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第3章 勇者たちの行方
13.
しおりを挟む「皆さまお集まりいただき、ありがとうございます」
姫様専用のキッチンで
みんなエプロンを着ている。
まるで家庭科の調理実習のような雰囲気だ。
「今日は皆さまの治癒の力を元に
他のグループにて鍛錬している皆さまへの差し入れを作りたいと存じます」
「差し入れですか?」
「えぇ、今皆さまはの持つ力は強まっている状況で
他のグループの皆さんは鍛錬でお疲れだと思います。
個々に治癒というのはまだ難しくとも、
治癒の力を食べ物に込めることは容易いかと。
それで皆さまを元気付けたいと思っております!
それにこのタイミングで力を発散させることも学んでいただければと思いまして…」
「差し入れ作りにそんな要素があったなんて…」
「さすが姫様ですわ」
いとも容易く乗ってくる彼女らにカルチャは(本当に容易いことだな)と安堵する。
「そういえば、洋子は?」
ふと気づく、4人しかいないことに。
「彼女なら体調が悪いそうで休んでおりますわ、お労しいですわね」
カルチャはエリーゼ姫の姿で悲しそうな顔をする。
こうすると大抵の人々は
「姫様の心優しい気持ち、素晴らしいです!」
「姫様はこんなにも思慮深いのですね!」
ほら、簡単にみんな優しくなる。
私が嘘をつかないと思っているのだ。
(ほんとここにいるバカ女たちは容易いわ)
後で彼女の様子を見に行かないと
眠らせてる間により暗示を強めておこう。
あの子の場合、外に出して何かあるかもしれない。
それはそれで上手く操れるようにしておかなければ、、、、
「それでは、簡単なデザートを作って明日皆さまで渡しに行きましょう!」
「外に出れるのですか?」
「えぇ、今後は他のグループの皆さまとも交流を深め
皆さまを守れるようになっていただきたいのです」
カルチャはにっこり笑って
「女神さまたちに期待しておりますわね」
彼女らはお互いに顔を見合わせて
「「「「はい、姫さま!」」」」
と元気に返事をした。
もちろん、デザート作りに用いる水は聖水だ。
5名の被験者のおかげで、人間にも有効であると分かったからな。
直接デザートに麻薬をしのばせることで、
他のグループの生徒もより強くカルチャの言葉の魔力の
影響を受けれるようにしたいのだ。
幸い被験者である彼女らは何も疑わずにせっせとデザート作りに勤しんでいる。
また、このタイミングで
魔力が効いている者と効いていない者の区別をしておきたいというのもある。
(それによってタハールさまへのお土産の量も変わるだろう。)
その日1日で彼女らは沢山のデザートやドリンクを作った。
味見もしつつだったがうまくできたようだ。
もともと麻薬は無味無臭であるため、まさかデザートの中に
麻薬が含まれているなんて思わないだろう。
(それでも気づくやつが、、ってことだわ)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
カルチャがデザートでの作戦を練っている中、
ガルデリオは、特訓している生徒たちの人形を調べていた。
魔術師グループの子達には、自身の土人形を元に魔術の発散をさせていた。
(ここ最近、魔人の動きがないからもしかしてと思っていたが、、、
特に人形の方にも影響が出ているわけでは、、ん?)
ガルデリオは健二郎の人形に近づく。
(これは、、、)
人形には表面上から察知できるような皮膚感覚の魔術と
念のため耳には音響、目には動画撮影の魔術を加えていた。
普段はこんな土人形は作らないのだが、
(読みが当たったか、、、、)
彼らに接触してくるとすれば、魔力が強まる夜と踏み
普段は行わない人形への細工をしておいてよかった。
土人形は寝ている設定であったため映像はなかったが
幸い音響の機能が動いていた。
《け、健二郎、私ね、やっぱり貴方が勇者だと--》
《はーーー、そこーーーでーーーす》
《ひ、姫ーーーーなーーこーーー》
《好きーーーーな人ーーー再会は楽しーー》
《もうここーーーーいる理ーーーーはないーーーー》
《あっーーーーーひーーめーーーーーー》
これは、姫様と、もう1人はーーーー
夜、健二郎含めて5人は闘技場に集まる。
「みなさん、こんばんは」
ガルデリオが闘技場に入ってくる。
「今日はみなさんに聞きたいことがあります」
ガルデリオはそう言うと、健二郎の人形を持ってきた。
毎日見てはあるのだが、相変わらず似すぎて気持ち悪いくらいだ。
「ここに人形があったら意味ねーじゃん」
「そうなんですけどね、どうやら松本くんの人形に
故意に接触したものがいるのようでしたので」
!?
