酒場へ繰り出る。メンバーはその時々で入れ替わるが、ランスがそこに加わることはなかった。

 彼はギルド職員という立場で他の冒険者と深い交流があるわけでもない。そして酒が飲めない年齢なうえに貴族という身分を考えれば、荒くれ者が集う酒屋へ気軽に誘い出すのも気が引けた。

 「今夜の夕食はあそこの酒場へ行こう」とはしゃぐ輪を羨ましそうに遠巻きに眺めていたのを思い出した。

「なんだ俺とそんなに飯食いたかったんだ?」
「そりゃあ好きな人と一緒に食べるご飯は世界一美味しいですから!」

 あまりにもストレートな言葉に一瞬言葉を失いそれから笑った。

「はは、可愛いな?なら定期的に2人で食うか」
「えっ、え!約束ですよ!今の言葉絶対忘れませんから!」

 全身で喜びを表す彼に頬が緩むのを自分でも感じた。

「で、その荷物の中身は結局教えてくれないのか?」
「えっと…ご飯作ろうと思って材料沢山買ってきちゃいました」
「あー悪い。じゃあまた明日作ってくれ」
「はいっ!楽しみにしててください」

 取り分けてくれてるランスに問いかければ気まずそうに白状した。せっかく俺の為に買ってきてくれてならと明日お願いすればランスは意気揚々と片腕をあげて自信満々の笑みを浮かべてみせた。

「……あ!これもしかして今話題の焼きおにぎりですか?」
「そうそう気になって買ってみた」
「あとこのショウガヤキってやつも聞いたことあります!」

 フードパックから出てくる料理に目を輝かせるランスを見守る。俺が帰り際に買ってきたのは焼きおにぎりと複数の肉料理。最近開いた店の店長考案メニューらしい。冒険者の間でもよく聞くので味が気になった。

「ランスもう少し食え」
「いやいやノアさんが沢山食べて早く元気になるんですよ!」
「ちゃんと2人前頼んだから平等に分ければ1人前充分食べたことになる」
「そうだったんですか!じゃあ、ありがたくいただきます」

 ランスは遠慮してかノアに多く取り分けていたので平等に分けさせてから食べ始める。そういえば家で誰かと2人で食事をするなんていつ以来だったか……そんな感傷に浸りそうになったが、何か口へ運ぶ度に美味しい!とランスが声をあげるので微笑ましく思いそんな暇もなかった。

「うわ!これもすっごい美味しいです!!ノアさんも食べてみて」
「確かに美味いな。けど貴族ならもっと豪華な料理を食べて育ったんじゃないのか?」

 平民が多いギルド職員の中でランスは珍しく伯爵家の四男。庶民の料理では満足できない程美味しい料理をたらふく食って育ったのではないのかとふと疑問に思い何気なく尋ねた。

「んー、俺は割と学生の頃から街に繰り出ていたので色んな味を楽しめます!」
「そうなのか、意外だな」
「意外……ですか?」

 俺は貴族制度というものに疎い。ランスの表情がくるくると変わり口調も砕けている様子は平民が抱く貴族像とはかけ離れていた。

 だから初めて素性を聞いた時は耳を疑った。けれどふとした瞬間にその疑念は晴れる。

 眉目秀麗な顔に長身な身体。そして何より食事を摂る際の指先の動きや音を立てない完璧な作法が育ちを物語っていた。なので当然舌も肥えてるものだと思っていた。


◇◆◇


 食事が進み二人が器を空にしようとしたその時ランスが弾かれたように声をあげた。

「あ!そういえば食後のデザートにイエローピタヤを持ってきたんでした!」

 そう言って荷物をガサゴソと漁り取り出したのは独特のツヤを纏った鮮やかな黄色の果実。

「イエローピタヤ!? おいそれとんでもなく値が張る代物だろう!」
「え? そうなんですか?家にあったので、ちょっと持ってきちゃいました」
「勝手に持ち出して大丈夫なのか……? というかさっきの荷物も全部家から持ってきたんじゃないだろうな」
「もちろんです! このピタヤ以外は俺がちゃんと自分のお金で買ってきました!」

 ランスは事もなげに笑うが俺の動揺は収まらなかった。イエローピタヤといえば貴族令嬢たちの間で絶大な人気を誇る高級果実だと聞いたことがある。通常の市場にはまず流通しない。かくいう俺も実物を見るのは初めてだった。

「ランス、本当に大丈夫なんだろうな?」
「はい! 兄が良いって言ってくれましたから。両親は今僻地で休暇中なので、家の決定権は兄にあるんです。だからノアさんが心配することは何一つありませんよ!」

 ただの平民である俺が貴族の食べ物を頂いて不興を買うんじゃないかとか、何かしらの罪に当たるんじゃないかとか色々懸念するところがあったが屈託のない笑顔で押し切られ結局根負けした。

「切るのでナイフ借りますね!」

 マイペースにキッチンへ向かおうとする背中を見送ればやがて半分に切られたピタヤが皿に乗せられて運ばれてきた。

「こうやってスプーンで中身を掬って食べるんです。はい、どうぞ!」

 差し出された贅沢な果実を前に自分の右腕に視線を向けてから呆れた声を上げた。

「……ランス。俺、両手が使えないんだが」
「あーーーっ! そうでした!」
「そうでしたってお前な……」

 自分から看病に立候補しておいて肝心なことを忘れるとは。少しお茶目なところもかわいいな、なんて考えるてしまう既俺も随分とランスを可愛がってると思う。


◇◆◇


「うまいな。なんだこれ」

 初めて口にするイエローピタヤの上品で濃厚な甘さにノアは目を丸くした。それを見たランスはまるで自分が褒められたかのように顔を輝かせる。

「本当ですか!?ノアさんもっと食べますか?」

 次々口元に運ばれてくるスプーンに抵抗を諦めてされるがままになっていた。ランスはノアの横に座り一口ごとに「美味しいですか?」「次はこっちの大きいところをどうぞ」と楽しそうに世話を焼く。

「なんだよ、そんなに嬉しそうにして。ランスが持ってきてくれたんだからお前もちゃんと食え」
「俺はノアさんが食べてるのを見てるだけでお腹いっぱいです!」

 呆れつつも向けられる真っ直ぐな好意がくすぐったい。ランスの視線はどこまでも純粋だった。けれど時折ふとした瞬間に強い熱が混じる。それにノアは気付かなかった。
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