俺と幼馴染だけ、異世界の別の場所に転移したそうです

ふじ

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第4章 魔物討伐と国王のパレード

1.

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店長は出先から帰ってきてからずっと不機嫌だった。
それは店員の私でもわかること。
魔力というものがよく分からない自分だが、
店長の周りにまとわりついているのは確実に殺気だ。それだけはわかる。
こんな時には触れない方がいい。
大人しくお店の品の補充を済ませよう。

「ちょっと
その言葉が合図になるのだ。
「かしこまりました」

店長が訓練と言って入っていく部屋。私は入ることができない。
中で何が行われているのか、私には分からない。
ただ、その部屋に入ると店長は中々出てこなくなる。
そしてドアの開け閉めの時に見える空間は闘技場のような、そして女の子がいたような。
見間違いかもしれない。いや、それが現実なのかもしれない。それは私には分からない。だから触れない。

私は店番をする。
今日は冒険者達が治癒薬を買っていく。
上級は中々捌けることはないが、中級のものであれば早くに捌けてしまうこともある。
(そろそろ在庫が切れそうね、店長に伝えましょう)

レジを閉めたあとメモ紙に在庫品数をしたため
足りないと思われる分を書いてレジの横に紙を置いておく。
すると翌日には足りない分の商品が置かれている。
店長が夜な夜な対応してくれているのだ。

(普段のお店の業務を夜にやるなんて、
そんなにも引きこもって何をしているのでしょうか)
私には関係ないと思っていても気になってしまうのが人の性。
けど私はそんな性はとっくに捨ててしまった。

(生きていく上で触れてはいけないこともある)
直感がそう伝えている。

(いつも通りを、いつも通りに行うだけ)
自分にいい聞かせて私は普段通りの業務を行う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シンシアが討伐隊出発日として挙げている日にちまで残り1週間となった。

冒険者ギルド《アルジューム》に
一枚の紙が貼られることになった。

〔緊急!魔物討伐隊編成〕

噂ではないかと思われていたクエストが貼られる。

「よっしゃーーー稼ぎどきだーー!!!」
「今回はどの方面へ行くんだ?」「南西方面か」
「最近魔物の姿がよく見られていた地域だな、、先手を打つってことか。」
「ユーグラフェルとの合同かー、血の気が多くて困るぜ」
「あいつら結束というものを知らねーからな…」
「アルジュームの結束を見せつけるぞ!」

冒険者達は一種のお祭りのように大騒ぎしている。

「いよいよだな」
フォースが隣でつぶやく。
「あぁ。ちょっと緊張するね」
「もちろん申し込むんだろ?」
俺は頷いて答える。

《我々も気を引き締めて行かねばならぬな》
《あっという間の1週間になりそう!》
ベスラム達も参加する。なんとも心強いものだな。

(悠理は参加するのかな?)
正直何週間も会えていないのなんて初めてではなかろうか。
今までだったら悠理に会えなくて
イライラして地団駄でも踏むような感じだったのだろうが
不思議と落ち着いている自分に戸惑っている。
(自分の向きたい方向が決まったから…)
会えなくとも悠理も頑張っている。
幼馴染の勘がそう言っているのだ。
(この討伐で少しでも自分の戦いの可能性を広げたい)

真司はクエストに申し込んだ。

「シンジ君も討伐クエスト申し込むのー?」
声をかけてきたのはシルミンさんだった。
「あ、はい。っても下っ端ですけどね、ははは」

「そんなことはない。君たちの活躍も必要なことだ」
シンシアさんの後ろで声をかけてきたのは〔ファミリー:アルゲラ   ヨウシャ〕だった。
一見大柄な感じはしない外見だが
鍛えられた体だからこその引き締まった筋肉が服の上からでもわかる。
「ファミリー:アルゲラで戦士をしているヨウシャだ。君は?」
「C級冒険者、召喚士のシンジです。宜しくお願いします」
お互いに握手をする。
真司も手は大きい方だが筋肉のつき方が違う。手の厚みが違う。
(これが戦いの前線にいる人の手なのだろうなぁ)
「君が、、、そうか。
召喚士は母数としても少ない。何かと苦労するだろうが頑張りたまえよ」
「あ、ありがとうございます」
「私たちは前線組だから中々討伐中も会えないと思うけどお互い頑張ろうね!」
シルミンさんが励ましてくれる。