そんなのも分かるのかよこの人形。
「普段の人形にこんな仕掛けはしませんよ。
ただ、今回は別ですから。それに尻尾が掴めたかもしれません。
まずは聞いてください」
ガルデリオは人形に備わっている録音機能を使う
《け、健二郎、私ね、やっぱり貴方が勇者だと--》
《はーーー、そこーーーでーーーす》
《ひ、姫ーーーーなーーこーーー》
《好きーーーーな人ーーー再会は楽しーー》
《もうここーーーーいる理ーーーーはないーーーー》
《あっーーーーーひーーめーーーーーー》
この声は、、、
「姫さんと、、、、持田か?」
佐々木が答える。
「もう1人の声は持田さんの声か…治癒グループの子だね」
まさかな、そんなはず。。。。
あいつ姫様の居住区にいるんじゃねーのかよ。
「これっていつ録音されたんだ?」
「最近だとは思う、具体的な日時までは分かっていないが...」
「だとしても、俺はこの場にいたんだ、分かるはずない!」
思わず声を荒げてしまった。
「んな事、お前が焦らなくとも分かってるよ。
望まなくても毎日この時間ここにいるんだから」
「そ、そうだよな、、、」
持田の声が聞こえて思わず、俺は関係ないと逃げてしまった。
正直俺はこの国に来てから知らないうちに線引きしていたのだ。
自分の仲間か否か。
この場にいるやつ以外は信用できなくなっていた。
「この人形は洋子の声と姫様の声を録音したということは
少なからずその2人が接触してきたって事でしょ?」
「あぁ、予想だが、持田さんが姫様の居住区から逃げ出したのを
回収されたか、、、殺されたかだな」
「殺された!?ガルデリオ先生ほんと!?」
安藤がガルデリオ先生の方を見る。
「まだ、殺されたかどうかは判断つきませんね。
殺されたとしてもこの人形の近くではないでしょうし。
ただ、最悪の結果、そうなっていてもおかしくはないってことです」
「殺した場合、すぐに気づかれるのでは?」
俺たちは元々はクラスメイトである、少なからずここにいる国の人達よりも
クラスメイトとして過ごしてきた期間の方が長いのだ。
もしも持田が殺され、姿が見えなくなったら気づくはずだ。
「気づかれないようにすることなんて、姫様からしたら
大した問題じゃないだろ」
佐々木は言う。
「なんてたって、一国の姫様が偽物なんだぜ?
たかが女性1名、偽物と代わっても気づきやしねーよ」
……………………。
俺たちは何も言えなくなった。
持田が殺されたとしたら、、、
それは《いつでも俺たちを殺せる》という姫さまからの脅しだと思ってしまったのだ。
「あなた達は殺させませんよ。私の命に代えてもね」
ガルデリオ先生が優しく微笑む。
「でもそれって、、、」
安藤の口を佐々木がふさぐ。
誰しもが、ガルデリオ先生の発言で安堵していない。
何故なら、今の発言は《俺らの代わりにガルデリオ先生が死ぬ》という事だからだ。
実際そうならずとも、それだけの気持ちだとガルデリオ先生は伝えたかったのだ。
それだけ、国外逃亡は難しいと言う事。
俺たちは一層のこと特別訓練に精を出した。
〔作者より〕
ここで第3章は終了です。続きは第5章へ続きます。
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