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第4章 魔物討伐と国王のパレード

3.

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翌日、俺たちは嘆きの森に向かって進んでいく
途中モアウサギや中型の動物の群れに遭遇するも
適宜討伐し、昼ごはんの糧にする。

嘆きの森の端に着く頃、ユーグラフェル国の冒険者と合流した。
もともと血の気は多いと聞いていたが
筋骨隆々の冒険者が大方占めていることで、
改めてユーグラフェルの血の気の多さを物語っていた。

(聞いていた以上かもしれない…正直魔物より怖い…)

「先頭を指示しております、〔ファミリー:アルゲラ ヨルシャ〕です。
この度は討伐のご協力ありがとうございます」
ヨルシャが右手を差し出す。友好関係を築きたい意向だ。
「そんな挨拶などムダだ。互いにどれだけ残れるか分からんからな」
ユーグラフェル国の冒険者に礼儀などはない。
友好関係などムダ。強いから強くないか、それだけだ。

右手を持て余したヨルシャは
「それでも今は仲間として貴方達と一緒に戦いたいと思ってます」
笑顔で対応し、右手を戻した。

《なんか気分悪くなるね》
《礼儀のなってない奴など、ミジンコ以下である》
「こら、2匹とも悪口はダメ!」
俺は列の中盤で小声で注意したつもりだが、
悪いことにユーグラフェルの冒険者に聞かれていた。

「そこの坊主、なんか文句あるのか?」
血の気が多い奴は何でこんなにも地獄耳なのか。
「いえ、なんでもないです…ほんと何でもないです」

《ご主人、いけーーーー》
《ミジンコ以下、お前でも倒せる》
ルルラもベスラムも騒いでいる。
「倒せるわけないよ!」

「俺らを倒すってーー?」
クエストに向かう前に詰んだ。詰んだなこれ。

「ちょっと待ってくれ、こいつはまだ冒険者なりたてなんだ」
ヨウシャが庇う。
「いや、ここにきていると言うことは
ここで命を落としても後悔しないということだ。
おい坊主、俺と戦え、これは決闘だ!」

(んなーーーーーーー!!!!)

「俺はただの召喚士です、これはこやつらが……」
俺は何とか戦わずに済むならと2匹のせいにする。
「だとしたら主人であるお前が責任を取るのが筋だろう?」
やばい、正論きた。
筋骨隆々なのに頭の回転が速いなんて、そんなチートな。

《主人、ここで私らの力を見せつけようぜ!!》
《こやつに負けては魔物などはるか遠い存在、仕留めるべきだ》

勘弁してくれないかな、、、。
巻き込まれ体質なのかな、俺。



「相手が限界を迎えた段階でその者の負けとする。
本来なら命を賭けるのだろうが、
あくまで本命は魔物討伐だからこれで勘弁願いたい」
ヨルシャが判定人となる。

「何でこんなことに…」
俺は必死に生き延びる案を導き出そうとするが、無理だ思いつかん。

「シンジ君」
声をかけてきたのはシルミンだ。
「厄介なことになったね(笑)」
「シルミンさん、助けてください…」
俺はシルミンさんに縋る。
「申し訳ないけど、こればっかりはね~。
一言言うなら、不意打ちを狙えってところかな!頑張ってね」
「それだけ!?」
シルミンさんは颯爽と俺たちを囲む輪に戻っていく。

「俺は、ユーグラフェル国〔ファミリー:シーバ  カルベン〕だ」
「俺は、シンジです、魔獣はベスラムとルルラです」
俺はズルだと思われたくないが為に、2匹の紹介もした。
「そんなちっぽけな魔獣など一捻りで終わりだな!」
ユーグラフェル国側の冒険者たちが笑う。
《カッチーン!!私らのこと馬鹿にした、絶対倒す》
《無論、何なら殺しても良い。その方が世のためだ!》

「それでは、はじめ!」

ヨルシャの合図と共に、俺に斬りかかるカルベン。
俺は小刀で対応するべく構える。

《ご主人は動かないでね!私らだけで倒すから!》
「そんな………!」

《疾風!彼の動きを止めよ!》
ベスラムが唱えるとカルベンの足元に小さな竜巻ができ、カルベンの足が縺れる。
《草鎖よ!彼を縛れ!》
足が縺れているカルベンの周辺の草たちが一斉に伸びて腕と足、首を捕まえる。
まるで草が鎖のようにカルベンを縛る。
「な、なんだ……!?」
驚くカルベンにベスラムは重ねて術をかけていく。
《風切!あやつの体に縦横無尽に傷をつけろ!》
縦横無尽にカルベンの体に次々と切り傷が刻まれる。
見えない風がカルベンを攻撃しているようだ。

「わかった、わかった…俺の負けだ!」
カルベンが負けを認める。

「勝者、オウマガヤ国  シンジ!」
ヨルシャが叫ぶと、俺は何もしないまま決闘に勝ってしまった。
「「「うぉーーーーー!!!!」」」
決闘を囲んでいた冒険者が騒ぐ。

《ご主人やったね!わーい!祝杯だーーー!!!》
《ふむ、意外とは早くに根をあげたな》
「2匹が活躍するのはいいだけどさ、俺何もしてないんだ。
突っ立ってるだけで勝ったことになっても嬉しくないよ!」
《そうかな?素直に喜びなよ!》

周りの冒険者たちは、2匹が活躍したのはもちろん
それを使役しているシンジはすごい奴だと認識したようだ。
(俺、2匹の使いっ走りみたいなものなんだけどな…)

クエスト前に、変に活躍したことになってしまったシンジである。


ーーーーーーーーーーーーーーー

決闘の翌日。

《なんて清々しい朝なんだーーー!》
《昨日の決闘がある意味準備運動になった》
2匹はモリモリ朝ごはんを食べている。
「あんまりご飯美味しくない…」
俺は食事が進まない。