悠理と一緒にいることがなくなってから
周りの関係が随分広く感じれるようになった気がしていた。
(俺はどれだけ悠理に依存していたのか…)

「緊急クエストを希望の皆様は
各自当日までに装備品などの調達をお願いいたします」
エルミンさんが拡声器でアナウンスする。

「今日はクエストはやめて、調達品を買いに行こうかな。
本格的に揃えるのは初めてだし、、、」
「俺は緊急クエストじゃ足手まといになっちまう。
だからよ、その分お前の買い物くらいは手伝ってやるよ!」
フォースは肩を組んでくる。

俺達は街に繰り出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「坊主、なんとか生きてるみてーで安心したぞ」
俺たちは真っ先に〔ナルデレート〕へ向かった。

「ご無沙汰してます。武器や防具のアップグレードで来ました」
「緊急クエストの発令だろ?噂は聞いてるぜ。真っ先にここに来たお前は合格だな」
「??」
「今時の冒険者は何でもかんでも治癒薬で治そうとする。
間違いではないが戦いの間に治癒薬をたくさん使えるほど戦いは待ってはくれないからな。
自分の武器と防具でまずは守ること。治癒はそれからだ。」
「はい!」
アルシュさんは俺と話しながら武器や防具を選んでくれる。

「そういや、もう一人の嬢ちゃんはどうした?」
「今喧嘩中でして、、、」
「ふーん。まぁお前が悪くなくとも早めに謝ることだな。
そうすりゃ、大抵うまく行く」
「そうなんですけどね、中々会えなくて」

会えていないのは本当だった。
あれからもカンパレリに行っているが悠理に会えていない。
それはシュリアやダルタさんも同じようで
「ローリエちゃんがねーーー」の一言だ。

あとでローリエさんのお店に行ってみよう。
ちょっと気がひけるけど…。

俺は武器である短刀を強固な金属のものにしてもらい
毒を染み込ませられるような加工をつけてもらった。
これで短時間で毒を短刀に染み込ませられる。

防具も頑丈な布に変えもらった。
多少の魔力での攻撃なら無効にできるものだ。
あとは首周辺にも軽めの防護を行う。

一通り揃えると、やはり安心する。
「お代は、金貨10枚のところを5枚にしてやる。
これでもだいぶ譲歩してるんだからな」
「ありがとうございます。助かります!」

俺とフォースはお店を出る。
「ちょっといいか」
「なんだ?」
「言っておくが、その装備一覧金貨10枚じゃ足りねーくらいだぞ」
「え、そうなのか!?」
「それを5枚でいいなんて太っ腹だな、あのおっさん」
まじか、大きな借りになるなぁ。
「もらった分は、クエストの結果で返すことにするよ」
(だいぶ重荷には感じるけどねーーー)

《かっこいいよ、ご主人!》
《まぁ、多少見た目も冒険者に見えてきているぞ》
《今のはベスラム褒めてるんだからね笑》
「わかってるよ、ありがとう」
不思議と魔物と対峙して怖くないのは
この2匹のおかげなのだろうと認識している。

このあと俺たちはローリエさんの店に向かう。


------------

「こんにちはー」
俺たちはローリエさんのお店に入店する。

「いらっしゃいませ、あ、あの時の!」
店員さんから思わず指を指される。
「失礼しました。その節は助けて頂いてありがとうございました」
「いえいえ、俺は何もしてないので、一緒にいた彼女のが役に立ってましたよ」
「そんなことはありません。真っ先に安全を確保しようとした貴方の判断は私は正しいと思っております」
彼女は深々とお辞儀してくれた。
「何かあったのか?」
フォースが聞いてくる。
「以前この店に来た時に、隣国の人が来て店員さんに無理難題をふっかけて来たのを助けたんだ」
「ふーん、やるじゃねーか!」
 