昨日の決闘のせいで、後方配置の予定が急遽中盤での配置にされたのだ。
(前線ではないだけマシなのかもしれないが、俺の活躍じゃないのにな)


「皆の者、聞いてほしい!」
ヨルシャが全体に声をかける。

「本日は休息とし、明日から森に向かう。
厳しい戦いになるだろう、ゆっくり休んで明日への英気を養ってほしい」

俺はひたすらグダグダしていた。
グダグダしていたらルルラに怒られたので
武器などを確認して小刀に毒を染み込ませたり動きを確認していた。
他の冒険者達は明日の戦いに関して戦略を立てている人もいれば
どこからか持ってきた酒で酔っ払っている奴もいる。
(こういう時って、個性が出るよな)

ベスラムは森の外から森をにらんでいる。
何か気になることがあるのだろうか。

ルルラは俺の動きにアドバイスをくれたり
寝てたり、寝てたり、またまた寝てたりしている。ずるいな!

(戦いの前日がこんな感じでいいのかなぁ…)
正直このままピクニック的な感じで終わればいいが
そうはいかないものだったりする。




討伐日、当日。

ヨルシャが声をかける。

「本日より嘆きの森へ入る。
中は薄暗く、時として霧も出てくるところだ。
各自陣営の配置を適宜確認し、戦うように。
灯火ライト》が使える者もいるだろうが、霧の中では標的となりやすい。
使う際には十分に気をつけるようにそれでは前線から進入する」

俺は中盤中心に配置され森の中へ進んでいく。
さすが嘆きの森へと言うだけに、森の木々達が擦れる音が女性の嘆きのように聞こえてくる。
ある程度歩くと霧の中に突入していく。
(結構濃い霧だな、隣に配置されていた冒険者がすでに見えない…)
ルルラとベスラムが魔力を使って敵意察知を使い魔物を警戒する。

どこからともなく足音が聞こえてくる。
霧によって視界も、そして聴覚も遮られていく。
《主人、くれぐれも私たちから離れないでね》
「うん、分かってる」
俺は毒が染み込んでいる小刀を構える。
(正直死角から攻撃されたら一発アウトだな)


静かな時間が流れる。
先ほどの足音はなんだったのか、、、
それでも気を抜くことが許されない。
俺たちはひたすら周囲に警戒を張り巡らせる。

「こいつら、、なぜ!!」
「後方からの死角などーーー」

どこからか叫び声、剣などが当たる音、
そして魔物たちの叫び声が聞こえる。
戦っているのだろうが加勢して今の形態を崩すわけにはいかない。
それに正直どの方角に加勢すれば良いのか、シンジには分からなかった。

《ご主人、気をつけて!魔物が近づいてる…!》
「わかってる、どうやら魔物たちと鉢合わせたようだね」
《こやつらは上手く霧を利用しておる。もしかすれば指導者となる上級がいるかもしれぬな》
「そんな、、勝てるのか!?」
《結果は五分じゃな、主人よになるぞ》
「……うん!」

とある方角から魔物たちが現れる。
中型小型含め約20体ほど、動物の形をしているが真っ黒な姿だ、それに禍々しいオーラを感じる。意思があるのかどうかは分からない。ただ、黒く悍ましい姿、その説明がぴったりだった。
(これが魔物…本で読んだのよりよっぽど……)
に感じる。

ベスラムは真っ先に魔物たちのに向かっていく。
大型の魔物に対して向かってくれているのは、きっと俺を守る為なのだろう。
幸いなことに霧は水蒸気でできている為、風と草の魔法のほかに水の魔術も使える。
《こやつらのを突き止めねば魔物の動きは止まらんが、今はここを凌ぐのが精一杯になるだろう》
ルルラは俺の近くで俺を守るかのようなポーズをとる。
正直俺は役に立たない。直感が告げている。
(それでも俺は俺の戦いを…)

中型、小型の魔物たちが俺たちに向かってくる。
(これらは俺とルルラで倒すしかない…)
俺は毒を這わせた小刀を両手に持ち、俺に向かってくる小型の魔物たちの首元に向かって刃物を突き刺す。
初めはもがくが毒が回ると動かなくなる。動かなくなった時に改めて心臓を突き刺して息を止める。
動かなくなった魔物たちは霧に紛れてなのか、粉々に消えていく。
ルルラは草魔法で身動きを止めて、俺が急所に刃を向ける。
組み合わせた戦い方をしていたわけではないが、上手く息が合ってると感じるのは、やはり魔力を共有しているからなのだろうか…。

どれくらい戦ったのだろう、時間感覚が分からなくなる。
先程は20体ほどだと思っていた魔物たちは数を増やしているのだろうか、殺しても殺しても湧いて出てくる。

《そろそろ霧が晴れそうじゃ、一旦全体を見渡す為飛ぶぞ!》
ベスラムが伝えてくるタイミングで少しずつ霧が薄くなっていく。

ベスラムとルルラの風魔法で俺らは森の上空に飛んだ。
全体が観れる位置だ、今どうなっているのか…

森の中央部、ヨルシャ達が上級の魔物たちと戦っている。
大方読み通りの動きと言える。
後方は、、、
(なんだ、、これ、、、なんで、大型の魔物が後方にも…?)
元々の冒険者の読みでは上級含め大型は森の中央部にて強いランクの冒険者にて狩っていき、後方に行くにつれ俺たちで中型や小型の倒し損ねたものを狩っていく予定だったはず。そのはずなのだ。

ただ見えている光景は、森の後方が赤く染まっている姿だった。
(赤く、、、あれ、居ない、他の冒険者達は…)




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