「左側が治癒や毒のもの、右側が日用品の棚になります。好きにご覧になってください。カンパレリの方ならお安くしますので」
「なんか、すみません」

俺は治癒の薬を数本、あとは小刀に吸わせる用の毒を買う。一応念のため中型サイズまで対応可能のものを選び、レジに向かう。

「すいません。本日ローリエさんはいるのですか?」
あの後のことも、悠理のことも気になる。
彼女と対峙しないと分からない事もあるだろう。

「店長は
店員は迷いなく答えた。
ローリエが訓練に行っている時には基本こう答えるようにと言われている。
「そうですか、それではこの前俺と一緒にいた女の子はここに来てますか?」
「……………。」
「??」
俺は首を傾げる。店員は何かを伝えたそうだが迷っている様子だ。

「貴方方は変な人ではないと思ってこの話をさせていただきますね……。
店長は今に入っております。
当分奥の部屋のドアからは出てこないと

店員は伏し目がちに話す。

「そして、これは私の勘ですが、、、貴方の言っている
その彼女もその中にいて訓練をしているのではないかと
店員である彼女も何となく話が繋がりつつあるのを丁寧に結び付けている状態。
だからこそ思われますという言い方しかできないのだ。

(今まで見て見ぬフリをしてくる中で、それで良いのか自問自答してきた。
普段し慣れないことするべきではないわ。やはり私には分からないことだらけ…)

「わかりました。元気でいるなら大丈夫です」
俺は取り繕った笑顔で対応する。
(よく分からないけど、彼女の言うことを信じよう。)

店員さんは最後に「すみません」と静かに呟いた。

-------------

とりあえずわかったこと。
多分悠理はローリエさんの元で訓練しているということだ。
それがどうして俺たちに姿を見せないことになるのかは分からないが
生きているし、強くなろうとしていること。
それだけ分かれば俺も頑張るしかない。

「一通り揃えたし、明日からクエストの日まではカンパレリで過ごすことにするよ。
シュリアさん、ダルタさんにもクエストに向かうことを伝えなきゃだしね」
「そうだな、死ぬことはなくとも長期間の外出だ。
今から心配かけてたんじゃ、安心して出発できねーもんな」
「これからフォースのところに置いてきている荷物を取りに行こう」

俺は解体屋へ行き、荷物を取る。
一通りお世話になったことを感謝しに回ったがみんな仕事中であっさりとした挨拶になった。
「しっぽりとした挨拶だとこれでお別れみたいだろ?
あえてあっさり済ますことで、またいつでも会えることを意味するんだよ」
そうなのか?なんとも面白い慣習だ。

そして俺はカンパレリに戻った。

カンパレリではシュリアさんが泣きながら出迎えてくれた。
アルラはひたすらに俺を叩く、心配したんだぞ!の意らしい。
ピンポイントで腹を叩いてきてるが受け止めるほかない。
ダルタさんは相変わらずだが、夕飯がいつもより豪華になっていたような気がする。

「皆さんに話したいことがあります」

俺はシュリアさん達に今回の緊急クエストに申し込んだ話をした。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「店長、先程この前助けていただいた男性が来ていました」

珍しくこの時間に訓練とやらから戻ってきたローリエに声をかける。

「男性…?、、、、あぁ、シンジのことね」
(あの子も何だかんだ勘が良いから、ユーリのことも気づいているでしょ)

「せいぜい緊急クエストで死なないと良いわね」
キセルを蒸して遠い目をする。

(彼女ユーリに話すべきかしら…)
正直ローリエも迷っていた。
話せば、あの子がどんな暴走をするのか、、、。
今はまだ早い。

(私の読みが当たると良いけど…)

「閉店時間になりますので私は締め作業をして先に失礼します」
「ありがとう、のでお願いね」
「かしこまりました」

ローリエが普段と違うことをしている時は
私が普段通りにする事で周りからのカモフラージュとなる。

(それが私の仕事、普段通りの仕事)

ただ、ちょっと寂しいだけよ。それだけ。
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